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私の戦闘力は53万です…的な

 俺たちは、姫に案内され近衛兵団の修練場にやってきた。


 近衛兵団は王城の守護と王家の護衛が主な任務らしく、王城を拠点としてる。

 姫は話を通し、兵達はすぐに修練場を明け渡した。


「勇者様、私は近衛兵団長のカイルです。お話は伺いました。私がお相手いたしましょう」

 近衛兵団長と名乗る男。小綺麗な30代の男性は、その佇まいからそれなりの地位があるように思われる。



「面白い」

 リュートはそう呟いて修練場の中央に赴いた。

 噂を聞きつけたのか、続々と観客が増えている。



 リュートは木剣を渡され軽く素振りをし、そして、自信満々な顔で剣を構えた。


「だ、大丈夫でしょうか…」

 紅葉の心配は分かる。ステータスがいくら高くても、ゲームのアバターを動かすのとは違う。それに、クラスレベルは1。使用できるスキルはない。


 しかし…。

「大丈夫じゃないか?」

 俺も、この世界に来てから体が軽い。集中すれば”ゾーン”に入ったように動体視力も反射神経も遥かに上がっている感覚がある。

 ゲームの中で散々鍛え、何度も死に、自分の理想を追い求めるのがSLIGエスリグゲーマーだ。肉体のスペックが上がっているなら、ゲームで磨いた感覚は十分通用するだろう。


「それでは、始め!!」

 掛け声で模擬戦が始まる。


「参る!!」

 カイル団長が地面を蹴って距離を詰める。


「ぉぉ…」

 その人間離れした動きに、悠希が息を飲む。

「”縮地”か。近接職の基礎スキルですね。悠希もすぐに使えますよ」


 スキルを使用すれば、肉体の限界を超えたような動きを可能にする。使用には相応のリソースが必要であり、連発もできないが使い方次第でレベル差を優に覆すことが可能となる。


「!?」

 一瞬で距離を縮めたカイル団長の薙ぎ払った剣は、空を切った。


「いつの間に!?」

 カイル団長は、後ろに回り込んだリュートに対応するべく姿勢を急転させようとしている。

 けれど、勝負ありだな。


 ヒュゥン!!

 ゴッ!!

「ガッ!!?!?」

 木剣の風切音と、鈍い音が耳に届く頃には、カイル団長は地面に勢いよく倒れた。


「やるわね」

 腕を組んで黙って見ていた綾小路令嬢が一言。


 スキルを使わず縮地をカウンターで回り込むというのはなかなかできるものではない。それに、いきなり実体でやるのはよっぽど自信があったのか、それともただの馬鹿か。…うむ、後者だな。


「「お…おぉーーー!!」」

「すげぇ!!一撃で団長を!!」

 一瞬の間が空いて外野が歓声を上げる。




「どうやら、感覚はゲームと同じようだ。むしろ、信号伝達のタイムラグがない分、こちらの方が思い通り動く」

 何食わぬ顔でリュートは戻ってくる。


「そうか。…となると、未経験者はどうなるか…」

 俺は悠希や星華さんの方を見る。

「そうよね。私が試してみるのが一番よね」

 星華さんはリュートから木剣を受け取り中央に歩いて行く。


「い、いいんですか!?星華さんいっちゃいましたよ!?」

「ん?まぁ怪我したら紅葉さんが回復してあげればいいし、大丈夫でしょ」

「えぇぇぇぇええ!!」

 動揺する紅葉ちゃんには悪いが、怪我なんてしないだろう。いくら戦闘技術がなくても、元々のパラメーターの数値が違いすぎる。レベル差が50もあれば木剣ごときでは傷なんて付くはずもない。


