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保身の嘘ほど醜いものはない

 リュート達をオルカの森林帯に送り届けて五日が経つ。

 俺はなんやかんや鍛冶屋に顔を出したり、ミスリルとアダマンタイトの魔金属が取れる魔獣を探しに行ったりと忙しくしていると、もうリュートらを迎えに行く時間となった。



「まだ来てないか」


 合流ポイントに辿り着いて辺りを見渡す。太陽が地平線に差し掛かる。


「太陽が1度傾くのに4分。太陽の視直径は0.5だから北緯35度地点のここだと0.5/cos35°でだいたい0.6か。0.6×4で2.4…約2分半か」


 特にやることもなく、太陽が地平線に差し掛かってから完全に沈むまでの時間を計算して遊んでいる。


「ーー!?」


 後ろで気配を感じてストレージから武器を取り出し距離を取る。



「あちゃー…この距離で気づかれますか!!もう5歩は行けると思ったんすけどねー!!」

「シフか…」


 俺の10mほど後方で気配を消して音もなく近づいてきた姿が見知った顔で警戒を解く。


「どうっすか?私の隠遁術は」

「大したものだ。全く気づかなかったよ」

「いや〜試験としては気づかれずに触れることなんすけど、まだまだ先が長そうっすね〜」

「…それはセトでも無理だと思うぞ?」

 殺気もなく無心で忍び寄られれば10m内に来れるかもしれないが、こと俺に至ってはゲームで鍛えられた感覚がある。街の中ならともかく、外地で触れる距離まで気づかない訳がない。全く、リュートも綾小路もどんなレベルを求めているのか。


「どう?私の訓練の成果は」

「馬鹿者。お前は何もしてないだろ」

「はぁ?私のおかげでレベル上げ出来たんでしょうが!!」

「寝言は寝て言え」


 シフの後ろから二人の姿が近づく。相変わらず口論をしているが、もはや痴話喧嘩だろう。なんやかんや言っても一緒に行動しているところを見ると微笑ましくもある。


「大成長だな。シフ」

「そうっすか!?ありがとうございますっ!!」



 彼らを回収して王城までの空の旅に移る。


「そう言えば、シフはどんな訓練をしたんだ?」

「私っすか〜?そうっすね、ひたすら師匠達が相手にするモンスターの後ろで気配を消して近づく事ばっかっすよ。たまに師匠の掛け声で後ろから石を投げたりして注意を引き付けて、すぐに隠れる練習ですね」

「は?」

「いやぁ〜最初は何度も「これは死んだな…」と思ったっすよ〜!!巨大蛇ジャイアントスネークとか合成獣キマイラとか麒麟とか、至近距離で気付かれたら私なんて餌ですからね〜!!必死に気配消して後ろ取ってたらクラススキルがもう7っすよ」

「…」

「あー、あれはヤバかったっすね〜。眼石鳥コカトリス!!もう必死でしたよ!!目があったら私なんて一瞬で石化ですからね〜」

「…」


 ヤバイ…どうしよう。このままシフを星華さんに会わせることができない。とんでもない訓練をしていた…。いや、これは訓練と言えるのか?ただリュートと綾小路の狩りのヘイト分散役として使われただけじゃないのか!?


「シ、シフ。ちょっと王城に戻る前に街に寄ろう、うんそうしよう」

「え?なんすか?」

「いや、ほら。シフの健闘と努力を祝ってパーっとやろうじゃないか」

「え!!本当っすか!?」


 耳をピクンと立てて喜ぶ彼女には申し訳ないが、何としてこの話は口止めする必要がある。


「私はパス。早くお風呂に浸かりたいわ。野宿じゃ湯浴びしか出来ないもの」。

「ダメです。一緒にきてください」

「えー…なんでーー」

「ダメです!!」

「…しょうがないわね…」


 この問題児らをなんと説得して黙らせるべきか。



 俺は王都までの道のりで、誰もが気づかない設定を考えるのに頭を捻らせた。

 ーー俺のために…。





 王都の大通りに来て適当な食堂に入る。


「シフ、悪いが少し勇者同士で話させてくれ。20分ほど外を回ってくるといい。必要なものもあるだろう。買い揃えておいで」

「分かったっす!」

 白金貨を渡して席を外させる。




「二人とも、訓練の内容のことは俺たちだけの秘密にしておきましょう」

「なぜよ?」

 ーーお前らが無茶苦茶なパワーレベリングしてるからだわ!

