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ガラス細工と緊急事態

 俺たちがこの世界に召喚されてからもうすぐ一ヶ月になろうとしている。


 SLIGエスリグの世界と同じとはいえ、それなりに違和感もあったのだが、一ヶ月も過ごしているともう当たり前となり違和感すら感じなくなっていた。


「「ごちそうさまでした」」


 リュートも綾小路もいる今日は全員が揃っている朝食会だった。


 食後の紅茶を啜りながら、今日の各々の予定を伝え合う。とは言え、相も変わらずリュートと綾小路はオルカの森林帯に。俺はその輸送と、王都で色々下準備。他の五人は修練場での訓練の大詰めだ。

 ジーク司令官の訓練は大盛況らしい。




「皆さんに渡しておきたいものがあるんですよ」

 俺はストレージから8つの装飾品を、皿が片付いたテーブルの上に置く。ダイヤのように虹色に煌くガラスのようなアクセサリー。


「なんなの?これ。ピンバッチ?」

「綺麗ですね」


「そうですよ。指輪や腕輪じゃ擦れたり剣を持つときに当たりますから。このサイズなら胸元や襟に付けれますし、邪魔にもならないかと思って」

 わざわざ金細工職人にオーダーメイドで作らせた。


「僕らにかい?」

「ええ。星華さん発案のトレードアイテムみたいなものですよ」

「…この形、覚えていたのね?」

 この前、星華さんが街の宝飾店で手にとって俺に見せたオリーブの葉の形を模した指輪。それに近い形だ。


「ええ。まぁ平和オリーブではなく、勝利と栄光を表す月桂樹(ローリエ)の王冠を模した物にしました。勇者的にはそっちの方がいいかなと」

「ふふっ。意外と拘るのね…零くんは」

 ーーいや、だって高かったし。平和を掲げて魔族を殲滅するのは流石にまずいかなと…。


「アンタにしてはまともなことをするじゃない」

「まてまて綾小路令嬢…。俺はいつもまともなことしかしてないでしょ?」

「そうだったかしらね」

「そうですよ…全く…。お気に召しましたかね」

「悪くないわ。で?まさかSLIGer(エスリガー)がただのガラス細工を選ぶなんて真似しないわよね」

「手厳しいですね…。素材は水中一角獣ウォルタラムスの共鳴石を使ってます。魔術刻印はありません。懐中電灯代わりには使えますが…強度はあるのでガラスと違って割れませんよ」