「私が代わりにお相手をします」

 カイル団長の代わりに星華さんの相手をする男は、一礼して構えた。


「始め!!」


 …

 …

 …


 合図で互いが剣を交えるが、結果は予想以上に酷かった。


 剣術の腕前で言えば、絶対に近衛兵の方が高かっただろう。けれど、一撃の威力が違いすぎた。

 まるで、拳銃VS戦車のようなものだ。どれだけ精度の高い拳銃でも、戦車を壊すことはできない。それでいて、一撃放たれれば防ぎようもない。そんな試合だった。



「僕たちは、とんでもない力を持ってるってことだね…」

 悠希は自分の手を眺めながら呟く。


 ゲームの感覚では当たり前だったが、社会に生きる一人の人間として持つには大きすぎる力…か。

 そんな感覚を俺は意識していなかった。ゲームでも同じようにあった力。当たり前のように持っているこの力は、社会の秩序に属さない異端な力だ。


 ここはゲームではない。そのことを意識させられる。



「包丁と同じよ。要は使い方次第。力に善悪はないわ。私たちがどうあるかが大切なのよ」

「詩音さん…。そうですね」

「ええ。そうよ」


 こういう時は、綾小路令嬢のような振り切った考え方をしている方が説得力があるのか。

「何よ」

 俺の視線に気づいた令嬢は噛みついてくる。

「いえ…いいこと言いますね」

「…なんでアンタに言われると馬鹿にされてるように聞こえるのかしら?」

「そんな理不尽な…」

 俺がなぜ怒られる…。




「おぉ、やっとるなぁ」

「ん?」

「おや?」

「誰かしら」


 近衛兵達とは一風変わった服装を纏う男性がやってくる。40後半だろうか、顔についた傷跡が、歴戦の猛者だと語っている。


「失敬失敬。自己紹介がまだであったな。俺は王国軍総司令のジークだ」

 近衛兵団長のさらに上司、軍事最高責任者だ。どうりで近衛兵達もソワソワしているわけだ。


「どうも。零です」

「悠希です」

「詩音よ」

「リュートだ」


「おぅおぅ、見てたぞ?お前さんだな?近衛兵団長(カイル)を倒したのは」

「ああ。…それがどうした?」

「見事なもんだった。流石は勇者だ。しっかし解せんなぁ。今の嬢ちゃんは、からっきしの素人だった。一体どういうことだ?」


 まぁ、その疑問は当然だ…。


「カクカクシカジカで…」

 今までいた世界は平和な社会で、武術を修める人はおらず、俺とリュート、綾小路令嬢の三人は偶然にも習ったことがある…という設定を話した。

 ゲームや仮想空間の話を持ち出すとやこしいことになるからそういうことにした。




 もっとも、俺たちのやっていたのは武術の鍛錬や修行といういうような崇高なものではなく、ただ単に電子空間で遊んでいるだけなのだが…。


「ほぉ〜。じゃあ、お前さん達は剣すら握ったことがないのか」

「ええ、そんな機会はなかったので…」

「はい。私もありません」


「こいつぁー驚きだ。お前さんらは勇者の卵ってわけか」

 まぁ、パラメーターによるゴリ押しでこの城ぐらいは簡単に落とせるが、戦い方を知らない初心者プレイヤーなのは変わりない。

 初心者プレイヤーをいきなりレベル100にしてイベント直前に引っ張ってきたようなものだ。軍の最高責任者としては不安だろうな…。



「あら、司令長官ではありませんか。勇者様方の視察にいらしたのですか?」

 俺たちが司令と話していることに気づいた姫が声を掛ける。

「これはアリシア殿下。ええ、勇者がどれほどのものかをこの目で見ようと」

「あらあら、せっかくですし、ご自分で試されてみてはいかがですか?」

 姫はニコッと明るく笑う。

 この表情を知っている。国王執務室でも見た。どうせろくなことではない。


「いいんですかい?」

 その言葉は、姫ではなく俺たちに聞くべき言葉だぞ…。


「構いませんよ。王国最強と謳われるあなたが、直接見定めていただけるのでしたら間違いはありませんもの」

「買いかぶり過ぎですぜ?しっかし、伝説の勇者と手合わせする機会があるとは、滾りますなぁ」

 およそ戦闘用ではない軍服のような羽織りを脱いで、やる気満々でスタスタと歩いて行く。


「司令が直々にお相手を!?」

「こりゃ勝負は分からんぞ!!」

「馬鹿言え、司令が負けるかよ」

「勇者のレベルは100だと聞くぞ!?団長がさっき瞬殺だったじゃないか」

「た、確かに…」




 外野はすっかり観客気分で観戦している。

 これは、勝っても負けても大変だな…。



「ではレイ様、ぜひお相手をお願いいたしますわ」

「…なぜ俺指定…」

「深い意味はありませんわ」

 なんだ?嫌がらせのつもりか?さっきの仕返しか?


