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Perfect boy is always single!

 地下鉄とバスで2時間かけて、張の大学についた。敷地内に寮もあるようだ。中国の大学はとにかく敷地が広く、寮も日本の団地のように何棟もあるが、夏休みということで人は多くない。まず管理人室に向かうも、私はともかく周も宿泊許可が下りなかった。渋々3人で近くの安いホテルに潜り込む。テレビをつけるとロンドンオリンピックがやっていて、女子サッカーのなでしこが銀メダルを獲得していた。中国でロンドンオリンピックを観るとはなんだか不思議だなと一人感傷に浸ってみたりした。夜は近くの定食屋で3人ビールで乾杯。奮発して鶏の丸焼きなんかも食べさせて貰った。彼らはスペシャルチキンと呼んでいた。

 ふと私は気づく。中国の食事が全ておいしいことに。何を食べても、どこで食べても「こんなの初めて!」と毎回感動している自分に気づいてしまったのだ。どんどん中国が好きになっていく。

 ホテルに戻り、パソコンで日本の映画「貞子3D」という映画を3人で観た。中国語の字幕もついていたが、張も周も寝落ちしていた。私も途中で睡魔に負けた。

 翌日、寮の許可が下りた。部屋は10階であり眺めはいいはずだが、見渡す限り何もない田舎の風景だった。2時間も移動すると、ここは本当に上海なのかと疑ってしまう。室内は他の学生との相部屋だが、張以外は帰省していたのでベッドも自由に使えて何不自由ない。どういう流れかは忘れたが、彼女はいるかという話になる。悲しきことに誰も彼女はいなかった。周が突然ベランダに飛び出して叫んだ。

「Perfect boy is always single!」

 周の悲哀のこもった言葉が身にしみた。

 張の提案で昼食は出前を取ったものの、届いた食事には箸がつけ忘れられていた。二人は苦笑いしながら、「これが中国スタイルさ」と犬食いで食べ始めた。午後に張はフットサルの試合があるから出かけると言うので、周と私は応援団としてついて行った。老若男女が集まったチーム同士の試合で、とても和気藹々と楽しそうな試合であった。

 寮に戻り、3人でサッカーゲームのウイニングイレブンを始めた。これは言い訳だが、とにかくコントローラーの反応が悪く、ボコボコにやられてしまう。頭を冷やそうとベランダに出てみると辺りは真っ暗になっている。張も出てきてタバコに火をつけてボソッと一言。

「ここは上海だが、上海cityではない。」

 上海タワーすら見ていない私にとっては、ここが本当の上海なんだ。キラキラしているだけが上海ではない。

「Breeze is nice.」

 私もボソボソっと一言。沢木耕太郎の「深夜特急」でのセリフである。いつか言ってみたいと思っていたのが、なんとなく叶ったようだ。

 彼は笑って室内に戻って行った。

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