勇者の成長と成果
悠希、星華、海崎、大智、紅葉の五人は、街道から少し外れた平野から向かってくる雷獅牙を見据える。
50mーー
力強く四本の脚で地面を蹴ってこちらに猛進する。
「みんな、いつも通り」
「うっス」
「はい」
25mーー
大智が正面から迎え撃つ形に立ち、その後ろに悠希が待つ。
0mーー
「GAoooooOOOO!!!」
ガキンッ!!
雷獅牙の迫ってきた勢いを、大智の大剣が食い止めた。
鋭く伸びた牙から繰り出される噛み付き攻撃を、片足を大きく下げ大剣の腹で受ける。僅かな制動距離で大智は雷獅牙の突進を止めた。
「せやっ!!」
「GAu!?」
その後ろに構えていた悠希から、両手剣による突き攻撃が眉間に迫る。狙いは完璧。二人掛によるカウンター攻撃だ。
ザザッ…。
だが、雷獅牙は飛び退いて躱した。頭部や顔面は魔物ても致命傷になる。流石に視界の正面から易々と攻撃を喰らってはくれないだろう。
「いい配置だな」
「そうね」
俺とリュートと綾小路は観戦している。
第一接敵交戦時で、既に理想的なフォーメーションが取れたことをリュートは褒めた。
後方の左右に、レイピアを持つ星華さんと、短双剣を手にした紅葉が陣取っている。大智と悠希で正面を抑えつつ、後方から二人が削る。そして遠距離から海崎が狙うのだろう。武器の特性を考え、全周を攻撃範囲とすることで数の優位性を最大限に生かせる配置だ。個々のプレイヤーが相手の攻撃の一撃を凌げるのなら、この配置は百点満点だ。
「GURAAAAAAAAAAAAA!!」
雷獅牙の体が帯電する。電気ライオンと呼ばれる由縁だ。
「えぇいっ!!」
無防備な後ろを紅葉が斬りつける。
「いっ!?」
だが、その刃は切り裂くことはなかった。
雷獅牙が帯電すると、金属の武器で攻撃する時、こちらの手にも電流が流れダメージが入る。さらに、電流によって硬化した皮膚の表面は、多少の力では傷つかない。
「畳み掛けるぞ!!」
「てや!!」
「せい!!」
「GRUGA!!」
悠希の合図で全方向から迫る攻撃を、雷獅牙は体を捻って回転攻撃で牽制する。
「っと…」
星華さんが回転攻撃を避けるために後方に飛んだ瞬間を狙って、雷獅牙は反転して彼女に飛びかかる。
「くっ…」
「飛びすぎね」
「うむ」
足が地面に着いていない間は、剣で防ぐしかない。
しかし、いくら勇者の力が巨岩をも押す力があっても、それは力点となる足が地面に着いている時だ。空中では星華さんの体は雷獅牙の体重と勢いによって押される。
必要以上の回避行動で、浮いたところを狙われたのだ。
「おりやッス!!」
「GYAAA!!」
しかし、すぐに後ろから迫った大智による大剣の斬撃が横腹を斬った。大剣ほどの斬撃力があれば雷獅牙の硬皮も削られる。
「ぇや!!」
紅葉の突き攻撃は、今度はしっかりと後ろに刺さった。
「GAAAAAAOOOOOO!!!!」
「怒りモードね」
アンリミテッドモード。本来の生物なら不利を悟れば逃げる。だが、魔物はこのモードに入ると凶暴になり、相手を殺すことだけを考えるようになる。
「GUGYAO!!」
その後にも、数カ所に斬撃が入るが、暴れ回る雷獅牙に未だ致命的な攻撃は入れれない。
魔物の自然回復速度は尋常ではない。魔力がある限りはどれだけ傷つけようが死なないのだ。
「GURAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
いっそう大きい咆哮が辺りの空気を振動させる。
「うわぁ…」
「っつーー…」
「ぁぁぁ…」
近衛兵達が耳を塞いで顔を歪ませる。
咆哮のスキルだ。RES(魔抗力)とMND(精神力)が低いと、咆哮や威圧スキルで身動きが取れなくなる。
流石に勇者達は大丈夫なようだ。
「GURUU…」
「みんな、下がれ!!」
雷獅牙の動きに悠希が警戒を促す。いい判断だ。
電気を溜めている。これまで帯電して防御に回していた電気を攻撃に使うつもりだ。
「GAAAA!!」
「!?」
ガキンッ!!