 とは言えない…。

「えぇとですね…。主に星華さんが心配してるので、危険な訓練してることを知られると余計に心配すると思いますから…」

「危険?アンタなんか危険なことさせたの?」

「俺はしてない。お前の特訓とやらのことだろ」

「特訓は光剣流の短剣術を教えてるだけよ!!」



 ーーダメだこいつら…。自覚症状のない犯人には罪を償わせることもできないとはこのことか…。



「じゃあ、こうしましょう。俺たちはこの世界で唯一のプレイヤーです」

「そうね」

「うむ」

「そのプレイヤー達が、どうやったら効率よくレベル上げやスキル習得が出来るのかという情報は、俺たちSLIGer(エスリガー)の知識と経験によって積み重なった貴重な情報です」

「そうだな」

「ええ」

「その情報の価値は非常に高いと言わざるを得ません」

「…そうか。確かに俺たちの知識と経験は、この世界にとって異端であると同時に世界のバランスを崩しかねないということか」

「そうだ。だから、今現在において星華さんをはじめ彼らには差し迫って必要な情報でないということを加味すると、黙っておいた方がいい」

「なぜよ。仲間にまで隠す必要はないと思うけど?」

「詩音、秘密が漏れる可能性は秘密を知る人数に比例する。ここが零の言う通りにしよう」

「そう。そうね。分かったわ。私たちSLIGer(エスリガーだけの秘密ということにしときましょう。その方がおもしろそうでもあるしね。知識はSLIGerエスリガーの財産よね」


 ーー危ねー!リュートが秘密とか内密の話が大好き系厨二病でよかったぁー!

 ーー綾小路が骨の髄までゲーマーでよかったぁ!



