自己紹介は、地獄
「とりあえず、ミーティングしよっか」
コミュ力の高そうなスーツを来たお姉さんがすぐさま声を上げる。制服の高校生が3人と、私服を来たのは大学生だとすると、おそらく俺たちの中で一番年齢が高い。
俺がどうやって彼らに切り出そうかと思案してたところだ。とても助かる。
俺たちを引っ張ろうとするあたり、責任感でも感じているのだろうか。ミーティングには賛成だ。どっかのバカが単独行動を取ろうとしだすと一番厄介だ。特に厨二病は要警戒。悪い奴じゃなさそうだが、何をしでかすか分からない。
「じゃ、この部屋でやりましょうか」
こういう時には、賛成を示すより、確定ルートの演出で反対の余地を噛ませないのが鉄則。俺は一番近い部屋の扉を開けて中に入る。
一人一部屋を渡されたが、一部屋だけでも優に8人は泊まれそうだ。といっても、ベットが2つしかないが…。流石国賓対応。もてなしのレベルが違う。
ローテーブルを囲う形で2人掛けのソファーにそれぞれ腰を降ろした。
「まずは自己紹介からかしら」
進行役がいてくれるのはありがたい。特にボッチ同士での会話は地獄だ。ソロプレイヤー同士で集って作戦会議を開くと、まあ悲惨なことは言うまでもない。
「まずは私からね。桐生セイカです。星に華やかで星華。年齢は26歳で多分私が一番上かなぁと思ってます。社会人4年目、会計士してます。私のことは星華でいいわよ。よろしくね」
コミュ力高くて美人で頭もいいとかチートかよ。
美人の星華お姉さんは、隣に座っている回復の固有スキルを持っている女子高校生に視線で次を促した。
「秋本モミジです、紅葉と書いてモミジと呼びます」
おぉ~こりゃまたDQ...キラキラネームですな。
「北高校2年です。凄い動揺してて、どうしたらいいかも分からなくて…。あの、王様の話も本当はーー」
「ストーープ!」
星華お姉さんが止めた。
「その話は後でしましょう?あ、お姉さん紅葉ちゃんの趣味とか知りたいな。あと、スリーサイズもできたら知りたいかなぁ」
「星華さん!?」
俺の正面に座っていた一回り小さい少女が驚いて声を上げる。私立通いの中学生だろうか、見た感じ一番幼い。
「冗談よ。冗談。それに、…実はもう私の力でキミ達のスリーサイズは把握している」
ーー!?︎
ピクっとその言葉に誰もが反応した。しかし言葉にはしなかった。まるでその言葉がなかったかのように流れる。
「…冗談はそれぐらいにして、僕も紅葉さんの趣味が知りたいかな」
コミュ力高いなこのイケメン。顔によっては通報されるような言葉をシャーシャーと吐きやがって。死ね。おっと、また本音が…。
「は、はい。趣味は音楽です。吹奏楽でクラリネットやってるので」
「紅葉ちゃんは音楽ができるんだ~。私も中学生の時に吹奏楽だったんだー。今度一緒に演奏しよっ!」
「は、はい」
凄いな星華お姉さん。不安を解消させてもう仲良くなってる。固有スキルに人心掌握とかあるんじゃないか?
「次は俺か」
厨二患者が立ち上がる。別に立ってやる必要はないと思うが、誰も止めない。
「先ほども名乗ったがリュートだ。この世界を俺は知っている」
「ほぉ?」
中学生が反応した。幼い顔立ちとは裏腹に、鋭い眼光がリュートを捉えている。
「それは詳しく知りたいかな」
イケメンが話を振ると、リュートは得意げに語りだした。
「この世界は俺が遊んだことのあるゲームに似てる。特にステータス画面はまるっきり同じだ」
「興味深いわね」
「ソール・ライク・インフィニティっつーゲームだ。名前ぐらいは聞いたことあると思うが?」
「確かに、僕も聞いたことある。友達がよくそのゲームのことを話していたな…。確か、SLIGっていうんだよね」
「話が早いな。そうだ。お前はプレイしたことあるか?」
イケメンに対してなぜか上から目線…。年齢を考えればお前の先輩だぞ。若いと無駄に上をとりたくなる気持ちも分かる。だが後から思い返すとマジ地獄だから…。ここは先人として矯正するのが俺の宿命か…。こういう奴の扱いは慣れている…。完治者をなめるなよ?
