運営がいない世界なら、禁止武器が作れるだろう?
セトを張り込ませて四日が経つが、古城での動きはない。長期戦に備えて、セトの交代要員も確保する必要があるだろう。
今日は安息日らしい。だから訓練もなく、朝食を食べ終えると自然と皆が俺の部屋に集まる。リュートと綾小路令嬢も三日ぶりに王城に戻ったこともあり、久しぶりに全員が集まった。
ここ最近は、俺は単独行動、リュートと綾小路はレベル上げ。他のみんなは訓練と別行動していることもあり、情報や認識の共有の機会があるのはありがたい。
でなければ、この前の俺のように、知らないうちにパーティーの参加が決まっていることになりかねない。
情報共有、大事、絶対。
雑談を交えながら互いの情報と知識の擦り合わせをする。普段から近衛兵団と接している星華さん達は、様々な時事ネタも知っていた。
「俺から一つ報告がある」
リュートが雑談の合間にそう切り出した。
「昨日、クラスレベルが10になった」
「あら、先を越されたわ…。私ももうちょっとで二桁だと思ってたのに…」
競い合っているのか、悔しそうに綾小路が言う。
「おめでとう。まだクラスレベルについてあまり理解していないのだけど、確かスキルが使えるようになるんだよね」
悠希が拍手を送る。
「そうだ。とはいえ、レベルが上がっただけで使えるのは基礎スキルだけだ。有用なスキルはスキルごとの習得条件があるからな」
「そうかい。でも、その条件の一つがクラスレベルなんだろう?」
「それもあるな」
「僕らも頑張らないとね」
「そ、そうですね。頑張りますっ!!」
紅葉が意気込む。
俺も頑張らなくては…。ミノタウロスや巨岩熊を数十体以上狩っているが、クラスレベルに変化はない。これは仕方がないことでもある。〈ゲームエンジン〉を利用して倒しても、討伐とはならないのだ。地道に自力で狩るしかない。
話が区切られ、俺も話題を切り出す。
「俺からも一つ報告があります」
「?」
全員が俺の方に注意を向ける。俺はストレージから一つの武器を取り出した。
それは、ここ最近素材を集め、鍛冶屋の爺さんと試行錯誤の上作らせた一つの弓。
「こ、これは!?」
「零…まさか…」
その姿にリュートと綾小路が反応した。
「なんだい?この変わった形の弓がどうかしたのかい?」
悠希は二人の目を見開く反応に疑問を呈す。変わっているが、たかが弓だ。だが、本質はそこではない。
「禁止武器、作れました」
という俺の言葉で二人は理解するだろう。
「!!」
「ははっ…!!」
「ど、どういうこと?」
俺達のやりとりだけでは何も分からない星華さんが尋ねる。
「ええ、簡単に言うとですね。SLIGは、仮想量子演算技術を用いた現実と寸分違わないシミュレーション世界をベースに、SLIG独自のゲームエンジンで動いている訳ですが、当然世界観にそぐわない武器やアイテムは作れない仕様になっているんですよ。それで、この世界ではどうなのかなと思いまして、試しに禁止とされている武器を作ってみたんですよ」
「…それが、これ?」
ローテーブルの上に置かれた弓を見る。
「ええ。正式名は滑車複合弓。見ての通り、両端に滑車があり、弦を引く時に滑車の原理で半分の力で引けます。つまり、それだけ弓力の高い強力な弓が使えます。海崎は知ってるか?」
「現物を見るのは初めてですが、知ってます。普通のリカーブボウより精度も威力も桁違いですからオリンピックでも禁止されてますよ…」
「やるじゃない!!アンタ!!最近レベル上げもしないで何を遊んでいるのかと思えば澪緒のためにオーダーメイドの禁止武器作るなんてやるわね」
「遊んでませんよ!?働きっぱなしですよ!?1週間以上無休で働いてますからね。移動距離考えたらマイルポイントで次からファーストクラスを利用できるレベルですよ。もうファーストすぎてコクピットより前にいるような感覚で飛んでますけど」
