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スタートライン

 俺たちは国王執務室から部屋に戻り、みんなで星華お姉さんの帰りを待つことにした。


「零…お前よかったのか?」

 リュートが主語もなく話を切り出す。

「何が?」

「何がって、死神契約よ!?何勝手に契約してるのよ!?馬鹿なの!?死ぬの!?」

 リュートの代わりに綾小路令嬢が答える。


「ああ〜。あれか」


「な、なんなんですか?死神契約って…名前が…」

 紅葉が”死神”という単語を気になったのか、気弱に尋ねている。

「破ったら死ぬ魔法の契約よ。あんなのゲームでも誰も使ってないわよ」

「え?零くんはそんな契約をしたのかい!?」


 驚いて振り向く悠希に、一瞬なんて返そうかと迷って答えた。

「えーまぁ、したと言えばしましたね」


「なぜ…。そうか…、だから零君は「一任させてくれ」と言ったのか…。危険を全て自分で背負うために…」

「先輩…自分感激っす!その姿、尊敬っす!」


 どうやら皆は勝手に勘違いしている。俺は別に君らを守って死神契約したつもりはない。もうここにくるまでの廊下で既に、俺とアリシア姫の間で締結されていた契約はシステム的に無効にしてる。

 ゲームエンジンでなら可能だと踏んだ。


 ーー死のリスク?誰がそんなもんを負うんだよ。お断りだわ。


 海崎のジト目が痛いが、今更「実はなんのリスクもないんだよねー」なんて言いだせる雰囲気ではない。

 ーー…しばらく黙ってよう。契約内容は守る気だし、問題ない…うん。



 部屋で星華さんの帰りを待つ間、他愛もない雑談が続く。

 この世界に来てからまだ三日。たった三日なのに、非リア充陰キャ廃人ゲーマーな俺でもこんな環境下にいると、それなりに親密にもなる。


「僕のことは悠希でいいよ、零くん。その代わりと言ってはなんだけど、僕も零って呼んでいいかな」

「あ…ああ」

 前言撤回。こいつと話していると、まるで自分がリア充になれたのかと錯覚する。…だが違う。単にこの鈴木悠希のせいだ。

 コミュ力チーターがいるせいもあり、俺たちの仲は円滑に進む。



 コンコンコン

 扉が叩かれる。


「どうぞー」

 俺の代わりに悠希が答えて扉が開く。


「ただいまー」

 星華お姉さんの声に俺は一安心。

 他の人には言っていないが、既に星華お姉さんは帰還してしまっているという最悪なケースも覚悟していたからだ。

「お、お邪魔します…」

 星華さんの影に隠れるように入ってきたのは、アリシア姫。


「アリシア姫?」

「姫殿下!?」

 当然それを見た彼らは予想だにしない人影に驚いて姿勢を正す。


「そのパターンか。星華さん、グッジョブ!」

「え?う、うん」

 俺のグッドサインに星華さんも戸惑いながらグッドサインを返す。


「結構結構。実に結構」

 これは予想以上の結果だ。

 アリシア姫と目が合う。散々掻き回してくれたな。これは大人気ない俺のストレス発散だ。

「懐柔政策は失敗でしたか?」

 俺は営業スマイルで彼女に微笑む。

「…読まれていたのですか…」

 先ほど見せていた表情の豊かさはなく、脱力といった感じに答えた。

 思いの外、落ち込んでいるのか…。もう少し最後の足掻きを見せると思っていたが、降伏状態か?


「えっと…星華さん…。俺の認識では彼女は、”全員帰還させることができないのに勇者召喚し、協力を頼み込むも全員帰還できないことを隠蔽しようとしている張本人”という認識なんですが、合ってますかね?」

 俺の予想が正しかったのかを確認するために星華さんに尋ねた。

「…どこまで分かってるのよ…」

 彼女は溜息まじりにそう返した。


「そうですねー…。本の内容は、大方帰還には宝珠が必要で、その宝珠が4つかしか残ってないから、帰れるのは4人だけ。それを知られたら勇者と国の友好関係が根底から覆されかねないから、その情報を知っている星華さんを先に帰還させて、「契約は守った」と言い張るつもりだった。けれど星華さんはそれを断って連れてきたってところですかね」