「リュート君、君の言葉遣いは強そうでカッコイイ。だけど、目上を敬うというのが美徳として最もカッコイイという価値観もある。特に、この世界では身分制度があるようだし、ここは世界に溶け込むということで国王や貴族には敬語を使うのはどうだろう。その練習として、この場からでも実践するといいんじゃないかな」
「ふむ、お前の言うことは一理ある。無駄に死体を増やす気はない。お前の提案を受け入れよう」
こいつ…本気で分かってんのか…!?しかし、否定された訳じゃないし、…まあいいか。
「SLIGって、有名なゲームじゃない」
「自分、CMで見たことがあるッス」
「わ、私も好きな配信者さんが実況プレイしてたのを何度か見たことがあります」
ここで俺も何か言うべきか…。プレイしてました。というか、かなりのコア層です。ーーというのは別に隠す必要もないが、コイツ(リュート)と同じ分類にされるのは避けたい。過去の自分があそこまででないにせよ、掘り返したくない過去がある。
「アタシはプレイしてたわ」
意外にも、中学生が名乗り出た。
「関心せんな。D指定ゲームを子どもがプレイするなど。精神の成長に悪影響だぞ」
中二病患者の言葉にシーンと静まり返る。今日のお前がそれを言うのかコーナーだ。流石のコミュ力MAXお姉さんも言葉が出ない。
「…先に言っておくけど、私は22歳の大学生よ。D指定だかZ指定だか知らないけど、二度と口の開かないようにしてやろうかしら?」
「え!?」
思わず俺の口から声が漏れた。その声が俺の口から発せられたと気づいたのは、周りの皆が俺の方を見たからだった。
異世界に召喚されて、随分と意味不明な状態にいると思っていた。それでもまだその上が、現実に潜んでいるとは思えないだろう。
「アンタ、さっき目上の美徳がどうとか言ってたわね」
俺の声が彼女の逆鱗に触れたらしい。元を言えば中二病患者だろ‼とは言えない。
「は…はい…」
「もう一回聞かせてくれる?」
地雷踏んだぁー!まさかのブーメラン2発目俺が投げてたー!?
「え…えっとですね…」
なんだこれ!?魔王軍の侵攻かよ!異世界怖っ!?
「まぁまぁ、その辺で許してあげて。彼も悪気があったわけじゃないと思うし。私もてっきり”高校生”ぐらいかと思ってたわ。ごめんなさい」
「…そうね。いいわ。顔は覚えたもの。あなたに免じて許してあげる」
怖っ!?顔覚えたって何!?ねぇ何!?
しかも星華お姉さん、見た目小学生で、どう見積もっても中学生の彼女を「高校生ぐらい」と言って自分だけ減刑されようなんて…。
この女狐ねっ!!
裏切り者めっ!という視線を星華お姉さんに向けると、ニコッと躱される。
「良かったわね。”私に免じて”許してくれるそうで」
「ハイ…。アリガトウゴザイマス…、アリガトウゴザイマス…」
ダ、ダメだ、戦闘力が違い過ぎる。生まれたばかりの小鹿が獅子に挑もうなど浅はかだった。彼女はダメだ。強すぎる…。
「話がずれてしまったわね。ゲームの話は今はおいておいて、自己紹介を続けましょう」
「ああ。といっても、俺は済んだ。次はお前だ」
「そうっスね。自分は大原大智って言うっす。西高3年柔道部主将っす。武芸に関しては多少覚えがあるっす」
ガタイのいい彼はやはり体育会系だったか。温厚そうな性格をしてながらも柔道部部長って…。キレたら強そう…。
「僕の番だね。名前は鈴木悠希。経済学部生だ。一応サッカーとテニスのサークルに入ってるんだけど、お世辞にも上手とは言わないかな。体を動かすことが好きなんだ。あと、最近バンドに誘われてね、必死にベースを練習してるんだ。音楽ができる二人は羨ましいよ」
なんだこのイケメン…。マジでなんなん?さりげなく共通の話題つくって話広げる足がかり作ってんじゃねーよ。口説きスキルでもあんのかよ。死ね。
「やっぱり男の子はバンドとかに憧れるよねー」
お姉さん、会話には気を付けてください。そのセリフは「バンドやるぐらいならゲームするわ」って人種に対してのヘイト発言です。
「次は君だね」
