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ひねくれ者の勇者、誕生

 スキル”ゲームエンジン”


 これほどチートと言える能力はない。

 あらゆるゲームには、そのゲーム内で行われる情報を計算する(システム)がある。当然、この世界(ゲーム)にも、森羅万象、そのゲームエンジンによって計算され、結果を出力している。


 俺の能力では、特定領域内の法則を改竄・制御することが可能だ。質量や魔法の威力、残りHPだけでない。重力加速度から光速にいたるまであらゆる事象式を改竄・制御できる。

 つまるところ、世界の摂理を操れるというスキルだ。

 こんなチート級スキルがあれば、楽して平穏な生活が遅れそうだが、ことこの世界ゲームに至っては、一向に不安が拭えない。







 西暦2050年。仮想量子演算技術を使った初となるMMORPSG(マルチロールプレイングシミュレーションゲーム)

【ソール・ライク・インフィニティ】 ゲーム、通称SLIGエスリグがリリースされた。


 キャッチコピーは、〈 生存せよ 〉

 終末の混沌(ロストカオス)と呼ばれるイベントが、春夏秋冬の年4回行われ、世界を滅ぼす因子との戦争に、プレイヤーは一丸となって戦うことがこのゲームの醍醐味だ。


 勿論他にも、魔法と剣のファンタジー世界として、プレイヤーはダンジョンやクエストといった”よくあるRPG要素”も楽しむことができる。



 俺は、人生の夏休みとも言える大学生活をつぎ込みハマっていた。



 月曜の朝。

 土日をほぼ徹夜でプレイしてたせいで、寝不足気味だ。しかし、本業である学生として最低限やらなければならないこともある。通勤通学ラッシュに被る1限目の授業は避けたいが、必修科目は仕方がない。


 パーソナルスペースの概念が消失したかのようなバスに揺られていた。

ヴーヴー…

ポケットのスマホが誰かからの着信を知らせる。どうせどこかの広告だろう。


 冴えない頭でそんなことを考えていると、浮遊感を得る。

 ハッとした時には周囲の空間が引き延ばされ、眩しい光覆われる。あまりの眩しさに瞼が勝手に閉じた。次第に光は納まり、目の前が真っ暗になる。


 我に返った時には、そこはもうバスの中ではなかった。

 高い天井、赤い絨毯。見慣れぬ旗に記された紋章。小さな体育館程の空間に漂う不思議な空気。先ほどまで一緒に乗っていた20人以上の乗客は減り、10人程度の男女が状況を掴めず俺と同じであたりを見渡すことしかできていない。




 正面の一段高い場所には装飾に彩られた椅子があり、その椅子にひときわ存在感のある70代と思われる白髪の男性が座っていた。


 王…か…?


 頭にある金色の王冠に赤いマント。天窓から差し込む光が後光の様に照らして神秘的な印象を与える。それは誰もが思い描く様な王の姿だ。


「よくぞ参られました。異界の勇者達」

 第一声は、法服の様な黒い衣装を身に纏った40代の男だった。

「私はシモン・ラルードと申します。こちらは、アストリア王国第12代国王、ウェリオス・バーン・アストリアであらせられます。突然の召喚で混乱されるとは思いますが、まずは国王陛下からのお言葉をお聞きいただきたく思います」


 シモンと名乗った男は、横にいる先ほどの王冠を被った男を紹介した。

「オホン」

 おもむろに玉座から立ち上がり、段を降りこちらに歩み寄る。

「ワシはウェリオス、この国の国王である。まずは異世界から唐突に召喚させてしまったことを詫びたい」


 本当に唐突な流れに、当事者である俺たちだけが取り残されているように話が進んでいる。

 気づけば知らない場所で、知らない人が頭を下げて謝罪しているのだ。余計に混乱する。

 人間、本当に理解を超えた現象を目のあたりにすると騒ぎ立てることはないらしい。言葉も出ないとはこのことだ。


 しばらくの間、頭を垂れていた国王と名乗る男は顔を上げて話を始めた。


「今、この世界は危機に瀕しておる。恥ずかしいことに、我々の手ではどうしようもない。そこで、異世界から力あるものに助力を願おうと、こうして召喚に至ったのじゃ」


 国王の話に耳を傾けながら、アストリア王国という国名をどこかで聞いたことがあると思っていたが、思い出した。


 SLIG(エスリグ)の世界では3つの世界がある。地上世界(ミズガルド)天界(アースガルド)冥界(ヘルヘイム)。その中で、主な舞台となる地上世界(ミズガルド)にある人間の国の名前がアストリア王国だった。