「大体合ってて怖いんだけど…。何?聞いてたの?」

「状況から逆算すれば…って感じですね」

 さっきの執務室での交渉時に姫様の反応が物語っている。


「…どうして宝珠の数があと4つしか使えないと分かっていたのですか…?宝珠の数は国家機密なのですよ?」

 アリシア姫は驚いていた。

 そうだったのか。それは初耳だ。驚いているのは無理もない。知っていた訳ではなく、勘に近い。だけど、

「どうしてか…?それは、内緒です」

 と答えておこう。


「そう…ですか…」

 根拠はない勘だ。説明するほどのことではないだろう。

 全員返せないという状況を仮定すれば、宝珠の数は8つ以下。宝珠が魔力を長年かけて膨大な量を蓄えれる特殊な魔鉱石から作られた古代文明遺産アーティファクトだということは情報共有の時に海崎が言っていた。


 前回の勇者召喚でも使われたはず。しかし、前回は6人、今回は8人。なぜ前回8人召喚しなかったのかを考えれば、おそらく前回は勇者の帰還も考慮して12個必要だった…と仮説を立てた。



 いくらでも他の要素が介入する余地があり、憶測の域をでないものだったから他の勇者には言わなかった。



「で?俺たちを返すこともできずに自分たちの都合で召喚してしまったことの贖罪意識でこちらに?」

「そ、それは…」

「あぁ。それだけでなく、そのことも隠し通して協力だけ得ようと色々謀ったことへの謝罪にですかね?」

「ぅぅ…」

 国王執務室で見せた気骨のある目は面影もなく、瞳の上に涙が揺らぐ。


「零君、その辺にしてあげて?姫殿下には姫殿下の事情があるのよ」

「星華さんがそう言うのでしたら」

 俺は大人しく黙る。もっとも、その事情というのは予想はつく。少なくとも一番帰ることを望んでいた星華さんが張本人を前に許し、温情を与えるだけの理由だ。星華さんが彼女を許すと言うなら俺がどうこう言うべきではない。



 星華さんは本の内容と、アリシア姫とのやりとりをみんなに説明した。


「ーーという感じ。だからいたたまれなくなって連れてきちゃった」

「そんなことが…」

「へぇー。分かったわ」

 一通りの話を終えて、星華さんは話を閉める。


「とにかく、宝珠が鍵だと言うことは分かったのでよしとしましょう。それで?星華さんはアリシア姫をどうするおつもりで?宝珠二個と姫を生贄に、今すぐ帰還することも出来ると思いますが?」

