1章[今日死ぬ事になった私]
時間が出来たのでまた執筆していきたいと思いますので。
どうぞよろしくお願いします。
現在新しく執筆している方の更新を優先しておりますがこっちの続きが見たいよって方がいらしたらこちらも定期的に更新したいと思います
――恐らく私は今日死を迎えるだろう。
二週間前から続いている、原因不明の衰弱――。
大きな病気を患った事など無く平凡な人生を過ごしていた私だからこそ働く直感。
あぁ、この病のせいで私は死ぬのだ……ってね。
だって今の私は病院のベッドから体を動かし起き上がる事すら出来ないし、呼吸をする事すらままならなくなっている。
体に異常は見られない筈なのに、深く暗い底知れぬ闇に落ちていく気力と体力。
命の炎が徐々に潰えていくような不思議な感覚。
目を開く事はもう出来ない……したくない。
でもそれが心地良く感じられる、甘美とすら思う、身を委ねたいと思ってしまっている。
そんな至福の時間を遮る一つの声が静寂と計器の音が支配するこの空間から聴こえてくる。
「――残――ですが――」
年老いた男性の声。
おそらくここの医師のものだろう。
医師の声が聞こえた直後に別の声が私の耳に入る。
「――家族だ――に――してくだ――い」
……これは知っている声、お母さんだ。
私が産まれるより早くにお父さんを亡くして、たった一人で今まで私を育ててくれたお母さんの声を間違えるはずはない。
「それでは……」
ーー少し離れた所から扉の開く音と閉まる音が聴こえた。
それと同時に母が濡れた手で私の手を強く握りながら何度も声をかけている。
なんだろう……もうお母さんが何言ってるのか分かんないや……。
最後に涙でぐしゃぐしゃになっていた母の顔を一目見たところで私は完全に意識を失った。
十八年、それが私の【人間】として生きた寿命。
それはあまりにも短く、儚い時間であった。
――嗚呼、もっと友達と遊んだり、素敵な人と恋に落ちて、結婚して幸せな生活を送る、人並みの幸せを満喫してみたかったなぁ……。
…………閉じた瞳。
終わった筈の世界。
そんな私の世界に突如一筋の光が降り注ぐ。
「――ッッ!!」
永遠に覚めるはずの無い永劫の闇からの脱出、そして決して開く筈が無い私の瞳がパッと開く。
「……ここは?」
病室ではない高級ホテルの様な一室。
私はいつの間にかその部屋に備え付けてあった高級そうなベッドの上に寝転がっていた。
(どういう事?確かに私は死んだ筈なのに……一体どうなっているの?)
私はベッドに仰向けになったまま高くて広い見知らぬ天井をボッーと眺めていると「お目覚めになりましたか、姫様」と多分私に向けられてだと思う謎の声が部屋の奥の方から聞こえてきた。
どこか知的で気品漂う、渋みのある男性の声に私は心当たりはないのだが、取り敢えず挨拶は返しとこう。
「は〜い、どちら様ですか?……」
私はまだ寝ぼけていて半開きになっていた目を擦り、声のした方向に何気なく目を向けた。
「ッ……!?」
――私は言葉を失った、いや比喩などでは無くて驚きすぎて本当に声が出なかったのだ。
目の前にいたのは長身でスラっとしたシルエットのスーツを完璧に着こなした人間。
……ではない青肌で蝙蝠の様な羽を生やし仙人の様な長い髭が目立つ、人間の感覚で言うと凄く珍妙な姿のお爺さんがいたからだ。
私の驚きを無視して青肌のおじいさんは話を続ける。
「……ふむ、姫様はこことは違う別の世で育ったお方故、私の姿に驚くのも無理は無いでしょうな」
何普通に話してんの!?この人!?自分の事鏡で見たことあるの!?変でしょ!変!!。
今すぐこの場から逃げ出したい所ではあるが出入り口と思われる扉の前には例のお爺さん(…名前分かんないし取り敢えずブルー爺さんと呼称しておこう)彼がいる以上今は動くべきではないか。
「あなたは一体何者? ここはどこ!?ていうか姫様???」
私の問いに対し、ブルー爺さんはコホンと軽く咳込んだ。
「ふむ、それは姫様のご家族に直接お聞きになさる方がよろしいでしょう、さぁ私に着いてきて頂ければ先程の疑問は全て解決する筈ですぞ」
「それはどういう……?ちょっと待って、それって!……お母さんがここにいるの!?」
ブルー爺さんは私の問いに静かに頷くと部屋の外へと歩みを進めていった。
(着いてこいということかしら?)