「シモン、詳しい話を」

「はっ」


 国王は玉座に戻り、代わりにシモンが一歩前にでる。


「ことは60年前になります。国内の”予知”の天恵を持つ者たちが、魔王によって世界が蹂躙されるという未来を見始めました。我々人種も他種族との同盟や軍の増強など取り組んではおりましたが、ついに”未来視”の天恵授与者の多くにもその未来が見えるという自体に陥りました」


 深刻そうな顔つきで、シモンは一旦目を瞑り、再び説明を続ける。


「”未来視”に見える未来は何もしなければ現実になる程正確です。方々に手を尽くしてはいるものの、実際に南国境付近では魔物との戦闘が日に日に増えています。預言者シドは、来年、魔王が誕生するだろうという預言を出されました。魔物を統率する力を持つ魔王が誕生すれば、魔人族は人類との全面戦争に乗り切るでしょう。その場合、人類の勝算は…。限りなく低いとされています」


 魔王によって人類が滅ぼされる…というのはよくある話だ。まぁ、物語の中のお話ではあるが…。


「あの…」

 ”こちら側”の一人が声を上げた。制服を着ているところから、高校生だろう。短髪で服の上からでも分かるガタイの良さから、体育会系だと勝手に予想する。


「何でしょうか」

 ”あちら側”も始めてこっちからの言葉の投げかけに少し驚いている様子だったが、すぐに応じる構えを見せた。


「先ほど力ある者に助力をということでここに連れてきたと言ってましたっすけど」

「はい」

「自分は、人と戦えるほど強くはないっす」


 いや、お前のガタイで無理だと言ったら、俺なんてマジでアメーバレベルだぞ。言葉を選べよ。


「それはどうでしょう。異界からの召喚者はみな、強大な力を持っているという伝承があります。眉唾ものではありましたが、事実、こうして異世界から勇者召喚の儀式が執り行われたことを鑑みると、その信憑性も自然と高まります」


 勇者召喚自体が「ワンちゃんあるか?」のノリだったのかよ…。


「視界の隅に微かにこのような印があるかと思います。目を閉じて探すと見つかりやすいと思います。その印に意識を向けると、ご自分についての様々な情報が分かります」


 そういって、準備していた紙に記されたマークを見せる。

 それはアイコンでよくある〈詳細を表示させる〉意味の逆三角形に三点マーク。


 これか…。


 意識しないと気づかない、いや。意識したから見えたのか。視界というより、脳裏に映るような感じだ。


 アイコンに意識を向けると視界に見慣れた画面が表示された。


「マジか…」

 ボソッと音になって漏れた声に、近くにいた人が俺を見る。

ーー独り言だ、気にしないでくれ。


 それは紛れもなく、SLIG(エスリグ)のユーザーインターフェースだった。

 ステータス以外にもいくつかタブがある。スキルツリーやパラメータ画面、ストレージなどそっくりそのままだが、マップ画面やシステム画面がない。システム画面にはログアウトボタンがあったのだが、完全に同じということではないようだ。


「すごぃ…だんだこれ」

「ゲームみたい…」

「よ、酔う…」

「え、えぇ?」


 自分の体に起こる不思議な体験に小さくどよめきが起こる。


「おそらく、皆さんのステータスは私どもよりも遥かに優れた数値が記されていると思います。伝承では異世界の民はみな天恵があると記されています。スキル欄もご確認ください」