 俺は一応確認をする。

「そんなことしないわよ。殿下は私の妹のようなものよ。妹を犠牲に帰ろうなんて考えないわ」

「じゃあ、4年間は協力するということですか?」

「ええ」

 となると、全員4年間は勇者として活動することになる。


「皆さんは、それでいいんですか?ちなみに俺は、死神契約があるので協力しますが」

 まあ、その契約は破ったところでもはやなんのペナルティーもない訳だが。契約状態だということにしておく方が都合がよさそうだから黙っておく。


 一応俺は他の勇者にも尋ねる。

 アリシア姫の一連の行動を不快に思い、協力したくないという意見が出れば尊重する。

 どれだけ姫に都合があろうが、やったことは4人をこの世界の牢獄に繋いだということだ。


「あの…。全ての責任は私にあります。どうか国を、民を恨まないでください。皆様方のお怒りは私には計り知れません…ですが、どうかどうかご助力をお願い致します」


「恨んではいませんし、協力するつもりです」

「自分は後悔しないように行動するだけです。姫様の行いを責めるつもりはないっす」

「わ、私もです」

 と、海崎、大智、紅葉が答えた。


 残りの反応は予想がつく。

「俺はそんなくだらんことはどうでもいい。国も民もお前も恨む気はない。これは世界の選択だ」

「そうね。別に私は宝珠なんて必要ないし、怒ってもないわ」

 リュートと綾小路令嬢は帰還する気はなかったからそうなるわな…。

 寧ろ、召喚してくれてありがとうと感謝してる一派だ。この対応は、彼らなりの励ましなのだろうか。



「し、しかし私は…皆様を返す手段もなく呼び…あまつさえそれを隠し助力を乞おうと…」

「確かに、黙っていられるのは気分がいいものじゃないですが、そちらにも事情があったのでしょう」

 悠希イケメンのスキル”共感”と”聞き上手”が発動。


「…申し訳ございません…」

 頭を深く下げて謝罪する姿を見て、俺もさっきは言い過ぎた罪悪感に駆られる。


 しかし、これでやっと俺たちこちら側の人間と、この世界の人間が互いの立場を定め、協力できる体勢になった。

 召喚から3日。これがスタートラインなのだろう。



 それから俺たちは、アリシア姫と互いに自己紹介し、彼女の話を全面的に信じてこの世界のあらましを聞いた。




 昨日、一昨日で収集した情報以外にも色々教わった。


 まず、この世界には大きく分けて2つの勢力に分けられる。

 一つは人類。人種をはじめ、森霊種や獣人種、などだ。

 もう一つは魔族。魔人種や吸血種、喰種など。


 両者の違いは、聖気に愛されるか、瘴気に愛されるかの違いらしい。

 ゲームでは、魔族は無条件に”敵”だと思っていたが、裏設定というところだろうか。


 そして、人類と魔族は戦争状態だ。

 既に大陸の南半分を占領され、大陸の中心を境に拮抗状態。


 魔族は数こそ劣るが、高い戦闘力と魔物を従える能力で人類連合と互角に戦っている。

 いや、互角以上だろう。人類は既に連合を組み戦っている。一方魔族は、軍という単位でなく小さなグループだ。

 そもそも国という単位を魔族は持っていない。猿山の猿と同じく、多くて50人規模。しかし、魔王が加われば話は別になる。


 だからこそ、貴重な宝珠をかけて勇者召喚を行い、人類側も戦力増強を図ろうとした。




「南の国境に城壁を築き、ここを絶対防衛線として侵略を食い止める計画です」

 大陸の地図を使って魔王軍対抗戦術を説明してくれるアリシア姫の話を俺たちは黙って聞く。


「なるほど。魔界との国境に城壁を作り、100kmごとに城塞がある…。そこを防衛線に、突破しようとする相手に対抗する…ということですね」

 敵にしてみても、防衛陣地との戦闘となれば苦しいだろう。防衛線としてはいい立地だ。しかし…

「一点突破される可能性は?一度破られたらこの布陣では中まで入られそうですが?」

 絶対防衛ラインというのは、破られるものである。

「魔族といえど、国境越えには2日はかかるでしょう。その間に、周囲の砦からも兵を集めることができます。時間は私たちにあります。総戦力での勝負となれば、防衛戦の私たちの方が有利ですし、地の利もあります。それに…」

 こちらを見る。

「…なるほど勇者も加われば、か」

「はい。私たちはそう望んでおりますわ」

 魔王を倒してくれ、ではなく、人類を守ってくれ。ということか。


「ふんっ。防衛ばかりでは話にならんぞ。ジリ貧だ」

 背もたれに大きくもたれ掛かってリュートが言う。その通りだ。負けはしないが勝つことはできない。


「それは…そうですが、人類の生存圏を守るので精一杯です。勇者様方が協力してくださることで、活路も見出せるかもしれませんが今のところは…」

「そうですか…」


 深刻な状況だと言うことは分かっていた。

 俺たちはその浮かない表情に言葉をかけることはできなかった。


 魔王進軍がどれほどの脅威か分からない以上、安易に「魔王は任せろ」とは言えない。


「それで、俺たちにはこれから何を?レベル100とは言え、戦闘経験ありませんよ?」

 俺やリュート、綾小路令嬢はゲームとしてアバターを使っての戦闘はしているが、実際の肉体を動かしていた訳ではない。他の5人に至ってはSLIGエスリグをプレイしていない。

 レベル100という身体的なアドバンテージがあったところで、実際に戦闘できるのかという不安も残っている。


「それでしたら魔王復活まで1年ありますので、天賦の才を持つと言われる勇者様方でしたらきっと魔王軍にも劣らない力を身につけられるでしょう。魔族だって恐るるに足りませんわ!」


 アリシア姫は期待の眼差しで俺たちを見る。



「話がまとまったところで、何をやるにもまず己を把握しておくべきだ。我が魂に刻まれし隠された力、一つ試してみよう。」

 リュートはスクッと立ち上がって言った。

「な、何をでございましょうか?」

 見上げるように姫が聞く。

「訓練場を借りたい」

「え、えっと…。近衛兵団の修練場でしたら…」

「ふむ。使えるか?」

「は、はい」



 まだ聞きたいことは山ほどあるが、実際に自分たちの力量を図る必要はある。アバターでなく自分自身の肉体で問題なく動けるのかということは重要な要素だ。

 遅かれ早かれやらなければいけないことだから、俺もリュートの提案に乗った。

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