移動時間は思案の時間
俺たち勇者8人は、怪俊馬が引く獣車の上で南の国境を目指す。
「…」
「…」
「…」
王都を出て3時間。これから向かう先が戦場だということに、ピクニックに向かうような明るさはない。誰もが何を話していいかもわからず、怪俊馬の足音と車輪の音だけが響く。
「はぁ〜〜。辛気臭いわねぇ…。今から気張っても意味ないわよ。到着は4日後、気疲れしちゃうわよ?」
沈黙に耐えきれなかったのか、綾小路が両手を上げて寛ぐような姿勢を取る。
「そうですね…。令嬢の言う通りです。気楽にいきましょう」
「アンタ、なんか話題提供しなさいよ」
「そんな無茶な…」
ーー隠キャぼっち廃ゲーマーになに要求してんだよ。
全員が期待の眼差しを向けて断れる雰囲気ではない。
俺はゲーム以外の無難な話題を探す。
ーーSLIG以外の話題が全然思いつかねー…。
魔法や戦術の話なんかはいくらでもできるが、みんなで話を広げて語り合えるかと言われれば間違いなくNOだ。俺達ゲーマーによる一方的な講義になる。
「あ、お金の話をしましょう!!」
俺はちょうど悩みの種でもあったことで、みんなが語れる話題を思いついて咄嗟に提案した。
「はあ?なに俗物的なこと言ってんのよ」
ーーおい…人に話題を提供しろと言っておいてそれはないだろ…。まぁ、ちょっと言い方がおかしいのは認めるが…。
確かにいきなり、雑談の話題で「お金の話をしよう」と言い出す奴はヤバイ。冷静に考えれば俺の言い方が悪かったとは思う。
「皆さんの思ってるような話ではなくてですね…。そう、あれです。新しい資金調達プロジェクトについての話をしましょうということです」
「お前は商人にでもなる気か?」
SLIGの職業の非戦闘職はたくさんあり、交易師や鑑定師などの物を売買をする職をまとめて商人と言っていた。
「いやリュート。そのつもりはないよ。ただ、資金調達をしないといけなくてね。何をやるにも金がいるから。何かいい方法はないものかと思って。まぁ、方法はいくらでもあるけど、複雑な手段や時間がかかる方法はどうしてもね…。だから皆さんからの意見も聞ければなと。」
三人集えば文殊の知恵。八人いれば俺一人で考えるよりいい方法が思いつくかもしれないし、話が広がるし一石二鳥だ。
「つまり零くんは、楽して稼ぎたいってことね」
「…星華さん…その言い方だと俺がロクでもない奴に聞こえますが…。まぁ間違ってないですよ?間違ってはいないんですが…」
控えめに紅葉が手を上げる。別に挙手制ではないぞ?
「あのぉ、王様にお願いすれば私たちの活動資金は用意するって言ってましたよね?どうして自分で調達するんですかぁ?」
「あー、王国からの資金はあまり期待できないな。まず一つ目に、足がつくでしょ?どこにいくら使ったのか。どんなことに使ったのかってね」
「ダメなんスか?」
「ダメというか、内通者が王国内にどれだけいるかわからない以上、なるべく隠せることは隠したいからね。それから二つ目に、額が額だから王国の国庫からじゃ賄えないって理由かな」
「い、いくら必要なんスか?」
「とりあえず、3000億円Gってところかな」
「さ、3000億!?」
「アンタ馬鹿なの?」
「いやいや、至って真面目ですよ。むしろたった3000億でしょ。某公営放送局の年間受信料の半分程度ですよ?安いもんでしょ」
「比較対象が意味不明なんだけど!?確かにSLIG時代では5億そこら持っていたけど、この世界でそんな稼げるとは思わないわよ?」
「そうなんですよね…。国にせびるにも、そもそもの税収より多い額は存在しない訳ですし…。魔物の素材を売って稼ぐにしては効率が悪すぎるので、どうしたものかなと」
「ふむ…。」
リュートが顎に手を当てて唸る。
「無難なところで言えば、向こうの世界の道具を売り込んで特許権で儲けると言った方法だな。世界観監視プログラムがないならやりたい放題だろう?」
リュートの提案に頷く。ゲームとは違い世界観にそぐわないものでも作れてしまうこの世界では、作ろうと思えば飛行機だって作れるのだ。
「つまり零くんは、商会に売り込んでロイヤリティーで稼ぐってことね。面白そうね。私も何か考えてみるわ」
本職会計士の星華さんは、意気揚々と手を組んで思案の姿勢になる。
「こういうのはアレよ。異世界三大発明品!まずは砂糖ね!」
「なんですか異世界三大発明って…。砂糖はすでに市中にたっぷり出回ってますよ。おそらくサトウキビからも甜菜からも取れているでしょうね」
「そういえば、私たち甘い物たくさん食べてたわね…。じゃあ四輪農法かしら」
「それ意味あるんですかね…。農業系スキルで毎年豊作が約束されてるような世界で、わざわざ転作する意味が見当たりませんね…」
「…流石はSLIG世界ね…。じゃあ活版印刷よ!」
「記述師や筆記師の複写スキルがあるでしょ…。デジタル印刷より精度が高い技術があるのに、今更活版って…」
「ぐぬぬ…。じゃあ、最終手段。火薬ね」
「三大と言いながら4つ目…。火薬は却下ですね。完成するまでどれだけ時間がかかると思ってるんですか」
「だーーー!!文句ばっか言ってないでアンタも考えなさいよ!!」
正論だな…。だが否定は必要だっただろ…。
「品物じゃないといけないの?」
綾小路令嬢の提案が全て没になって星華が聞く。
