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強引な救出劇

 

 ーーここか?

 木造の小さな小屋に辿り着く。兵士の仮眠室のようだ。ハンモックやベットが並んでおり、数人の兵士が寝ていた。


 ーー外れか…ん?


 別の建物に行こうとする時に、床についた金属の取っ手が見える。


 ーー地下への扉だな…。


 寝ている数人の兵士に気づかれないように静かに扉を開けてその中へと入る。


 ーーこんなことならリュートに詳細を聞いておけばよかった…。


 そんなことを思いながら、階段を降りる。

 地下道だ。城の下に張られているらしい。狭い石壁を少し進むと扉がある。

 その中には、鉄格子のはめられた牢があり、6人の青い目を持つ獣人種がいた。


 ーーあたりだ。


 どれも年頃の若い女。一瞬脳裏に過る”ある考え”を振り払う。俺が考えても仕方がないこともある。



 幸いにも見張りはいないようで俺は透明化を解き、代わりに防音の空間を構築し彼女らに姿を見せた。


「!?」

「?」


 突然現れた俺の姿に気づいた二人が目を見開いた。


「シー…。」

 口に人差し指を当て、ジェスチャーして気づく。

「あ…、別に大丈夫だったわ。」

 防音状態だし、上の兵士達に気付かれることはない。


「…。」

「…。」

「…。」


 檻ごしに、俺の姿を見たかと思うと、すぐに目を逸らされる。

 ーー俺が何をしたという…。


 一番端にいる一人は寝ている。これから大脱走計画を始めるというのに、寝ていてもらっては困る。


「その子を起こしてくれないか?」

「こ、この子は体調が悪いの。私を連れて行きなさい!!」

「いや、全員連れてくから安心しろって。」

「「…。」」


「こ…この子に手を出すなら舌を噛んで死ぬわ!!」

「待て、落ち着け。セトが悲しむ。」

「セト!?…セトにも手を出したの!?お前…!!」

「いや…先に手を出してきたのはセトの方だからな?まぁセトを知ってるなら話は早い。今から君らを全員出す。」

「お前!!絶対に許さない!!」

 ーー何をこいつはこんなにキレてんだ…。


「んー…誰かにゃ?」

 寝ていた女性がムクリと起き上がる。

 ーー今”にゃ”って…。


「あー、自己紹介がまだだったな。俺は一零よこいちれい。勇者だ。」

「ゆう…しゃ?」

「兵士が言っているのを聞いたことあるっすよ。異界から勇者を召喚したって言ってたっすねー。」

「それがあなただってことですかにゃぁ?」


「まぁそういうことだ。セトから頼まれて夜豹族救出作戦を実行中。」


「!?」

「セトちゃん!?」



「だ、ダメよ…私たちが逃げたことがバレれば他のみんなが殺されるわ…。」

「ああ、その心配ならもう大丈夫だぞ?他の監禁場所も同時に潰してる。あとはここだけだ。君らが逃げれば万事解決。」

 ーーというのは嘘だ。リュートの教会はこれからだが、彼女らをここから動かす安心材料は必要だ。


「(零さん、そちらの状況はどうですか?)」

「(ちょうどいいタイミングだ。こっちはこれから大脱出を始める。リュートにも第二フェーズ開始を指示。合流ポイントはラナの村で変更なし、と伝えてくれ。20分後にもう一度連絡してくれ。)」

