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ご利用は計画的に

「遅いわよっ!」

 綾小路令嬢の声が寝起きの耳にキーンと響く。


 彼女とリュートが俺の元に知恵を借りに来てから五日。どうやら例の水蒸気砲が完成したようで、朝から俺たちは王城の修練場に呼び出されていた。


「ふわぁ〜〜〜〜ぁ…」

「お、おはようございます零さん。眠たそうですね。」

「ああ。おはよう紅葉。失礼、昨日は寝不足で色々していたもので…。」

 大手商会との商談会が明後日に控えている。その準備に色々することがあるのだ。

 大きな欠伸を噛み殺すこともせずに遠慮なくする。


「目かっぽじって見てなさい!」

 綾小路令嬢は()()()()()()()()()()を担いでドヤ顔で胸を張る。


「それは武器なのかい?」

「そうよ!今こそ私の力を見せてやるわ!」

 俺以外には秘密にしていたようで、悠希達は不思議そうに綾小路令嬢の行動を見ている。


 令嬢はランチャーを構えるように肩に鉄パイプを担ぎ、20メートル程離れたカカシを狙う。


「いくわよ!よく見てなさい!」


 バシュゥゥーーー


 金属筒の先端から真っ白な水蒸気が飛び出す。


 バゴーン!!


 ガラガラガラガラ…


 その煙に紛れて黒い残像を残しながら球体が高速で飛び出し、的を外れて後ろの修練場を取り囲む壁に打ち当たり崩した。


「ど、どうよ!すごい威力でしょ!?壁も一撃よっ!」

 的を外し、壁を壊したということには触れずに、まるで計画通りというかのように胸を張る。


「「…」」

 反応に困るのは俺たちの方だ。

 確かに、兵器としての一定の価値はあるだろう。少なくとも弓よりは数段に威力がある。


「す、凄いわね。なんなのその武器?」

「俺発案の〈冥界(One-way)への(Ticket To)片道切符(Valhalla)〉通称OTVオートヴだ。」

「違うわよっ!私の設計で実用化した”遺憾砲”よっ!」

 まーだやってんのか…。そのくだらんネーミング争い…。


「アタシが実用化したのよ!?命名権は私にあるわ!」

「馬鹿を言うな。俺のアイディアだろ?俺がいなければ存在していないものだ」

「アンタこそ馬鹿言わないでよ。アタシがしなければただの妄想じゃない!」

「え…ええっと…。」

 ほらぁ…星華さんも困ってるよ…。どうでもいいって絶対思ってるよ。

 ーー待てよ?それなら俺にも命名権はあるはずじゃん。アドバイスしたし。最近命名することも多くなって俺のセンスも上がってるはず。

「じゃあ間をとって〈鉄パイプのようなもの〉ということで。」

「「そのまますぎて詰まらんなないわ。それにダサい」」

 ーー仲良しかよ…。てかこんな時だけハモってんじゃねーよ!?


「じゃ、じゃあ多数決で決めましょうか。」

 星華さんがまとめようと妥協案を提示している。

 小学校でクラスのスローガンを決める学活の時間の風景が脳裏に過るのは気のせいだろうか…。二十歳にもなって俺たちは異世界で何をやっているのだろう…。


 …

 …

 …


「はーい。じゃあ、五標で〈水蒸気式射出機スチームスリンガー〉ね。」

 ーーいや待て!?どこから出てきた!?〈鉄パイプ〉と〈遺憾砲〉と〈冥界のなんちゃら〉以外にいつの間に出て来た!?


 朝日に目を(しぼ)めながら眠気まなこで適当に返事をしていたが、いつの間にか名前が決まってる。


「それで、その鉄パイプは二人が作ったの?」

 ーー星華さん…、今名前決めた意味は?水蒸気なんちゃらって名前つけたんじゃないの!?今の多数決のプロセス速攻で無意味にする!?

