15 誓いの絆
「勧誘…? 訳のわからないことを! そもそもあなたは誰なんですか!」
とげとげしい口調で半田瑛貴が吠え立て、その手に持つ杖を道化のような男に向ける。
気持ちはわかる。だが、それは駄目だ。
静電気のように肌が痺れ、粘性の汗が頬を垂れる。嫌な予感しかしない。
それは強者の予感だ。フレイオンやセトのような、漠然とした、格の違いが。
「これは失礼。私の名前はロキロキ、と申します。〝屠り惨手″のロキロキです。以後、お見知りおきを」
…無理だ、想像できない。この男に勝つイメージが。
「最も、以後があればの話ですが」
そう言って男は優雅に礼をする。
瞬間、地面が鳴動した。
突然の出来事に心臓が跳ね上がり、頭が混乱する。
何を仕掛けられたかと男を見るが、寧ろ男の方が困惑している様子だった。
「…まさか、この短時間で追手が? いや、有り得ない話ではないですが、傭兵社は一体何を飼っている…? いずれにせよ、全くの想定外です」
地鳴りのように、何かが土煙とともにこちらへと猛進してくる。
ゴバ、と大地が爆発するように割れ、中から膨大な質量のーーーーーーーーーーあれは、根だ。紛うことなき植物の根が、木々を飲み込みながらも、膨大な津波のようにこちらへ迫りくる。
正に怒涛の勢いで、立っていられないほどの揺れだ。
嵐のように粉塵が辺り一帯を包み込み、視界は当然の如く塞がれる。
そして、視界がぶれるほどの、圧倒的な衝撃が。
やがて、地鳴りも収まり、束の間の静寂が訪れる。
…今が絶好のチャンスだ。
「聞こえる? 二人とも、今すぐ奴から離れなきゃ」
「…ケホッ、エホッ。わかった。あのピエロみたいな奴から逃げればいいんだな?」
「確かに、それが上策です。三人で固まって逃げましょう」
よかった、返答がある。二人とも無事だ。
あいつに捕まれば絶対に碌な目に合わない。直観でわかる。
「…いや、僕が残ろうと思う。少しでも時間を稼ぐから、二人はその隙に」
だから、そういう目に合うのは僕だけでいい。
ふ、と掠れる呼吸音が聞こえる。
それと同時に、強引に胸倉を掴まれて引き寄せられるのがわかった。
「……何言ってんだ! 逃げるなら三人一緒にだろうが」
「そうです! 死にたがりならよそでやってください!」
「無理だよ。誰かが残らなきゃ、助からない」
「…ずっとな、あの甲魔のときから、ずっとそうだったけどなぁ! その自分を犠牲にするのをやめろっつってんだよ!!」
ズキ、と心に痛みが走るのがわかった。
…なんだそれ、僕らしくもない。
「こういうのは、僕が一番適任だから…! 分かったらいけよ、とっとと…!」
「言ってる場合ですか! 速く逃げないと追いつかれますよ!」
複雑な感情の渦に呑まれるかのようだった。
考えれば考えるほど、抜け出せなくなっていく。絶望という闇の色が、深く心に蔓延していく。
どうすればいい。僕はどうすれば。
「仲間だろうが!!」
絶望の暗幕を引き裂く声とともに、バチン、と硬い感触が僕の頬を張り飛ばした。
仲間。それはどんな意味だっただろうか。
「俺たちはたった三人でこんなとこまできて! 死にかけて! それでも生きて! だから、だからなあ…!」
ふと気づくと、乾いた砂埃を湿らせる水滴が垂れている。視界がぐにゃりと滲み、これは、涙か。
どこから。…僕の目だ。
いつぶりだろう。誰かの前で泣くなんて。
どこかで自分を傍観している僕がいる。
「僕だって…、僕だって生きたいよ…! でも無理だ、勝てっこないじゃないか!! どうすればいいってんだよ…!」
この場にいる誰がどうしようと、あの怪物を倒すことはできないだろう。
圧倒的なまでの力量差が、戦わずともわかるのだ、僕には。
「それで終わりかよ…! 相手が勝てない化け物だったとしても、そこで諦めんのかよ…! 絶対に御免だぜ、俺は…! 負けて死んだって、この世界には屈しねぇ、絶対にだ」
一人では、勝てないとしても、三人なら。
「抗うんだよ、理不尽に…」
霧のような粉塵が、少しずつ晴れようとしている。
「ああ、もう! やってやりますよ!! どうにでもなりやがれってんだ! その代わり、死んだら許しませんからね…!」
「死んだら許すもクソもねぇよ。三人で生き残るんだ。だろ?」
ガジガジと頭を掻く半田君と、肩をすくめる長谷川君。その姿が眩しくて。
僕は。
「来いよ、樹。お前がどれだけ絶望しようが、俺は見捨てねえからな」
差し伸べられた手を、取った。
「俺たちは、三人で一つだ」
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