俺の番…。
自己紹介とは一生のトラウマを作るイベントだ。子どものころは、自己紹介なんてよくあるし、何も考えずにいつもやっていた。
しかし、よく考えてみろ。自己紹介というたった30秒程度のイベントで、クラスのヒエラルキーが決定するというおぞましいイベントだ。
大国の大統領選挙でさえ、スピーチは30分以上、日本の政見放送だって9分もある。なのに俺たち学生には、30秒足らずでその後の学生生活を左右させるという場に立たせるのだ。正気の沙汰ではない。
自分がこれといって失敗したことはないが、一度失敗したタケル君がどんな中学生活を送ったか俺は知っている。絶対に失敗できないのだ。…あれ以来、自己紹介は嫌いになった。
しかし、嫌いだからとて避けては通れないのは知っている。
リアル人生ソロプレイヤーを舐めるなよ。
「俺は…」
待てよ、俺の名前はステータス画面に表示されてる名前じゃない。これはキャラネームだ。しかし、”アイサイト”の鑑定に間違いなく〈一零〉と映っている。ここはこの名前を言うべきか。
「一零です。漢字でイチ、ゼロと書きます。鈴木さんと同じ大学で、二十歳。趣味は読書とマジックですね」
「マジック?」
「ええ。手品です」
「おぉー!見たい!」
ハイ来た。趣味がマジックというのは嘘だ。正確にいうと、”人に名乗れる趣味を作るためにマジックを身に着けた”という順序である。自己紹介をするときの為ためだけに使うツールだ。
「とはいっても、ここには道具もありませんし、コインマジックぐらいしかできません」
尤も、コインマジックとカードマジックしか練習してないからそれ以外はできない。
「はい、これ使って~」
星華さんがニッコニコでポケットから小銭を取り出して俺に渡す。
そう。あくまでも向こうが見たいから提供するという形が大事だ。
「じゃあ、一番高い硬貨をお借りしますね」
500円玉を受け取り簡単な瞬間移動のマジックを見せる。
「凄っ…」
「全然分からなかった」
「やりますね」
期待通りの反応ありがとう。自己紹介で使うだけだが、ゲームしながらもオートパイロットやロード画面で練習した。陰キャの本気である。自己紹介を失敗しないための努力、侮るでない。
「魔法みたいだね」
「まぁ、この世界だとマジックじゃなくて本物の魔法がありそうですけど」
パームという技法で隠し持った500円玉を上手にポケットに処理して話を切り出す。
「ちなみに、俺もSLIGをプレイしたことがあります。この世界のことも、多少は知識があると思います」
そう、ゲームはあくまでも趣味の一つ。“たまたまSLIGをプレイしたことがある”程度の認識が望ましい。
「有識者が多いと助かるわね。それはそうと、消した500円は返してくれるかな?」
「…バレてましたか。本当に消えたということで諦めてくれませんでしたか」
「そこまでメルヘンチックに生きてないわよ」
星華お姉さんの差し出された手に、500円玉を置く。
「向こうに戻ったら、これぐらい奢って上げるわよ」
「そう…ですね。期待してます」
その言葉に、彼女は帰る決断をしているのだと俺は悟った。
何事もなく、掴みも上々で俺のターンは終わった。
陽キャは陰キャのフリができない。しかし、陰キャは陽キャのフリができる。つまり、陰キャは陽キャの上位互換だと自分に勝手に言い聞かせている。
「よし、アタシね」
ロリッこお嬢さんのターンが始まる。
「綾小路詩音よ。詩に音でシオン。国際学部4年生の22歳で趣味はゲーム、特にFPSとRPGね。オフラインゲーや紙芝居ゲーは興味ないわ」
こいつ、そんな趣味を堂々と…。恐れ知らずか!?
「勿論SLIGもプレイしてるわ。それと、先に言っとくわ。私は元の世界に戻る気は無いわ」
「ほぉ、気が合うな。訳を聞こう」
「向こうはつまらないもの」
「同感だ」
厨二患者とロリ嬢様が何やら波長が合ったようだ。黙って見ていたが、他の5人の視線が集まる。その目が語りかけている。
(お前も同じSLIGプレイヤーだったな。同類か?)
