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憂う想いと虚な夢

 〜第六城砦・貴賓室〜



 戦闘終了の報告を受けてから2日。

 戦場に派兵されていた守備兵力も帰還し、応援で駆けつけた星華と海崎は、近衛騎士団数十名の兵士と城砦を出発する。



「勇者様ー!ありがとうございましたー!」

「勇者様ぁ!またお会いできる時を楽しみにしていますー!」


「剣礼ーーー!捧げっ!」

 ーーババッ!!

 ーーザッ!!


 盛大な見送りの中、二人の乗った獣車が城砦を出た。



「私たちは、役に立ったのでしょうか…」

「…どうかしら…」

 戦果は魔族1体の捕獲に、1体の討伐。死者こそ少なかったにせよ、貴重な魔法石を根こそぎ奪われた形となった。


「…でも、済んだことはどうしようもないわ。前を向いて進まなきゃ」

「そう…ですよね」


 ガタガタと舗装されていない道を進む。


 照りつける明るい世界とは裏腹に、獣車の中の空気は暗い。


「はぁ〜…」

 小さくため息を付く海崎に、隣に座る星華が肩に手を置く。

「溜息は幸せが逃げるわよ?」

「そう…ですよね。すみません…」


 二人を悩ます問題は外でもない。零の態度にあった。

 中でも、海崎へのダメージは大きい。


「やっぱり失望してるんでしょうか…」

「それは…違うと思うけど…」

 あの魔族との戦闘の後から避ける様な零の態度が、彼女らを混迷させていた。


「あれ、どう見ても避けていますよね…」

「あれは…」

 星華が否定しようにも、無理がある。

「あれよ、別れたカップルが街中で遭遇しちゃって気まずい雰囲気になる感じ。だから多分避けてるとかじゃ…」

「ちょっと経験ないんで分からないです…」

「…私も自分で何言ってるか分かってないかも…」

「…」

「…」


 星華のフォローも虚しく、空回りに終わる。

 二人が零に避けられている理由に心当たりもない。だから余計に理解できない零の心境を察するも、それは悪い方へ悪い方へと考えてしまう。


「私は何を避けられているのでしょうか…。やはり力不足をーー…」

「ち、違うわよ…多分」

 星華は否定したものの、確固たる自信を持って否定できない。それは、零とは同じ勇者としての分類ではあれど、天地の開きがある実力差を思い知らされてのこと。

 どれだけ綺麗事を並べようが、優劣が明白にある以上、零のいる地点から見える景色は彼女には分からない。



「でも、澪緒ちゃんも避けてたでしょ…?俯いてたし」

「…私も…ですか?」

 星華は零と相対したあの部屋で、一度も顔を上げなかった彼女のことは気になっていた。彼女もまた、彼を避けていると感じていた。

「私はそんなつもりは…。ただ、零さんが私達と目を合わせたくないようだったので…」

 会議室から逃げる様に去ろうとし、星華に呼び止められ時に不自然に開いた距離。海崎が避けられていると感じるには十分で、避けられていると分かっている相手に、近づこうとする程図太くはなかった。


 実際、彼女自身も彼に対して顔向けできない思いもあった。自分と零との間にある格の違いに、負い目や引き目を感じていた。それを、「零の方が目を合わせたくないようだったから」と尤もらしい理由をつけて自分の心も騙している。


 それが結果としてより両者の溝を深くする。


「…確かに目を合わせようとしなかったよね零くん…。心ここにあらずというか、遠くを見ているというか…。でもきっとあれよ。疲れてたんだわ。昼間は戦場で忙しかったみたいだし、深夜だったもの」

「…その割には、朝早くに私たちには何も言わずに去りましたが…」

「…か、考えすぎよ。きっと早く戻ろうとーー」

「あの戦闘の後からです…。念話テレパスは心の声で意思疎通します。だからよく分かるんです。私とのやりとりを煩わしく思ってるって…」

 事実、零は海崎との念話テレパスの中でも、必要以上の連絡はせずに避けていた。

「澪緒ちゃん…」


 海崎は流れる景色と一緒に、自分の心も後ろに置いてきたかのような感覚を覚える。


「避けてるのは本人も謝ってたあのことでかしら」

「どうでしょうか…。事前に敵の狙いを読んで手を打ち、私たちを助けておいて何に責任を感じているのでしょう…」

「そうねぇ…」


 二人が零を責めることもなく、零自信がそのとこに罪悪感を覚えているなんて露ほども思わない。

 そして当然、彼が避けている理由を知る由もない。


「私たちが嫌われている訳じゃないないのなら、きっとまた普通に接してくれるようになるわよ」

「き、嫌われていたら…?」

「その時は…。…頑張るしかないわ」

「…そうですよね…。どの道頑張るしかないことは分かってるつもりでした…」


 彼女らにとって自分たちができることなんて、前を向いて進む以外にない。それは魔族との戦闘の後に決意したはずだが、零の態度が動揺させた。


 そしてここに改めて決意する二人の勇者の姿があった。


 …

 …

 …



 王都までの帰路の途中、宿場町で夜を迎える。

 海崎は、王都に帰って零とどう接すればいいのかと憂慮しながらもベットに潜る。


 その晩、海崎は夢を見る。

 ただの夢。けれど、その夢での出来事は彼女にとって最も辛い内容だった。


 …

 …

 …



 城砦を出立して三日。

 明日の夕刻には王宮へと戻ることができる。


 星華は、朝から海崎の様子を見ていて感じる違和感。苦労が絶えない難儀な性格の上、悩みも多い年頃だと思いつつも、ここ数日で零ショックからも回復していると思っていた。だが、朝から言語化できない不穏な空気を醸していた。


「澪緒ちゃん、何かあった?」

 彼女の念話テレパスがあれば、自分の知らないところで情報を得ていることもあると考え言及する。


「いえ…」

 海崎は、星華に自分の心境を見破られたことに内心冷や汗をかきながら平静を装い返した。


 彼女が見た昨日の夢は、他の人に言う気にはなれなかった。

 ただの夢。そう割り切る。


 ただ、どうしても気になる点があった。自分の知らない場所、自分の知らない記憶。それが夢だと切り捨てることは難しかった。


「言いたくなければ無理にとは言わないわ。でも、言った方が楽になることもあるのよ。それに、零くんみたいに「伝える必要はないと思った」って言う?」

「…」

 星華は零を引き合いに出して語る。零が海崎達に言ったセリフだ。そのセリフは、伝えてくれなかった人の辛さを思い出させるセリフ…。


「……昨晩、夢を見ました…」

 海崎は重たい口を開く。

「夢…ね…」

 彼女の口調から、それが楽しい夢ではなかったことを星華は察する。

「夢の中で、私たちは戦っていました」

 星華は黙って聞く。

「何もない無機質な空間で、各々が武器を持っていました。…互いに…」

 海崎の見たのはただの夢。だが、同じ勇者の仲間同士で武器を向け、満身創痍になりながらも刃を合わせる姿を虚な意識の中、ぼんやりと見た。

「ぇ…?」

 星華は小さく声を漏らす。

「だ、大丈夫よ。夢よ夢」

「はい。…そう思います」


 そういう二人の中に過ぎる一つの不安。海崎の有する固有スキルアイサイトには〈未来視〉もある。だが、二人はそれを言葉にはしなかった。もしそれを口にすれば、本当にそうなる未来になりそうな気がしたからだ。


 代わりに、「もしそういう未来になりそうなら、絶対に変えてやる」と二人は静かに固く誓うのであった。

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