 ーーーーーーーーーーーーーー


 〈ステータス〉


【名前】一零

【種族】人間

【性別】男

【年齢】20

【レベル】100

【職業】勇者

【クラスレベル】1


 STR(攻撃力)=30,000≒ 30K

 DEF(防御力)=5,105≒  5K

 VIT(耐久力)=3,463≒ 3K

 RES(魔抗力)=5,354≒  5K

 INT(知力)=30,000≒  30K

 AGI(俊敏性)=8,165≒  8K

 DEX(器用性)=12,568≒  12K

 MND(精神力)=5,364≒  5K

 SCL(社会性)=3,015≒  3K

 LUK(運勢)=3,246≒  3K




【固有スキル】

 ゲームエンジン


【習得スキル】

 言語理解


【クラススキル】

 なし


【加護/祝福】

 戦神の恩寵

 女神の祝福

 箱庭の祝福

 天魔の囁き



 ーーーーーーーーーーーーーー


 このステータス画面、バグってやがる。

 俺の名前は一零(よこいちれい)ではない。それはSLIG(エスリグ)で使ってるキャラネーム。


 次に、ステータスパラメータが零のステータスと同じにも関わらず、職業が勇者になり、クラスレベルとクラススキルがリセットされている。



 付け足すと、零は固有スキルは持っていなかった。加護も祝福も俺の知らないものばかりだ。しかし、全くの未知なる異世界に来たという訳ではない様子。少なからず、俺の知ってるSLIG(エスリグ)要素がある。




 まずはこの世界について深く知ることが先決だろう。




「確認できましたでしょうか。レベルはステータスの合計値を大まかに表したものです。ちなみに、我が国の兵士の平均はレベルが25程です。いかがでしょうか」

 シモンが比較となるこの世界の基準を示してくれる。



「え、えっとレベルは100、数値の平均だとだいたい1万ぐらいっす」


「「おぉ!!」」

「流石は勇者様だ」

「レベル100!?これほどか⁉」

「これで我々も…」

「伝承は本当であったか…」


 先ほどのガタイのいい男子高校生が答えると、これまで沈黙していた外野に立つ人たちが騒ぎ出した。



 俺のステータスも平均値は1万程だ。同じ1万。しかし、SLIG(エスリグ)の常識で言えば、これは天地の差がある。


 SLIG(エスリグ)でのレベル上限は100。レベルが上がるごとにステータスの項目に100ポイントがランダムに加算されていく。


 RPGでは、汎用型より特化型の方が強いというのは定石だ。


 SLIG(エスリグ)では振り分けはランダム。

 しかし、完全にランダムというわけではなく、職業やクラスによって僅かな傾向はある。



 そこでプレイヤーは、時間と労力による力技でこれを調整しようと思いついたのだ。



 それが俗にいう”転職育成方法”。




 転職させるとステータスとレベルはリセットされるが、転職前のポイント振り分け傾向は継承される。

 つまり、自分の上げたいステータスが上がりやすい職業を、何度も転職を繰り返すことで、成長項目をコントロールできる。


 とはいっても、各ステータスの上限は3万と設定されているため、その壁は超えれない。


 尤も、”転職”にはレベルカンストするか、アバターを新しく作るかの2択しかない。何度もレベル100に到達し、転職するような酔狂な人間はそういない。


 正直、SLIG(エスリグ)の間違った遊び方だと思う…。




 運営にも、「レベル上限があるゲームで、永遠とレベル上げをするプレイヤーがいるとは想定していない」とまで言われている。




 この世界でのステータスの役割が、SLIG(エスリグ)と同じ働きをするのならば、レベル100は最強上限であると同時に、レベルMAXが絶対的に強いということにはならない。



