表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/11

#009 Who wrote it?

ゲームという名のカラオケは終わって、ようやく待ちに待った温泉に浸かる機会を手に入れて、【ヒール折れちゃったんですね。おんぶしましょうか?】や【俺といるんだ。もっと幸せそうな顔をしろ。笑うとより可愛いんだから】と言われることなんかよりも格段に良い、至福のときが訪れた。


温泉は全てを溶かしてくれ、カラオケゲームで優勝して背負った重圧とか、カラオケゲームで積もりに積もったテンションの違いとか、他のゲームは特典みたいなものがあったけど何もない違和感とか、自分で考えた胸キュンフレーズが書かれた自作ジグソーパズルへの意欲とかも、 もちろんゆったりと溶けていった。


楽しかった温泉ともついにおサラバで、疲れも、真面目なキャラを保とうと思う気持ちも、人見知りも、【オマエ、ハナサン!】という胸キュンフレーズも、少しはどこかにブッ飛んでくれておサラバしたから、優雅に帰りのドライブを満喫出来そうだ。


「ちょっといい?車を発進する前に、車内でやるゲームのために準備をしたいんだけどいいかな?」


「いいよ」


「今度はどんなゲーム?」


「ワクワクするね」


帰る前に元気さんからゲームの提案をされ、元気さんが紙とペンを私たちに手渡してきたのだが、少し接触しただけなのに【俺たちカレーと牛乳みたいな相性だね】や【俺は右の靴、お前は左の靴、どっちが欠けても上手く歩けない】や【貴女の顔の全てのパーツが可愛さを含んでるよね】みたいに言われることを妄想してしまった。


「書く漢字一文字を親が決めて、その漢字を他のみんながそれぞれ書いて、親がその漢字の書かれた紙を見て、誰が書いた文字かを当てるゲームだよ」


「うん、面白そうだね」


「その名も【誰が書いたんでしょうゲーム】だ」


「じゃあ、親は元気くんでいいよね?」


「おう!」


「元気くん?お題になる漢字一文字は何にする?」


「じゃあ、俺が大好きな優希ちゃんの『優』で!」


三つ子のゲーム熱にゲーム王子である元気さんは少し押され気味で、そんなことは気にせずに、温泉に入った時の幸福感を持ち込んだ車内で元気さんを騙すためのシンキングをしていたが、【俺が大好きな優希ちゃんの『優』で!】と言った元気さんの【優希熱】の方が気になって、なかなか書けないでいた。


私がもしも車だったら元気さんが放った【俺の大好きな・・・・・・】という言葉は絶対に解除できないサイドブレーキのようなもので、【駄目だよ、愛から逃げちゃ】とか【あなたが最後の彼女になる予感がするよ】とか【何でもしますから!ねっ!ねっ!ねっ!ねっ!】と言われるよりも遥かに嬉しかった。


三つ子が三人とも習字を習っていたことを私は知っている、そして三人の字が似ていることも私は知っている、そして三人とも『優』という字の最後の払いを長めに払いたがることも私は知っている、そして自分が書いた字が小学生の書いた字だと勘違いされてしまうことがあったことも私は分かっている。


元気さんのバラのようなに赤く棘がある唇を見ているだけで、私は真っ赤なバラのような心に染まってしまったが、恋とは違うし、とりあえず【優】という漢字を三人に似せるか、下手な字をもっと下手に書くかを考えることだけに脳や心を使った。


私は角張っているいつもの【優】という文字を選択し、優しいという漢字なのに全然優しさが感じられない文字を書いたのだが、そんな感じで書かれた漢字の【優】は限りなく強張っていて、今も色々なことに使用するペンネームが決まらず【蛭田威夢ひるたいむ】【知葉香瑠戸ちばかると】【隼人知里はやとちり】など色々と悩んでいる普段の私に比べれば、騙す字の方向性は早く決まった方だろう。


文字を書いた紙は回収されて元気さんに渡り、帰るために車のアクセルをゆっくりとしっかりと踏んで、朝起きたら髪の毛が針金だったことを思い出したり、私の頭の中のような空だなと思ったりしながら、車とゲームの進みを伺っていた。