「ふーん…。まぁいいわ」


 期待しいた割に、というところだろうか。仕方がないだろ?この世界の付与術師のレベルを考えれば大した効果も付与できない。だが、

「こういうものの価値は魔法的要素じゃありませんよ。」

 俺は含みのある笑顔で綾小路令嬢の方に向ける。

「…そういうことにしておいてあげるわ。」


「ふっ…悪くない。俺たちの証といったところか」

「そうだね。こういうのがあると締まると思うし。零、ありがとう」



 皆一つずつ手にとって襟や胸元に付ける。たった一つのバッチが、俺たちにとっての制服となった。




 ドタドタドタ


 騒がしく食堂の扉が開かれる。執事のルセフが慌てた様子でやってきた。

「ゆ、勇者様方!お食事中のところ申し訳ございません。王国軍司令長官(ジーク)様が至急お呼び立てするよう申しつかって来ました!こちらに!!」



 その慌てように、ジーク司令からの呼び出し。有事ということだろう。俺たちはそれを察して席を立つ。


 ーーおっと。せっかく海崎が入れてくれたカモミールティーを飲まずして行くのはもったいない。保温も兼ねてストレージに入れておこう。


 ティーカップ一式と紅茶ポットメリオールをストレージに入れて後を追った。





 王城の軍令室。ジーク司令と数人の軍人が慌ただしく動いていた。 


「お連れしました!」

 ルセフの声にジーク司令は俺たちの存在に気付く。


師匠ジーク、状況は?」

 悠希が尋ねる。

「オオご苦労。ああ。つい先ほど、知らせが届いた。昨日の昼ごろ、第七城砦の南方約30kmで魔族の大群が確認されたらしい。その数およそ3万。今はもう戦闘状態だろう」


 国境の城砦は、西から順番に第一、第二、第三とあり、一番東が第十城砦となっている。

 今回の第七砦というのは、中央より若干東寄りにある城砦。ドークリーバー領だった場所だ。いやな予感しかしない。


 各城砦の守備兵力は4000人の兵が常駐している。その他に、即応遊撃部隊が後方に、西部部隊と東部部隊で1万人ずつ控えている。

 今回第七城砦の周辺で敵軍を確認したため、第七城砦の4000、第六と第八から応援で計4000人も参戦しているはずだ。それと即応の西部遊撃部隊1万人が駆けつけているだろう。合計1万8000。いくら城壁や城砦があるとは言え、厳しいだろう。

 だから王都をはじめ国中から予備戦力を送ろうとしているというところか。



「王都から三千を連れて発つ。お前さんらにも同行してもらう」

 俺は星華や紅葉をチラッと見る。

「勿論です」

「ええ。」


 俺の心配は杞憂だった。迷いのない真っ直ぐな表情で即答する彼女らから俺は視線を戻す。


 ーーいやはや…。男子、三日会わざれば刮目して見よ…か。女子だけど。



「いいか?モミジは第七城砦での負傷兵の手当てを。セイカとミオは第六城砦に。ダイチとユウキは第八城砦に行ってくれ。後の三人は主戦場で適当に暴れてくれ」

 俺たちの配役を言い伝える。それに星華さんが疑問を呈した。

「なぜ私達は別の砦に行くのかしら?」

「念のためだ。第六からも第八からも第七砦に兵を割いてるから手薄状態だ。敵に突かれない様に一応な。予備戦力が到着したからって、今第七に来ている奴らをすぐに自分の城まで帰えさせるのは負担も多い。お前さんら二人を動かした方が合理的だろ?」

「なるほど」

「頼んだぞ?」

「「はい」」


 五人はすっかり師弟の関係の様だ。


 ーーさて、俺はどうするか。

「ジーク司令」

「ん?どうしたレイ殿」

「今から急いで向かったとして、早くて到着はいつになる予定だ?」

「4日後だな」

 国境まで凡そ400km。普通に行くとしたら1日100kmが限度ということか。それはいいが…ふむ…。

「既に2万の軍勢と戦っているとして、4日間彼我の戦力差で持ち堪えれるものなのか?」

「…あぁおそらくな。城壁には結界師や付与師が作った守護結界がある。周辺の冒険者ギルドや傭兵ギルドにも輜重命令が出ているはずだ。予備戦力が導入されるまでくらいは持ちこたえれるだろうよ」

「ふむ…」



 俺は壁に張られた地形図を見て頭を回転させる。


 魔物を使って攻めているのは魔族だ。魔族の数は人類に比べて圧倒的に少ない。けれど、魔物を使役することで人類との戦争ができている。

 その魔族は、こちらの戦力は把握しているはず。ドークリーバー伯爵をはじめ数人の人類が魔族に情報を提供しているのだから、こちらのこの対応も分かってるはずだ。


 だとすると、人類が勝てるような戦力で攻めたりはしないだろう。確実に勝る戦力を用意してから攻勢に出ればいい。それかーー…。



「ジーク司令。追加戦力は如何程に?」

「王国中から追加で1万だ。これで第七城砦の常駐4000、他城砦からの応援で4000、西武遊撃部隊の1万、輜重部隊が2000で計3万は揃う。そこに勇者が4人加わるとなると、油断はできんが安心だな」



 人類軍の予備戦力が揃って体勢が整えば城壁を超えるのは無理だろう。敵側に勝機があるとすれば、こちらの予備戦力をも上回る総力勝負で勝つか、最初の一撃で予備戦力が整うまでに早期決着を狙って落とすしかない。

 だが、敵が行った今回の作戦ではそのどちらも失敗しそうだ。


 魔物1体が兵士2人分とは言え、城壁や城砦があり防衛戦ができるこちらが圧倒的有利。こちらの予備戦力を超える戦力を持ってくるか、最初の一撃で仕留めれないなら今回の攻勢は無駄だとも言える。

 ーーまだ戦力を残している?