「はい、どうぞ」

 木剣を渡されて、溜息をつく。

 まぁ仕方がない。うまく収拾つけるには加減できる俺が適任か。リュートも綾小路もブレーキのない暴走列車だ。他の人では醜い争いになりそうだしなぁ…。




「どうした?」

 俺と数歩離れて向かい合うジーク司令は俺が乗り気でないことに気づいたのか疑問を投げた。


「…いえ、剣を握るのは久しぶりで」

 転職育成のために剣士にもなったが、俺のメインは魔法職だった。だから久しぶりの近接戦闘だ。

「そうか。まぁ、気楽に頼む」

 開始の合図をしてくれる人は、さっきの星華さんによってボコボコにされた人を搬送するためにいなくなってしまった。

「じゃ、始めましょう」

 俺は剣を構え直して準備が整ったことを示す。


「おうっ!!」

「ーー!?」

 消えた?視界に捉えていたはずの姿が消える。


 ガンッ!!

「っと!!」


「おいおい、なんで防げるんだ?」

 俺の後ろに現れた司令の剣を防いで振り返る。

「慣れ…ですかね。魔法剣士でしたか。こりゃまた珍しい職業で」

 今の動体視力を以てしても、残像も残さず消えるのは近接系スキルのできる技じゃない。

 となれば、魔法の類によるものだ。


「まあな。おらっ!!」

 ガンッ!!

 ヒュッ!!

 ヒュ!!


 ジーク司令官の両脇に現れた光の玉から放たれる攻撃が、斬撃の合間を縫って仕掛けてくる。


「ふぃぅ…」

 流石に、剣技だけでスキルありの歴戦の猛者相手は骨が折れる。魔法剣士の豊富なスキルと剣撃以外からの攻撃を躱すのは辛い。


「オラオラっ!!」

 ギンッ!!

 ガンッ!!

 バシュッ!!

 ヒュンッ!!


 …と、そろそろ頃合いかな?ジーク司令の剣撃も数回は受けたし、十分だろう。


「せやっ!!」

 司令は”縮地”を使い最短で俺に剣先を走らす。直線的な攻撃だ。当然次の手があるはず。俺が弾いた瞬間に、無防備になった左側面に魔法攻撃。それを躱すために重心をずらした瞬間に本命の攻撃ってところか。


 ーー付き合ってもいいが、土煙で服が汚れるのは嫌だな…。まだ夕飯前だし…。


「っ」

 突き攻撃に合わせるように、剣の腹同士を合わせる。

「!?」

「よっ!!」

 手首を返してジーク司令の剣を絡めとり、勢いを上に逃す。

「なっ!?」


 司令の手から離れた剣が宙を舞いーー

 ガランガランッ

 ーー地面に音を立てて落ちた。


「すげぇ!!司令長官の剣を!?」

「バケモンだな勇者は…」

「おぉおおおお!!」

 勝敗が決し、息を飲んで見ていた外野が騒ぎ出す。


「なん…だぁ…?今のは…」

 握っていた剣がなくなったことに驚きながら、ジーク司令官は俺に視線を戻した。


「なに?と言われましても…確か、朱雀流剣術の竜巻だったかな…?」


 対突き攻撃用カウンター、竜巻。


 攻撃力と器用性のステータスにかなりの開きがないと、成功確率はほぼ皆無な演舞や舐めプネタだったが、やはりレベル差は歴然か。


「異界の流派か。朱雀流…凄まじいな」

「あ、いや…」

 そういうのじゃないよ?攻略サイトの名前。朱雀の剣術ページに公開されている動きを朱雀流とプレイヤーが言っているだけで、別に流派とかそういうものじゃない。



「ジーク司令でもやはり勇者には敵いませんか」

 俺たちの元に駆け寄る姫はなんだか少し残念そうに言い放つ。その口振りは、俺が負ければ良かったと言わんばかりだ。やはり根に持ってやがる…。


「ハハハハッ。勘弁してくだせぇ。殿下。格が違ぇますよ」

「そうですか?私には貴方が押していたと見えたのですが…」

「手加減ですよ、手加減。スキルの一つも使われずにこのざまですよ」

「そ、そうなのですか!?」

 いや、そういう訳じゃない。そもそも俺たちはクラスレベルが1。スキルの一つも使えない。

「実はですね…」


 俺はジーク司令にクラスレベルが1でスキルを一つも覚えていないことを告げる。そういえば、姫にも言っていなかったか。


「で、では!手加減していた訳ではないのですね!?」

「あー…いや、してましたよ?そりゃしますよ。王国最強で軍の総司令官が瞬殺というのは流石に威厳とか士気に問題かなぁ?と思って色々考えましたからね…。それなりに見せ場も作っていい感じの勝負をした後に、勇者への期待もあるでしょうから勇者らしく綺麗に勝とうと苦労しましたよ」

「いやーはっはっはっは。こりゃ敵わんなぁ」


「笑い事ではありませんわ、ジーク司令長官!!それで、勇者様はあなたの見立てでどれくらいの戦力だと思いますの?」

 戦力?戦闘力的な?俺の戦闘力は53万だ…という感じのやつかな?

