1章[姫と従者と龍の焼肉女子会]
焼肉食べたい
――ここは異世界。
奇跡も魔法も存在し、人と魔族が時に共生し、そして時に争う。
そんな魔訶不思議で満ち溢れた現実とはかけ離れた世界。
……のはずだが。
「――お姉さん! 生三つとタン塩三人前ハラミ三人前、特上カルビ三人前ロースも三人前それと丸腸三人前……後はザブトン三人前で!……ついでに野菜盛りも頼む」
「ハイヨロコンデー!!」
ウェイトレスのお姉さんは旅の先で出会った女戦士ドラコの高速詠唱のような注文にも元気いっぱいに返答してその後厨房へと一言一句正確に注文を伝える。
その仕事の流儀をどこかで語って欲しい程にキビキビと働いていた。
ここは田舎町ルミンの焼肉店アグニ。
ドラコ曰く遠く離れた他の町からわざわざこんな田舎へ足を運ぶ客が大勢いる程の有名店らしい。
旅のよしみにご飯を奢ってくれるのは有難いと思ったのだが、まさかのガッツリ焼肉が食べられるとは思わなんだ。
「ていうか注文ちょっと待って!私、酒とか飲んだ事ないんだけど!!そもそも飲酒できる年齢じゃない気がするのだけど」
「気にすんな! こんなクソ田舎には飲酒に関する法律なんて存在しねぇし! あそこ見てみろよあの見た目は完全飲酒アウトのエルフのロ○バ○アも飲酒してるだろ?」
「ちょっ!あんまり大きな声を出すと」
やはり、さっきの声が聞こえたのか、ここから少し離れた席からワインボトルに囲まれたとんがり耳の幼い顔の可愛らしい少女がドラコに向かい頬をぷくーっと膨らませ凄く怒っている気がするが……見なかった事にしよう。
マジカル異世界あるあるの年齢制限の無い飲酒と実年齢はウン百歳のロ○登場の実績を一気に達成するのはやめてほしい。
そんな感じに冗談を飛ばし調子がいいドラコに対し私の隣に座るメイガスはあくまでクールに落ち着いていた。
「ふぅ、それで? 出会ってわずか数時間たらずの冒険者にわざわざ飯を奢るというのは余程のお人よしか、もしくはそれなりの裏があると……恐らくは後者でしょう? ドラコ」
注文の品がテーブルに並べられてすぐにメイガスは探りを入れるようにドラコにそう尋ねた。
「あはは! そりゃまぁ裏ならあるね――アンタのへんちくりんな風貌、かつて名を馳せ突如姿を消した冒険者【レーツェル・マギカ】のメイガスだろ? そんでメイガス本人だと仮定した上でアンタ達に頼み事があるわけよ」
「ほぅ、私が何故本人だと仮定出来るのですかね?」
「そりゃ、簡単アンタの魔力量が並の冒険者じゃない程に異常だから……て言えば伝わるかい?」
ドラコはおちゃらけた雰囲気から一転、少しだけ真面目な表情を見せビールを勢いよく飲み干した後そう告げる。
「ふぅん……なるほど、百年前の名を未だに覚えている【人間】がいるなんて意外ね~」
(百年って一体……メイガスさんおいくつなの?いやそれよりドラコは魔力量が分かるとは、それは何でなの?)
