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1章[あの?私なんかやっちゃいました?]


 拝啓お母さん、いかがお過ごしでしょうか?

 私?私はですね元気じゃないですよ。

 何故かって?そりゃあ母さんの使わした悪いメイドにハメられたようで絶体絶命のピンチですから。

 えっ、どういう事かって?ハハハッ!それは……。

 

 「ソイヤッ!」


 メイガスは無言のまま近くに落ちていた石を拾い上げ大イビキをかいて気持ち良さそう寝ている大猿の怪物ベルガ相手に投擲すると同時にその場から全力疾走で離れていく。


 「ってうぉぉおい!!! なにやっとんじゃ!待てこら!!!」


 流石は魔界一の逃げ足(?)時すでに遅し。

 私の叫びも虚しく空に響くだけで既にメイガスの後ろ姿は既にゴマ粒の様な大きさにしか見えないまでに遠ざかっていた。


 「…………さてと、じゃあ早速見せてもらいましょうかルイ様の力をその程度の【小物】に勝てないようじゃ貴女はそれまでです、期待していますよ」



 


 ーーメイガスが逃走してから数秒くらいが経過した。


 「……あ」


 ここで睡眠を邪魔された狩場の王ベルガと私の目が合う。

 草木に隠れつつコッソリと逃げようとした私の作戦は見事に失敗した形である、そしてその瞬間から私は彼の睡眠を邪魔した犯人に指定されてしまったようだ。


 ベルガは全身の赤い体毛を逆立て牙をむき出し私を激しく威嚇、そのまま雄叫びを上げながらまっすぐに突進を開始した。


 「……やっぱ、そうなるよね~」

 「グォオオオオオオォッ!!!」


 五メートルを優に超える巨大な魔物が荒れ狂いながら迫ってくる――。

 周囲の草木を跳ね除け、土煙を上げながら轟音と共に大地を揺らし疾走する。

 

 誰が見ても命の危機を感じる状況。

 

 でも何故だろうか恐怖はまるで感じない。

 例えるなら目の前でハムスターなんかが威嚇している程度にしか思えないのだ。


 ――こいつになら勝てる、むしろそんな気しかしないッ!!。

 

 「何だこれヤツの動きがやけに遅い……恐らく右手を振り下ろす……ならば左右どちらかに少し避ければいい、多分!」

 

 頭はキンキンに冷え、冴えに冴えまくっている。

 恐怖に割く頭のリソースが全く無い分全てを戦闘の対処に使える、これ程戦うのにベストなコンディションはない!!


 そして攻撃範囲に入ったベルガが予想通り右腕を振り上げた瞬間に私は左にステップした――。


 直感は見事に外れた。

 

 ベルガは腕を振り下ろすのではなく、振り払ったのだ。

 その結果私はベルガの攻撃を直撃してなすすべも無く吹き飛ばされた後そのまま頭から地面に叩きつけられた……。

 

 ここで私の非常に短い二度目の人生はたったの一日で終わってしまった。

 まぁなにが起こるか分からないのが人生だ、こんな事もあるのかもしれない。

 






 


 ……とまぁそんな感傷に浸れるって事はまだ生きてるって事で。


 「……痛くない」


 起き上がりパッパッと軽く装備に付いた埃を払う私に流石の憤怒赤猿ベルガも度肝を抜かれたのか口をあんぐりさせ驚愕の表情を浮かべている。


 「アナタ何やったの?」


 私の問いに獣が答えるわけも無く、ベルガは一瞬の戸惑いを見せた様子であったが今更引くに引けないのか再び勢いに任せ、私に向かって飛び掛かる。


 次の攻撃は今度こそ腕の振りおろし……さっきの攻撃とのほんの僅かな動作の違いを読んでそう判断する。

 

 今度はビンゴ。

 危なげなく攻撃を躱しながらすかさずカウンターの回し蹴りを思いっきりベルガの脇腹に叩き込む!