正直凄ーーく怪しいが家族という言葉に少しだけの希望を賭け、私はベッドから飛び降りて彼の後を追う。
「言っておくけど変な事したら警察呼びますから」
どう見ても人間ではない異質な雰囲気の彼にはこういう脅しは通じないとは思うがまぁ念の為だ。
「はて…警察とは?あぁ、確かあちらの世の憲兵か騎士みたいなものでしたな? 残念ながらそこらにいる騎士程度であれば千人いようが負けませぬ故それは無駄ですな、はっはっは!」
「……あっ、そう」
ーーやはりか、私は敢えて突っ込まなかった。
こんな奇妙な格好で自分の世界に入り込んでる人間にこの手の話は通じないとは思っていたからね。
「おお!忘れておったワイ、そんな事よりも姫様少し良いですかな?」
「えっ?いきなりなんですか?」
ブルー爺さんは何か思い出したのかスッと立ち止まり、私に向けてパチンと指を鳴らすと彼の指から小さな火花の様なものが放たれ、それが私に向かって飛来する。
「きゃっ」
私は小さく悲鳴を上げ咄嗟に目を閉じてしまう。
ーー大丈夫、どこも痛くない。
「ちょっと!いきなり何をーー」
「魔王様の御前には似つかわしく無かったお姿故、少々手直しをさせていただきましたぞ」
「えっ?」
その言葉に私は辺りを見回すとある変化に気が付いた。
私の服装が先程と変わっている。
さっきまで着ていた筈の白一色の病院の寝間着から、いつの間にかどこぞの国のお姫様が着ているような漆黒のゴシックドレスに衣装チェンジしていたのだ。
「凄い……魔法みたい……」
「この世界には奇跡も魔法もあります故、この程度造作もない事ですぞ」
どこか聞き覚えのあるフレーズを笑顔で答えるお爺さん。
ん?まさか!?実はこの人魔法少女でした〜とかなら笑え……ないな。
見てくれは完全にザ・悪役の側近って感じだし。
「ふ~んそれにしても魔法かぁ、なんかワクワクするわねそういうの」
私は素直な感想を述べる。
「姫様は魔法に興味がおありで御座いますか?」
「まぁね~そりゃ使えるなら使ってみたいわね」
「ええ、使えますとも貴女ほどの魔力を持つお方であれば少し訓練するだけでどんな大魔法も思いのままですぞ」
「へぇ〜、私にそんな才能がねぇ」
私は冗談混じりで彼の話に返事を返す。
そりゃそうだろいきなり魔法が使えます〜とか言われて信じる人間がいるもんか。
さっきの衣装チェンジだって何かカラクリがあるに決まってる。
そんなこんなでブルー爺さんに連れられて10分程歩いただろうか?
「さぁ姫様着きましたぞ、この部屋で陛下がお待ちです」
案内されたのは部屋を出て長い廊下をひたすら歩いた先にあった一際大きく豪華な装飾が施されたRPGのラスボスが出そうな扉の前。
私が扉の前に立つと、ギギギと木の軋む音を響かせながら扉が一人でに開いていく。
「入れって事よね?さぁ鬼が出るか蛇が出るか行ってみようじゃない」
扉の先は王の謁見室の様な広く豪勢な空間が広がっていた。
「……ルイ、また会えたわね」
「ああっ……ああ!!!!」
……ルイ、それは紛れもなく私の名前、そして声の主はハッキリと分かる。
もう一度聞きたかったあの声、またこの声が聞こえるなんてっ!
横にはハンカチで目頭を押さえるブルー爺さんの姿が見えた。
いや……そんな事はどうでもいいッッ!!
私は溢れる涙を抑えようとせず声のする方へ全力疾走する。
「母さあああああああぁぁん!!!」
涙で目の前ぼやけているが分かる、感じる、間違いない。
「また会えたね!お母さん!」
私はとびきりの笑顔で目の前の人物に目を向けた、そこには――。
「母さ…………ん!!????」
…………ん??? あっ、そう、確かに間違いない……。
目の前の玉座に足を組んで腰かけていたのは確かにお母さんなのだが??????
ーー超が付くほどの美人でよく私の姉と間違えられていた程の美貌とスタイルを持つお母さんの特徴的だった薄ら紅みがかった瞳と紫と白のインナーカラーが髪型はそのままだった。
だがしかし、私の知っている母と違っている事もあった。
山羊の様に曲がりくねった二対の角を生やし四対の猛禽類の持つ黒羽、それにドラゴンの様な立派な尻尾がウネウネ動きまわり大胆に胸元を露出させた際どい衣装を着ているお母さんは知らない!!!!!!!
いや知ってなるものか!!!!!!
いい加減いい歳だぞッッッ!!!!!!!!!
娘の前でそれは恥ずかしいからやめてっっ!!!!!!!!!!
「あらら〜?? 感動の再会なのにもう泣き止んだの??」
美人だけど、どこか抜けてぼんやりしているいつものお母さんの口調のせいもあってか感動が台無しだよ。
お母さんのとんでもなく痛い格好見せられて別の意味で泣きそうだよ!!!!。
こうして死んだはずの私は天国か地獄かも分からぬ、場所で母との感動(?)の再会を果たした。
そしてそれは私の第二の人生の始まりの日であり、これから続く長い冒険のプロローグともなったのでした。
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