21 何度でも
どろりと、頭蓋が剥がれ落ちるような感覚に陥る。
呼吸は壊れた機械みたいに小刻みに痙攣してる。
生まれて初めて、本物の絶望を味わった。
何故だ。なぜだ。ナゼダ。
僕にはさっぱり分からない。
なぜロキロキは何事もなかったかの様にしているのだろう。
眼前にそびえる竜は、何かを吟味するように押し黙っている。
どうしよう。どうすれば。どうするべきだ。
状況がちっとも理解できない。したくない。
意識はどろどろ渦巻いて、鼓膜はきりきり悲鳴をあげてる。
足は糸を切った操り人形みたいに動かなくなってしまって、もう何も見たくない。
見たくないから、目を閉じる。
ゆっくり瞼は蓋をするみたいに、世界から僕だけ隔離する。
見たくない。
何も。
知らなければ、きっと。
苦しいことなんて、何もないはずだから。
そのはず。きっと。誰かが。どうにかしてくれる。
『それでいいのか』
だってどうしようもない。できることなんて何も。
『変わらないな。お前はそのままでいいのかと聞いている』
………………………………。
後悔があった。
こんな自分でも変わることができたのだと。
選ばない後悔は、いつまでも僕に影を落とし続ける。
『俺は貴様に手を貸さない。与えるのはチャンスだけだ。分かるか? 必要なのは、覚悟だけだ』
きっかけさえあれば、人は変われるのだと。
信じていいのだろうか。
…否。
それは僕を信じてくれた二人への冒涜に他ならないだろう。
できる、できないではなく。
今僕がするべきなのは、やるか、やらないかの決断だ。
もう自己犠牲とか、卑下とか偽善もどうでもいい。
今は唯、あの頃の自分に、絶対に負けたくない。
目を開く。その行為は日常的であり、いたって普通のことだ。
ただ、今の僕にとっては違う。変わる。変わって見せる。
乾いた瞼の裏から、ゆっくりと蓋を外すように。
以前として状況は最低で最悪だが。
せめて最後の抵抗だ。日比谷樹は諦めなかったと、そう心に刻む。
踵からくるぶしへ。膝を伝い腰へ。
想像は絶え間なく流れる血潮のように。或いは、大地を悠々とすべる運河の如く。
滞っている魔力を体へと通す。
疲れた体に鞭を打つ、なんてレベルではない。
これは限界を超えようとする、綱渡りのような挑戦だ。
魔力は流れる。川の横幅を侵食によって削るように、その量を増やす。許容量を超えさせようとする。
魔力は循環する。より速く、力強く。小川のような流れを、膨大な水量の大瀑布のように。
ぶちぶちと、血管や筋肉繊維が悲鳴をあげている。
それでも、止めない。
下半身の感覚を呼び覚ます。起きろ。寝ている暇はない。
未踏の大地に、杭を穿つように足を立てた。
震える体を叱り飛ばす。
だめだ。力が入らない。もう一度。
無様にこける。もう一度。
何度でも。
視界を埋め尽くす、その悪夢の巨体を前に。
なんでもいい。足掻いて足掻いて、爪痕を残せ。
「ア、アアアァァァァァァァァァァ!!」
全身を飲み込まんとする、全能感。
かつての記憶。暗闇。差し伸べられる手。後悔。それも何もかも。
全ては今、この瞬間の為に……!
ふらり、と、足がもつれた。
おかしい。だってボクは今、こんなにも調子がよくて。
あれ、あれあれ。
地面の冷たさが顔に伝わる。衝撃を衝撃と感ずることすらできない。
まだ、まだマダ、マダ、ま、ダ、ダ、だー------------------------。
そうして日比谷樹は、ゲームをリセットするときみたいに、あまりにも味気なく呆気なく意識を失った。
簡単な話だ。人間なら誰しもにある活動限界。
それが、たった今来ただけのこと。
日比谷樹はまだ、主人公ではない。
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