「…ちょっと何言ってんのか全然分からないんだけど…」
俺の高度なボケは理解されないか…。
「俺の苦労は綾小路令嬢には分かりませんよ…。なぁ、リュート」
「なぜ俺に振る。知らん」
「冷たいことを言うなよ。空を飛ぶ大変さは俺たちしか分からんだろ」
リュートは、零式高速弾道移動法を知る同士だ。あの方法の欠点は、上空を全裸で飛ぶ必要があるということだ。
「おおお、お前、それを言うなよ!?た、確か零は苦労している。俺も同感だ」
予想以上に反応が面白いリュートに満足して話題を変える。
「とりあえず、オリハルコンの原石を手に入れてます。まずはリュートと綾小路令嬢の武器でもつくりますか?レベル上げにも精度の良い武器があった方がいいでしょう」
「うむ…確かに借り物の剣では効率は悪い。鉄製の剣はすぐ刃が潰れる」
「オリハルコンか…。アダマンタイト製の剣は作れないのかしら?」
「…鍛冶職人のレベルが足りませんね。今はオリハルコンで我慢してください」
「しょうがないわね…」
その後、雑談を交えながらリュートと綾小路令嬢の希望武器の詳細をメモする。
「詩音ちゃんは、結婚指輪とかにもすごくこだわるタイプね」
SLIG歴が長くなれば長くなるほど、武器への拘りが激しくなる。綾小路令嬢が俺に長々と理想の剣を語る横で星華さん達が話している。
「結婚指輪と武器を一緒にしないでよね」
その言葉に反応して、綾小路令嬢は指摘した。
「ご、ごめんね。そうよね」
「全く。アクセサリーとメイン武器を同列に語るんじゃないわよ。大体、結婚指輪とか、何の効果も加護もついてないアクセサリーに何の価値があるっているのよ…」
「そ…そうね…」
ダメです、星華さん。もうこの人はゲーム脳です。手遅れです。
そんなやりとりをしながら、鍛冶屋の爺さんに渡せる仕様書が出来上がった。
午後に俺、綾小路令嬢、海崎の三人と修練場にやってきた。せっかくだから滑車複合弓の試射しようということだ。当然言い出したのは綾小路令嬢である。
まるで新しいおもちゃを手にした子どものようにうかれている。
「綾小路令嬢も弓を?」
「ええ。光剣流の創設者よ?ほとんどの武器はある程度使えるようにしてるわよ」
相手の武器の特性を理解し、対抗策を考えるのには、自分が使ってみるのが一番だ。俺も全ての武器を使ってそれなりに極めた。
「ライトセーバー流に弓術はありませんよね」
「光・剣・流だから!!光剣流にはないわ。だって、名前から言って剣以外ないでしょ」
「ええ…まぁ…確かに」
修練場には数人の近衛兵がいるだけで、いつものような活気はなく閑散としている。
「ちょっと待っててくださいね、今カカシを持ってきます」
海崎は、もはや自分の家のように武器庫を漁って甲冑を来たマネキンを運んで来る。
「リアルな的だな…」
顔が描かれ、髪も服もある人間の形をした的が用意される。矢の入った籠をストレージから出しつつ、マネキンの生々しい人間感に顔を引きつらせる。
「…いつもあれを相手に攻撃してるのか?」
鎧の傷がタダれて軽くホラー状態だ。
「ええ。魔族も人型ですし、訓練の時から人を切る練習をしておかないと、いざと言う時に動けないぞ!!って、師匠からのお言葉です」
「ごもっとも」
ーー英才教育だな…。
むしろ、俺の方が躊躇う気がある。彼女らはとっくに心の整理を付けているのか…。そのことに俺は安心もするし、俺自身が情けなくもなる。
「アンタ、邪魔よ。串刺になりたいの?」
さっそく試射しようとする綾小路令嬢が叫ぶ。
「…というか、あなたが先に使うんですね…」
準備満タンな綾小路令嬢が得意げに構えて狙う。
バシュッ!!
ザクッ!!