「ぐわっ!!」
前足から放たれた電気の斬撃が宙を飛び、剣で弾いた悠希が感電する。先ほどまでの帯電による微弱な電流と違い、かなりのダメージがあるだろう。
「せや!!」
「ええい!!」
その隙にも、後方の二人からの斬撃が入る。
「時間かかりそうね」
「ふっ。無理もない。通常攻撃だけでは決定打に欠ける。このまま魔力を削って倒す他ない」
常に優勢ではあるが、戦闘は長引く。
「GURUOOO!!」
雷獅牙が電気を溜める。
「喰らえッス!!!」
その無防備な顔面に振り下ろした大智の大剣は避けられた。流石に大剣から放たれる斬撃を、爪で弾くことはしない。
「まだだ!!」
その避けた先を狙った悠希の剣が迫る。
「GRUA!!」
スタッ!!
獅子ほどの巨体を身軽に上に大きく跳び宙を舞う。
「ーー!?みんな、離れろ!!」
いい読みだ。溜めた電流が、雷獅牙の牙を白く光り迸る。
雷獅牙の強力なスキル、〈誘雷針〉だ。
高圧の大電流を空中で放つことによって、近くの人や物に電流が誘導される。地に足を付けていた時とは比べ物にならない電力がそのまま流れることになる。
彼らの持つ剣は、格好の的。この攻撃の防御方法は、剣を地面に突き刺し手を離すことだ。けれど、最善の対処法を知らない彼らは、一瞬でそれを行動にはできない。
「あれは痛いわね」
綾小路令嬢はこの後の展開を読んで彼らが味わう痛みを憐む。勇者のDEF(防御力)、VIT(耐久力)、RES(魔抗力)があればそれで致命傷にはならないとは言え、相当な痛みになるだろう。
シュゥゥーーーー
ザクッ!!
「Gyaっ!??」
一本の矢が、風切音と共に吸い込まれるように雷獅牙の左目に突き刺さった。その痛みに雷獅牙が悲鳴を上げる。
「やるわね、澪緒」
「うむ」
雷獅牙の放電ギリギリのタイミングでキャンセルした。攻撃する瞬間が最も防御が疎かになる。脇腹や後ろ足などを狙わずずっと身を潜めていたのは、確実に決定打を与えるためだったのだ。
そして、彼女はそれを実行した。
「ぇい!!」
「せや!!」
体勢を崩して落ちてきたところを、星華さんと紅葉が後ろ足を斬りつける。
「GYAA!!」
「おぉぉぉおおおおお!!!!」
前から悠希が迫る。
「GURUA!!」
後ろ足の腱を二人に斬られて回復の間を与えず放たれる悠希の攻撃に、動けない雷獅牙は前足でそれを弾いた。
その瞬間には、既に潰された左目の死角部分に入っていた大智が大きく剣を振り上げている。
そしてーー。
ザャァァァァクッ!!!!
「GIAAAAAAAAA!!!!」
左顔面を大きく斬られて初めての悲痛な悲鳴を上げた。それでもまだ倒れない。
「今のは入ったわね」
頭部への致命的ダメージは、かなりの消耗となる。雷獅牙の魔力も半分は切ったか。
片目に突き刺さった矢を抜く合間も与えず死角から畳み掛ける。狙われた人は回避と防御に徹してその隙に別の勇者が一斉に攻撃を仕掛ける。
「GYAOOOOOO!!!」
バチバチバチ!!
