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#005 Quiz like or dislike

ハゲヅラでスクランブル交差点を歩くことだとか、水着でプロレス技をかけられるみたいな罰ゲームは絶対にやりたくないけど、目的の温泉地に到着して今は観光をしているのだが、今、お土産屋で見つけたチョンマゲのヅラを付けてなら、スクランブル交差点を歩ける気がする。


私の絶対にしてほしくないものは、私と知らないカップルの3人だけの空間でカップルがイチャイチャするのを見せられることや、金属と金属を耳元で擦り合わせてくることだが、お土産屋さんを一通り見て回ったけど、その二つは起こらず、お店の伝統ある人形みたいなものをイチャイチャしながら見ているカップルを見かけた程度だった。


私は温泉地に来たら、その土地特有のものを食べたり食べたりしたい人間で、普段から食べてるものでもいいじゃんと言ってくる人は嫌いではないが地味に苦手で、そういう人はハンドクリームを多めに手に塗る罰ゲームをすることくらい苦手だ。


「ねえ、優希ちゃん?出会った記念に俺が温泉まんじゅう買ってあげるよ」


「あっ、はい。いいんですか」


温泉まんじゅうはひとつ100円くらいなので、私との出会いの価値は100円ということだろうけど、元気さんには少しずつ慣れてきていて、誰かに耳の近くで爆音の『大嫌い』を言われることや、同じフレーズを10分リピートされることくらいの嫌レベルから、カーテンを着るという罰ゲームをすることくらいの嫌レベルへと下がってきている。


「俺が考えたゲーム、歩きながらやんない?」


「いいよ。何ていうゲーム?」


「ライクディスライクゲームっていうんだけど、異性が異性に対してする色々な行動の例を今から俺が言うから、それが好きだからやる行動なのか、あまり好きじゃない、または嫌いだからやる行動なのかを当てて欲しいんだ」


「オッケー、分かった」


「じゃあ、第1問いくよ!」


初対面の私という異性に温泉まんじゅうを買ってあげるという元気さんの行動を、もし元気さんが問題として出してきて、もしその答えが『好き』とか『何とも思ってない』とかじゃなくて『大嫌い』だったら、ピチピチの服を着て一日過ごしてくださいと言われて、着て過ごしたくらいダメージが大きい。


「第1問。あなたは同じ会社の異性が自分の飲み物に睡眠薬を入れているところを見てしまいました。これは好き?嫌い?」


「えっ、ちょっと待って。これって質問できないの?」


「うん。質問は受け付けないよ」


歌の歌詞に登場する料理を作る行程をコマ送りで流すみたいなMVとか、最初に全編を早送りで流して後半にその映像を逆再生して楽しむみたいなMVを作ったとしても、世間の人たちが拒否して、誰一人受け入れてくれないみたいなことは有り得ないように、この状況で質問を受け付けないのはおかしい。


私が今、ラジオネームの候補として考えているのは『太ももフェチ』という名前で、普通に想像すれば誰もが男性だと思うのと一緒で、この睡眠薬で異性を眠らせる行為も、その人が好きだから眠らせて、色々なことをしてしまいたいのだろうと考えるのが普通だ。


「睡眠薬の強さとか、量によっても変わってくるよね」


「安眠を促す程度だったのかな?その睡眠薬は」


「相手が不眠症だったから、その人は相手の家でこっそり睡眠薬を混ぜて眠らせようとしたんじゃない?」


「相手の安眠を願って入れた睡眠薬ってこと?」


個人戦だと思っていたが、三つ子の三姉妹が三人で相談をしていて『三つ子 VS 私』みたいになっていて、私が今考えているMV案の『映像に出てくる、LINE、Twitter、スマホの待ち受け、手帳、日めくりカレンダー、置き手紙、店の看板、Tシャツ、テレビ画面、本屋に並ぶ新書などに、全部の歌詞の文字を潜り込ませた歌詞の字幕がないMV』と同じでこの状況の違和感も絶対消せないだろう。


コロッケやら魚のフライやらを売っている店に入って、コロッケを買って食べていたが、『一度でいいから笑いたい』というラジオネームがふと頭に浮かんで来たり、この問題は睡眠薬を入れられた場所を言っていないので、揚げ物を売っている惣菜店という可能性もあって、睡眠薬を飲まされる人がコロッケを揚げている人の可能性もあって、揚げている最中に睡眠薬で眠気を誘って、揚げ油の中に頭から突っ込ませようとしている可能性もあるみたいなことが、頭に浮かんで来たりもしている。


温泉地を楽しむことよりもなぜか、歩きながらするゲームを楽しんでしまっている唯と愛と舞と私がいるが、私があったらいいなと思っている『鏡になっている時計をずっと撮り続けて、秒針と共に時計に映った家族の日常を表現するミュージックビデオ』のような和やかさや幸せ感は確実に今、漂っている。


