さぁ、千本ノックの時間だ
「お、先客がいたか…」
三人組の冒険者だろう。盾職に剣士に後方職。バランスのいいチームだ。戦っている相手は俺の目当てでもある巨岩熊。
三人の狩りの様子を上空から観察する。この世界の冒険者というのはどれほどのものか。レベル70相当の巨岩熊を三人で狩るには、一人当たり54レベルぐらいは必要だ。
SLIGのパーティー戦力の目安は、[メンバーの平均値×(人数×0.1+1)]で求められる。
つまり、平均レベル50の三人パーティーなら、50×(1.3)でパーティー戦力は65レベルだということだ。
巨岩熊は70レベル相当。だから、逆算すると一人当たりのレベルは54レベルが適性と言える。
もっとも、これは敵との相性や、固有スキルの有無、職業、属性、武器、経験や運でいくらでも変わる。
だが、巨岩熊に挑むというのなら、適性レベルは超えているだろう。だとすると彼らは、この世界ではかなりの腕利きの冒険者なはずだ。
「ーーお!?」
上空から呑気に観戦していたが、2体目の巨岩熊が近づく。周囲を警戒する後方職のお姉さんも岩陰になっているせいか気づいていない。
ーーまぁ、巨岩熊は足は遅いし、分が悪くなれば撤収できるだろう。
狩場での横槍はマナー違反だ。
すぐに2体目の巨岩熊に気づいて退却の準備にかかっている。
ーーいい連携だな。
2体を直線状になるよう位置取りをし、徐々に距離を取っていく。これで両サイドから挟まれることはないし、最悪2体が迫ってきても一度に相手をするのは一体でいい。自分より大きい相手を同時に相手をする時には有用な戦法だ。
「おやおやおや…これは…」
徐々に距離を取って下がる三人の後ろから3体目の巨岩熊が迫る。まだ距離があるため気付いてはいないようだ。
レベル70×1.3で、適性レベル91相当の難易度となった。これでは冒険者の彼らには勝ち目がないだろう。
「流石に横槍だと文句は言われんだろ…」
ストレージから短剣を取り出す。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
//このゲームオブジェクトに次の効果を付与する
this.gameObject.Add;
{
//自分の右手から離れた時をトリガーに
OnTriggerExsit(player.RightHand)
{
//インパルスモードで力を加える
AddForce(ForceMode=Impulse);
//位置方向指定”正面”
Transform.Rotaition ”forward”;
//1ミリ秒で2m
System.speed.ms =2.0 ;
}
}
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「おろろ…」
次の式が実行されると俺自身に掛けられていた重力制御式が解けて地面へと落ちる。それでも、勇者の体幹を持ってすれば、狙いを定めて短剣を投げ飛ばすことは難しくはない。
「よっ!!」
バシュッ!!
音速を優に超えた速度で短剣が激しい音を立てて飛ぶ。
ヴァーーーーーーン!!!!
ガラガラ…
ガラ…
俺の手から離れた瞬間に、冒険者らの後方から迫る巨岩熊の岩で出来た分厚い動体を打ち抜き、衝撃で粉々にした。いくつかの塊と小さな粒が飛散する。
「!?」
その音に彼らは気付き、後ろを振り返った。
「何なんの音!?」
「俺が知るか!!︎いいから逃げっぞ!!」
「煙幕準備したでありますぞ」
対面していた巨岩熊らの攻撃範囲からは離脱し、煙幕を張って離脱するところだろう。
ズトンッ!!
「え!?」
「なんだ!?」
「っ!?」
その目の前に、落下ダメージを無効にした俺が落ちてきて目と目が合う。
「お、おい!!アンタ!!逃げろ!!巨岩熊が2体も来るぞ!!」
ーー知ってるよ。なんなら、三体目が君らの後ろから来てたところまで見てるよ。
「討伐は放棄か?」
どう見ても放棄だが、一応聞かなければ後々「俺達の獲物だ」とか言われかねない。
「は?」
「あれは俺がもらっていいんだな?」
「はぁ?何を言ってる!!早く逃げろ!!」
俺の手を掴んで先を行こうとする。見捨てずに連れて行こうとするのは関心だな。
「大丈夫だ」
手を振り解いて俺は先に進む。
「お、おい!!」
二本の短剣を取り出して、再度〈ゲームエンジン〉を展開。
ドスドスドスと地面を揺らし迫る前方の巨岩熊に向けて連続して投げる。
バシュ!!バシュッ!!
ガンッガンッ!!
ドーーーン!!
ーーまずは足だ。
足の関節が砕け飛び、巨体が地響きを立てて倒れる。
「な…なんだ…」
その振動に、俺の後ろにいた冒険者が声を上げた。
巨岩熊の外郭は、岩で覆われ硬く刃が通りにくい。その内側に、オリハルコンを含む鉱石がある。中でも、核となる胸元の魔石を覆う硬質な鉱物はオリハルコンの純度が高い。魔石を破壊しなければ倒せないが、魔石を破壊するためにはオリハルコンの内殻も壊れてしまう。だから、巨岩熊からは効率的なオリハルコン採取は向かない。それでも方法はある。
「もう一体も」
バシュッ!
ガシュン!!
ガキン!!
