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混沌世界  作者: 狼嵐
第一章  召喚失敗
15/24

15 誓いの絆


「勧誘…? 訳のわからないことを! そもそもあなたは誰なんですか!」


 とげとげしい口調で半田瑛貴が吠え立て、その手に持つ杖を道化のような男に向ける。


 気持ちはわかる。だが、それは駄目だ。

 静電気のように肌が痺れ、粘性の汗が頬を垂れる。嫌な予感しかしない。

 それは強者の予感だ。フレイオンやセトのような、漠然とした、格の違いが。


「これは失礼。私の名前はロキロキ、と申します。〝(ほふ)惨手(ざんしゅ)″のロキロキです。以後、お見知りおきを」


 …無理だ、想像できない。この男に勝つイメージが。

 

「最も、以後があればの話ですが」


 そう言って男は優雅に礼をする。


 瞬間、地面が鳴動した。

 突然の出来事に心臓が跳ね上がり、頭が混乱する。

 何を仕掛けられたかと男を見るが、寧ろ男の方が困惑している様子だった。


「…まさか、この短時間で追手が? いや、有り得ない話ではないですが、傭兵社は一体何を飼っている…? いずれにせよ、全くの想定外です」


 地鳴りのように、何かが土煙とともにこちらへと猛進してくる。

 ゴバ、と大地が爆発するように割れ、中から膨大な質量のーーーーーーーーーーあれは、根だ。紛うことなき植物の根が、木々を飲み込みながらも、膨大な津波のようにこちらへ迫りくる。

 正に怒涛の勢いで、立っていられないほどの揺れだ。

 嵐のように粉塵が辺り一帯を包み込み、視界は当然の如く塞がれる。


 そして、視界がぶれるほどの、圧倒的な衝撃が。


 やがて、地鳴りも収まり、束の間の静寂が訪れる。


 …今が絶好のチャンスだ。


「聞こえる? 二人とも、今すぐ奴から離れなきゃ」

「…ケホッ、エホッ。わかった。あのピエロみたいな奴から逃げればいいんだな?」

「確かに、それが上策です。三人で固まって逃げましょう」


 よかった、返答がある。二人とも無事だ。

 あいつに捕まれば絶対に碌な目に合わない。直観でわかる。


「…いや、僕が残ろうと思う。少しでも時間を稼ぐから、二人はその隙に」


 だから、そういう目に合うのは僕だけでいい。


 ふ、と掠れる呼吸音が聞こえる。

 それと同時に、強引に胸倉を掴まれて引き寄せられるのがわかった。


「……何言ってんだ! 逃げるなら三人一緒にだろうが」

「そうです! 死にたがりならよそでやってください!」 


「無理だよ。誰かが残らなきゃ、助からない」


「…ずっとな、あの甲魔(ゴーレム)のときから、ずっとそうだったけどなぁ! その自分を犠牲にするのをやめろっつってんだよ!!」


 ズキ、と心に痛みが走るのがわかった。

 …なんだそれ、僕らしくもない。


「こういうのは、僕が一番適任だから…! 分かったらいけよ、とっとと…!」

「言ってる場合ですか! 速く逃げないと追いつかれますよ!」


 複雑な感情の渦に呑まれるかのようだった。

 考えれば考えるほど、抜け出せなくなっていく。絶望という闇の色が、深く心に蔓延していく。

 どうすればいい。僕はどうすれば。


「仲間だろうが!!」


 絶望の暗幕を引き裂く声とともに、バチン、と硬い感触が僕の頬を張り飛ばした。

 仲間。それはどんな意味だっただろうか。


「俺たちはたった三人でこんなとこまできて! 死にかけて! それでも生きて! だから、だからなあ…!」

  

 ふと気づくと、乾いた砂埃を湿らせる水滴が垂れている。視界がぐにゃりと滲み、これは、涙か。

 どこから。…僕の目だ。


 いつぶりだろう。誰かの前で泣くなんて。

 どこかで自分を傍観している僕がいる。


「僕だって…、僕だって生きたいよ…! でも無理だ、勝てっこないじゃないか!! どうすればいいってんだよ…!」


 この場にいる誰がどうしようと、あの怪物を倒すことはできないだろう。

 圧倒的なまでの力量差が、戦わずともわかるのだ、僕には。


「それで終わりかよ…! 相手が勝てない化け物だったとしても、そこで諦めんのかよ…! 絶対に御免だぜ、俺は…! 負けて死んだって、この世界には屈しねぇ、絶対にだ」


 一人では、勝てないとしても、三人なら。


「抗うんだよ、理不尽に…」


 霧のような粉塵が、少しずつ晴れようとしている。

 

「ああ、もう! やってやりますよ!! どうにでもなりやがれってんだ! その代わり、死んだら許しませんからね…!」

「死んだら許すもクソもねぇよ。三人で生き残るんだ。だろ?」



 ガジガジと頭を掻く半田君と、肩をすくめる長谷川君。その姿が眩しくて。



 僕は。



「来いよ、樹。お前がどれだけ絶望しようが、俺は見捨てねえからな」



 差し伸べられた手を、取った。

 


「俺たちは、三人で一つだ」





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