「うわっ!!」
「オワッ!!あ」
防御を捨てた捨身の攻撃に、爪を受けても電撃が走る。それでも、勇者のパラメーターを持ってすればそれが致命的なダメージにはならない。
「勝負あったわね」
綾小路令嬢は一応手にしていた武器を閉まって呟く。
しばらくして、雷獅牙はついに地面に倒れた。
横たわる自然回復しない雷獅牙の傷からドクドクと血が流れる。間違いなく絶命した。
彼らは武器を鞘にしまってこちらに手を振った。
「オォォォォォォォ!!」
「勇者様がやったぞ!!」
「たった5分程度で雷獅牙を倒すとは流石は勇者様だ!!」
「これは頼もしい」
「一方的ではないか!!」
初実戦というには上出来だ。
俺たちは彼らの元に向かった。
「お疲れ様。剣も動きも戦術もお見事でした」
「零がそういってくれるなら一安心だよ」
紅葉の回復の固有スキルによるエリアヒールで、電撃によるダメージと打ち身や擦り傷を癒しながら悠希は笑った。
「初見の割に的確な動きでしたが、訓練でも似たようなことを?」
「そうよ?師匠を相手にね。でもこのサイズでよかったわ。もっと大きい魔物にはまだまだ不安だけど、今回はサイズもサイズで慣れてたから」
なるほど。本職の戦術指導があればあの連携も頷ける。
…流石はジーク司令だ…。
「お見事でした、皆様!!雷獅牙相手に一歩も引かないその雄志、感服致しました!!流石は勇者様方です!!」
尊敬と憧憬の目で彼らを見るリサ副団長が詰め寄る。
「あ、いえ…」
「ははは…」
照れながら応じる悠希と星華さんらを傍目に、俺は倒れて息絶えている雷獅牙に近づき、〈ゲームエンジン〉の
//このエンティティーのプロパティを調べる
【this.Entity.Search.property;】
を使ってエンティティー名を把握する。
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〈詳細〉
名称:雷獅牙
種別:第六種
分類:魔物
状態:死亡
エンティティ名:Arcreos_1
固有ID:eiNr2Hb9gi8Defd1u4bew
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「零さん、どうしたんですかぁ?」
俺の奇行を不審に思う紅葉に気にするなと伝えて俺たちは獣車に戻る。
雷獅牙の死体は悠希のストレージにそのまま入れて先を進む。国境を目指すのにここで道草を食ってる時間はないだろう。
…
…
…
「ーーーという感じね。他には特にないわ。リュートは?」
獣車の中で反省会をする。さっきの戦闘に関して、先輩プレイヤーからの意見が欲しいということで、綾小路令嬢が語っていた。
「ふむ。俺は現存能力ではベストだったと思うぞ。詩音の言うことは理想だが、初戦でこれだけ動ければあとは経験でどうにでもなる。お前はどうだ?」
リュートは俺に話を振る。
「ええ。剣の使い方も体の動かし方も流石本職兵士による指導といった感じですね。始めて一ヶ月とは思えない無駄のない洗練された動き、剣筋もしっかりしてるのでなにも言うことはないですよ」
まぁ、欲を言えばいくらでも言えてしまうが、基礎はできているのだから効率化は経験で果たされるものだろう。何も知らないで雷獅牙を相手にしたには善戦したことは間違いない。
「そうか、意見ありがとう。ちなみに、君らならどれくらいで倒せるんだ?」
悠希の質問に俺たちは顔を見合わせる。
「武器にもよるけどスキルなしなら一人で一分ってところかしら」
「ひ、一人でかい!?」
「そりゃそうよ」
「とんでもないんだな…。君たちは」
レベル80程度の野良モンスター1体に、レベル100のプレイヤーが当たればそれは消化ゲーだ。
今回彼らは、雷獅牙が回復に使える魔力を削り切って倒した。いわゆるHP狩りという手法だ。
だが、俺たちがタイムアタック的に狩るなら、致命攻撃を狙うだろう。魔石破壊か、頭部破壊での致命傷での即死を狙う。まぁ、生半可な武器では魔石破壊は難しいし、魔石を無駄にするから普通は頭部破壊を狙う。それで一分というのは妥当だろう。
「あんた達もあれぐらいは一人で5分以内に倒せるようにならなきゃダメよ?敵は軍勢なんだから。5対1じゃなくて1対5になることなんてザラにあるわ?」
敵の総数は3万。レベルは20、30が平均だと言う話は聞いているが、強個体は必ずいる。
「そうだね…。僕らもまだまだ励まないとね」
「そうね」
「ええ」
「はい」
「精進するっす」
初戦闘に手応えは感じられたのか、彼らはこれからのことも前向きに見据える。
今の彼らが雷獅牙を一人で相手にしたら、15分といったところだろうか。動きと武器捌き、回避や防御の基本形はできているから、これなら心配はないだろう。
俺は、彼らの努力と鍛錬が身を結び、着実とした成果になっていることを讃えつつ、彼らの成長の速さを喜んだ。