「うむ。」

「ええ。そうよ。私たちの天才的な頭脳の賜物ね」

 ーーおい、俺の功績はどこにいった…。まぁいいけど…。

「凄いわね…。水蒸気の力だけでこんな威力がでるなんて」

「そうね。私も驚いたわ。」

令嬢が星華さんの感心に同意する。

「え?いや、あなた計算したんでしょ!?」

 俺は彼女が理論上200m/sは出ると言っていたのを覚えている。

「え?計算なんてしてないわよ」

「え、でも以前理論上どうとか…机上の空論とか」

「あー。SF漫画に書いてあったのよ。」

 ーーいやいや、そんな堂々と宣言されても…。てか良く”ソースは漫画”で作ろうと思ったな…。


「でもまだよ!これは試作機だから。目指すは大砲よ。これじゃ威力が足りないわ。」

「巨大化するのかい?」

「ええ。水の量が増えればそれだけ威力があがるじゃない。そうよね?」

「…。」

「…。」

「…あ、俺への質問でした?」

 綾小路の質問どうやら俺に向けてのことだったようで、俺に視線が集まる。

「どうでしょうか…。」

 俺はストレージから木刀を取り出して地面に書いていく。


「水の気化体積は?」

「1700倍ね。」

「なので、タンク内に水を満タンに入れて、全部気化した場合は確かに1700倍になりますが、実際は臨界気圧といって水が水蒸気になれるのはだいたい21MPaメガパスカルまでです。」

「それって…どれくらい?」

「1気圧が0.1MPaメガパスカルだから、210気圧ぐらいですね。深海2100mくらいです。」

「想像できないわよ…。」

 いや、俺もできんよ?

 俺はカリカリと式を書いていく。大学での単位稼ぎのためにとった流体力学がこんなところで役立つとは思わなかった。


「ベルヌーイの定理から流体速度[ve]=√γ/γ-1×p0/ρ0(1-(pe/p0)^(γ-1/γ))から求められるので…。p0は220kgf/c㎡から換算して…計算機(スマホ)使うか…。」

「何語喋ってんのよ…。おかしいわね。自動翻訳機能がバグったわ」

「…いや…日本語ですよ…」

「で?どうなのよ。」

「うーん…。流体速度はオーバーしてますね。」

「どういうことよ。」

「噴射口での流速は音速が最大って法則があるので、どれだけ頑張っても今以上のエネルギーを得るのは無理ってことですね。その試作機の口径面積が3.3cm×3.3cmの約10c㎡だと過程すると、砲弾への瞬間動的エネルギーは約2tってところですから、砲弾を大きくするとなると、それだけ面積比が増えて逆関数的にエネルギー変換が悪くなります。」

「つ、つまり?どういうことよ。」

「えっとですねー…。簡単に言えば、装置を大きくしてもエネルギーが増える訳ではなく、砲身口径が広がれば広がるほど逆に威力が落ちるということです。」

「何よそれ!おかしくない!?」

「いえ、砲弾も直径のが二倍になれば、圧力を受ける面は4倍にはなりますが、質量8倍になりますからね…。どうやっても蒸気の限界かと。」


「…神が与えし枷(ゴッドレストラクション)というものか…」

「ぬーーーっ!納得できないけど、分かったわ…。」

「ざ、残念ですね…。でも凄いですよ!」

 紅葉は肩を落とす二人に声を励ます。

「そうよね!まぁこれはこれで使えるし!」

「うむ。無駄にはならない。この布石は必ず今後の展開にもーー」

「…っと前向きに検討してるところ悪いんですが、これ再装填まで結構時間かかりますよね…。火縄銃でも30秒で再装填できるのに、また水を入れてタンクを沸騰させて、200気圧近くまで高めるとか何分かかるんですか…。一撃必殺の武器にしては命中精度もあまり良くなさそうですし…。」

「分かってるわよ!?改良の余地があるってことは!!」

「改良の余地しかないと思うのは気のせいでしょうか…。」

「うっさいわね。アンタもなんかアイディア出しなさいよ。」

「そう言われてもですね…。一発一発で内部水蒸気を放出する仕組みが必須な時点でどうしようもないかと…。カルノーサイクルみたいに熱交換できる訳でもないですし、水蒸気式射出機スチームスリンガーはこれが限度だという考察レポートではダメですかね…。」