 「とりゃあああああ!!!」

 

 狩場の王として君臨し、度重なる戦闘で鍛え抜かれていた筈のベルガの鋼の様な硬い筋肉に覆われた脇腹は私の回し蹴りに対し呆気なく陥没しベキベキという音と共に骨を砕かれる。

 ベルガは蹴りの衝撃でくの字に折れ曲がった状態のまま地面を激しく抉りながら吹き飛んでいく。

 

 ――数十メートル離れた所でようやく地面に転がった憤怒の赤猿ベルガは小鹿の様に体をピクピクと振るわせているだけで再度起き上がってくるこちらに向かってくる様子はない。


 「えっ、勝ったのこれ?」


 勝利があまりにあっさりしすぎて実感が全く湧かない。


 「ありゃりゃ……もしかして私なんかやっちゃいました?一度言ってみたかったんだよね、これ」

 「……流石ルイ様です!この冒険もう貴女様一人でいいんじゃないかな~?」


 私のセリフに悪乗りするのはやめて!ていうか当たり前のように遥か後方に逃げていたメイガスがいつの間にか隣に立っているのは一体何なんだ?もしかして忍者なの?


 「メイガス……あんたこうなるのが分かってて私とこいつを戦わせたでしょ?」

 「それは半々ってとこですかね、勝敗は別にしてA級の魔物に対しルイ様がどの程度戦えるお方なのかを、資質を見たかったというのが本音です」

 

 なるほど、メイガスに……いや、もしかすると母にテストを兼ねてこの場所でベルガと戦うのが仕組まれていたと、考えていいかな。


 「それで? テストの結果は余裕の合格かしら?」

 「…………追試ギリギリの合格ですね~」


 一撃でベルガを仕留めた筈なのに、この評価の厳しさに私は納得がいかなかった。


 「そんな! 嘘でしょメイガスさん!?」

 「いえいえ本当ですよ、減点箇所は三ヵ所もあります」

 「あれだけの戦闘で三ヵ所も!?」


 メイガスにとってはさっきの戦いがそんなお粗末な戦いに見えていたのかという事実に私は素直に驚かされた。


 「はい、一つは初撃を読めなかった事、そしてもう一つは敵に止めを刺していない事、最後の一つは――」


 「そこに立ってこちらを伺っている者の存在に気が付かなかったことです」


 メイガスは少し離れた小高い丘のような場所に目を向けた。


 そこには一つの小さな人影があり、こちらが警戒を示した事に気がついたのか、慌てた様子でこちらに向けて手を振りながら近付いてくる。


 私はじっくりとその人物を見つめその正体を探った。

 

 金色の瞳を持ち一つに束ねた長いエメラルドの髪に武器は大斧か。

 私達よりも長身でゲームで見かけるエロかっこいいビキニアーマーから大胆に露出している割れた腹筋や鍛え上げられた体がとてもセクシーさを際立たせる。

 間違いない、彼女は女戦士のようだ。


 「まさかあのベルガを一撃とはなアンタら凄いな!実は私もベルガ討伐に来た冒険者なんだけど先を越されちまったみたいだね!」


 女戦士は大声でそう叫ぶと手に持っていた大斧を地面に突き刺し、戦う意思のない事を証明し私達の方へと自ら歩みを進めてきた。

 