「うぅむ。そうですなぁ、精鋭の騎士団千人分…といったところでしょうな」

「せ、千人…!?」

 ああ、人数比ね。確かに、1対1000はキツイな。そんなに継戦能力はない。


「殿下、直接聞いてみたらどうです?正直俺では測りきれませんぜ」

「うぅ…そうですね。レイ様」

「は、はい」

 アリシア姫はこちらに真っ直ぐ向いて俺に質問した。

「貴方様はどれだけの兵を集めれば倒せますか?」


 何この質問…。俺を数の暴力で倒す気満々じゃん…。俺そんな恨まれることした?…したな。自覚はある。

「えっと…、姫様、それは俺を倒すということで…?」

「あ、間違えましたわ。レイ様の戦力は何人分の兵士に相当するのでしょうか」

「いやぁ…どうでしょうね…。ちょっと分からない…というか答えられない…というか答えたくないと言うか…」

「レイ様は何人分の兵に相当するかを把握するのは、作戦立案に重要な指標になりますから」

 それはそうだが、この姫様にそれをいうのは抵抗があるわけだが…。まぁいいか。

「…そうですねぇ…。ジーク司令が100人いたら勝つのは難しいですねぇ」

 1対1を100回なら負けることはないだろうが、一度に100人を相手にすれば勝ち目はないだろう。

 まぁ、戦力的不利な状況となれば逃げるに決まっているわけだが。


「…司令長官…、あなたは確か精鋭10人に相当する戦力だと言われていますね」

「そうですなぁ。相性にもよりますが、10人ぐらいは凌いで見せますよ」

「これは…いけますわね」

「いや、何が!?何がいけるんだよ!!」

「ふふっ。冗談ですわ。焦りましたわね?」

 …このくそ女ぁ…。



「さて、先ほどカイル近衛兵団長にはお伝えしましたが、勇者様方は実戦経験がないとのことなので訓練を近衛兵団の皆様にお願いいたしましたの。ジーク司令長官に伝えるのが後になって申し訳ありませんが、よろしくお願いいたしますわ」


 さっきカイル近衛兵団長に話していたのはそれか。プロから手ほどきされるなら悠希達も安心だろう。

「そういうことでしたかい。承知しましたぜ。…彼らもですかい?」

「俺はいい」

「私も」

 視線の先はリュートと綾小路、おそらく俺も含まれるだろう。

「俺も大丈夫です」


 誰に教わった訳でも武術の心得があるわけでもない。けれど、ゲーマーは戦いの中で自分にあった型を模索し、工夫し、作り上げていく。この世界の戦いのプロに教わるのは興味深いが、もう俺は自分の型がある。今の俺たちは”習う”より、”慣れろ”だ。


「まぁ、そうだよなぁ。むしろ、俺たちが教わりたいぐらいだ。ははははっ」

 冗談なのか本気なのか掴めない反応に困る自虐ネタには苦笑いしかできない。


「それじゃ、俺はここで失礼する。お前さん達、また相手をしてくれよな。殿下、失礼いたします」


 俺達はジーク司令官が離れていくのを見送る。


「レイ様とリュート様、シオン様は明日からどうされるのですか?」

 他の五人は近衛兵団に指南を受ける間、どうするのかということだろう。


「レベル上げだな」

「レベル上げね」

 息ぴったりだな…この二人。

「自分もレベル上げですかね」


 しばらくは別行動か。

 明日からの方針が定まり、俺たちは修練場を後にした。



 明日は王城の外に出れるだろう。王国との協力関係も築けたし、戦闘もゲーム時代と同じ感覚で行える。


 これまで不安要素が多くあり羽を伸ばせなかったが、直近の不安要素は解消した。

 明日は王都を見て回って自由に異世界を満喫するとしよう。


 クラスレベル上げとスキル習得は明後日からやればいい…。うん、そうしよう。


 俺は肩の荷が降りた感覚で、夕飯を求めに食堂に向かった。

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