それぞれの意思
「まず、最初に決めておく必要があることは、他に人が何を言っても決して否定しない」
俺たちがこれからどうするかという問題を相談する前に、星華さんがルールを提案する。
「ああ、僕もそれがいいと思う」
その意見に鈴木悠希が賛同。
「賛成です」
「俺もだ」
「私も」
全員が納得した。
「そうですね、考えが変わるかも知れませんし、”今の考え”に賛同も批判も意味はないでしょう。とりあえず全員の考えを聞くことは賛成です」
回りくどい言い回しに、何か言いたげな視線を送る海崎澪緒を無視して話を進める。
「それと、批判しないというルールに付け加えて、賛同もしないというルールもお願いします。どちらも表裏一体ですからね」
「確かにそうね。みんないいかしら」
全員が頷いた。
準備が整って、一人ずつ自分の意見を言う流れになる。
「ここは年長者からですかね」
進行役の星華お姉さんにまず話を振る。どうせ厨二病患者の意見は察しが付く。彼の話は最後にしておいた方がいいと判断した。もしも万が一、彼の意見に影響される者がいたら非常に危ない。ゆえに、最後にするために年齢順というそれっぽい理由で星華お姉さんに振った。
「そうね。私から言うわよ。非情かと思われるかもしれないけど、私はすぐでも家に帰りたいわ。それが4年後でも同じ。私の最終目標は帰還の一点のみ。そのために必要なら戦いにも参加する。でも、帰れるならその後この世界がどうなろうと知ったことではないわ」
彼女は冷たい声でそうつぶやく。でもその目は決して冷たい瞳ではなく芯のある強い瞳だった。
ルール通り、誰もその意見に賛成も批判もしない。
「次は私ね」
綾小路詩音の声はいつもと変わらず自信に満ちた声だ。
「私も結論から言うわ。私はあっちの世界に戻る気はないわ。理由はさっき言った通り、向こうに面白いことなんてゲームぐらいだわ。そのゲームの世界よ。少なくとも飽きるまでは戻る気は無いわ」
どんな理由だよ…とツッコミたいが、黙って聞いておく。
「それから、魔王討伐とか戦争とか難しく考えすぎだと思うわ。つまり、悪い奴らをドーンってやってバーンとやればいいのよ。相手は悪の権化みたいな化け物だし、情状酌量の余地なしよ?魔王相手でも勝算の目途が十分にあるなら魔王城に乗り込んでもいいと思ってるわ」
実に分かりやすい。桐生星華お姉さんが自分のことを非情だとか何とか言ってたが、この血も涙もない綾小路令嬢に失礼だ。
次は続かず少し無言の時間が流れる。俺と鈴木悠希がどちらが上かハッキリしてなかったから互いにタイミングを見計らってしまった。
「じゃ、僕から失礼するよ」
イケメンの爽やか笑顔で俺に語りかけて話始める。
「僕はね、可能ならば救いたい。別の世界だと言っても同じ人類だ。固有スキル〈ドレッドノート〉のせいかね、恐怖はないんだ。麻痺してしまっているかも知れない。でも、救いたいという気持ちは本当だと思う。もし、僕らの世界が危機に瀕して、自分たちでどうしようもなくなったときに縋った存在に見捨てられるのは辛いから…。王様は4年後に帰れると言ってたし、きっと4年後じゃなくても帰る時はあるんだと思う。この世界の人たちが安心して過ごせる時までこの世界で生きるのも悪くないかなって思うんだ」
眩しぃー!主人公だ!眩しぃー!
もう完全に英雄譚の序章を見てるよ。未来の英雄譚で絶対このセリフ載るよ。
この後に俺が言うってどんな拷問ですか!?何言っても霞むし!!未来の英雄譚で勇者が8人もいるとややこしいから半分にカットされるときに真っ先に消されるレベルじゃん…。
俺は正直に語る。
「俺の番だが、とりあえず生存優先。そのためならなんだってする。それで帰還の目途がたったらその時に決めるという感じですね。最短で帰れて4年。4年もこの世界にいれば、命を掛けてでも守る価値のあるものがあるかもしれないし。未来のことなんて誰も分かりませんからね。生存優先の、決断は先延ばしってことで。以上です」
ここまでで4人。全員意見が違う。既に波乱万丈だ。
「私の番ですね」
海崎美緒。こいつさんざん俺をダシに状況を優位に進めてきた。それでいて一番自分の意見を言っていない様に思える。何を考えているのか一番気になるところだ。
「結論は最後にさせてください。まず、私たちが取れる選択肢は4年後起点にこの世界に止まるか、帰るかの2択です」
俺たちは黙って頷く。
「そして、どちらにしても4年間を生き残る必要があります。そこで取れる選択肢は、戦うか、逃げるかの大きく分けて2択です。こちらは生存可能性が高い方を選びます。もしも十分に勝算があり、危険がない状態でしたら参戦することも視野に入れます」
「ふむ」
だいたいは俺と同じだ。前半とれる選択肢はそれぐらいしかない。
「4年後は、各自の判断に任せるということでいいかと思います。私個人としては、帰ろうと思いますが、私にこの世界の人を救う力があり、私にしかできないということであれば残ることも考えます」
なんとも中途半端な意見だ。いや、とても現実的なものだが、もっと主人公っぽさとか、綾小路令嬢のぶっ飛び理論とかが聞きたい。
次は期待できそうだ。
大原大智が口を開いた。
「自分は、難しいことはあんま分からないっス。でも、助けを求めている人がいて、その人を助ける力があるならやっぱ放っておくのは違うと思うっス。なので、できる限りやりたいと思うっす。それに、もしも全てを投げて家に帰っても、ずっと引きずることになりそうッス。それはあまりにも辛く重たいと思うッス…。ーー強さは力や技じゃない、心のありようだーーって道場の師範の受け売りっスけど。自分の憧れる強さを求めてみるッスよ。何ができるかはやってみて考えるッス」
