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人は食事の質で戦争をもする

 食堂について俺たちは息を飲む。来賓用の食堂だろう。素人目に見ても、一流のホテルの食堂以上だ。


「異世界の方に料理をお出しするのは初めてで、本来はコースをご用意させるところではございますが、ビュッフェという形を取らせていただきました」

 この世界ではバイキング形式は格下なのかな?手堅い方法だと思うけど。


「何ほうけてるのよ。先行くわよ」

 入口で固まっていた俺たちを無視して綾小路令嬢は奥に進む。


 相変わらずブレねぇな…。

 それに続くように俺たちも席についた。


 異世界の料理というのに少し不安だったが、食材が地球のと同じだ。料理方法にその国や地域の文化によって異なるとはいえ、食材が同じであればそこまで悲惨な違いは生まれない。


「うまいな」

「そうね」

「珍しいというか、初めて食べるがこれは好きだな」



 追加の品を取りに行こうと料理のあるテーブルに向かう。


「「ふぅ」」

 え…。

 食事が問題なくとれるようでホッと息をつくと、近くの壁際で見守っていたコック帽を被る肥満気味の男と息が合った。


「失礼しました勇者様」

 コックはピシッと背筋を伸ばして張り詰めるように直立不動の姿勢をとった。

「いえ、お気になさらず。満喫させてもらってます」

「それは調理師冥利につきます。申し遅れました。私は宮廷料理長をしておりますコットンと申します。この度異世界の勇者様方にお食事を振る舞うということで不安もありましたが、お口に合ったご様子で、つい安心してしまいました」


 ハハハッ…と明るく振る舞おうとする料理長だが、熱くもない室温にも関わらず冷や汗が垂れている。

 無理もない。俺たちの協力が無ければ自分たちの未来はない。その人たちの食事を任されてる。異世界住人が食べてるものなんて分からないだろうし、初めての食事だ。相当悩んだんだろう。

 だから数え切れないほどの品々を用意した。お疲れ様だねぇ…。


「そうですか。実は俺も安心してるんですよ」

「勇者様も…でございますか?」


「ええ。おいしい食事は全ての源ですからね」


 そう。食事の味は大事だ。毎日まずい飯を食わされるのならそれだけで見限るレベル。俺たちは仮にも21世紀の洗練された調理の味を知ってしまっている。短期的ならまだしも、何年も口に合わない食事を出されるとなると、不満やストレスが尋常でなくなる。


 食事の質を高める塩や胡椒などの香辛料を巡って、過去に何度も戦争が起こったのは伊達ではない。食事の質一つで人は戦争もするのだ。


「これからもご満足いただけるお食事を出せるよう、尽力致します」

「よろしくお願いします」


 不安要因だった食事の質に関しては問題なかった。




「な~に話してたのっ?」

 テーブルに戻ると星華お姉さんが問い詰める。やり取りを見ていたのだろう。

「口に合うか不安そうにしてたから問題なく美味しいと伝えただけですよ」

「そうね。胃袋掴まれてしまったわね」

「え…と。何の話をしてましたっけ」

「もしね、食事が美味しくなかったら、「まずーい!」ってテーブルひっくり返して暴れてやろうかと思ったわ」

「ご冗談を」

「…でもね。こうして美味しい食事が出てくると、あ、この世界でも人が暮らしてるんだ。って思っちゃうの」


 なるほど。それを見捨てて帰りたいというのが後ろめたくなると。優しい性格なのだろう。だからこの世界のことを知れば余計に辛くなる。胃袋を掴まれるというより、後ろ髪を引かれるということか。


「ま、いいんじゃないですか。王様も言ってましたし。「眉唾物だったけど、やったら本当に勇者召喚できちゃった」って。元よりないチャンス、なくなったところで俺たちの知ったことじゃありませんよ」

「な、なかなか手厳しいね。零君は」

「まぁそうかも知れませんね。だから星華さんもそんなこと気にしなくていいんですよ」

「ははっ。な~んか励まされちゃったな~」

「そんなつもりはありませんでしたが、元気出たならいいんじゃないですか?」

「そうね」



 現状、すぐに帰るという選択肢は取れない。となると、最低限、4年間生存するためには8人の協力は必須だ。中でも桐生星華は年上のまとめ役。下手に沈まれるのは勘弁してほしい。



「「ごちそうさまでした」」


 食事も満足に食べ終えた。気が休まるお茶だと進められたハーブティーを口にしながら一息つく。


「とりあえず、今日はもう夜みたいだし、明日の予定ね」

 元気を取り戻した星華お姉さんが再び進行役をしてくれる。


「情報収集が必要だろう」

「俺もリュート君の意見に賛成ですね」

 リュートの意見にすかさず賛同する。厨二病だが彼は馬鹿ではない。


 反対もなく方針は決まった。


「じゃあ、その手段を確保しましょうか。すいません、コットン料理長。裏にセバスさんいますよね。呼んでもらってもいいですか?」


「はい。少しお待ちください」


 待機していたコットン料理長は、奥の部屋に消えた。


「?なにか?」


「何って…」

 隣に座っていた鈴木悠希が不思議そうに見つめる。

「いや、コットンさんって誰。よくセバスさんが裏にいるって分かったね」

「ああ、コットン料理長とはさっき言葉を交した。セバスさんは俺たちが食事してる間の面倒は、ここの料理長とメイドさん達に任せてるだろうし、その間に休憩とってるんでしょ。俺たちの残した料理を食べる仕事もあるだろうし、食事中かな。それに、最初に一緒に入って奥に行ったの見えたし」