「(了解です。)」


 下準備が完了し、俺は彼女の方を向く。


「さて、身支度はいいか!?」

 そう言って、


 //このゲームオブジェクトを破壊する

 【this.gameObject.blake;】


 で檻の扉を壊す。



「!?」

 触れただけで砕けちる様子に目を見張る彼女らの手枷も粉々に砕く。


 ここからが問題だ。彼女らを連れて兵士のいるこの城を普通に脱出させるのは難しい。



 俺はストレージからロープを取り出す。

「心の準備はいいか?」


「な…何をする気!?」


 怯える彼女らには申し訳ないが、命綱は必要だろう。




「空を飛んでこの城から離れる。落ちないように互いにこれで結んでくれ。」


 ロープを渡して後ろを向く。

 深い意味はないが、見ていてはいけない気がした。


「本当に、助かるのですかにゃぁ?」

「勇者なめんなよ?ドークリーバー伯爵の罪もしっかり精算させるつもりだ。」

「セトにも会えるの!?」

「もちろん。まぁあいつ今王都にいるから君らが王都まで行く必要あるけど。」

「…本当に他の場所に捕まってる皆も助かるっすね?」

「ああ、心配ないって。」



 ガチャ…


 上の地下への扉が開く音がした。


 ーー不味い。気づかれる前に無力化するか、強行脱出するか。


 俺が振り向いて彼女らの様子を見た時には、体にロープを巻きつけてしっかり結ばれている。


「よし。では、出発進行!!進行先は…」


 ーーーーーーーーーーーーーーーー

//指定範囲内に次の処理を行う

Range.space(x=±1,y=0,Z=±1)

{

 //もし自分プレイヤーの右手に触れたら

 if(hit.player.RightHand)

  //このゲームオブジェクトを非アクティブにする

  this.gameObject.SetActive = false ;

}

 ーーーーーーーーーーーーーーーー


「ーー真上だ。」


 飛び上がって天井に触れる


 シュパッ

 俺の右手が天井に触れた瞬間、横2m四方が四角く消え、空気が流れる音が聞こえる。


 【SetActive】構文コードを使えば、ゲームシステム上の物を無効化する。ビジュアルの非表示と違い、【SetActive】は存在そのものがこの世界から消えることになる。


 跳躍の勢いは止まらず、一階の床、一階の天井、屋根をも打ち抜く。



 ガラガラガラ…


 支えを失ったベットが地下に落ちる。


 ストッ


 その上に俺に着地した。



「ん?」

 階段を降りてきた兵士がその音に気付き近づいてくるが、奴がこちらに来るよりも俺の方が早い。


 上を見上げると、地下からポッカリと空が見える。

 ーー進路確保完了。


「お前誰だ!!」

 砕けた檻と俺の姿に気づいた兵士が声を上げる。

 ーーもう遅い。

「さぁ行くぞ!!」

 両手に二人の腕を掴んで新しい式を実行する。


 ーーーーーーーーーーーーーーーー

//指定範囲内で次の処理をする

Range.space(x=±2,y=±2,Z=±2)

{

 //重力を上方向に0.2にする

 System.useGravity = (y=+0.2)