「固有スキルを確認させてください。こちらは宮廷魔術師のリサ・ロスワン副団長です」

「紹介にあずかりました、リサ・ロスワンです。固有スキルについては多少の理解があります。持っている方がいらしましたらお手をお挙げください」


 正確に数えて、俺の他に召喚された人数を把握する。


 俺を含めて8名。

 男子4人と、女子4人。あのバスには20人以上は乗っていたが、半分もいないことになる。



 俺たちは互いに顔を合わせる。



「いいんですか?」

「⁉」

 俺にだけ聞こえる様に、後ろにいた女性が囁いた。


 この場合は、既に何かしらのスキルで俺の固有スキルがあることが分かっている上で、「申告しなくていいんですか?」という意味だろう。


 何のことだ?ととぼけるのは無理か…。例え誤魔化せたとしても不信感は持たれる。

 しかたがない…。


「能力を隠す俺カッコイイ!をやりたいから黙っておきます」

 少し後ろを向いて小さく俺はそう返した。



 勿論それは冗談だが、隠す理由に深い意味がないと理解してくれれば、不信感からバラされるということはないだろう。ここで言わないデメリットはないが、言った場合のデメリットがあるかもしれない。



 …いや、既に後ろの女子に”なんだコイツ”と思われるというデメリットがあったか。



 前に視線を戻すと、4人が手を上げていた。

「ではあなたからお聞きします。スキル名を」

「は、はい」

 気弱そうな制服を着た女子高生。俺の時代は髪染めは禁止されていたが、茶色くがっつり染めてるな…。いや、時代といってもそんな違わんか。


「あの、アスピライトと書いてあります」

「おぉ!!」


 知ってる。SLIG(エスリグ)でも最上位…というか、性能だけで見ればかなりぶっ壊れた回復術だ。


「おぉぉ!!それは回復術式です。あらゆる傷を治す高位回復魔法を広範囲に持続的にかけることが可能です。この国では、教皇猊下以外には使える人はいないでしょう。大変貴重な固有スキルです」

「そ、そうですか…」

 少し食い気味で迫るリサ副団長の気迫に押されている。 


「次はあなたですね。スキル名を教えてください」

「あ、ハイ。オーバーキルって名前ですね」

 初耳のスキルの名前を口にするのは、大学で見たことある顔だ。イケメンで覚えてる。死ね。おっと…つい本音が。


「オーバーキル⁉伝承にあるスキルか‼」

「これは英雄ですな」

「ガヤガヤ」

「ワイワイ」


「お静かに願います」

 俺たちの後ろにいるのは貴族だろう。衣服や立ち振る舞いから身分が高いことは伺える。彼らが大きく反応した。それをシモンが止める。


「オーバーキルは、前回の勇者様の一人、大英雄ウェーノ・ユーが持っていたスキルです。全ての攻撃力が2倍になります」


 なんだそのぶっ壊れ性能。攻撃力2倍とか、攻撃値マックスにした状態で放たれたら防御系のステータスがいくら高くても吹っ飛ぶ。


 というか、ウェーノ・ユーのって上野ユウって名前だろ?なまり過ぎだろ。発音が外国人ぽいからスルーしたけど、がっつり日本人じゃねーか、前回の勇者殿。


「攻撃力2倍…。分かりやすくていいですね」


 単純で強い。俺もオーバーキル欲しいわ。攻撃力2倍で放たれる豪滅級魔法とか見てみたいわ。



「次はあなたですね」

 先ほど第一声を上げたガタイのいい高校生君。イメージ的には、防御系のスキルを持ってるとしっくりくる。あの体格で俊敏性ブーストとかなら笑うわ。


「自分は、3つあります」

「「3つ⁉」」


 黙って聞いていた国王までも思わず前のめりになっている。

「ひ、一つずつ聞きましょう」

「はい。一番上がワールドガードっす」


 あたり。

 最強の防御スキル。物理攻撃に関しては”ほぼ”無敵の攻城戦必須スキルだ。やっぱ君は口調も体格も顔つきも盾職だよ。神様分かってるぅ~。


「ワールドガードは、空間に膜を張り、物理的な攻撃では一切壊すことのできない防御陣を作ります。味方の攻撃も内部から通りませんが、戦場ではとても有用な術式です。ちなみに、エリアガードを複数の術者によって増強させると同様の効果が得られます」

