順調な滑り出し
駅から出てみると辺りは薄暗くなっていた。近代的な空港、地下鉄を経ていたので地上に出て、ようやく中国を身体で感じることができた気がした。夏の日本よりも湿度が低いのか、とても過ごしやすく、散歩をしているカップル、家族が多くいた。なんだか独特な臭い?匂い?もしたが、嫌いではなかった。今でも日本の中華料理屋、それも中国人の夫婦が営んでいるような小さなお店に行くと感じることができる。あの感じだ。
そうだ、まだ説明していなかったが中国に入国したのは2012年8月7日の夏真っ盛りである。この年はロンドンオリンピックも開催された年だった。
駅周辺には地面に座ったり、寝転がっている人も多くいたので私も同じように座り込み、これからどうしようかとぼーっとしていた。読者の皆様は、着いて早々何をしているのだとお思いだと察する。しかし、私は海外でこのように時間に追われることなく、ぼーっとしているのが何よりも好きなのだ。今回の旅行でもおそらく半分以上はボーっとしていたに違いない。これが真の贅沢なのだと自負している。計画なんてクソ食らえだ。
うーむ、脱線ばかりしていて全く話が進まない。困った。それにしても書きたいことが多すぎる。これだから素人の文章は読みにくいのだ。ちょっと集中して書いていこう。
地べたに座って道ゆく人々を眺めていると、おばさん数人に話しかけられた。おそらく外国人と分かり、「どこから来た、ホテルは決まってるのか」というようなことをおばさんそれぞれがまくし立ててきた。確かに私は今晩の宿をまだ見つけていない、というより探そうともしていない。これはラッキーと思ったが、まだぼーっとしていたいなあと私の欲が脳内を支配していたので、おばさんの津波のような勢いの中国語を軽く流してしまった。これは脈なしと感じたのか、おばさん達はそそくさと立ち去っていった。
心置きなくぼーっとできた私はコンビニを見つけ、相場調査のためお店をのぞいてみた。店内は日本のコンビニと大差なかった。当時の日記を確認してみると「1元13円?」と書いてあり、そのコンビニで買った水とパンの値段は「水1.5元、パン4.5元」とメモされていた。つまり水は約20円、パンは約60円ということになる。安過ぎて当時の私が勘違いしていのか分からないがこのまま進めていこう。ふらふら歩いていると、先ほど絡まれたおばさんの一人に出くわした。おばさんも私を覚えていたみたいで、「あんた、まだいたの」という顔で話しかけてきた。中国語は分からない私は顔いっぱいに友好的な笑顔を出すことで、「話聞くよ?」という気持ちをおばさんに伝えることに成功した。お互いカタコトの英語だからこそ思ったより簡単に通じ、私に選択肢が提示された。
ホテルのみの一泊 150元
ホテル一泊と万里の長城ツアーセット 250元
なるほど、万里の長城は北京市街にあるものなのか。私はなんだか急に行きたくなり、ツアーのセットをお願いした。「案内してあげるから着いておいで」と案内されたのが一台のワンボックス。遠いのかな、なんか嫌だなと思ったが、これも貧乏旅行の醍醐味と覚悟を決めて車に乗り込む。車内は後ろのシートが外され、乗客は体育座りをしていた。かなり満員で窓を開けていたが熱気がこもっていた。みんな汗をかき、肌を密着させながら車は出発した。大通りから一本小道に入ると街灯も少なくなり、怪しい雰囲気が漂い始め、その一角にある建物の前で車は止まった。もっと遠いかと思っていたので安心しながら車から降りると風が涼しく気持ちよかった。運転手から「朝6時半にホテル前に集合だ」と言われ、旅行に来てまで早起きしなければならないのかと少しがっかり。
ホテルはエアコンはないが天井に大きい扇風機があり、そこそこ快適だった。共同のシャワーで汗を流し、パンツを手洗いしながら、「次の旅行は洗濯物を干すためのロープが必要だな」と一人ブツブツつぶやきながら夜は更けていった。