三つ子は三つ子で三つ子にしか分からない三つ子の世界にドップリと浸かっていて、元気さんは元気さんで他の音声をほとんどカットしているかのような【解読一人喋り】を繰り広げていて、私は私で【未来は何処に何があるか分からないスーパーマーケットみたいなものだ】と思いながら運転していた。


「文字がカクカクしてるな。カクカクし過ぎてるな。全部の文字カクカクしてるな」


「どう?分かった?」


「みんな同じだね。四人で事前に相談したかのように」


「私たち四人は以心伝心だからね」


私たち三人は以心伝心だかね、と言ってくることまでは予想の範囲内だったが、三つ子に到底敵わない以心伝心度合いしか持ち合わせていないはずの私がそこに加われるなんて、【初恋相手の名前の最初と最後の二文字を告白する罰ゲーム】くらい照れくさい。


「質問とかダメかな?もしかして、ひとつだけ書いてあとはコピーとかしてない?」


「してないよ」


「出来るわけないでしょ」


「そうだよ」


「三つ子がみんな同じ文字なのは分かるけど、優希ちゃんスゴいね」


私が類似性増幅の立役者みたいになってしまっているが、スゴいのは相談していないのに私に寄せてきた三人の方で、元気さんには早くそのことを伝えておきたかったけど、【10分間『はい!』と『はい?』しか喋ってはダメな罰ゲーム】をしているみたいな感じのアレだから今は伝えられない。


友情はスゴいと改めて感じ、小学生が書いたような【優】が浮き彫りにならなかったことに奇跡を感じ、ペンネームは成渡そらあき(なるとそらあき)や奥菜側和おきなはたかずという小学生離れしたものが思い付くのに、文字は小学生風のものしか書けないのはおかしいなと少しだけ思った。


バックミラーには真剣な元気さんが映り、三つ子の三人はサクラソングで陽気にハモり、私は【沖縄そばは岩清水のようなスープである】【沖縄そばはショッピングモールのような充実感を味わえるものである】【沖縄そばはクリスマスツリーのような美しさである】というような直喩を頭から徐々に排除し、車の運転に専念した。


100点を出そうとすると力んでしまうので、100点の運転を心がけても駄目だろうと思っていて、ここは私がカラオケで出した77.777点くらいを心掛けた事故らない程度の運転をしようと、思いながら運転を続けた。


「文字全く一緒だよね。もうこれは勘しかないな。優希ちゃんのだけは分かると思ってたんだけどな」


「これは私たちの勝ちかもね」


「私たちの勝ちだね」


「うん。これは勝ったね」


普通にしていてもスリー不正解は確実だったが、フォー不正解が見えてきて、【未来は人生の起承転結の起である】みたいな綺麗な言葉の数々が、『【走馬灯のように】と例えられる状況』のようにいくつも脳内に流れ出した。


「もう分からないから、俺は全部勘で行くよ」


「どうぞ」


「勘で当てるのは難しいからね」


「勘なら多くても二つしか当たらないよね」


「行くよ。これが唯ちゃんで、こっちが愛ちゃん。それでこっちが舞ちゃんね。そしてこれが優希ちゃんが書いたやつだよね?どうだ」


「えっ、嘘でしょ?」


「スゴいね元気くん。全部合ってるよ」


【未来は美女のように怖くてワクワクするものだ】そんな言葉がよく似合う現在がここには存在していて、勘で全て当てられたことよりも、車の運転で少し表れ始めた疲れよりも、程よくにぎやかな車内にいることによる幸福感に心が進んでいた。


「ねえ、ちょっといいかな?」


「元気くん、何?」


「ショッピングモールに寄ってもいい?」


「うん。別にいいけど」


「私も別にいいよ」


「行こう行こう」


「そのショッピングモール内にある有名なホビーショップに寄りたくてさ。珍しいカードゲームやボードゲームが多数あるらしいんだよ」


「えっ、行きたい」


「そんなところあったんだね」


「へぇー、楽しみだな」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