と。
俺は全力で首を振った。
「以上よ」
俺の気も知らないで、ロリ嬢様はピシャリと締めくくった。
「最後は私ですね」
俺が尤も警戒している俗称「囁きの少女」。いや、勝手に俺が警戒してるだけだが、人の心を読む固有スキルに、石橋を人に叩いて先に渡らせる狡猾さ、一番敵にしたらまずい相手だ。
「海崎澪緒です。心理学部1年の19歳です。漢字では、こう書きます」
「「!?」」
頭の中にイメージが伝わる。
「私が最後なので、私の役かなと思いました」
海崎と名乗った少女は、主語を入れずに遠回しに説明した。
「えっと、それはどういうことかな?」
イケメンの特殊スキル、聞き上手が発動!っと。
俺は察しがついている。むしろ、彼女が動かなければ誘導したところだった。流石要警戒人物。思考パターンが同じだ。
「いえ、“皆さんが隠している固有スキル”を出して手の内を見せ合うべきかなと思いました。幸いにも私の固有スキルの”アイサイト”で、相手のことをなんとなく読めます。悪い人でないということは分かるので、このまま互いを警戒して不要な不信感を抱くなら、本音で話し合ったほうがいいかと思いました。…不信感をいだくなら」
そういって彼女は俺を見る。
「な、なぜ俺の方を向く…。そしてなぜ2度繰り返す…」
「重要なことなので2度言いました。視線に意図はありません」
どこまで読まれているのか。本当に心の内まで読めるのか?SLIGにある〈心眼〉にそんな効果はない。
「それもそうね。じゃ、一番不信感の原因となっている零君から話してもらおうかな。色々謀ごともあるらしいし~?」
進行役の星華お姉さんが自己紹介から次の話題に切り替えた。そして俺がその最初の生贄か。
「ふーーーぅ。分かりました。勿論、他の皆さんもですよ」
「分かりました」
「ええ」
「いいだろう」
「はい」
「分かりました」
「異論はない」
「???」
大原大地を除く全員が返事をした。盾職の彼は、どうやら脳筋らしい。頭の中にハテナが浮かんでいるのが分かる。
「じゃあ、まずはこちらの手の内を見せますか…。海崎さんの言った通り、固有スキルがあります。名前を〈ゲームエンジン〉。詳細は不明です。付け加えるなら、SLIGのゲームにおいて聞いたことはないですね」
「ふんっ。無理もない。固有スキルは確認されているだけで4000以上。公開しない人を含めるとその数は運営でも無ければ知りようもない」
厨二病もSLIGのスキルの多さは理解している。
「他に隠していることは特にないですよ。まぁ、皆さんが思っている以上にゲームに精通しているというところぐらいでしょうか」
「そう。それは心強いわ」
ゲームに理解があるのか?お姉さん!?まぁこんな状態だ。ちょっとでもこの世界のことを知ってる人間なら歓迎されるのか。素晴らしい異世界!ここならゲームが趣味と公言できるのか‼
「他には…、何かある?」
「ちょっと待って…。なんで俺ではなくそっちに聞くんですか…」
星華お姉さんは海崎澪緒に話を振った。
「そうですね。興味深い話ということであれば、スリーサイズの下りとの時、何を考えていたかを聞くと面白いかもです」
「零…お前…」
「最低ね」
綾小路詩音と中二病患者が突っかかる。他の人の視線が痛い。
「待て、待って…。その言い方は悪意ありすぎ。話すんで、そんな目で視るのは辞めてください」
はぁ。リアルで久しぶりに知らない女性と言葉を交わすとこれだ。ホントクソゲー。
だからボイスチャットは付けたくないんだよ。
悪態をつきながらも誤解を払拭するために簡単に説明をまとめる。
「あの時は、桐生さんは確か、「私の力でキミのスリーサイズは把握している」と言いました」
「うん、言ったけど真似しなくていいわよ。似てないし」
「ア、ハイ。あの意図は、既に何かしらのスキルを隠し持っていて、それをチラつかせてこちらの反応を得ようと仕掛けたのでしょう。仮に何かツッコまれても冗談だと流せるし、誰かが突っかかってきたら、そいつも固有スキルを隠し持っているという情報が得られる」
「ええ。探りを入れようとしたのは事実だわ」
「そう。俺も含め、固有スキルを全て申告していないと思ってます。あ、大原君は全部申告したっぽいですね」
