明日に備えて
「お邪魔するよ」
男三人が揃って入ってくる。風呂上りの水の滴るイケメン、マジ許すまじ。
闇落ちしてでも勇者を倒す魔王軍側に付くか考えるレベル。
「ん?どうしたんだい?僕の顔に何かついてるか?」
悠希は俺の視線に気づいて首を傾げる。
「…いや。遅かったですね」
「ああ、飲み物を貰いにいってね」
そういって陶器の壺のような入れ物を見せる。
「…気が効きますね…」
流石イケメン…。顔よし、コミュ力よし、気配りよしとかマジなんなん?本格的に魔王に会いに行くべきか考えるレベル。
「大智くんの提案だよ」
「あ、そうでしたか。ならよかった」
「ぇ?」
「…こちらの話です」
ドンドンドン
バーンッ‼︎
騒がしく扉が叩かれ勢いよく開かれる。綾小路令嬢だろう。
「おい…ノック…」
「したわよ」
いや、ノックした意味を問うてんだよ…。
全員が揃って”大原大智が持ってきてくれた”(←これ重要)フルーツジュースを飲んで一服する。
「さて」
本題に入る前に皆の背筋が正される。
「王様との謁見は明日に控えてるわ。今日結論を出さないといけない…」
星華さんの言葉に頷く。
「ちょっといいですか?」
進行に割って入るのは陰キャの俺の役目ではないが、これは先に伝えた方がいいだろう。
「何かしら?」
「明日、国王と対話するのは俺に任せてもらっていいですか?」
「代表ってこと?」
「まぁ、そうなりますね。どちらかというと、帰還の情報を引き出すためですけど」
「最初からそのつもりだったけど、ねぇ?」
皆も首を縦に振る。
「あ、そうでしたか」
「じゃあ、前回と同じくどうしたいかを発表して、その後どうするか決めるってことでいいかしら」
「ああ」
「はい」
「うっす」
さて、昨晩と情報の量は変わった。多少はこの世界について理解はある。それで考えが変わったかどうか…。
…
…
…
という期待は、見事に裏切られる。
俺が海崎に頼んでいた通り、彼女は一刻も早く帰りたい派になった以外、前回と同じだった。
星華お姉さんは、一刻も早く帰りたい。
綾小路令嬢とリュートはバリバリ戦って楽しみたい。
後の五人は、生存優先で可能なら協力もする…つまり、少なくとも4年は残ってその後のことは4年後考えよう派だ。
「もしね、本当に帰る手段がないなら4年間は私も一緒に戦うわ。…それしか方法はないみたいだし、私だけ逃げるのはできないわ…」
星華お姉さんもその可能性をちゃんと考えているなら、俺から何かを言う必要はないだろう。
つまり、俺たちの方針的には国王から帰還方法を聞き出し、可能なら星華さんはすぐ帰還。それが無理なら、4年間は皆で協力してもいいという方針になる。
そして重要なのは、帰還についてはこちらの裁量で出来るようにするということだ。
すぐに帰還する気はなくとも、その手段を確保しておく必要はあると皆も理解している。
「分かりました。明日の会見ではできる限り皆さんの意見が通る様に交渉します」
「ええ、お願いね」
「よろしく」
「お願いします」
「っす」
「それで、もしですよ?もし、想定してないようなことを王国サイドから言われても、絶対に動揺しないでください」
俺は皆に心の準備はしておくように伝える。
「想定してないようなことって…なんだい?」
「文字通りですよ、今この場で想定できないことなので、言えません」
「そりゃそうだね…」
「それと、それに対して俺が何を言っても動揺しないでください」
「き、君は何かとんでもないことを言うのかい?」
悠希は俺の言葉に詰まりながら聞き返す。
「…その予定はありませんが、備えは必要でしょう。あくまで冷静にお願いします」
「ああ」
「分かったわ」
「ふんっ、造作もない」
俺たちは明日の謁見で何を伝え、どう振る舞うかの確認を行って第二回のミーティングを終えた。
「あれでよかったんですか?」
二人きりになった部屋で海崎が俺に尋ねる。
「ああ」
彼女には、帰るべき理由があり帰れるなら帰りたいという星華お姉さんと同じ立場をとってもらった。
「…悪いな」
実際の心情とは別のことをさせた。それに、他の皆には騙す様な形になっている。
「いいですよ、必要なことなんですよね」
「まぁ、この設定が必要になる時は、最悪な時なんだけどな…」
最悪のパターンに備えてのこと。だからこそ余計に申し訳ないと思う。
「明日の王国側の出方次第だ。案外すぐに教えてくれるかもしれないしな、帰還方法」
「そう…ですよね」
俺の口からそんなことを言ったところで、彼女自身もおそらく分かっているだろう。
彼らがそんな簡単には返してくれない、と。
そこに善意も悪意もない。ただ、生き残りたい。国を残したい。人類を守りたい。そういったこの世界の人間にとっては正義と言える想い。
彼らには彼らの想いがあり、俺たちには俺たちの想いがある。ただそれだけだ。
「最悪の可能性は…武力で、ですか…?」
勇者のステータスは圧倒的に高い。最悪帰還させないというなら力づくでという選択肢もある。
「いや、それはなしだ。この国と敵対すれば当然連合を組んでる他の国とも敵対関係になるだろう。魔王軍が俺たちを歓迎してくれる訳はないだろうし、四面楚歌だ。戦争が終わって魔王軍が勝ったら、俺たちが生活できる環境は残らないだろうし、人類連合が勝ってもこちらにいる限りお尋ね者だ。例え武力で帰還方法を聞き出しても、本当に4年間帰れないのであれば、逃亡生活だ…」
「…最悪ですね」
「全く以てその通り」
当然王国側もそれを理解しているはずだ。だから、向こうは帰還の方法はできる限り隠すというのが合理的な選択となる。
「打ち合わせ通り、海崎は心眼でアチラ側の反応を伺ってくれればいい。もし嘘を言ってるようなら念話で教えてくれ」