 いや、それなら最初の一撃で決着を付けるために出しているはずだ。向こうに3万以上の戦力はないだろう。


 ーーなぜこのタイミングでしかけた?

 魔王誕生前のこのタイミング。焦る必要はないだろ…。このタイミングで攻勢にでるべき理由があったと考えるべきだ。


 ーーなぜ第七城砦付近の城壁を狙った?

 王都から遠い最西端の第1城砦や、最東端の第10城砦なら予備戦力が到着するまで時間が稼げるからそれだけチャンスはあったはず。




 このタイミングで仕掛け、第七城砦付近を狙った理由…。



 俺の頭の中で状況から様々な可能とそこに行き着く結論が気泡のように出ては消滅する。

「…なるほど、いや…しかしこれは…」

 自分の中で合理的な解釈を見つけると伴に、すぐに感情が否定する。


「ん?どうした?」

 ジーク司令が俺の小さな呟きに反応した。

「…いや、なんでもない」


「そうか。お前さんら準備はいいか?いいならすぐに発ってくれ」

「ねぇ、零。あんたが私たちを運ーーうぐっ」

 俺は綾小路令嬢が言いかけた口を手で制す。

「あ?どうした?」

 そのやりとりを目の前で見たジーク司令は奇怪な目で見る。

「いや、なんでもない。綾小路令嬢、あまり卑猥なことは言わないでくださいよ」

「はぁ?どこが卑猥なのよ!!」

「まぁまぁ。さ、俺たちも行きますよ」


 俺は綾小路令嬢の背中を押して軍令室を出る。



「ちょっと、なんなのよ」

 廊下を歩きながら綾小路が俺に声を上げる。

「綾小路令嬢、俺たちの固有スキルはまだ王国の人には言ってません。どこに内通者がいるか分からない以上、あまり言わない方がいいのですよ」

「…そうね。でもあんた王城の上空をポンポン飛んでるじゃない」

「あれは、飛行魔法ってことで」


 全ての戦闘職の上位クラスである勇者は、当然飛行術師や空戦士のスキルも使える。つまり、俺の固有スキルを使っての飛行は、空戦士のクラススキルを勇者だから使えるんだよ…って設定でも筋は通る。

 勇者なんて上位クラスはどうせいないし、確認の取りようもないからいいんだよ。


 しかし、ずっと王国に申告しなかった固有スキルだが、魔族らにも当然知られていない。

 召喚初日に隠した俺たちの選択は、結果として功を奏してしまっている。この切り札はいつかしかるべき時に切れるジョーカーだろう。



 王城の城門では数台の馬車と何十頭もの馬が集まっている。


「あ、勇者様。近衛兵副団長のリサ・ロスワン以下300名。ご同行致します」

 魔法使いだろう。ローブと杖を持つリサと名乗った女性は俺達に小走りに近づき挨拶をした。

「リサさん、よろしく頼むわ。」

「あれ、星華さん知り合いですか?」

 流石星華さん、近衛兵団のみんなとはもう顔見知りということか。


「零くんも一度会ってるはずよ?召喚初日に固有スキルの説明をしてくれた人よ。」

 あー…そういえば、そんな人がいたような…。

「てか、近衛兵副団長が城を出ていいのか?」

「ジーク総司令官にカイル団長が王城には残るので大丈夫ですよ。我々が目的地までご案内します。どうぞ獣車へ。私は前の獣車に乗ります。」



 俺たち八人は軍用獣車に乗り込む。

「馬車だと思ったら馬じゃないのね…」

 星華さんが車両を引く獣を見ながら苦笑いする。馬の形はしているが、馬より巨大で足は八本ある。

怪俊馬スレイプニールです。馬より馬力がありますし、魔獣なので体力もあります。まぁ、ファンタジー動物ですね」


 SLIGエスリグでも大規模ギルドは持っていたりもしたが、管理維持が面倒だから魔獣を飼うなんて物好きなテイマーぐらいだろう。


「開門ーーーー!!」

 王城の扉が開いて一斉に王都の中央通りを駆けていく。


「それで?なんでわざわざ馬車で4日もかけて行くことになってるのかしら?」

 獣車の中で綾小路は不機嫌そうに腕を組んで俺に問い詰める。ごもっともな話だ。俺が全員を連れて飛んでいけば4時間で着く。


「理由は三つ。まず、単純にこの世界の人が立てている戦略が機能しているかの把握ですね。もし魔王誕生前に3万の軍勢相手にボロ負けじゃ、俺たちがどうこうの話じゃなくなりますから」

