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「俺は嘘つきだからな…」

 セトを派遣した翌日。俺たちはパーティー会場にいた。勇者の存在を国内外に知らしめるためとのことだ。俺がちょうど伝書鳩ポッポと王都の外で泊まった時にアリシア姫から話があったらしい。


 朝から部屋にメイドさんら押しかけ、コスプレのような服装に着替えさせられたかと思うと、大ホールで他国の重鎮達や兵士達に手を振る簡単なお仕事をしているところだ。


 こんなことをしている暇はないと思うが、兵士の士気にも関わる問題だ。甘んじて受け入れている。



「レイ様?笑ってくださいませ」

 俺の横で見事な笑みを振りまくアリシア姫が俺の表情にケチをつける。

「そうは言ってもな…」

 大陸中から使者や重鎮達が集まり、俺たちに期待の眼差しを向けている。いつまで見せ物にする気だ…。


「ユウキ様を真似てください。ニコやかに微笑むだけです」

「あいつ生物学上分類は同じでも、同じ人種ではないからな…」

 俺の前でアイドル級のオーラを出してる悠希と星華さん。もうあいつらだけでいいだろ…。



「あ”〜疲”れ”だ〜」

 やっと会見が終わり、俺は開放感に浸りながら肩を回す。


「おや、そんなに疲れることをしたのかい?」

 王子様のようなキラッキラな服に包まれ爽やかな雰囲気を漂わす悠希。その強者目線の弱者への慈悲が余計に心に突き刺さる。

「ええ…動物園のパンダの気持ちを体験しましたね…」

「…君は時々ものすごく(ひね)くれていると思うのは僕の気のせいかな…」

「捻くれてはいませんよ。社会が曲がっているので俺が曲がって見えるだけです」

「それを胸を張って言える君には感心するよ…」


 その後に俺たちは立食会で、他国の使者とも挨拶を交わす。前回の勇者召喚の当日には、国内の貴族や重鎮とは挨拶を交わしたが、他国の使者とは今回は初めてだ。


 エルフ、ドワーフ、竜人や小人など、多種多様な種族がいる。彼らの対応には、星華さんと悠希をあてがい、俺は豪華な晩餐会を楽しむ。


「いいんですか?主役がこんなところにいて」

「海崎か…。主役はあいつらだろ。俺は脇役」

「黒幕の間違いでは?」

「…お前は俺を何だと思ってんだよ…」


 会場の端の方で壁にもたれて皿の料理を食べる。人類大同盟と言いながらも、一枚岩ではないだろう。口を開けば、「戦後には是非我が国に来てね」ということだ。

 現在俺たちは人類同盟の所属であり、あからさまな勧誘はないとは言え、そうほのめかしている。付き合ってられない。



「セトへの連絡は?」

「はい。先ほどしました。特に動きはないとのことです」

「こればっかりは持久戦だな…」

 昨日の今日で結果が出るとは思ってはいないが、長期任務はセトに負担がかかる。交代要員も手配する必要があるか…。


「今、少しいいですか?」

「ん?構わんぞ?」

 折り入った話かと思い、俺は空になった皿をメイドさんに渡してバルコニーに出る。この場所、この環境で何を切り出すのかと少し気になる。


「で?何の話だ?」

「零さんが鳩を追って出ている間に、ルード特務官と一緒に人質となっていた夜豹族への事情聴取をしました」

 そう話を切り出す海崎の声のトーンから、何を話そうとしているかを察する。

「…そうか」

「零さんは、当然分かってましたよね。彼女たちが何をされたか…。なぜ若い女性だけ城砦に囚われていたか…」

「…察しはついてた」

「…一人で抱え込まないでくださいね…。」

「……そんなつもりはない。必要でない情報だから伝えなかっただけだ」

「ドークリーバー伯爵の”極刑の件”もですか」

「…」

「…私も、他の人に言わまいとする零さんの気持ちは分かります。…でも同時に、一人で抱え込む辛さも分かります。召喚の日の夜、言ったじゃないですか。私で良ければ聞きますよって」

「……そうだったな。忘れてたよ」

「それはダメですね、次は覚えておいてくださいよ?」

「…善処するよ」

「言質、とりましたからね」


 それが狙いだったのか、それだけ聞くとそそくさと室内に戻っていく後ろ姿を見送る。

 ーー年下に心配されたか…。


 世界は残酷だ。前近代的で過酷な世界。非道な行いも残虐な行為もある。人の業は谷より深く、欲は根より深い。

 知ったからといって、どうすることもできず、人に話すことも憚られる。自分の中に毒のように蓄積する悪意に満ちた人類の所業に、心を荒ませるような思いを彼らにはして欲しくない。

 それを、一人で抱え込んでいると思われたのだろう。これは俺の自己満足に過ぎない。



 海崎の気遣いにゲームでは味わえない形容し難い感情の揺らぎを覚える。素直に、その気遣いにありがたいと思った。だからこそ、余計に言えないのだ。

 大切だからこそ、言えないことがある。そう言ったら君はなんと言うだろう。


「俺は嘘つきだからな…」


 俺の小さな声は、すぐに大勢の会場の音と混じり、誰の耳にも届かず消えた。







 翌日、俺の元にドークリーバー伯爵の取り調べ報告書が届く。


 結論からいうと、伯爵の屋敷にいた使用人は皆、白だった。伯爵の自供と使用人の話から、月に一度、グレーと名乗る男が屋敷に来ていたそうだ。伯爵はその男からの指示を受けていたと言う。そして、これまで人類の戦力情報の提供、人類連合軍の要塞場所や補給線の詳細などの情報を送っていたらしい。