「分かりました。二つ目は武術〈豪〉っす」

「これはまた珍しい…武術〈豪〉は、あらゆる武術のスキル習得が早まります」

「それは助かるっすね。3つ目はマナプロテクトとあるっす」

「精神耐性や魔抗力を上げるスキルですね。あくまで軽減のスキルなので油断は禁物ですが、対抗術式なしに心理攻撃系の術式はほとんど無効化できる優れものです。素晴らしいスキルですよ!」


「そうっすか」


 反応が淡泊で食い気味に解説するお姉さんも心なしか落ち込んでいるように見える。


 それにしても、彼は非常に有益な情報を我々に与えてくれた。マナプロテクトはパッシブスキルだ。精神干渉系の魔法に対してのパッシブスキルとして間違いなく最強。

 本来であれば魔力や精霊力などをリソースに使って対抗術式を作る必要があるが、固有魔法のマナプロテクトはそれがなく、今も発動状態だろう。



 となれば、この異世界に連れてこられた右も左も分からない迷える子羊を、精神操作や魅了、誘惑等の術式で現在進行形で洗脳しようとしているかも…というのは杞憂だろう。



 とはいえ、信用に足る相手かどうかの判断は慎重にすべきだ。




「最後は…確かあなたですね」

 手を手を上げていた最後の一人に注目が集まる。見慣れない制服を来た男子高校生だ。

「俺の名はリュート。俺の能力(チカラ)影縫(シャドウフォース)能力破壊(スキルブレイカー)だ」


 俺たち召喚者達に衝撃が走る。

 誰もが「こいつ、マジか…」

 という言うような表情をしている。かくいう俺も、彼の言葉が勝手に脳内で漢字に変換されルビが打たれている。


 おそらく俺たちが何かを叫ぶとしたらこうだろう。


(リアル厨二病患者だぁ!)


 リュート…いや、龍斗か?誰も名前は尋ねてないが、随分と自己顕示欲の高い奴だ。

 制服もよく見ると近くの北高の制服だ。原型が分からないまで厨二成分が盛り込まれていてパッと見気づかなかった。よく許されるな…。そんな恰好で登校とか、お母さん泣くぞ?いや、この場合、お父さんの方が泣きそう。



「あ、ああ。よろしくリュート殿」

 少し困惑しながらもリサ副団長は説明に入る。

「シャドウフォースは、影を扱うスキルです。影魔法では、決まった動きしか影にさせることはできませんが、シャドウフォースは思いのままです。夜や暗い場所では影の中に入ることもできるので、その汎用性は計り知れません」

「ふん。実に俺に相応しい」

「え…ええ。そうですね」

 ーーや、やめて!そんな目でうちの(世界の)子を見ないで!


 俺たちは無意識に目を背ける。見たくないものは見ないように…。


「スキルブレイカーは、その名の通りスキルを破壊します。発動中でも、発動されたスキルであっても破壊されます。とても強力なスキルです。あ、でも、これはスキルによるものには有効ですが、魔法や精霊術なんかには効きませんので注意してください」


「ふんっ。つまり、俺は固有スキル持ち相手でも最強ということか…」

 ーーおい、こいつ今の話聞いてなかったんか?

「ス、スキルによる戦闘ではそうかも知れませんね・・・」


 なぜだか彼が口を開くと俺の精神にダメージが入る気がする…。流石異世界、恐ろしい。


「あの」

 4人の固有スキルの説明が終わったところで俺の後ろにいた女子学生が手を挙げる。先ほど俺に囁いた子だ。


「私もアイサイトというのがありました」

 ーーやはり固有スキル持ちか。

「魔眼ですね」


「オォ…」

「シンガンカ…」

「ソレハ…」

「ガヤガヤ」


 再び会場が騒めく。


「アイサイトは神眼、心眼、鑑定、未来視を使うことができるかなり特殊な魔眼です。神眼は魔力や精霊を見ることはできるようになります。心眼は人の心を見れます。鑑定は、見たものを調べることができます。未来視は、未来を見通すことのできるチカラです」


 “鑑定”があったから俺の固有スキルもバレたのだろう。SLIG(エスリグ)の鑑定では、プレイヤーを調べても名前と職業しか表示されないはずだが…。ゲームと完全に同じではないということか…?



