表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
混沌世界  作者: 狼嵐
第一章  召喚失敗
4/24

04 エギユース本部




「【爆ぜる火花、渦巻く焔、赫々たる王冠、貫き抉れ、炎轟連塊(エグジライド)】!」


 現在、樹達の前には、赤髪の青年が佇んでいる。

 青年は手をこちらへかざすと、続けざまに炎の塊を放ってくる。


 荒れ狂う青年の気持ちを代弁するかのように、豪快な音を立てて放たれた野球ボールほどのその魔術は、目の眩む勢いで飛来する。


 無論、ことごとくセトの透明なバリアに阻まれてしまったが。

 殺気が迸るその視線を受けても、セトは余裕の微笑を崩さない。


「落ち着きたまえフレイオンくん。怒ると血圧が上がるよ?」


 怒りを煽るような口調。

 火に油を注ぐとはこういうことを言うのだろう。

 いや、マジでやめてください肝が冷えます。


「てめぇ!」


 赤髪の男は殺気を隠すこともなく、右腕を振りかざし、そこで動きを止めた。


 いつの間にか、首に刀が突き付けられている。


「無礼ですよ、フレイオン。彼等は客人です」


 着物姿の和風な女性が、自分の身の丈を優に超える大太刀を、フレイオンの首筋で静止させていた。尋常の膂力ではない。

 刃は鞘に納めれてこそいるが、肌を切り裂くような殺気は抑えられていない。

 凛とした雰囲気。黒髪で黒の瞳だ。


 うん。前言撤回しよう。


「・・・チッ」


 青年は小さく舌打ちをして手を下げると近くの椅子にどさりと足を組んで座った。

 一部始終を顔色一つ変える事無く傍観していたセトは、ようやく元の用事を思い出したようだ。


「良い心がけだ。それよりギルドマスターはいるかな?」

「ギ、ギルドマスターなら奥の部屋に・・・」


 そばかすのある受付嬢のような女性が怯えたように声を上げた。


「あぁ、助かるよ。案内してくれるかな?」

「は、はい」


 どうやら案内してくれるらしい。


 少し時間が空くので、自分の中で情報を整理しようと思う。


 ここは、異世界。

 アースフールと呼ばれる世界だ。


 僕たち三人は傭兵派遣会社『エギユース』に入団する予定である。

 傭兵。

 それは雇用契約で雇われる兵のことだが、この世界では何でも屋のような仕事をしているらしい。

 セトはそこに伝があるようで、三人の衣食住を提供してくれるそうだ。

 ただし、保護してもらうわけだから、多少の任務はこなさなければならない。


 そして現在、樹達がいる国は帝国、『ドルクーア』である。


 ランディア大陸の北部、つまりアースフールの地図で右上に位置する人族最大の大国。

 豊かな資源に恵まれたこの地は古くから戦争が絶えなかった。

 戦乱の末に今の国王、オーディア・エクアルトス王の一族が80年前にこの地を統一し、帝国ドルクーアとしてまとめあげた。

 戦っていた有力者達に土地と爵位を与えそれぞれに治めさせる事で、これ以上の戦争を回避させたらしい。

 基本的に貴族の爵位とは『公爵』、『侯爵』、『伯爵』、『子爵』、『男爵』の爵位の順番で力があるものだが、この国には『公爵』のさらにもう一つ上の爵位、『帝』がある。

 『帝』の爵位は戦争の中で最も力を持っていた九人に分け与えられ、現在は、灼帝(しゃくてい)拳帝(けんてい)緑帝(りょくてい)獣帝(じゅうてい)雷帝(らいてい)幽帝(ゆうてい)海帝(かいてい)滅帝(めってい)戒帝(かいてい)の九人である。

 