「つっかえないわねー…」

 ーーんな理不尽な…。


「ま、まぁ心配も成功の母なので、さらなる高みを目指すっすよ!」

「そうよ。いい試みだと思うわ。二人ならきっと違うものを作り出せるわ。」

 大智と星華さんらに二人は励まされながら、食堂へと向かった。



 朝のお披露目会を終わってから朝食を取る。朝食の後にやってほしいものだが、俺たちに早く見せたかったのだろう。

 ーー子供かっ。

 …と心の中でツッコミを入れつつパンを千切る。


「零くん、胡椒取ってー。」

「あ、ええ。」


 いつもと変わらない朝食風景。海崎と星華さんとの関係性も戻っている…と思いたい。


 もう長い間距離が開いていたせいで、どんな距離感だったかも忘れてしまった。でも、食事を共にし雑談できるのだから俺が気にしなければ元通りの関係…だろう…。


 気にしているのは俺だけ…そう思うことにしている。

 気まずいのか、気まずくないのか、気まずいと思うから気まずいのか…。心の内を聞くほどの勇気もなく、表面上は元どおり…だと思って俺も”いつも通り”を演じる。


「そう言えば、アタシのスキルレベルが15になったのよ。」

「…ちっ。先を越されたか。負けてられんな」

 綾小路令嬢の報告に耳を傾ける。

「だからちょっと早いけど、戦姫の〈剣舞ソードダンス〉が欲しいからしばらく王都を離れるわ。」

「戦姫…?クラスっすか?」

「ええ。若い女性アバターでしかなれない特殊職よ」

 勇者なら全ての戦闘職のスキル適性があるから今なら男でも戦姫のスキルが使えるだろう。


「若い女性だけ?なんでそんなクラスがあるのよ…。」

 条件が特殊過ぎるクラスに星華さんがもの言いたげな目で俺を見る。

「あー…。運営が新規女性プレイヤーを呼び込むための戦略ですねー…。まぁSLIGエスリグのプレイヤーの半数以上は男ですし、戦闘職となると7割り以上になるので…。ほら、アレですよ。女性相席無料みたいな…。」

「…なぁるほどねぇ…。」

 運営も色々マーケティングを頑張っているのである。


「それで、詩音さんはどこ行くんだい?」

「地下迷宮に行くわ。場所はねー…。」



 綾小路令嬢は1週間ほど王都を離れて〈剣舞ソードダンス〉のスキル習得条件を満たしてくるということだ。

「リュートは?一緒に行かないのかい?」

「なぜ俺が同伴するという話になる。俺の武器は小太刀だ。必要ないだろ。」

「…あ、そうだったね。」

 もう俺たちの中で二人でセットみたいな認識だったが、本人たちに自覚はない。

 問題児は問題児同士でくっ付けておくと周りに迷惑がかからない…と言っていた中学校の先生の言葉の意味を理解した気がした。



「詩音さん、もう15レベルですか…。す、凄いです。」

「そ、そう?えへへ、そうね。でも大丈夫よ。紅葉もすぐ上がるわよ。」

「が、頑張りますぅ…。」


 確かに爆速だ。国境での戦闘もあったが、1ヶ月で15レベということは、実世界で半日相当で15レベまで上げたことになる。いくら累算型のため序盤は上がりやすいとは言え、もう完全な廃人ゲーマーレベル。まぁ既にゲーム世界の住人となり四六時中ログインしてるようなモンだし、当然とも言えるのか…。


 俺もティーカップを片手にステータスを久しぶりに開く。


 ーーん!?


【クラスレベル】[ 3 ]


 ーー待てよ?クラスレベル下がってないか?


 俺が以前見たのは国境での騒動の際だ。確かその時はレベル5だったはずだ。

 記憶違いかと一瞬思ったが、レベル5で習得できる〈夜目〉を使って夜の空を飛んでいた。


 スキルツリーのタブを開き、表示される習得済みスキルを確認するも、〈夜目〉が消えている。


 ーーwhat’s!?


 SLIGエスリグでクラスレベルが下がることなんてなかった。いや、クラス変更した際には初期値に戻るが、減るなことはないはずだ。

 本来あり得ない仕様。けれど、心当たりがあった。


 ーー固有スキルのリソース…か。


 俺の固有スキルである〈ゲームエンジン〉は、魔力や体力を消費することなく、使用制限もなかった。初期にはリソースが何かを調べたが、分からなかった。


 ーーしかしまさか、クラスレベル経験値がリソースに使われるのか…!?それは予想外だよ…。

 クラスレベル1の状態でも使えていたことを考えると、実質無制限ではあるだろう。しかし、使えば使うほど通常のSLIGエスリグ的スキルの制限を受けることになる。


 使用間隔頻度から言って、コスパ的には問題はないにせよ、これまでみたいにバカスカ使うのは非効率だということか。


 実際今まで打ち出の小槌状態で使い放題していた。ご利用は計画的に、ということだろう。


 とは言っても、大した支障もないことに安堵しながら、俺は空になったカップを静かに置いた。

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