「いえ、なんでもいいですよ?金になれば」
「現金ね…」
「言いなおします。この世界の人に認められる価値で資金が調達できるものなら、ということで」
「じゃあ、レシピはどう?こっちにない料理やお菓子のレシピ」
「…名案ですね。でも、それで得られるのはせいぜい1億程度の端金ですね」
「い、一億が…端金ね…。うーん…。楽して大金を手間をかけずに自動で素早く稼ぐ方法よね。」
「その言い方は的確ですが、言葉にすると俺がとんでもないクズやろうに聞こえるので、せめて短期資金調達方法と言いましょうよ…。」
俺たちは獣車の上で知恵を絞る。何かを考えている方が、余計なことを考えずにすむからその方がいいだろう。
ガラガラガラガラ…ピタッ
獣車が止まる。辺りはすっかり日が暮れていた。
「勇者様。お疲れ様です」
リサ副団長がやってくる。
「今日はこの街で夜を明かします。早朝日の出と共に出立しますので、再度ここにお戻りください」
中堅規模の街だ。俺はストレージから地図を取り出す。
「リサ副団長、ここは?」
「はっ。ミドリスト駅都市です」
王都から南に約100kmといったところか。駅都市は、長距離を短時間で移動するために駅伝制の中継地点に使われる街…だったな。
「野宿かと思ったけど、宿屋があるじゃない」
綾小路令嬢は宿屋に向かって歩き出す。
「リサさん達はどうするんですか?」
星華さんがリサ副団長に尋ねる。他の近衛兵らが魔法鞄からマントや寝袋を出している様子を察するに、ここで野宿だろう。
「我々はここで野営をします。あ、我々のことは気にせず、勇者様方は宿をお使いください」
「ああ、そうさせてもらうよ」
リサ副団長の言葉に俺が答えた。
流石に300人近くの近衛兵が宿に泊まるのは余計に大変だ。馬の番も必要だろう。星華さんなんかは彼らを差し置いて自分たちだけ宿を使うのは…と気にしているようだが、休める時に休むべきだ。
「なら私もーー」
「セイカ様」
星華さんの言葉に被せるように、リサ副団長は彼女の言葉を止める。
「その気遣いは戦場での戦果をもって表していただけると幸いです」
リサ副団長は星華さんの気遣いを断り宿の方へと向かわせる。
「…そうね。また明日」
俺たち勇者と彼女ら軍人に求められている責任も戦果も違う。”そんな気遣いより、結果を示せ”そう言われたような気がした。
翌日も、早朝から街道を走る。俺たちは再び資金集めのための方法を模索していた。
「ぉ…」
ピクリとリュートが反応し、小さな声を出した。
「なんかいい案あったか?」
「いや、索敵スキルに反応があった」
戦闘職の多くにクラスレベル10で習得できる索敵スキルがある。上位の気配察知に比べてこちらに向かってくるモンスターにしか反応しないが、それに反応があるならすぐに衝突するだろう。
「街道で遭遇とは珍しわね」
綾小路が立ち上がる。
「どういうことだい?」
悠希の疑問に俺が答える。
「街道には、大抵”魔除け杭”とか”魔除の護符”とかが等間隔に設置されてるので、そんなに出くわさないんですけどね。この道なんて整備もされてるし、魔除けは入念にされてそうなので珍しいことなんですよ。」
「そうなのかい?なら、僕らにとっては初めてのモンスターを見る機会だね」
そうか…。彼らは実物の魔物や魔獣といったモンスターを見たことがない。俺たちプレイヤー組みは、ゲームで散々見慣れていたが、彼らにとっては未知との遭遇だということを忘れていた。
ピーーーーーーピーーーー
すぐに前方から笛の音が届く。近衛兵らも気付いたようだ。
ギギッ
ギーーー…
獣車が止まって外が慌しくなる。
「勇者様!!」
リサ副団長が駆け寄ってきて声を上げた。俺は馬車から飛び降りて辺りを見渡す。
「状況は?」
「はっ。右舷前方約200m先にS級指定の雷獅牙です」
「お、電気ライオンか」
「電気ライオンだな」
「電気ライオンね」
「え?」
「いや、こっちの話。それで、どうするつもりだ?」
「既に防衛体勢を取っています。対雷獣装備の20名をすぐに向かわせられます」
雷獅牙のレベルは約80だ。
集団の戦闘力計算は、[平均レベル×(人数×0.1+1)]。
近衛兵団の平均レベルが30だとして、20人なら30×(20×0.1+1)=90。いい戦力差だ。
あまり大勢になると逆に連携が取れずに乱れたところから喰われる。数が勝ればそれだけ集団の戦力が上がるが、個々の力が死んでいく。通常サイズの魔物相手には20人以上は余計に戦力が下がるからベストな判断だろう。
近衛兵団はちゃんと機能すると分かったところで、あの魔物は俺たちがいただこう。
「じゃ、全軍待機。電気ライオンは俺らで狩るよ」
「お任せしてよろしいのですね?」
「ああ」
討伐隊20名をすぐに送らなかったのは、俺たちに譲ってのことだろう。
「ということで、5人の初討伐イベントです」
馬車から降りて各々の武器を構える悠希達にそう伝えた。
「念のために聞くけど、僕らで勝てるよね?」
「勿論ですよ。1対1だとクラススキルが使えない今だと手こずるかもしれませんが、5人いれば余裕ですね」
「そうか。分かったよ。みんな、準備はいいかい?」
「はい」
「うん」
「ええ」
「うっす」
彼らにとって初めての実戦が、訪れようとしていた。