「ええ。…といっても、私の心眼でも確実じゃありませんよ?参考程度にしてください」
「ああ、それでも頼りになるもんだ」
俺が実際に掌で踊らされたんだ。それだけで信憑性は高いと判断できる。
会話は切り上げて各々自分の作業をする。
海崎はノートを広げて何か作業をしていた。この世界の情報でもまとめているのだろうか。
俺は俺で、明日の万が一に備えて、自分の固有スキルの能力を把握するために再び〈ゲームエンジン〉のコンソールを弄ることにした
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//プレイヤーの右手の上に
player.RightHand.on(x=0,y=0,z=0)
{
//Stone_212を作成する
Create.gameObject(String objectName=”Stone_212”);
}
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
光魔石で調べたオブジェクト名”Stone_212”を使って記述する。
俺の手の上に光の粒子が迸る。突如、何もない空間に光魔石が現れた。
「それが、零さんの固有スキルですか」
俺の手にした光魔石を見る海崎が尋ねた。
「まぁ、そんなところ…」
試行錯誤し何ができて何ができないかを調べようとしているが、なんでもできて何ができないかが逆に分からない。
検証に使ったコードは
//オブジェクトをX軸方向に1m移動させる
【transform.gameObject(x=1,y=0,z=0)】
//範囲内の時間を10秒停止する
【System.Threading.time.Sleep(1000);】
//当たり判定を無効にする
【this.gameObject.Collision=(false);】
//重力方向を上向きにする
【System.useGravity = (y=+1)】
などなど。本当になんでもできるな…。
「…何…してるんですか?」
重力を反転させたせいで天井に逆さに立つ俺を見て呆れた様子で尋ねる。
「固有スキルの…把握?」
「なぜ疑問形…?」
「把握ができないからなぁ」
「重力操作みたいな能力なんですか?さっき何か石を作ってましたけど」
「んー…当たらずと雖も遠からずだな」
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//指定範囲内で次の処理をする
Range.space(x=±2,y=±2,Z=±2)
{
//重力を0にする
System.useGravity = (y=0)
}
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「わっ⁉︎」
俺を中心に4m四方の空間が無重力状態となる。
「やっぱ、他人にも影響あるか…」
浮かび上がる海崎を見て確信する。
「驚かせないでくださいっ」
「いやすまん」
天井を蹴って指定範囲の外にでると、体は重力に捕まり床に落ちる。
「やっぱ…これはそういう系だよなぁ…」
思わず呟いてしまう。これは、開発側のツールだ。SLIGの魔法とは全くの別物。
それから海崎を巻き込んで試行錯誤し、おおよその把握はできた。
1つ、この能力には効果範囲と効果時間の上限がある。
重力操作系の式を実行しても、5、6分で解けてしまった。永続にはならないようだ。範囲指定もX軸、Y軸、Z軸で±10m、つまり俺を中心とした相対座標で半径10m範囲内に限る。
2つ、重ね掛けはできない。
これはコンソールの仕様か、2つ目の式を実行すると、それまで実行されていた処理が無効化される。とはいっても、実行式が一つなだけであって、一つの式内に羅列すれば複数の事象式を実行できるから関係ないとも言える。
3つ、直接的な効果を他の人には与えることはできない。
海崎のユニットIDを指定して行った処理はエラーを起こした。
エラー内容は
【[Solve:Error [This entity is disable]](このエンティティーは無効です)】
つまり、俺ができるのは、俺自身か、オブジェクトか、空間に作用する事象式のみだ。
制限はこれぐらいだろうか。あとはできないことを探す方が無理なぐらいだ。
記述が面倒だが、
ifやelseを使った条件分岐構文を使えば、何重もの複雑な処理も実行できる。まさにゲームエンジンだ。
「ただのチートスキルですね…。零さん…」
一見有用そうで、無限の可能性がある様に見えて実は落とし穴がある。
「でもなぁ…自爆率が高過ぎて怖いわ」
先ほど魔石の当たり判定(Collision)を無効(false)にしたら、俺の手や床をすり抜けて落ちていった。当たり判定とは、オブジェクトとオブジェクトが通り抜けない衝突の現象だが、それをオフにしたら四次元空間にある様に全ての物質から透過する。けれど、重力は作用するため、下に落ちていったのだ。
あれを俺自身にやっていたら、今頃地中の真ん中に埋まっている。即死してたかもしれない。
他にも、絶対動かせないような柱はなんの抵抗もなく動かせるし、同じ空間に2つの物体は置けないのに、無理やり置くと物体が物体にめりこんでしまう。人間のいる場所にやれてしまうのかは分からないが、うっかり人を殺める…なんて可能性まである。
普通はできないことを無理やりするというのは、考えられない危険が潜んでいる。
「…気をつけてくださいね?」
「わかってる…」
俺の能力の把握が進んだところで、明日の謁見に備えて寝ることにした。
誤字訂正ありがとうございます、ありがとうございます。