 しばらくして戻ってきたシフにも適当な理由を言って言い包める。

 …

 …

「なるほどっす!あれは勇者の密偵にしか知らされない秘伝の修行法なんすね!」

「ああ…だから門外不出だ。例え他の勇者でも、秘密の訓練だから言えないと言うんだ」

「分かったっす」


 ーーよし。これで根回しは完了。


 俺の首の皮は繋がった。…そう思った。



 夕飯を食べ終え王城へと向かう。王城では星華さんプレゼンツのシフ歓迎会が行われていた。と言っても、普段と同じく俺の部屋を談話室代わりにだべっているだけである。



「みんなの笑顔に、明るく忍ぶシフっす!!よろしくっす!!」

「おぉー!これはセトちゃんとは違った可愛ゆさ、…やるわね、零くん」

星華さんは俺の方を向いて意味馬鹿に頷く。

「…どういう意味ですか…」



 シフが他の勇者との顔合わせをする。前回は礼拝堂でクラスの選定をした後にすぐにオルカの森林帯に行ったせいで初対面だ。


「可愛ゆ可愛ゆ…。いいねぇいいねぇ」

 時々星華さんは二重人格なのではと疑ってしまう…。


「というか、なぜ敬礼…」

 シフがビシッと自己紹介に合わせて行った敬礼に遅れながら突っ込む。


「ほら、言ったじゃない。だから私の言った方がよかったじゃない!!時代は心臓を捧gーー」

「あーもう分かったのでいいです」

 リュートの影響か…。まぁ実害はないから別にいい。彼女が中二病に毒されることはないだろう。


「シフちゃん、訓練は辛くない?」

 ーーいきなりの攻撃…星華お姉さん恐ろしや…。

「大丈夫っすよ!!師匠達のおかげで目下成長中っす」

 いい受け答えだ。そのまま無難に回避を優先していなしてくれ。

「どんなことをしているんですか?」

 おっと、ここでまさかの紅葉からのアプローチ…。単純な興味からか、それとも狙ってか!?ピンポイントで狙撃とは侮れない…。

「それは勇者の密偵だけの秘伝の修行法っすから話せないっすよ」

 完璧な受け答え。流石は俺も見込んだ夜豹族である。

「そうですか。頑張ってくださいね」

 紅葉、あっさりと引き下がる。撤収速度が早い。

「ありがとうっすよ!!」

 無事に切り抜けたー!!完璧な立ち回り。まさに神業。誰に不信感を持たせるわけでもなくスマートに収拾する俺の手腕。完璧である。


「で、リュートくん。どんな訓練をさせたの?」

 おっと、ここで星華さんがまさかの名指しで質問…。秘伝だと聞いておきながら容赦無くその質問。まるで”私たちの間で秘密なんてないわよね”と言わんばかりの行動だ。頑張れリュート。お前はこんなところで吐くような男ではない。


「具体的にはパワーレベリングだ。まぁ言ったところで非プレイヤーには理解できん。お前達がレベル上げする時に説明してやる」

 素晴らしい!!まさかのリュートによるカウンター攻撃。非プレイヤーとプレイヤーの知識の差を理由にこれ以上の追求を跳ね除けた!!


「そうね。またその時に頼むわ」

 今度こそ守り切った俺の三度の飯と土下座プライド!!


 俺は手に汗を握る展開が終わって大きくため息を付く。

 ーーさて、また掘り返される前に次の話題で流すとしよう。


「俺から一つ報告があります」

 皆の注意が俺に集まり、俺はストレージから武器を取り出す。


「これは、私の武器ね」

「こっちは俺のか」


 刀身の細い両刃の剣と、短剣より少し長い反りの着いた小太刀。注文にあった綾小路とリュートの武器だ。

「ええ。昨日鍛冶屋の爺さんから受け取ってきました。ちなみにお代は王国持ちです」

「チャッカリしてるわね」

「血税ですよ?大事に使ってくださいよ?」

「零くんは支払ってないでしょ…」


 星華さんからのツッコミは気にせずに二人に渡す。


「それから、シフにも」

「わ、私にもっすか?」

「ああ。時間がなくてミスリル製の武器だけど」

「ミ、ミスリルって、超レア魔法金属じゃないっすか!?いいんすか!?」

「ミスリルの単一の武器なんて雑魚アイテムよ?」

「そうだな。使い捨ての投げナイフがいいところだ」

「ど、どんな感覚してるっすか…。師匠達…」


 まぁ、俺らSLIGer(エスリガー)にとってミスリル単体で作られた武器なんて、消費アイテムの投げナイフとしての価値ぐらいしかないというのも当然だ。


 金属としての希少性を除けば、鉄より少しは使える金属という認識だ。


「気にするな。従業員の仕事効率を上げるには環境や道具を揃えるのが雇い主の役目だからな」

「感謝するっす!!」

「ああ、すぐにちゃんとした剣を揃えてやるかな」

「え…ミスリル以上の武器を作るっすか!?」

「当たり前だろ。そんなゴミ武器いつまでも持たせられるか」

「えぇぇぇぇぇ…」


 目を丸くするシフの反応を面白がりながら、俺の武器授与式が終了した。



「あ、みんながいるうちに伝えておかないといけないわね」

 星華さんが次の話題を示した。

「明日、王国軍の統合戦略会議ってのが開かれるそうよ?」

「ほぉ」

「へぇ」


 その話を聞いてないのは俺とリュート、綾小路だけのようだ。俺達がいない間に来た話か。

「私達は出席することになってるけど、あなた達はどうするの?」

「面白そうだな」

「私も出るわ」

「俺も聞いておいた方がいいでしょうね。出ますよ」


 全員の出席が決まる。ちょうど俺も王国軍に伝えておきたいこともあった。もし機会があるならやりたいこともある。



 俺は明日の会議とやらを楽しみに、今日という緊張の日の幕を閉じた。

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