「当たったわ。流石アタシね」
「頭を吹き飛ばすとは…流石綾小路令嬢ですね…」
「どういう意味よ!?」
矢は的の頭を散らし、後ろの壁に深々と刺さると壁全体に放射状のヒビを入れている。
「お…おい…壁にヒビが入ったぞ?」
「勇者とんでもねぇな…」
「バケモンだよ…」
「あれ大丈夫か?崩れるだろ…」
修練場を覆う壁にいまにも崩れそうな亀裂が入ったことに、見ていた近衛兵達が慌てる。
「通常攻撃でこれほどの威力が出るのね。流石は禁止武器だわ。この威力をベースに弓スキルを使えばメタルゴーレムも一撃で粉々に出来そうね。澪緒に返すわ。スカッとするわよ」
外野の声なんて綾小路令嬢には聞こえてないらしい。次撃てば壁が砕ける。誰が治すというのか…。
海崎が困っている。
「ちょっと待ってろ…壁を破壊不能に設定してくる」
「ありがとうございます。…というか、そんなことまでできるんですか…無茶苦茶ですね」
「10分持たないけどな」
海崎は矢を番て構える。
「へぇ、経験者って感じね」
「綾小路令嬢はこの前見てませんでしたか。家の隣が道場らしいですよ」
「そうなの?まぁ弓道が出来たからって、この世界で通用するかは別だと思うけど。お手並拝見ね」
「どこの姑ですか…」
バシュッ!!
ザッ!!
ガンッ!!
放たれた矢は心臓部分を撃ち抜き綺麗な風穴を開けて後ろの壁に当たって折れた。
「やるわね。いいわ、勝負しましょ!!」
綾小路は闘争心を燃やしている。
「どうだ?引きの方は。まだ余力があるならもう弓力を上げるが」
「ちょうどいいです。あまり張り詰めると数射てなくなりますし」
「それもそうだな」
綾小路は距離を離して的を用意している。頭のないマネキンの首の部分に、自分のストレージにあった鉛筆を突き刺す。
「澪緒、勝負よ。どっちが先にあの鉛筆に当てれるか」
ビシッと指を指して勝負を挑んだ。
「あの…令嬢…。大変申し上げにくいんですが、海崎は”アイサイト”持ちですよ?」
遠距離攻撃命中精度が50%向上するという効果を持つ”アイサイト”を持った海崎を相手に、命中率で勝ろうなど、チーターと徒競走をするレベル。
「…そうだったわね…。じゃあアンタでいいわ」
そう言って指先が俺の方を向く。
「俺ですか?…まぁ構いませんけど」
ちょうど、海崎にも一つ実用的な技を教えようと思っていた。
「良い度胸ね。勝った方が負けた方になんでも一つ命令できるってのはどう?」
「それはエロフラグでは!?」
「…あんたの頭が心配よ」
綾小路に頭を心配されるのは心外である。
「…海崎、冗談だからさりげなく距離をとるのはやめてくれ…」
「気づいてましたか…」
「アタシが勝ったら三回周ってワォーンで許してあげるわ」
「じゃあ、俺が勝ったら全裸で空飛んでもらいますか」
「ちょっとアンタ!?全然次元が違うじゃない!?」
「零さん?冗談でも女性にそんなこと言ってはダメですよ…」
「はっはっは…」
…と笑ってごまかすが、割とマジでこれにする予定である。ここで言質を取っておけるなら悪くない。いつか役に立つ機会があるかもしれないしな。
「じゃあ、ワタシからね」
バシュッ!!
バシュッ!!
バシュッ!!
…
…
流石に数十m離れた鉛筆程の小さな幅の的に当たるのは難しい。
バシュ!!
ピシッ!!
8本目にして鉛筆に当たり、高く弾き飛ばした。
「8本よ。はい、アンタの番」
的に新しい鉛筆を突き刺して俺に弓を渡す。
「ええ。では俺は4本で仕留めましょう」
「やれるものならやってみなさい?」
俺は弓を受け取って的を見据える。
「零さん、矢は?」
矢籠から一本も取らずに立てば疑問に思うだろう。
「海崎、俺は弓道なんて知らないし、型も無茶苦茶だろう。けどな、この世界においては最も合理的で洗練された弓術を知ってるつもりだ。これなんてその最たるものだ。技名は、明鏡流弓術速射弐ノ方、紫電」
ババババシュッ!!