「シンキングタイム終了ね。では、答えをどうぞ!」


「私たち三人からいくね。私たちは『好き』」


「じゃあ、私は『嫌い』にします」


「好きだと思っていても好きじゃないことが結構あるし、嫌いだと思っていても好きなことも結構あるよ。変えなくていい?」


有名俳優が変装姿から段々と正体を現していくMVや、曲と歌詞の詳しい説明や裏話を字幕で流しながら進むMVや、下手すぎるカメラワークに合わせた歌詞のMVなど、MVは少し変わっていた方が面白いが、答えは二つに割れた方が面白いので、答えを変えない方が面白くなるだろう。


このようなクイズよりも、『パーソナリティーがその日喋ったことの中からリスナーがクイズを考えてメールで送ってパーソナリティーが答える』みたいなラジオのコーナーや、『録音したゲストの声を流して、それに合わせてパーソナリティーが生で会話しているように喋る』みたいなラジオのコーナーなどの方が絶対面白いと思っていたが、そうでもなかった。


「正解は『嫌い』でした。『仕事中にウルサイから眠らせて黙らせようとした』でした」


「それって、元気くんのさじ加減でしょ?」


「そんなの気にするなって。では第2問。異性の店員がお釣りを渡すときに両手で触りながら渡してきました。これは好き?嫌い?」


私は『機器なくて聞けない危機』というラジオネームの案を考えついたが、このラジオネームって『カ行』がかなり多くないかと思っていて、風情あるお店が立ち並ぶ、落ち着く街並みで歩を進めていると『家業』という言葉が頭に浮かんできて、私たちは50年続く漬物屋さんで試食品を頬張りながら楽しんで歩いた。


異性の店員がお釣りを渡すときに両手で触りながら渡してきたら、好きか、ただ丁寧で親切なだけか、ラジオネームを『ラジオネームさん』にするほど特に考えのない単純な人なのだろうかと思っていたが、触れた手からお客さんの手へと邪気を送っているということも考えられるので、慎重に考えて今回も正解したい。


「これは好きしか考えられないよね?」


「でもでも、恋愛商法みたいなヤツかもしれないよ」


「好きにさせて仲良くなってからお金を取るみたいなヤツか」


「このクイズは確か、好きと嫌いだけじゃなくて、何とも思ってないってこともあるんだもんね」


三つ子の三姉妹が三人で相談していることにはもう慣れて、3対1のクイズ対決みたいになっていることも特にもうなんとも思っていないが、三人に今、ラジオネームをつけるとしたら『ラジオリスナーA・ラジオリスナーB・ラジオリスナーC』と付けてしまいそうなほど羨ましい嫉妬心の渦に包まれている。


「温泉まんじゅう屋さんがあったから、出会った記念として優希ちゃんに俺が買ってあげるね」


「ありがとうございます」


元気さんから温泉まんじゅうを一個ではなく二個も貰ってしまったが、元気さんから『どのラジオ局も雑音混じりの地域女』と『ラジオ観てます』という二つのラジオネームを貰ったと仮定した時よりも、遥かに嬉しかったし、ひとつよりも二つの方が嬉しい。


ラジオの企画で、食べる音だけで何を食べているか当てるゲームがあったとしても、温泉まんじゅうの音は一生当たらないなと思ったり、今の状況が意外に楽しくなってきているのがなぜか悔しくなってきたり、唯と愛と舞は仲間だと思っていたのに、もはや敵だったり、元気さんが少しいい人に思えてきたりしている。


私のラジオネームの候補は沢山あって『ラジオが好きでも嫌いでもない女』とか『いいラジオネーム思い浮かばないウーマン』とか『おはようございます、あの時のズルです』とかがあるが、買ってもらった温泉まんじゅうを頬張った後、『温泉まんじゅうガール』というラジオネームが新たな候補に加わった。


「考える時間終わり。じゃあ、答えをどうぞ!」


「私たち三人は好きでも嫌いでもない『普通』にするわ」


「じゃあ、私は『好き』で」


「異性の店員がお釣りを渡すときに両手で触りながら渡してきたのは『好きだから』でした。優希ちゃん凄いね?2問とも正解は凄いよ」


「理由は何?」


「ただ触れたかったからだけど」


「元気くんのさじ加減じゃん!」


「三人、声が揃ってるし。まあまあ、落ち着いて。俺のさじ加減じゃないよ」


「本当?」


「うん。それにしても優希ちゃんは凄いよ。本当に凄いよ。天才だよ」


元気さんが出した、好きか嫌いかを当てる『ライクディスライクゲーム』よりも、元気さんが私をまた必要以上に褒めているのが気になっていて、逆に私から元気さんへ『必要以上に褒めてくるのは好き?嫌い?』みたいに聞いてみたくなったし、このゲームはラジオの企画としてもいけるのでは?と思ってしまっていた。


『毎週楽しく聞き流しているババア』というラジオネームが、私の頭を駆け抜けている頃、元気さんがおもむろに袋から何かを取り出して、私に向かってそれを差し出した。


「はい、これ。俺から全問正解のご褒美の温泉まんじゅう。サービスで3つプレゼントするよ」


「ありがとう」


温泉まんじゅうは温泉地に来たときには外せないもので、温泉地の雰囲気は十分に堪能させてもらっているが、罰ゲームで可愛いよねと50回言われたり、誰かに何度も何度も褒められ続けたりしたときなどと同じ『もういらない』という言葉が、今も頭に浮かんでいる。

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