「やっぱりそうかい、お生憎様オレもアンタと同じくそこらの人間より長く生きているもんでねーー龍族だからな」
「ええ、分かっていましたよ……しかし龍族か、懐かしい響きです」
龍族という言葉にメイガスはニヤリと笑いそれを誤魔化すかのように急いでビールを口に運ぶ。
「へぇ〜龍族っていうくらいだしドラコって凄い種族かなんかなの?」
私もそんな事を呟きつつ雰囲気に合わせてビールを口に運んでみたはいいのだが予想以上に苦くて吐き出してしまった。
やっぱりお酒はまだ早かったみたいだね。
「ええそれはそれは、龍族は希少中の希少種族ですよ~、人の世の何倍もの年月冒険者をやっていた私でも実際に見かけたのはこれが二回目です」
メイガスはそう言うと左右で色が違う両眼を見開き、何かを見定めるようにドラコを凝視する。
しかしドラコはそれを嫌がった様子で手を振って制止を求めた。
「……龍族の事はどうでもいいだろ、それより話を戻そう――頼み事だ」
「ええ、そうだったわね」
メイガスは丁度良く焼けた肉を私の取り皿によそい、焦げて炭になった肉をドラコの取り皿にさりげなくよそいながら私と一緒にドラコの発言を静かに待つ。
「――単刀直入に言うぜオレをパーティに加えてくれ」
「えぇっ!」
私は唐突な申し出に驚いたがメイガスは答えを知っていたかのように平静さを保っていた。
「でしょうね」
「ああ!アンタらに興味が湧いたのさ、かつて名を馳せた凄腕冒険者とA級魔物ベルガをいとも簡単に討伐した謎の少女のパーティ……冒険者としての血が数十年ぶりに騒いでんだ!これは運命なのだと!!!」
アルコールが入っている為か若干興奮気味の様子で熱弁するドラコ。
彼女の言葉に嘘は無い、それは分かるのだが。
「んん~いきなりそう言われてもなー私は仲間が増えるのはいい事だと思うし、ドラコなら大歓迎なんだけどメイガスは?」
私的にはドラコは嫌いじゃないし悪い人だとも思えない。
しかしいざ仲間となると当然私の一存で決める訳にもいかない、ここはしっかりと客観的で冷静に判断できるメイガスにも意見を求める事は必要だろう。
突然の申し出に難色を示すものかとばかり思っていたがメイガスの反応は意外なものだった。
メイガスはただ静かに何かを思い出したかのように笑っていたのだ。
「ふふふ困りましたね、私は昔話はあまり好きではないのですが……【龍に選ばれるのは時代を変革する者】と言い伝えられておりましてね、とても名誉な事であると遠い昔に小耳に挟んだ覚えがありますね……それに彼女は例えこの場で断ったとしてもしつこく追っ掛け回してきそうですしね~本当に困りものです」
よく分かってるじゃねぇかと言わんばかりにドヤ顔のドラコにメイガスはすっかりお手上げのようでやれやれと首を振った。
「その鋭くそして鈍く光る特徴的な金色の龍眼と魔力の流れを読む能力、かつて私の【眼】で見た龍族にそっくりな事から察してはおりました……彼女は龍族で間違いは無いでしょう、嘘は言っておりません――ルイ様、ドラコはパーティに加えるべきだと私は判断しますよ」
何故だろうか、ドラコが自身を龍族と明かした瞬間からメイガスの態度が少し軟化した気がするのは気のせいだろうか。
「よっしゃあああああああ!!!決まりだな――今夜は飲むぜええええええ!!!あっお姉さんビール追加で」
そう言うとドラコは焦げた肉をメイガスの取り皿へと投げ入れ、網の上の丁度良い焼き加減の肉を箸で掴み口に頬張った。
「ああ、うん!これからよろしくドラコ! ……メイガスは本当に良かったの?」
「ええ構いませんよ――」
短い了承の返事の後、隣の席の私にも聞こえない程の小さな声でメイガスは何かを呟いた。
「――龍族との旅はこれで二度目になるのか……これも何かの縁なのかもしれませんね……ハイレン」
メイガスは取り皿の焦げ肉をドラコの口に投げ入れまた一人静かに笑う。
結局ドラコの歓迎会を兼ねた宴は朝日が登るまで続き、すっかり出来上がったメイガスとドラコを宿に連れていくのはとんでもない重労働となったのは別の機会に話すとして……。
こうして龍族の女戦士ドラコが私達の仲間となったのであった。