ベトナムの車窓から
今日は朝から駅に向かう。やはり知っている地名が見つけられず、結局ホーチミン行きの切符を購入。15時40分発と少し遅めだ。切符は2枚あり、ハノイからTHAPCHAM(帰国して調べたがおそらくファンラン=タップチャムのこと)、タップチャムからホーチミンとなっている。タップチャムに着くのが21時となっていて、そのとき私は「ホーチミンに着くのは夜遅くなってしまうな」とただ呑気に考えていた。この呑気さがのちに悲劇を産むことになろうとは考えてもいなかった。
いつものようにお菓子や飲み物を準備して、いざ乗車。ベトナムの列車はシートが木でできていて、長時間座るのはキツそうだ。しかし、列車が動き出すとシートの固さなんてすぐに吹っ飛んでしまっていた。車窓からの景色は全く見飽きない。日本のような田園風景が続いていると思うと、海が見えたり、中国の桂林で見た屹立した岩山に似た風景が突如現れたりと、ホーチミンまでの切符を買っていなければ途中下車していたと思う。窓から入ってくる風も気持ちいい。
いくつもの駅に止まっているが、そこまで車内が混み合うようなことはなかった。21時を過ぎたあたりでタップチャムはもう過ぎたのかなと周りの乗客に聞いてみると、あまり通じていないのか反応が芳しくない。しかし、内容は通じていたようだ。一人のおじいさんに「タップチャムに着くのは明日の21時だ」と言われ、私の頭は真っ白になった。「サイゴンは明後日の朝だね」と立て続けに爆弾を落とされた。私の思考は完全に停止。今日?明日?明後日?一体いつホーチミンに着くというのだ。冷静に考えるとこの列車に2泊という現実が私の目前に迫ってきた。この固い木のシートで。いやはや、うーむ、困った。
会話中にサイゴンという言葉が出てきたが、1975年にサイゴンという街の名前がホーチミンになっているのだ。現地の人は未だにサイゴンと呼んでいるようだった。
ひとまず一連のやり取りで周りの乗客とも打ち解け、お菓子や果物をもらったり、私が持ってきたお菓子を分けたりとその日は楽しく過ごすことができた。
疲れが溜まっていたのか、ぶつぶつ文句を言いながらもその日は寝落ちしていた。