四本の矢が、一本の矢のように飛んでいく。だが、矢一本分だけ互いにズレている。
バシッ!!
中央の矢が鉛筆を的から消えるようになくなり、後ろの壁に矢と一緒に当たって地に落ちた。
「「!!」」
「はい、俺の勝ちですねー」
「ぬ〜…、分かったわよ…」
奥歯に引っかかったような風に負けを認める。連射がズルいとは言わなかった。
「零さん、今のは…」
「ああ。ストレージから直接矢を番る速射術だ。前にストレージの話はしたろ?」
「はい。手に触れている状態で100種類まで物を収納、出現できるんですよね。手荷物いらずで凄く便利ですよね」
「そうそう。だから、ストレージから直接、弓を番る瞬間に手の決まった位置に矢を取り出して引く。取り出した時点でには後尾部分に弦が掛かってる状態にするには繰り返し感覚で習得するしかないけど、習得すれば現実離れの速射術になる」
「ゲームならでは…ですね。練習してみます」
「アンタがまさか弓に精通しているとは思わなかったわよ…」
「違いますよ綾小路令嬢、弓に”も”精通してます」
「…言うわね。その鼻いつかへし折ってやるから」
「それは楽しみですね。俺のクラスが天狗にならないうちに頼みますよ」
「ふんっ、バッキバキのボッキボキよ。先に戻るわ」
綾小路令嬢は大股で修練場を出て行った。
「いや…負けたんだから片付け手伝えよ…」
と言うには、既に声の届かない距離に離れていた。
「そういえば、弐ノ型って言いましたよね。壱ノ型はあるんですか?」
台風のような綾小路が去って、静かになった修練場に残された海崎が俺に聞いた。
「ん?ああ。速射術は一応伍ノ型まであるよ。実用的なのは参ノ型までだけど…見せようか?」
「是非!!」
「じゃあ、速射壱ノ型、”刹那”から。これは矢を手に持った状態で速射する方法で、多くて五本だね」
そういって俺は五本の矢を左手で弓と一緒に持つ。
「そっちで持つんですか?」
「弓道じゃ、弦を引く方で持つんだっけ?SLIGerには型なんてあって無いようなものだしね」
俺は矢を五本手にした状態から素早く連射する。
バシュバシュバシュバシュ!!
バシュッ!!
「なるほど…。弦を引く前に、弓手で掴んでる矢筈に馬手で弦ごと掛けにいくんですね…。繰り込みから引きまでの持ち替えを、弦を矢筈に迎えに行くことで行射を一工程に簡潔してるのですか」
「いや…何言ってるか全然分からんが、見て分かったならいいや」
「でも、さっきの弐ノ型の方が断然効率は高いと思いますが…。劣化版では?」
「いや?ストレージから矢を出すときに、ウィンドウのストレージタブでアイテムを指定しておかないといけないだろ?別の種類の矢を射とうとした時に、いちいちウィンドウを開いてストレージページ開いて取り出すアイテムを変更して…なんて余裕がないからな」
「そういえば…この世界の矢には様々な種類があるんでしたね…」
「そ。矢じりが魔石の属性矢とか、毒や麻痺なんかの薬品のついた調合矢とか、術式や魔法刻印がついた合成矢とかね。状況に応じて数種類の矢を使い分けないといけないし、大抵の弓術師は、ストレージに通常矢、矢筒に各種特殊矢を入れてるよ」
「SLIGでの射手は忙しそうですね…」
「選択肢が多いと言うのは、それだけ戦術の幅が増えて面白いと思うけどね」
明鏡流速射術、参ノ型。”玉響”は、矢筒から繰り出す速射術だ。今回は矢筒が手元にないから見送りとなる。
俺は一通りの基礎弓術を海崎に伝えた。
本職にゲーマーが適当な弓術を教えるというのは、釈迦に説法甚だしいことだが、海崎は俺から多くの技を学ぼうと前のめりに聞き、俺は浮かれて日が暮れるまで付き合ってしまった。




