#001 Brain overflow
「まず“ブレインオーバーフロー”っていうゲームしよっか」
「元気くん、それ、どういうゲーム?」
「パッと思い付いた言葉をすぐに口に出すだけさ」
大勢でするゲームといったらトランプや、しりとりくらいしかやったことがないし、誰かが『生まれてからずっと馬鹿を演じています』と言ってきたら『もう、やめてください』と言えるけど、さっき会った男性とのゲームを断れるほどの勇気はない。
男性とゲームを共にするという『共同ゲーム』に楽しさを見出だせるか心配だが、今日の新聞の占いでは[ラッキー殻はピスタチオ。朱を身に纏った肌色の生物が貴方の周りを彷徨きまくるが気にしなければ吉。煙巻き運◎]と書いてあったので、赤い服を着た折野元気という男を気にしていてはダメと受け取ることにする。
「最後に一番面白かった人を投票して、最下位の人は罰ゲームね」
「何でもいいから、とにかく喋ればいいんだね」
「うん。思い付いたものを躊躇せずにすぐ言えばいいのさ」
テレビの占いでは[ラッキーフードはロマネスコ。普通に過ごしていれば、普通のことが普通に起こるので、極度に喜んだり楽しんだりせず、普通にしていてください。奇声×]みたいに言っていたことを思い出して、普通じゃないことばかり起きてるので占いは当たってないし、極度に楽しめる状況でも奇声をあげられる状況でもないので意識しなくても大丈夫みたいだ。
「俺から始めるけどいい?」
「いいよ。じゃあ、元気くんどうぞ」
「“頭のネジ100本外しておきました”」
「それって、施術に付いてくるサービス的なこと?」
「そうかもね」
「頭のネジって元々何本付いてるのよ?これは普通に面白いね」
男性にお尻を蹴ってと言われたとしてもやらなくて、ボウリングでガターを出してしまったとしてもピンを足で蹴り倒しに行ったりしなくて、両手が塞がっている時にドアの開閉を足で蹴ったりしてすることもないのに、くだらないゲーム過ぎて少し楽しくなり、運転中にも関わらず興奮して足で足の上にある運転席の壁を蹴ってしまった。
「じゃあ、時計回りで次は唯ちゃん」
「“エンマ様、地獄に落ちろ!”」
「もう地獄にいるよ、エンマ様は」
「そんなの咄嗟に思い付かないよ。本当に、今、思い付いたの?」
「うん」
「俺の考えたゲーム意外と面白いだろ」
「そうだね」
週刊誌に乗っていた方の占いによると今日は[ラッキーそばが沖縄そば。狭いところをカラダを縦にして通らないとイケなくなりそうな日。シミュレーションを積み重ねて体力をつけておこう。安全運□]となっていたが、これはオリジナルゲームに気を取られて、運転中に何かしらの惨事に遭遇して脱出するには狭い隙間を通らないといけなくなるということなのかもしれない。
次に喋る人のセリフが「もう、やめてください」だった場合、一番合っているセリフが「初めましてこんにちは」と「三日間、目を開け続ければ100万円ですもんね」と「私は牛です。モー!モーモーモーモー」のどれなのかなんて分からず、このオリジナルゲームの最下位を回避できるフレーズのジャンルもどれなのかも分からない。
「次は助手席の愛ちゃんね」
「“ノリキナドブス”」
「恐竜っぽくも聞こえるけど、恐竜みたいな女性ってことだよね?」
「何も考えずに言ったから、よく分かんない」
「思い切り悪口じゃん」
もしも、乙女座の今日のラッキーフレーズが“満室のホテルで言う「お泊め!」”だった場合、何だかしっくりくるし、愛がさっき言った“ノリキナドブス”が私に向けられた言葉だと言われた場合、三つ子姉妹の前だけでは乗り気になることが多いので何だかしっくりくる。
「えっと、名前優希ちゃんで合ってたよね。じゃあ、次は優希ちゃん」
「・・・・・・“そこのお嬢ちゃん?俺と一緒に冷やし中華始めない?”」
「何?その斬新なナンパは」
「面白いね。俺、優希ちゃん気に入ったよ」
「私、そんなこと言われたら冷やし中華始めちゃうかも」
獅子座の今日の運勢は[前髪が決まらない一日になるかも。センター分けしている人はそれなりの一日になるかも。前髪がない人やオールバックの人は前髪があったら良かったのにと思う出来事に遭遇しそう。手櫛×]だったが、何で自分の星座ではない占いを正確に覚えているのかということと、何で“そこのお嬢ちゃん?俺と一緒に冷やし中華始めない?”というフレーズが咄嗟に出てきたのかは自分でも謎である。
「じゃあ次、舞ちゃん行けっ!」
「えっと“美女と野獣と時々オトン”」
「色んなものが混ざってる気がするけど」
「何か、色々と想像できるなぁ」
「本当にこのゲーム面白いよ元気くん」
「ありがとう。たまに、つまらなくなる時もあるけどね」
占いの蟹座の欄に[まっすぐに歩いては駄目。ときには横に歩かなくてはイケないこともある。縁を自分で切ってしまいそうになったら我慢して]と書いてあったことがあって、今の私はそれを見たときと同じ表情をしていたが、この後の罰ゲームの怖さでその表情は一瞬で消え去った。
『明日は何の日?』と聞かれて『私です』と答えたり、『自動販売機はどうやって商品を取り出し口に運んでるの?』と聞かれて『私です』と答えたり、『宇宙人って何者?』と聞かれて『私です』と答える人は異常だが、一番面白かった人を投票するこの状況で『私です』と答えるのも異常なのでやらない。
「最下位の人は、一位の人を10分間褒め続けるっていう罰ゲームにしよう」
「いいよ」
「じゃあ、一番面白かった人に投票開始!唯ちゃんは?」
「私は優希のやつかな?」
私が一番に投票されるなんて『お前って人間じゃないな?』と聞かれることくらい予想外で驚いているが、罰ゲームはほぼ回避できたと言っていいので『お前って人間じゃないな?』と聞かれた時に『おい、それ誰から聞いた?』とおちゃらけられるほどの緊張の度合いになった。
私は舞に票を入れて、その後、唯と私にそれぞれ一票ずつが入り、元気さんと愛が罰ゲームとなったのだが、『お風呂に入ったら、まず何をしますか?』と聞かれて『洗面器を足で蹴ります』と答える人の気持ちくらい、罰ゲームをうける人の気持ちは計り知れない。
「じゃあ、優希ちゃんを俺と愛ちゃんで10分間褒めよう」
「あぁ・・・・・・」
最初から何も出てこなくて沈黙になったり、思ってもないことを言われたり、私の性格や見た目とは真逆のことを言って褒めてきたりするかもしれないので、一位より最下位の方が良かったなと思いながら私は車を走らせていて、褒めるのが罰ゲームって、無理矢理褒められるこっちの方が罰ゲームだよ、と頭の中で呟きながら私は先が思いやられていた。