 それに、俺の知ってるアイサイトは戦闘において〈遠距離術式命中精度50%上昇〉という非常に強力な能力がある。むしろ、それがメインで重宝されているまである。

 意図的に隠しているのか、まだ完全に解明されているわけではないのか。要考察だな。


 それにしても後ろの囁きの彼女、4人がスキル説明をされてから名乗り出た。なかなかいい性格をしてらっしゃる。




「これで全員ですね。陛下、こちらの勇者様も、伝承として名を残した勇者様と同じく強力な固有スキルを持っていらっしゃいます。彼らの助力があれば我々の未来も明るいかと思います」

「うむ。ご苦労」


 リサ副団長は一礼すると、俺たちから離れて再び側面に並ぶ列についた。


「さて。勇者方の強さも逸話にある通りじゃった。()()()()()()でも召喚したことは正解だったようじゃ」

「はい。仰る通りかと」

「では、ここからが本題じゃ」


 国王とシモンのやり取りで「宝珠を掛けた」という言葉に気になったが、国王が再び立ち上がり俺たちの元まで歩いてくる。


 そして、頭から王冠を取り、膝をついて頭を下げた。

「「陛下⁉」」

 その行動に慌てたのは俺たちの後ろに控えていた貴族達だった。俺たちは、目の前で流れるその状況を、映画のワンシーンを見るような感覚で見てしまっていた。



「どうか!…どうか我らに助力を。其方らが求めることには如何様にも応じるつもりじゃ」


 ひときわ大きい声で他の人達の声を振り切り懇願する。

 俺たちに馴染みのないせいか、その行為の価値は分からないが、先ほどまで一言も発さず微動だにしなかった騎士達も目線が泳いでいる。



「3つ、確認していいですか?」

 イケメンが反応した。流石イケメン。


「なんじゃ?」


「一つは、僕たちは元の世界に戻れるのかということ。二つ目は、僕らが参加したところで、魔王という存在相手に勝算があるのかということです」


「うむ。まず一つ目の質問は、戻る手段はあるがそれは4年後になる。その時までこの世界があればの話ではあるが…。

 二つ目の勝算については、十分にあると考えておる。我々は魔界に進軍する訳ではない。魔界との国境沿いに全ての国が連携して頑丈な城壁を築いておる。守りに徹し、損耗を抑えて継戦できれば負けることはない」

「魔王自ら攻めてくるということはないのですか?」

「我々の住む場所には聖気が多くある。聖気のある場所には強力な魔物や魔人にとっては害じゃ。捨て身でこられれば国の一つや二つが滅びるやもしれんが、人類の生存圏を全て蹂躙される訳ではない」

「国の一つや二つって…」

「…国の一つや二つの犠牲で、魔王が倒せるなら御の字だということじゃ…。このままでは全ての国が犠牲になるのじゃから…」

「…」


 イケメンも言葉に詰まる。


 国王の言葉を責めることはできない。それほどまでに追い込まれていることが伝わる。それに異世界人がどうこう言うのは傲慢に他ならない。


「お母さん、心配してるだろうな…」

 誰かがボロッと口にした。

「それについては、召喚した時間軸に戻すことができる。ただ…寿命自体は伸びるわけではない」

「そう…ですか…なら安心ですね…」


 確カニ、ソレハ安心ダー(棒)。4年いたら16歳の娘が学校から帰ってきたら20歳になってる訳だが、それに眼を瞑れば、アンシンダナァ(棒)。


「3つ目の質問です」

「うむ」

「僕らが死ぬとどうなりますか?」

「…それはおそらく我々と同じく死ぬじゃろう」

「…おそらく?」

「確認のしようもないからの…。希望を持たせるだけやも知れんが、勇者が死ぬと肉体が消えると言い伝えられておる。本来の世界に戻るのじゃろう。向こうで意識があるかないかは我々に知るよしもなし。すまぬ」