}

 ーーーーーーーーーーーーーーーー


「「!?」」

 周囲の重力が反転し、俺たちの体が浮き上がる。


「ま、待て!!」


 兵士が迫ってきた時にはもう重力に捕まり、ゆっくりと空へと落ちていく。


「…。」

「…。」

「…。」


 初めての飛行体験だろう。力んで互いにしがみついている。まぁ、反重力で飛んでいるわけだから、効果範囲内なら離しても落ちることはないんだが…。

 ロープで互いを結んでいるから大丈夫だろう。


 どんどんと下に見える城が小さくなる。


「ははっ…あははははは…!!」

 一人が急に笑い出した。

「…ふふっふふふふふふっ…ふふふふっ…」

 二人目も笑う。

「あははっ!!ははははっ!!」

「ふふふっはははっ!!」


 感染したかのように彼女らは笑いに包まれた。


 空気抵抗を無効にしていないせいで、風を切る音が激しく聞こえる中、彼女らの高らかな笑い声が大きく聞こえた。

 解放感からなのか、安心からなのか、それとももっと別の何かか。





 俺は合流地点を目指して真北にコースを合わせる。



「ふふっ…ふ……はぁ。」

 長い間笑っていた彼女らも、どうやら気が済んだようだ。

 息を切らしながら笑い終え、呼吸を整えている。


 目算で北に8km程飛んだ。合流地点であるラナの村もそろそろだろう。



 俺は下方向に重力を調整し、地上に降り立つ。


「お兄さん、本当に勇者なのですかぁ〜?」

 一人の夜豹族が声を掛ける。

「嘘だと思ってたんかい!!」

「だってぇ…あんまり強そうに見えないですしぃ〜?」

「見かけで判断するなよ?世の中には、フザケタ格好してて無茶苦茶強い奴とか普通にいるからな。」


 俺もその一人。リクルート姿で最前線レイドとか行く奴だ。


「私たち…本当に助かったの…?。信じられない…。」

 その流れる涙は、苦痛から解放される喜びの涙か、それともこれまでの悲しみの涙か。俺が推し量れるものではない。


「…君らが逃げたことはバレてる。すぐにこの辺りは追手が来るかもしれない。早いところ合流地点に移動しよう。」


 彼女らを巻きつけるロープを切り、先を進む。

 俺は彼女らの感情に寄り添うことはできない。俺ができるのは、前を向いて歩かせることだけだ。



「(零さん、どうですか?)」

「(海崎か。こちらは全員救出成功。今合流地点に向かってる。リュートは?)」

「(リュートさんも二人を連れて合流地点に向かっています。)」

 流石に街の教会相手なら、リュートもなんなく二人を脱出させれるか。


「(また連絡頼む。)」

「(はい。気をつけて。)」



 10分ほど彷徨い、空から見渡して村を見つける。


 木の柵で囲われた小さな集落だ。村には10軒ほどの家々が立ち並ぶ。


「君らはこれを被るといい。獣人族であることは隠した方がいいだろう。」


 フードのついたローブを渡す。昨日街で用意したものだ。

「どうもっすよ!!」

「ありがとうございますニャ。」


「あのさぁ…ずっと気になってたんだけど、その喋り方はネタなのか?」

「私ですかにゃ?」

「他に誰がいると思うのか…。」


「ミーニャは田舎訛りっすよ。ドがつくほど田舎者はしょうがないっすよ。」

 ーーどんな訛り方したら語尾に”ニャ”がつくんだよ…。

「…まぁいいや。とりあえず、村の外で俺の仲間と合流だ。教会に捕らえられてた二人も来る。」

「わかりましたニャ。」



「…。」

「…。」

「…。」


 無言の空間になると、考えたくないことも考えてしまう。

 彼女らを前にしたら尚更だ。


「は、腹減ってないか?」

「にゃ?」

「お菓子もあるぞ?」



 俺はストレージからコットン料理長からもらった菓子パンを取り出す。


「おわ!!甘いものは久しぶりっす!!貰っていいんすか!?あとで返せって言ってもダメっすよ!?」

「…ああ。いくらでもくれてやる。…だから好きなだけ食え…。」


 自分の中でこみ上げる感情がなんなのか。怒りか、悲しみか、哀れみか。



「ちょっ!?何泣いてんすか!?やっぱ食べちゃまずかったっすか!?」

 ーー!?

 自分の頬を触って付いた水滴に驚く。

「やっぱ返すっすよ。泣くほど好きなお菓子をもらうわけにはいかないっすからね。」


 何をしているのか俺は。

「…い、いや、…犬派から猫派に変わってしまったことへの懺悔と、新しい道を示してくださった新たな猫の神への感謝のあまり涙が出ただけだ。おぉ神よ、今日という素晴らしい日を自分に与えてくださったことに感謝いたします…。」