 俺が気になっていた”夜豹族が毎月10体引き渡せる”という話は、伯爵領で奴隷として強制労働させられている夜豹族がまだ千人近くいるということで、王国が調査をする。伯爵が、獣人連邦で故郷を失った夜豹族を招き入れ、犯罪奴隷として領内で強制労働をさせていたという。これは国王が手を打つだろう。


「とりあえず、伯爵の件は一件落着か」


 伯爵からは、これ以上深い情報は掴めそうにない。キーとなるのは伯爵の屋敷に出入りしていたというグレーという男だが、もう伯爵には接触しないだろう。伝書鳩の運び屋のルートから探るしかない。


 報告書をストレージに入れて立ち上がる。

 俺は、昨日勇者達に国王から渡された王家の紋章が刻まれた金貨を弾いて飛ばす。これがあれば、王家が後ろ盾にあることの証明になるそうだ。


 ーー表か、よし。


 手の甲に着地したコインの出る面で先に行く行き先を決めて部屋を出た。



 王都の工業区にあるいつぞやの鍛冶屋に足を運んだ。

 こじんまりした表の武具店の扉を開ける。

「やっぱり、ここの武器が一番いいな…」

 数は少ないが洗練された剣が並ぶ。近衛兵団が使う剣より数段グレードが高い。


「ワシの剣をそこいらの鉄の板と比べるんじゃないわい」

 奥の鍛冶場から鉢巻を巻いたドワーフの白髪老齢な男がやってくる。

「おぉ、お前さんか。今日は何を探しておる。言うとくが、オリハルコンソードは値引きせんぞ」

 俺の顔を覚えていたのか。そして先制の値下げ却下宣言。まぁ、今回は値引き交渉に来たわけではないから関係ない。


「ここにある弓も爺さんがつくってるのか?」

 弦がまだ張られていない弓が数本おいてある。

「あたりまえじゃわい」

 腕を組んで自慢気に答えた。

「そうか。凄な…。爺さん、いくつか武器を作って欲しい」

「オーダーメイドかの?高くつくぞ?」

「金に糸目はつけんよ」

「ほっほっほ。いいじゃろう。何がご所望じゃ?」

「とりあえず、オリハルコン製の剣と彗星弓を頼む」

「…残念じゃが、素材がないの。次の入荷目処はついておらんぞ」

「ああ、それなら心配ない。俺が用意する。爺さんは、作業の時間だけ確保してくれ」

「…さうかさうか。今作ってるメイスが完成すれば手は空くが…」

「じゃあ、しばらく俺の専属で頼むよ。報酬は弾むから」

「…それは構わんが…。お主、財布の紐は大丈夫かの?」

 カウンターごしに顎に手をついてこちらを見る。

 俺はその爺さんに王家の紋章のついたコインをピンと弾く。それを爺さんはパシッと掴んだ。

「ん?これは?」

「安心しろ。スポンサーがいる。足元見てふっかけてくれてもいいぞ」

「なはっ!?王紋!?」

 手にした金貨をまじまじと見つめる。

「ほ…本物じゃな…。お前さんは一体……。いや、まぁいい。素材があるなら作ってやるわい」

「助かるよ」


 鍛冶屋の爺さんとの約束を取り付けると、俺はギルドに向かう。

 俺がゲーム時代にホームタウンにしていたのはもっと大陸左下の、現在は魔界とされている辺りで、その他のエリアの生態系には疎い。魔界に現状入る手段がない以上、俺の知ってる効率的な狩場が封印されている状態だ。とは言っても、魔物のゲーム上での識別名さえ分かれば俺が自分で作り出せる。一匹いればいい。


 ギルドのカウンターで受付嬢に挨拶をする。


「あら、お久しぶりなのですよ。依頼なのですか?素材の売却なのですか?」

「いや、情報だ。王都周辺の生態系について教えて欲しくてな」

「情報なのですか。どのようなモンスターをお探しなのですか?」

「オリハルコンが取れる奴ならなんでもいい。魔物でも魔獣でも構わない」

「ちょっと待つのですよ〜」

 受付嬢は裏に行き、分厚い本を持ってきた。

「王都の周辺ではオリハルコンが取れる魔物は少ないのですよ。ボルノフ火口付近には、巨岩熊ギガントテイルがいるのですよ?」

「あぁ、岩ダルマか。ちょうどいい」

 俺は地図をストレージから出して場所を確認する。

「ボルノフ山脈ってのはここだな?」

「はい、そうなのですよ」

「ありがとな。また来るよ」

 俺は地図を閉まって扉に向かう。

「待つのですよ!!」

「ん?」

 止められでもするのだろうか。巨岩熊ギガントテイル通称岩ダルマは、レベル70クラスの鉱石で出来た巨人。まだ冒険者登録をしてクエストを一つも受けたこともない人間に討伐許可が降りる訳もない。だが、俺は狩り行くなんて一言も言っていない。


「なんーー」

「1000Gゴールド。情報提供料、未払いなのですよ!!」

「あー…。あぁ」

 金とるのね…。ゲーム時代にはない料金形態に戸惑いながらも、俺は大人しく銀貨を置いて立ち去る。




 空を飛べば片道三時間の馬車の道のりも、30分足らずで辿り着く。30秒でも辿り着けるが、服を脱ぐのは抵抗がある。普通に飛ぶ分には電車程度の速度が限度だ。


「ここか」

 活火山が並ぶボルノフ火山帯。ゲームでも来たことはない。

 鉄と硫黄の匂いが鼻を付く。ゲームでは、不快となる環境因子はフィルターが掛かっていたが、現実世界は容赦ない。煙が立ち上がる間を縫って上空を低空で飛びながらお目当ての獲物を探すことにした。


「お?」

 眼下に獲物を捉えたが、すでに先客がいるようで、三人の冒険者との戦闘が繰り広げられている最中だった。

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