 そうこう考えているうちに奥の部屋についた。

 そばかすの女性がドアを控えめにノックした。


「社長、来客です」

「入ってくれ」


 奥からくぐもった声が聞こえてきた。

 ドアを開けて中に入ると、椅子に座って机の上に山のようにある書類を次々と処理する眼鏡の男性がこちらを向いた。中年くらいだろうか。覇気は全く感じられない。

 くたびれた砂色のコートを傍に引っかけており、一見、普通の事務員のように見える。


「いやはや、珍しいですね。一年ぶりでしょうか、セトさん。あなたが来るときはいつも受付辺りで騒ぎが起こる。それで、なんのご用件で?」

「いやぁ、この前の貸しを返してもらおうと思ってねぇ」


 セトが二ヤリと底意地の悪い顔で笑う。

 眼鏡の男の顔に冷や汗が浮かぶ。


「貸しと言われましても、正式な書類と手続きを踏んでからでしょうに。それとも、(おおやけ)にできない何かが?」

「なに、ここは一つ、何も聞かずに僕の言うことを聞いてもらえると助かるのだが。そう簡単にことは進まないか。君達、少し部屋から出て行ってもらえるかな?」


 そう言われたので部屋の外に出た。

 もしかしてあまり歓迎されていないのだろうか。

 やっぱり不安になってきた…。





 数分後、中から満面の笑みを浮かベたセトが出てきた。

 後ろから疲れた顔をした眼鏡の男がついてくる。


「君達!おめでとう!エギユースの入社が決まったよ!」

「…さて、受け入れたからにはちゃんと歓迎しないとね。私の名前はギーティ・ワーニウス。ここの社長をやっている」


 眼鏡の男が手を広げた。 

 そこにはさっきのようなくたびれた中年職員の雰囲気はない。

 鋭い眼光。幾度も死線を潜り抜けてきた者の目だ。

 ぞくりと背筋が粟立つような感覚。


「今この瞬間から、私の名を持って君たちは傭兵派遣会社、エギユースの一員と認める」


 そこで彼は一呼吸、間を空けた。


「歓迎しよう。未来の戦友」

 







◇◇◇◇◇◇






 パチリ、と目が覚める。

 まだ見慣れない天井。

 体を伸ばして筋肉をほぐした。


 窓から陽光が差し込む。

 部屋には三段ベッドが一つ鎮座しており、上から順に蓮斗、瑛貴、そして一番下に僕が寝ることになっている。他の二人は既に食堂へ向かっているようだ。

 そうして服を着替えると、木製の扉を開いた。


 エギユースに来てから数日が経過した。

 生活は苦しくないが、訓練が中々に大変である。体力の基礎作りなど、やることは山積みだ。


 傭兵になったからには、少しは働けるようにならなけばいけない。

 もちろん、勉強もだ。勉強は瑛貴が苦も無くこなしていたが、蓮斗はからきし駄目だった。僕は中間と言ったところか。


 エギユースの訓練棟は寮と合体している。そのため、歩いて五分もかからない場所に訓練所はあった。

 最も、これから向かうのは食堂だが。

 

 廊下を渡って食堂の扉を開いた。すると、野太い喧騒が耳に飛び込んでくる。


「おおーい!こっちこっち!」


 蓮斗が一番右のテーブルで手を振っている。隣には瑛貴が座っていた。


「おはよー!良い朝だなぁ」

「昨日と何も変わってません」

「こーゆーのは気分の問題なんだよ」


 いつもの調子で二人が話しかけてくる。


「おうおう、朝っぱらから元気ですなぁ。新入り三人組!」


 後ろを振り向くと、筋骨隆々の大男がいた。

 この人の名は、リラウ・ゴイアンさん。心なしかゴリラに名前が似ているのは気のせいだろう。


 しかし侮ってはいけない。

 なぜなら、『エギユース』に七人いる幹部のうちの一人だからだ。

 幹部とは、ギルドマスターが最も信頼を置く部下のことだ。エギユースには階級がある。



社長・・・エギユースで一番偉い人。


一級・・・実力、経験とともに一級品の傭兵。


二級・・・強いが一級にはまだ届かない人達。


三級・・・強くはないが経験がある。


四級・・・まだまだ初心者。未来に期待。


新入り・・・入団したばっかりの卵達。


 簡単にまとめるとこうである。樹達は新入り、リラウさんは幹部だ。

 ただ、リラウさんは生来の明朗快活な性格もあり、誰とでも分け隔てなく接している。


「そろそろ慣れましたかな、ここでの暮らしは」

「それ、昨日も聞いたような気がしますよー」


「おらー、朝飯の時間は終わりだ!さっさと出てけ!」


 鍋とお玉をガンガンぶつけてガラの悪い女性が叫んだ。料理長のカーラである。目つきは悪いが腕は確かだ。彼女の作る料理はとても美味しい。


「撤退、撤退」


 流れるようにして人が出ていく。人の波に流されるようにして樹達も食堂を出た。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] この異世界がどういう世界なのかが少しずつ明かされていって、期待が高まります。今後登場してくると思われる「九帝」の存在も面白そうですね。三人が成長していくのも楽しみです。 [一言] 続きが楽…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