「なるほど…」

 コットン料理長が口に合うか心配してたぞ、っていう話もしようとか思ったところで、セバスが来た。


「お食事中でしたか?呼び出してしまってすみません」

「お気になさらないでください。深夜でもお呼びいただければ参上いたします」

 スゴイな…流石王宮執事長…。

「王宮には図書室や書庫があると思うんですが、そこに立ち入ることはできますか?」

「書庫でございますか。王宮図書館と王室書庫がございます。図書館は別館にございますが、日の出ている内にしかご利用できません。王室書庫は図書館に数は劣りますが、私がお付きいたしますのでいつでもご利用できます」

「王室書庫って、見られちゃいけない本もあると思うんですが…」

「陛下から勇者方の要望は陛下の言と取って行動するように言いつけられております」

「…分かりました。ではまた使うときは声かけます」

「承知致しました。…他にご用は?」

「大丈夫です」

「では失礼します」



 セバスが奥の部屋に戻る姿を見送って、緩くなったハーブティーを啜る。

「それにしてもVIP待遇っすね…」

「まぁ、勇者なんだし当然かしら?」

「わ、私、慣れない待遇で気疲れしそうです…」


「俺も秋本さんと同意見です。でも、この世界の人にとっては最後の希望だから、是が非でも助力を得ようと必死なんですよ。自分達の命が掛かってますからね」


「そう…よね」


 まぁ俺としてはもし断ったらどういう対応をするのかが一番怖い。俺が王なら帰還させないって手段を取る。だから早く俺たちの手だけで帰還方法の確立が必要だ。

 正直、俺は帰りたいのか残りたいのか自分の中でも結論が出ていない。でも帰還手段の確保は絶対にすべきだ。




 この後、明日の情報収集には2組に分かれることにした。



「確認するわよ?私と、悠希くんが聞き込み。残る6人は図書館組。それでいいかしら?」

「「分かりました」」

「「はい」」

「うむ」


「ちなみに、この配員の意図を聞いてもいいかな?零くん」

「適材適所かと。コミュ力の高い綺麗どころ2名に対人を任せて、俺らは人海戦術で情報を本から漁る。不満でも?」

「いえ。聞き込みならあなたや澪緒ちゃんの方が適任だと思うけど?」

「ああ、残念ですがそれはダメです」

「なぜ?」

「まず、海崎さんは先の会見で心眼持ちであることがバレてます。心を読む相手に気持ちよく話すと思いますか?」

「…私のスキルでは心まで読むことはできませんよ」

「事実がそうでも相手がそういう認識なら同じことですよ。なので一番ダメな人選ですね。尋問するなら話は別ですが」


「…澪緒ちゃん…彼に悪意は無いわ…多分…」

「分かってます…ええ、分かってます…」


 なにやら彼女らが二人で頷いて納得している。納得してくれたのなら別にいい。


「あと、二人に聞き込みが適任な理由は、コミュ力が高くて顔がいいからです」

「え…」

「説明が必要ですか?それを俺の口から説明する場合、途中で俺が吐血する可能性がありますけど、聞きたいですか?」

「アタシはぜひ聞きたいわ。紅葉がいるし、回復はできるわよ?案ずることはないわ」

 オラオラ、言えよ。という圧を綾小路令嬢がかけてくる。慈悲がねぇ…。


「しませんよ。まあ効率がいいってことですよ」


「釈然としないけど、まぁ分かったわ」

「僕も不満はないよ」

 星華お姉さんと鈴木悠希が納得できればそれでいい。


「あと、これは頭の片隅に入れておく程度でいいんですが、お二人は俺らにとっての外交官です」

「外交官?」

「どういうことだい?」


「いいですか?俺らは完全に身寄りのない異世界人です。万が一、ここの住人と敵対した場合、バックがいません」

「ほぉ?お前は敵対する可能性があるとの考えるか?」

 リュートが低い声で聞く。

「可能性の話です。そうならないために立ち回る必要がありますし、なった場合のことも考えなければいけません」

「ふむ。理解した。続けろ」

 相変わらずの上から目線のリュート。


「なので、できるだけこの地の人間と友好関係を築くことが必要です」

「そう…よね」

「そういう意味での外交官が必要でした。その外交官は、コミュニケーション力が高くて、顔がいいと好印象になりやすいでしょう?もし敵対しそうになっても「あの人と敵対するの?」っていう心理的な抵抗が生じる可能性もあります」

「君は僕らにそんな重要な役を任せるのかい?」

「頭の片隅にでも入れておく程度で構いませんよ。お二人のコミュ力なら特段何もしなくてもいいですよ。考えてみてください。リュートくんや綾小路さんにその役を任せようとしたらどうなるか」

「俺をダシに使うな。不適切なことは理解してる」

「アンタ遠回しに人のことディスってんじゃないわよ」

「…」

「…」

「…」

「…」


 誰も口にはしてないが、納得したと目が言っている。

「まぁ、そういうことなのでよろしくお願いします。これで配役は納得してもらえましたか?」

「ええ。分かったわ」

「僕も理解した」


 二人の理解が得られたところで、カップが空になる。そろそろお開きとしよう。


 俺たちは明日の夜、もう一度集まって話し合うことを確認し解散した。

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