目的地には空の旅
自分の部屋に戻ると、すでにセトがいた。セトは、俺がドークリーバー伯爵家でドタバタ強制連行劇をしている間に、屋敷の地下に監禁されていた夜豹族の仲間を連れ出し離脱することが役割だった。
「セトお疲れ様。これが捕まってた奴か?」
「…(こくん)」
セトの目線の先に、ベットで寝ている二人の夜豹族。親子だろうか。小学生にも満たない女の子と、30代程の女性が寄り添って寝ている。
「多分、緊張の、糸、切れた」
二人の様子を見守るセトが俺に説明してくれた。
「そうか。…セトも休んでいいぞ。後はこっちでやる」
昨日からずっと張り込みで、睡眠もろくに取れていないだろう。
トマトジュース塗れで真っ赤に染まる格好で、心なしか疲れも見える。
ストレージに用意しておいた替えの服を渡す。
「そこにシャワールームがある。洗ってきな。」
「…(こくっ)」
セトはそれを受け取ると着替えに行った。
「ただいま戻りました。」
「おぉ、海崎もお疲れー。」
入れ替わりで部屋に入ってきた海崎の手には、鳩が握られている。
「それで、この鳩どうするんですか?地面に落ちて気絶してますが…」
死んでいるかのように仰向けに眠る伝書鳩。
SLIGゲームの初期に使われた高速通信の伝書鳩。その脆弱性は、プレイヤーによって露見した。
ゲーム開発者側も想定していなかっだろう。時速100kmで飛ぶ鳩を、鹵獲するなんて方法を。
やり方は簡単だ。空を飛ぶ鳩に、トリモチ代わりの粘着スライムを投げる。これだけだ。
レベル100のプレイヤーからすれば、上空の鳩を撃ち落とすことはそれほど難しくはない。
「流石に手紙は暗号化されてるな」
伝書鳩の足に結ばれた手紙を取って読むも、勇者の言語理解があっても紙に書かれた記号の意味は分からない。
だが、この伝書鳩の使い道は、どこが目的地かを知る手掛かりになる。
「この鳩が、どこに行くと思う?」
「どこ、とは…。夜豹族が捕らえられてる場所、ですか?」
「そうかも知れないし、もっと面白いところかも知れない」
「もっと面白いところ…ですか?」
「そ。この伝書鳩を飛ばしたのは、あの屋敷にいる伯爵のやっていることを知る者だ」
伯爵を引っ張ってエントランスを出る時に、「ゼタン!!分かっているな!!」と言っていたことを思い出す。
おそらく、自分に何かあれば、この手紙を伝書鳩を使ってどこかに届ける手筈になっていたと考えられる。それか、ゼタンという執事もグルか。
どちらにせよ、外部との接触を制限しておいてなお、外に伝えようとする暗号化された手紙だ。面白そうな情報なことには変わりない。
「俺は夜豹族のことなんて、あそこにいる使用人連中には何一つ話していない。彼らにしてみれば、伯爵が”魔族に内通している国家反逆罪として国王に強制召喚され、勇者が連れ出しに来た”ということしか知らない。この状況で伝書鳩を使ってどこかに情報を届けるとしたら…」
「まさか。魔族にですか!?」
「その可能性は高いだろうね。どこの方角に飛んだか分かる?」
「はい。南西方向です。綾小路さんも確認してくれたので間違いはないかと思います」
「自分の領地か、その先の魔界か。まぁ、鳩が捕獲できたんだ。場所は分かるさ」
伝書鳩が目的地をどこにしているのかは、捕まえてしまえば分かる。
そいつの行き先がどこかというのは、是非知りたいものだ。
「リュートの方次第で第二フェーズに移るかだな。伯爵が勇者に捕まったことが広がるのも時間の問題だ。それまでに人質はこちらで確保しないと。」
「リュートさんに連絡してみますね。」
伝書鳩は潰したからこちらでの騒ぎが伝わるには少しは時間がかかるはず。それまでに伯爵の領地にある屋敷と教会を制圧すればいい。
「ゴルンの教会で2名の夜豹族を確認したとのことです」
「よし。俺が屋敷についたらそっちも片付けるとしよう。二時間後に行動開始予定と伝えてくれ」
「はい」
俺はストレージから地図を取り出しゴルンの名前を探す。ドークリーバー領の領主邸のある街から真北に少し離れた街。
「合流ポイントを変更して、ラナの村にするように伝えてくれ」
教会あるゴルンの街の近くにあり、同流地点にはちょうどいい村を指定する。
「了解した、とのことです」
「さて、じゃあ俺も行ってくるよ」
「気をつけて」
窓から外に飛び出て、
【System.useGravity = (y=+1)】
で空へと落ちて王城から離れる。
音速を超えるには、自分自身の空気抵抗をflaseにする必要も、服や靴なども全て外す必要はある。
俺は地上から逆さまに天へと落ちながら、服を脱ぐ。
「リュートの言い分も分かる…これは難しい…」
風で靡いて暴れる服を脱ぎながら、リュートの苦労に同情する。
上空で全裸というもはや犯罪を通り越して悟りを開けるレベルの自分の行いに目を瞑る。
「これは必要なことだ…うん…」
自分に言い聞かせて心を落ち着かせた。
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//自分に次の処理を行う
player.Add
{
//空気抵抗を無効にする
Add.effect.System.AirResistance = false ;
}
{
//断続的に力を加える
AddForce(ForceMode=Force);
//1秒で前方に10mずつ加速
System.speed.second = (x=0,y=0,z=+10);
}
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1秒で秒速10mづつ加速すれば、体に掛かるGは1Gと同程度。
約400km離れている伯爵領まで毎秒10m/sで加速し続ければ300秒でたどり着く。
リュートの時と違い、自分で速度停止の式を実行すれば、300秒後にマッハ10近い速度が出ていても零点静止できる。
山を越え谷を超え、見る見る景色が加速する。
「…6、7、8、9、300」
//慣性運動を0にする
【System.moveTime = 0】
を実行することで、現在の加速式が無効化され、慣性運動が0になる。これまでの勢いを無視して制動距離が0mで急停止した。そしてすぐに重力に捕まり地上へと落ちていく。
//重力を下方向に0.1にする
【System.useGravity = (y=-0.1f)】
で、落下速度を10分の1にしてゆっくりと降りながらストレージから服を取り出す。
リュートの二の舞はごめんだ。
靴下も靴も履き、身嗜みを整えて一息。
「ふぅ。さて、領主の屋敷はどこかな」
重力の作用方向を変えながら、空を飛び街を探す。
地図を片手に村をいくつか訪れ人に聞き、一つの街に辿り着いた。
「あそこが領主様のお城だべよ」
「おぉ、案内ありがとう」
街の子どもに案内されて目的地に辿り着く。
立派な建物で、屋敷ではなく要塞だ。流石に魔界に接する領地なだけあって、街も王都並みの城壁で守られている。
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//自分に次のエフェクトを付与する
player.addEffect
{
//透明化をON
System.Transparent = ture ;
//足音をOFF
Syetem.Sound.Footstep = false ;
}
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透明化と足音無効のエフェクトをかけて、潜入する。
リュートの話では別棟の地下に捕まっているという話だ。
城内でも見張りが立っており、厳重に警備をしている。
これではリュートでも、潜入は楽にできても人質を連れて気付かれずに脱出するのは無理だというのも肯ける。
俺は、人質が捕まってそうな建物を片っ端から当たり、城の中を探索した。