「うっす。したっす」
彼は素直な性格だ。お父さんちょっと彼の将来が心配。腕っぷしが強くても悪い女に騙されそう…。
大原大智の将来の心配は脇に置いて説明を続ける。
「皆さんは、スキルを過少申告している…。それは警戒してのことだというのは理解しています。正直あの場で全て語るのは愚策、あ、大原君を責めてる訳じゃないですよ?」
人との会話には気遣いが必要だ。久しぶりに長々と語るとボロが出る。気を付けよう。
「過少申告したとはいえ、あの場で申告していないことが悪巧みに思われるのは、いらない誤解を招くだけで回避したい。しかし、もし私たちの中で悪意を持って騙している人がいたり、王国の人間が悪い人だったら、手の内を全て晒したら不利になる。それで互いに自分から言い出すことができなかった。そんな感じですかね」
「まぁ、私から言わせていただきますと、一番手の内を隠そうと画策していたのはあなただと思いますが」
「澪緒ちゃん辛辣ねぇ」
確かに、一番不信感を持って接しているのは俺かもしれないが、別の俺はここにいる連中を含めてどうこうしようという気はない。悪意を持って俺を害する人がいた場合に備えての警戒だ。特に、王国サイドの人間は信用するのは情報を得てからだ。
「ま、まぁ。〈アイサイト〉持ちの海崎さんが悪い人はいないという保証を、自らの固有スキルを見せることで証明し、こうして手の内を見せあう流れになっているということです」
俺はだいたいの流れを説明した。
「はい。補足をすると、私が騙そうとしたり、自分だけ固有スキルを隠そうとした場合には他の人がそれに気づく手段は現段階ではありません」
海崎澪緒は自分から今の信用関係の土台となる自分がいくらでもそれを覆せるという欠点を指摘した。
「そこまで人を疑わないわよ」
「僕も澪緒さんを疑ってないよ」
星華お姉さんと鈴木悠希のコミュ力2トップが太鼓判を押す。
「いえ、零さんが思ってそうなので自分で口にしておきました」
「あなたねぇ…」
溜息交じりの星華お姉さんのジト目に俺は目をそらす。
「零さんの考えは当然です。信頼して下さるのはありがたいですが、手放しに信用するのは良くないと思います」
「それは、あの場にいた人たちの心も読めたからかな?」
俺はさっきの王との会見での話を切り出す。
「…驚きました。その結論にたどり着きますか」
「3人集えば謀。ましてや身分制度のある完全法治体制が未成熟の社会で、欲望を貪る人がいるのは当然だろう。世界の危機に反しても自己の利益を求める者がいるのは、むしろ健全ともいえる。」
「どういうことですか?自分はさっぱり分からないっすよ」
「ふんっ。大方、戦後のパイをどれだけ多く貰うかを競っているんだろう。凡俗の極みだな」
「「リュート君…」」
俺たちが感心して名前がハモるが、その先は誰も口にしない。
そりゃそうだ。
(まさか中二病患者の君がそこまで頭が回るなんて思わなかった。)
とは言えないからな。
「パイ…ですか?」
ナイスだ大智君!
助け舟に乗れ、という海崎澪緒の視線が飛ぶ。説明役を俺に押し付けないでいただきたい。
「分け前のことですよ。順調に魔王相手に勝った場合、他国や貴族達にもそれなりの見返りがあるんでしょう。金銭や領地だけでなく、俺らもそのパイの一切れだと思いますが」
「自分ら…っすか?」
「そう。一騎当千の勇者を、自分の国や領地に置いておくことは戦力的にはコスパが優れてそうですからね。抑止力にもなりますし。それだけで外交カードです」
「な、なるほど」
「まぁ俺でもアチラさんの立場なら、戦後のことを考えて今から動いてますよ。次の世代では勇者をどれだけ囲えるかが戦後秩序の主要因になりそうですからね」
「魔王のせいで全滅の危機が迫ってるのにそんなことをっすか!?」
「逆に言えば、失敗すれば全滅ですよ。二択に一つ。自分が生き残ろうとすれば戦後のことも考えるのは当然でしょう」
「…なるほどっす。なんとなくわかった気がするっす」
善良なる高校生を黒く染めそうだ。彼は彼のまま大人になってほしい。
「脱線しちゃいましたね。さて、俺の手札は出しました。次はあなたたちの番ですよ」
そうして、俺たちは互いの固有スキルの情報を交換した。