「よし、次は腕だな」
足を破壊し、腕を砕き、魔石のある胸元以外を削っていく。
「す…すげぇ…」
いつの間にか、三人の冒険者は近づき、俺の一方的な採掘の様子に見入ってる。
巨岩熊が再生する隙を与えない。みるみるうちに、胸部にある紺青の光沢のある塊が垣間見れる。
ーーもう一押しか。
短剣は勿体無くて、今は辺りの石を適当に投げて削っているが、速度を調整してオリハルコンに当てないように周りを削っていく。
ガコンッ
最後にサッカーボール程の塊がその場に落ちて転がった。
「ふぅ。手間かけさせやがって」
俺はそれをストレージに入れる。ここまで大部分を破壊すれば巨岩熊は再生できない。
俺は足を破壊され、周囲の岩を繋げ合わせて再生しようとしているもう一体に近づく。
「お、おい。危ないぞ!?」
後ろから聞こえる制止は無視して近づく。
ブンッ!!
巨大な岩の腕が振るわれる。
「よっと」
その軌道から体を浮かして躱し、ゼロ距離に近づく。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
//コンソールに表示する
Console WriteLine ;
{
//プレイヤーの右手に触れたら
OnTriggerStay(playerRightHand)
//そのオブジェクトのプロパティを調べる
this.Entity.Search.property;
}
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
〈詳細〉
名称:巨岩熊
種別:第六種
分類:魔物
状態:戦闘
エンティティ名:GigantTail_2
固有ID:eh80g9FguhHj2rudTfw
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
エンティティ名は把握できた。これで俺が生成することが可能になった。
「お、おい!!避けろぉ!!」
巨岩熊の目の前で止まる俺を心配してか、冒険者達が慌てて走って近づく。
ブォン!!
ガーーーンッ!!
大きく振り下ろされた巨岩熊の両腕が、俺のいた場所の岩を砕く。
ーー避けるも何も、こんな単調な動きの奴に当たる方が難しい…。とりあえず必要なオリハルコンは一匹あれば足りる。こいつから採掘をもう一回やるのも面倒だな…。よし、粉々にしてやるか。
ーーあ…そういえば、こいつは彼らの獲物だったか。残しておくか。
俺は身軽に距離を取って三人の冒険者のところまで下がった。
「邪魔して悪かったね、あとはゆっくり狩りを楽しんでくれ」
彼らもせっかくの獲物を横から取られ、粉々にされては恨みも募るだろう。後を任せてその場を離れようとした。
「お、おい!!待ってくれ!!」
「え、なに…」
せっかく人が気の利く後輩冒険者として立ち去ろうとしているのに…。
「あ、あんた、実力者だろ?手を貸してくれ!!」
「ふむ…?まぁ構わんが、謝礼は期待してるぞ?」
「「おぉ!!」」
「で、オリハルコンの採掘をすればいいのか?」
「は?いやいや、俺たちの護衛だ。俺たちは錬金術ギルドからの依頼でボルノフ火山まで来たんだが、採掘する間もなく奴らが襲ってきやがる…。少しの間でいい。俺たちの護衛を頼みたい」
「なんだ、そんなことか。何分だ?」
「一時間」
「ふむ…」
ーーどの道オリハルコンはもっと必要になるし、ここで上位冒険者とのコネクションを持つのは悪くない。
「よし、承った」
「「おぉ!!」」
契約が成立するタイミングを見計らってか、足を砕かれていた巨岩熊が再生し立ち上がる。
「空気が読めるとは、俺より社会性(SCL)のパラメーター高そうだな…お前」
絶妙なタイミングで立ち上がる巨岩熊に感心する。
「く、来るぞ!!」
武器を各々構える三人の冒険者の前に出て彼らを制す。
「君らは採掘しててくれ。俺はちょっとあいつと遊んでくる。他に敵が見えたら叫んでくれ。すぐに行く」
片手を上げてそれだけ伝えると、俺は巨岩熊に向かって走り出す。
ーーさぁ、千本ノックの時間だ。ガリガリ削ってやんよ。
…
…
…
一時間ぐらい経っただろう。俺は彼らの元に戻る。
「あ、魔法師の旦那、お疲れ様っす。こっちはバッチシですぜ」
20代後半の陽気な剣士の男が白い歯を見せる。
「そうか。なら依頼は完遂だな」
「旦那に巨岩熊をお任せして申し訳なかったっすよ」
「あー…うん、まぁ気にするな」
彼らの耳にも俺と巨岩熊のやりとりの音は聞こえていただろう。とはいえ、まさか自分で魔物をクリエイトして採掘し…を繰り返していたとは思うまい。一時間で六体もの巨岩熊からオリハルコンの内殻を手に入れることができた。
「しかし、本当に助かったでありますよ。いやはや巨岩熊に2体も遭遇するとは…。私どもだけでは依頼を放棄して帰るしかなかったでありますからな」
温和そうな30代の盾職の男が言う。
「いやなに。報酬を期待していたからな。それで、見返りはなんだ?」
謝礼の話をしていない以上、正直期待はしていない。だがまぁ、もらえるものはもらうのが俺のポリシーだ。
「今回のクエスト報酬の半分と、採掘で取れた余りでどうかしら?」
タリスマンを持つ、精霊職の20代の女性が提案する。
「ふむ、報酬の半分とはもらい過ぎだろ。4分の1で構わないぞ?君らの取り分もあるだろ」
「いいのよ、あなたがいなければ放棄して違約金を払ってたところだもの。ねぇ?」
「そうでありますよ」
「ですぜ」
「そうか。じゃあ、その金で今から君らを雇いたい」
「「え!?」」
せっかく火山帯まで来て、人手があるのだ。有効活用させてもらおう。
驚く彼らに一時間の手伝いを取り付け、採掘作業の手を借りた。これが活きるか無駄になるかは、今は分からない。だが、ここでの一時間は、冒険者との繋がりを得るという点で有意義な時間になったことは言うまでもない。