くぅ~~~いいね!こういうのだよ!こういうの期待してた!少年漫画かっ!と言いたくなったよ。ポイント高いね!彼にはぜひこのまま大きくなって欲しい。
さて、胸がスカッとする大智君の後には、我々のダークホース、秋本紅葉。
自己紹介で少し触れようとして涙を流す程の彼女は、何を語るのか。これまでの会話でほとんど相槌しか打っていない。性格から察するに、奥手なのは分かる。未知の異世界で知らない人に囲まれていればそうなるのは無理はない。
「私の番…ですね。私は今すぐにでも帰りたいという思いが強いです。でも同時に、自分を奮い立たせなきゃとも思ってます。ここで逃げたら、私は一生このままです。高校に入って変わろうと思ってました。でも変わりませんでした。2年生になって新しいクラスになったら変わろうと本気で決心しても変わりませんでした。心のどこかで「しょうがない」って理由をつけて、ずっと楽な方に流れてました。
この世界にきても、私はやっぱり私でした…。突然知らない場所にきて、体が石のように固くなりました。息をするのがやっとでした。私の他にも同じ状況に陥った人がいて心の中で安心してました。固有スキルを聞かれたとき、私は一つ目の〈アイスピライト〉を言いました。それが回復系のスキルだと教えてもらってホッとしたんです。これで戦いになっても私は後方支援だって。だからもう一つのコントラクターは言いませんでした」
そんな理由があったのか…。てっきり全員、王国や他の勇者に手の内を悟られない切り札のために隠しているかと思ってた。あ、脳筋の大原大智君を除いて。
「この部屋にきて、皆さんが色々話している間。ずっと恥ずかしくて消えてしまいたいと思ってました…。皆さんは今を必死で生きて、考えて、できることを探して、意見を出し合って…。こんな状況でも泣き言ひとつ言わずに冗談を言い合ってて…。私はその輪に入れません。私はそんなに強くありません。一人だけ逃げるためにスキルを隠してました。桐生さんみたいなリーダーシップも、綾小路さんみたいな自分の意見を真っすぐ言える強さも、海崎さんみたいに状況を一転させる力も、リュートさんみたいな確固たる自分はありません。鈴木さんみたいな魅力もありません。大原さんみたいな真っすぐな志もないんです」
…
…
…
…待て。俺は?俺だけないの!?確かにあんまりいい印象はないかもしれないけどぉ!?俺だけないってのは完全ないじめじゃないかなぁ!?
「それに、一さんはなんか凄いです」
なんか凄い…?。なんか…凄い…。なんか…スゴイ。
〈いい人(具体的な長所がないが、とりあえず肯定的な意味で褒める)〉
という奴ですね…。その優しさが心の傷に余計染みる…。
「皆さんそれぞれに強さがあって、私はありません。私の人生で、こんな状況は二度と起こりません。ここで逃げたら私は一生それがないままです。この世界の人を助けたいという想いはあります。でも、本当は私が一人前の人間になるためです。皆さんを見ていたら、このままじゃいけないんだって思いました。だから私は今度こそ手に入れます。そのために、戦います。文字通り命を掛けて挑みます」
「「…」」
黙って聞いていたがみんな色々ツッコミたいところはあるようだ。かと言って、賛否両論、口を挟むことを禁止した手前、何も言えない。
「では、トリを務めるとしよう」
まだおったか…。もう3行で要約してほしい。
最年少にして一番の爆弾要因の厨二患者リュート。彼は上を向て目を閉じ、おもむろに目を開け視線を戻し語り始めた。無論、その行為自体に意味はないだろう。
「俺は俺の運命に従うのみ。戦はおのずと向こうからやってくる。敵がいるなら滅ぼす。それだけの話だ。元の世界に戻るか残るかという話は興味がない。召喚に帰還する方法があるんだ。別に何度往復しても構わんだろう?」
こいつ、馬鹿だけど天才だ。確かに一度きりとは限らないし、どんな方法が必要かは不明でも、向こうから人を呼ぶことと、こちらから送る方法があるなら、研究と開発によって行き来できる様になる可能性も0ではない。誰もが固定観念に縛られていたが、厨二患者は常識の範囲外にいる存在だ。突拍子もない馬鹿げたことだが、夢がある。
俺たちは全員の意見を聞き終わった。
誰一人として同じ意見はないが、大きく分けて、
1、即帰還希望派
2、4年間はいる派
3、定住派
の3つ。
もちろん、誰が何を思ってもいい。それを尊重するつもりだ。
しかし、国王を始め、この国の人間にはそうも言ってられない。
彼らが協力を得られないと判断すればどういう行動にでるか。全くの未知数だ。少なくとも、俺たちの対外向けな姿勢は合わせるべき…。
そう思いながら終着点にどう持っていくかを考える。
「今は俺たちの持ってる情報は少なすぎます。明日は幸いにも時間があるし、情報収集をしてからもう一度今の話をするべきじゃないですかね」
なんにしても情報は圧倒的に不足している。今は結論の前に世界を知ることを優先させるべき。
「それには同感だわ」
「うむ」
「ええ、そうね」
俺の意見に皆が賛同する。
「それに、この話はみんなの命に関わる問題だし、少し時間をおいて考えた方がいいわ」
星華さんの意見にも賛同する。
俺たちはまた明日、情報収集をしてからこの話題について話し合うことにした。
コンコンコン
「?」
部屋の扉が叩かれる。
「皆様こちらにおられましたか」
セバスは夕食の時間だと伝えにきてくれたようだ。
俺たちはとりあえず一旦解散し、じっくり考える方向で着地した。