 もし人類クソ雑魚説が濃厚となれば、さっさと浮遊大陸アフロディアを探しに行く。

「…そう。お手並み拝見ってことね。悪趣味だけど分かったわ」

「悪趣味であっても、必要手順です。二つ目に俺依存の戦術は、俺がいない時に機能しなくなるので予備プランも必要です。今回はその予行を兼ねてですかね」

「…初陣から予行なんてあんたいい度胸してるわね…」

「お褒めいただき光栄です」

「褒めてないわよ!?…それで、三つ目は?」

「三つ目は…まぁ今は観察を兼ねてってところですね」

「なんの?魔族?」

「ええ…。…まぁそうでしょうね」

「はっきりしないわね」

「うーん…まずは敵なのか味方なのかを知るところですからね。なので観察ってことです。俺もしっかり分かってないんで気にしないでください」

「…余計気になるわよ…」


 俺も気になることが多い。

 ーーなぜこのタイミングでしかけた?

 ーーなぜ第七城砦付近の城壁を狙った?


 敵の狙いがなんなのか。相手が策を講じるというなら逆に利用するまでだ。

 ここで敵の想定していないことが起きたら、せっかく見せた頭がまた隠れてしまう。


「…あんた、分かってるわよね。あんたが今日飛んでいけば助かる命があるかもしれない。この4日で失う命があるかもしれない。それでもこれを選ぶのね?」

「…ええ。それでもこの手段で得る情報の価値が、失う兵の命よりも高いと考えているので」

「…分かってるならいいわ」

「…」

「…」

「…」


 俺は彼らが納得できる説明はできていないだろう。核心部分に触れず、上辺の理由を並べて納得しろというのは土台無理な話だ。


 それでも彼らはそれ以上は聞かなかった。



 人の命は等価ではない。俺にとって顔も知らない兵士たちより、仲間の方が大切だ。仲間を害する存在の情報というなら、兵士の命よりも重要だと考えている。

 だから俺はこの道を選ぶ。


 その選択に伴う罪があるのだとしたら、甘んじて受け入れるつもりだ。



「私は零さんに賛成です」

「「?」」

 海崎が急に主語もなく発した声に皆が注目する。

「いえ、零さんが何を考えているのかは全然分かりませんが、私は零さんのこれまでと人となりを信じて零さんの行動に全面的な賛成します。なので、その決断の責任の半分は私が負います」

「何を言って…」

「責任感や罪悪感を感じているようでしたので。賛同した私も同罪ですね」


「じゃあ、僕も同罪だな」

「私もよ。零くんの選択なら信じるわ」

 一拍空いて悠希と星華が頷く。


「私もね。嫌な言い方したけど別に責めてるわけじゃないわ。アンタは無茶苦茶なやつだけど、くだらない奴じゃないことは知ってるわ」

「ふんっ。俺たちは神ではない。救える奴もいれば救えない奴もいる。いちいち気負うだけ無駄だ。世界の選択を前に人は無力なのだから」

「そうっすよ。自信持つっす」

「はい。誰も責めたりなんてしません」


「ありがとうございます…。みんなありがとう…」


 俺の選択が正しければ彼らを失望させずにすむ。救える命を見捨てて行う策略に、敵が釣れるか釣れないか。

 けれど反面、もし俺の選択が功を奏す時というのは、それはそれで悲しい事実に直面することになる。


 どちらに転んでも誰も幸せになれない。



 俺は複雑な気持ちで獣車に揺られてる荷台の上で空を見上げた。

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