 確かにそれなら確認のしようもない…。既に異世界に飛ぶこと自体で無茶苦茶だ。生き返るといっても不思議はない…か。



 ゲームでキャラが完全に死ぬとアバターが削除される。リスポーンすることはない。代わりに、蘇生方法はいくつかあるし、蘇生可能時間も長い。俺のようなゲームの中でもリアルでもソロプレイヤーな奴らは、死ぬと速攻でサブキャラでログインし、メインキャラの死体に蘇生を掛けに行く。


 俗に言う、孤独死ならぬ孤独蘇生。



 ダンジョンの奥深くや蘇生不能エリアでない限りは蘇生可能なため完全に死ぬことは少ない。

 とはいえ、3カ月に1回訪れるイベント、終末の混沌(ロストカオス)では、プレイヤーの2割は消えていた。イベントに失敗するとそもそも全てのプレイヤーが消されるから、決して楽なゲームという訳ではない。


 この世界の術式もゲームと同じ効果であるなら、蘇生は可能だろう。

 …試そうとは思わないが…。




 俺たち8人は真剣に考えなければならない。この世界の人のために命を掛けるかを。


 しかし、それは今じゃないだろう。




 さて、国王陛下相手でも最高敬語でなくても許されそうな感じだし、そろそろ俺も声を出すとしよう。


「あの」

 沈黙を破り、その場にいた全員が俺に視線が集まる。


「協力どうこうの話、それは今じゃないとダメですか?それとも…、…召喚直後の動揺している時でないといけない話ですか?」


 心が綺麗なら、"動揺している俺たちにその話は余計に動揺してちゃんと判断できないので"後日にしてください。という意味になる。

 心が汚れていると、"召喚直後で何の情報もない相手に畳みかけるように迫るのはやめていただきたい"、だからその話は後日にしてください。という意味に聞こえる。



 国王はハッと気づいた様子で王冠を頭に戻して玉座に戻る。

「確かに、勇者殿は召喚直後。お疲れもあるだろう。この話は明日にしよう」

 とりあえず決断の先延ばしは成功。けれど、明日は早いな…。もう少し時間が欲しい。


「いえ、陛下。明日は休日です。休日に大事な話は縁起が悪いので、明後日にしましょう」

「ふむ?そうであったか。明日はこちらの世界では安息日ではないが、其方らにも休息が必要か。ではこの話は明後日に」


 こいつ、マジか。と言いたげな同じ日本人召喚者の視線が突き刺さる。

 明日が休日なわけはない。そもそも今日は週明けの月曜日。まぁ、火曜日は受講している講義がないから俺は全休。つまり休日。嘘はついていない。



「セバス、勇者方をお部屋に」

「承知致しました。勇者様方、こちらへ」


 執事の恰好をした白髪の男が王に一礼して後方の扉に向かう。

 それに倣って一礼しておく。


 俺たちは貴族たちが並ぶ列の中央を通り、赤い絨毯の上を歩きながら玉座の間から去っていった。






「こちらです」

 王城は広い。随分と歩いて居住区画に来た。大理石を使った建築で、ホテルような印象とは違うが、散りばめられた装飾品の数々がその豪華さを物語っている。


「申し遅れました。執事長のセバスチャンと申します。勇者様の身の回りのお世話を任されております。ご用がありましたらなんなりとお申し付けください」

「これはご丁寧にどうも」

「よろしくお願いします」



「こちらから一部屋ずつご自由にお使いください。奥に貴賓食堂があります。お食事が整いましたらお呼び致します。私どもはあちらの部屋におりますので、何かありましたらお声がけください」


 このフロアからどこか行く時には必ず前を通るところにある事務室のようなところだ。監視の意味も含めてだろう。

 好き勝手に出歩くことはできないのかもしれない。せめて書庫には行かせて欲しい。



 セバスは綺麗な一礼をすると、去っていった。



 向こう側の人間がいなくなり、やっと一息つける時間となった。特に大したことはしてないが、緊張によるストレスか、どっと疲れたような気がする。寝不足な俺は今すぐにでも布団に入って爆睡したい気もするが、それより先に一緒に飛ばされたコイツらと少し話し合う必要があるか…。




 そんなことを考えながら、俺は彼らに声をかけようとした。


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