 「見た所戦士の方のようですね、ベルガを討伐にわざわざやって来たのでしたら申し訳ない事をしてしまいましたね」


 メイガスは普段通りの口調で話しかけつつも女戦士に対する警戒を解いてはいない様子である。


 「ルイ様……こういう輩は報酬の横取りを考えている場合がございます」

 「……そういう事ね」


 私にしか聞こえぬ小声でメイガスは女戦士を警戒している理由を教えてくれた。


 「おいおいおいそんなガチガチに警戒しなくたってイイじゃん、先客はアンタらだ仕方ないさ、それに横取りなんてそんなしょうもない事を私はしないさーーそれよりも」


 女戦士は私達の前に立ち手を差し出し握手を求めてきた。


 「……それでは私から」


 まずメイガスが警戒しつつ握手をし、お互いに挨拶を交わす。


 「私はメイガスよ」

 「おうメイガス!よろしく! オレの名はドラコって言うんだ」

 「名はマル○ォイかしら?」

 「ちげぇよ!!!!!!!!」


 突然のメイガスの世界観無視の危ないボケにもドラコはキレのあるツッコミを返した。

 少しガサツそうだが悪い人では無さそうな雰囲気である。

 メイガスもドラコに対し少しだけ警戒心を解き私にも握手を促す。


 「私はルイよ、よろしくドラコ」

 「おう! よろしくな! ……ところでルイ達はこれからこいつの討伐報告をどこの町へ? というかこの辺りだとルミンへ行く以外には無いな、違うか?」

 「そうよ、もしかしてドラコも?だったら一緒に行きましょうか、丁度ルミンまでの道案内が欲しかった所なの」

 「そう言う事ならいいぜ、連れてってやるよ、どっちにしろ依頼対象が倒されちまったしルミンに戻る必要があるしな」


 ちょっと待ったとメイガスが間に割って入りドラコから少し離れた場所まで連れて行かれる。


 「ちょっとメイガスどういうつもり?」

 「いいですか、ルイ様いくら何でも今知り合ったばかりの人間と行動を共にするのはリスクがあるかと思われますよ」


 そういう事か、私はまぁまぁとメイガスを宥める。


 「仮にドラコが悪人だったとして、あんな目立つ格好でわざわざ捕まるリスクのある町に一緒に行こうなんて言うと思う?そう思わない?」

 「まぁそれは、そうですけど……」

 「でしょ?」


 私にはドラコが悪人とはとても思えなかったのだ。

 何故なら彼女は風体は明らかな脳筋パワータイプで嘘は付くのが苦手な感じが目に見えて分かる。

 

 これはあくまでも私の直感ではあるが大体合ってるでしょう。

 メイガスはチラリとドラコを見る、それに気付いたドラコは無邪気に手を振っている。

 緊張感ゼロのドラコに対しメイガスから溜息が溢れる。


 「は〜分かりましたよ確かにルミンの様な場所に犯罪者が出向く事は殆んどありませんしね……それに彼女は多分、馬鹿ですねただの」

 「あら、メイガス珍しく意見が合ったわね」

 

 


 「……何話してんだ?あいつら」


 メイガス曰く、特にルミンの様な発展の遅れた田舎町は法体系がまともに機能していないようで犯罪者は見つかり次第人民裁判で即刻極刑を宣告される程の未開さとの事。

 そしてそれが逆に田舎町の犯罪抑止に繋がっているという何とも皮肉の効いた素晴らしい治安状態らしい。

 

 そんな場所に何かやましい事がある人間は近付くだろうか?……ないな。

 どうやらそれがメイガスがドラコの同行を認めてくれた大きな理由はそれらしい。

 メイガスと私の意見がようやく纏まり、私はドラコに笑顔を向けた。


 「それじゃあドラコ、ルミンまで案内してくれる?」

 「おう!話し合いは終わったのか?よっしゃ!早速行こうぜ!ルミンはよく行くんだよ!これも何かの縁だ、とびきりうまい店知ってるから奢ってやるよ」


 こうして互いに次の目的地が同じ場所ルミンだった縁もあり戦士のドラコは私達とそのまま同行する運びとなった。

 狩場の王は死んだ今、ルミンまでの道のりを邪魔する障害は無いに等しく、私達は当初の予定より少し早く次の目的地へと到着した。




 ――農業と畜産業の盛んな昔ながらの田舎町ルミン。

 私達は町の中心街にある焼肉店で今後の作戦会議を始めた。



 ……いや! 焼肉店なんてあるんかーーい異世界!!!! 

 

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