いざ、上海へ
何日間か北京をぶらぶらしている。特筆すべきこともなく、強いて言うなら日本の牛丼屋の吉野家があったので入ってみたくらいだ。30元、約400円で味も日本のものとほぼ同じであった。
そろそろ北京以外の街に行かなきゃという気持ちが強くなっている。パッと思い浮かぶのは大都市ばかりで距離感も分からないので、とりあえず駅に向かってみる。
「うーむ、困った」
半端ない人混みに加え、みんなやかましく中国語をまくし立てていて耳がおかしくなりそうだ。路線図のような地図も見当たらないので、とりあえず頭に浮かんだ上海に行くことに決める。切符売り場は中国人専用窓口、外国人観光客専用窓口の二つに分かれているので外国人の方に並ぶ。ようやく私の番になったものの、中国人のスタッフの英語は容赦ない早口で何も意味が分からない。何回かやりとりするが、「お前はもういい」という感じで私の次の人の対応を始めてしまった。心が折れそうになりながらも、筆談なら通じるはずだと中国人専用窓口に並ぶ。噂では聞いていたが、中国人はどんどん割り込んでくるので負けじと割り込んできた人を押しのける。一種のスポーツかのように自分のポジションを死守しながら私の順番になった。ノートに「上海」と書いて見せる。スタッフは「外国人はあっちの窓口だ」と次の人の対応を始めようとしたので、「俺はno Englishだ、安い切符をくれ」と勢いだけで話し続けた。するとスタッフは面倒くさそうに何か中国語で喋ったので、「中国語も分からないからノートに書いてくれ」とペンを渡す。スタッフはさらに面倒くさそうに「北京ー上海 19:33−10:26 179元」と書いてくれた。2300円、そこまで高くないと判断し即決した。スタッフに何度も「謝謝、謝謝」と言うと初めてスタッフは笑顔を見せた。
初めての夜行列車、とにかく飲み物、パン、果物をリュックに詰めて列車に乗り込んだ。果物とは贅沢だと思われるかもしれないが、日本と違って格安の果物を売っている屋台が街には多くいる。この旅で南に行くに従って果物は多様となっていくのも面白かった。
座席は3人がけのシートが向かい合って、6人一つのコンパートメント。私の隣は母親に5歳くらいの娘、向かいは中年の夫婦と大学生らしき男という具合だ。15時間を共にする人達であるので、怖そうな人がいたらどうしようかとも心配したが杞憂に終わったようだ。車内はほぼ満席で通路に立っている人や床に座っている人もいる。夜行列車にも自由席みたいな切符があるのか、向かいの大学生に聞いてみるとやはりそうらしい。私たちのような指定席よりも格安で乗れると聞いて、私も節約すべきだったかと一瞬考えたが一晩床で過ごすのは無理そうだと諦める。
それよりも驚いたのは大学生の英語力だった。彼は周と名乗り、上海の友達に会いにいく予定らしい。彼は同じコンパートメントの人達の中国語を英語に通訳してくれたので、コミュニケーションが円滑に進み、楽しい時間を過ごすことができた。
朝10時半、上海に到着。周の友達の張とも挨拶をした。上海が地元の張に私は「安いホテルを知らないか」と尋ねると、張は「近くに100元のホテルはあるが、自分が住んでいる寮にくればタダだよ」と予想外の返事が返ってきた。私は即座に「ありがとう!」と二人の親切な青年たちについて行くのだった。