 自分でも驚くほどの早口で思ってもない適当なセリフが紡ぎ出される。


「な…何を言ってるか1ミリも分からないけど、この勇者ヤバイわよ!?」

 ーーうん…。俺も何言ってるか分からん…。

「ま、まぁそういうことだ。……好きなだけ食え。遠慮するな。」


 俺はストレージにある菓子パンやクッキーを出す。



「俺は一旦空から様子を見てくる。」

 リュートらも順調にいけば、そろそろ付いてもいい頃合いだ。領主の城から追手が来るにはもう少し時間は掛かるだろが警戒にこしたことはない。

 それに…


 重力を反転し、空へと上がる。


 彼女らから離れ、涙を拭う。

「まさか涙が出るとはな…。」

 視界が晴れて遠くまで見渡せる。


「お…。」


 村の反対から3人の人影が近づいていた。リュート達だ。





 俺たちは村の外周で合流した。


「ミーニャ!!」

「お父さん!!」

「セシル!!無事だったのか!?」

「ダン!!あなたも…。」


 リュートが連れてきた二人は、父親と、もう一人は婚約者か夫か。


 俺とリュートは、彼らが抱き合って涙を流すところを眺める。

 流れる涙が、泣き叫ぶ声が、崩れる表情が、俺にはゲームイベントにしか見えない。俺の頭がこれを現実だと認めることを拒んでいる。それを認めたら、俺の心がどうなってしまうのか。


 ただ目の前の光景が、どこか遠い物語のような感覚で流れる。



「…お疲れ様。」

「ふんっ造作もない。」


 俺は横に立つリュートと手の甲をコツンと合わせる。


 SLIGerエスリガー)の成功祝いによくやるモーションだ。

 その手の甲に残る感覚が、生々しく骨に響く。



「…さて、ここに長居はできん。移動するぞ。」

 リュートが泣いて喜び合う感動のシーンに切り込む。

「移動といっても…どこにですか…?俺たちの故郷は…。」

「とりあえず、王城にくれば国王には話をつけるからしばらくの生活の保証はする。以降は、王都で暮らすもよし、獣人連邦に行くもよし。心配するな。」

「ありがとうございます…ありがとうございます…。」

 ここまで彼女らと一緒に飛んできた方法で、俺たちは王都を目指して移動する。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

//指定範囲内で次の処理をする

Range.space(x=±5,y=±5,Z=±5)

{

 //重力を上方向にY方向に0.2、Z方向に1にする

 System.useGravity = (y=+0.2,z=+1)

}

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 俺を中心にした範囲への事象式を実行できるため、重力を横方向にすることで実質飛行が可能となる。


 ただ、空間にかけられる効果として、空気抵抗を無効にできない。いや、実行はできるがやった時点で体の中まで空気抵抗がなくなり非常に危険だ。


 エンティティや、プレイヤーの指定で、外部から掛かる空気抵抗を無効にするのと、空間内部の全ての空気抵抗を無効にするのは訳が違う。

 何も考えずに行った瞬間、死が待っているという〈ゲームエンジン〉に潜む危険性である。



 おかげで、風圧が酷く、時速100kmも出せない。重力強度と方向を調整しながら速度をコントロールし、数時間かけてどうにか王城まで届けることができた。



 彼らの面倒は、ドークリーバー伯爵の件の重要参考人ということで、シモン執政官がしばらくは離宮で面倒みてくれる手筈になっていた。


 俺たちがここにくるまでに、海崎が国王やシモンに今回の件を説明してくれた。

 すでに伯爵の私邸にいた親子二人は、離宮にいるという。


 伯爵の私邸には、憲兵が詰め寄せているそうだ。勇者の出る幕はもうないだろう。



「疲れたなー…。早朝からずっと働いて疲れたわ…。」

「俺は昨日からずっとだぞ。」

「そういやそうだったな。すまんすまん。」


 俺とリュートは自室に戻る。

 王都に来るまでに、人質となっていた夜豹族からもドークリーバー伯爵の話を聞いて収穫もあった。

 その情報の整理をし、伯爵の件も魔族の件も洗わなければいけない。


 あとは、ルード尋問官がドークリーバー伯爵からの自白と、伝書鳩の行き先から次の手掛かりが見つかるだろう。



 国王や他の勇者への説明もしないといけないなぁ…。


 事後処理のことを面倒くさがりながら、俺たちの大仕事は幕を閉じた。

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