13 殺意の行方
炎が渦巻くように先生を中心にして波紋状に広がっていく。
その炎に僕も巻き込まれるが、不思議と痛みも火傷もない。
むしろ温かく包み込むように、ゆらゆらとつむじ風のように揺蕩っていた。
木々にも異変はなく、炎と接触しているにも関わらず何の変化もないようだ。
それと逆に紫電を纏い、こちらに襲い掛からんとしていた短剣の群れは炎に呑まれその魔力を喰らうかのように輝きが失われていく。
危険を察知した暗殺者は素早く飛び退くが、避けきれなかった炎に左腕が焼かれた。
「投降しろ。この場から逃げても無駄だ。この森は傭兵社に包囲されている」
冷徹な声が響く。
「俺の魔術は炎に触れた特定の魔力を喰らう。お前はもう魔術を使えん。詰みだ」
敵に自分の能力を教えていいのかと思う。
…いや、それをする必要がないほどの力量の差があるのか。
「投降する。情報は知っている限り渡す。命は保証してくれ」
「なら、所有する武器を全てこっち側の地面に置け」
くぐもった低い声で暗殺者はすんなりと降伏した。
なんだか拍子抜けするようだが、命はやっぱり惜しいんだろう。
懐から数本の短剣を取り出し、地面へと放る。
腰からも数本。靴に仕込んだものや、袖に隠し持ったものなど次から次へ、あらゆる場所から短剣が出てくる。
人間凶器か!? 物騒すぎる。
「そのマントとフードもだ」
確かに、あんな凶器隠しどころ満載なマントとフードを着ていられちゃこっちも気が休まらない。
暗殺者はゆっくりと、億劫そうにフードを外した。
まだ燃え残っている短剣の微かな明かりにその風貌が照らされる。
流れるような短い黒髪は、先端にかけて濃く紫がかっていた。
肌には傷跡が残っているがその色は白く、炎に当てられて赤みがさしている。
紫水晶の左目と、爬虫類めいた瞳孔の右目。
刃のような鋭い目つきと黒い装束は相まって、さながら一振りの短剣のよう。
少女だった。
ぶわり、とその上着を地に放り投げる音で思考が舞い戻る。
「…、どうして」
なぜだ。
まだ僕と同じくらいの、子供であるはずだ。
それが、なぜ。
こんな血で血を洗う、残虐で許しがたい行為をしているのか。
この子は、殺そうとしていたのだ、人を。
あの殺気だ。きっと既に手にかけた人数は一人や二人じゃない。
吐き気が腹の奥のどす黒いところから込み上げる。
やっとわかった。自分の命を狙われて初めて、この世界が漫画やアニメで考えていたような軽々しいものじゃないことが。
頭が捩じ切れるような、酷い頭痛がする。
そんなことが。
だって、人を殺すということは、あんなにーーーーーーーーーー。
「…おい、大丈夫か」
その場にしゃがみこむ僕の異変を感じ取ったのか、先生の焦ったような声が聞こえる。
そのときだった。
突如として僕が蹲っている地面から、鈍い輝きを放つ魔法陣が展開されたのだ。
気が動転する。フレイオン先生の顔はいつなく驚愕と焦燥で歪んでいる。
何が起きたかもわからないまま、視界は闇に覆われた。
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