#000 Opening game
私と三人の親友で遊ぶことになった。
スマホの新機能にシミ取りがあったらいいなと思ったり、スマホの新機能に肌年齢測定機能が付いていたらいいなと思ったり、スマホには新しさを求めるが、友達に新しさを求めることはない。
遊ぶといっても一泊するという歴とした旅行というやつで、ベタに温泉に行くわけだが、自分の言葉も相手の言葉もまとめるのが下手なので、親友との旅行とはいえ、会話の要点をまとめて文字に起こしてくれるスマホの新機能がほしい。
旅は仲良しでお互いの性格を熟知している女子四人で気楽にワイワイと『バレバレの嘘をついてと言われてもバレバレという言葉の意味を知らないから見え透いた嘘は付けないよ』という冗談も挟みつつやっていけたらいいなと思っている。
私は意外と車が好きで旅行には私の車を飛ばして行こうということになったが、待ち合わせ場所の駅に着く直前に、“SNS感謝の日”という新しい祝日が出来るかも知れないといういい予感と、何かトンデモないことが起きるんじゃないかという悪い予感がした。
駅に着くと、三人に混じって王子様のような人がいて、ママが前に吐いた「わたし、直木賞獲ったわ」という見え透いた嘘にも引けをとらない「今回は幼馴染み四人だけでパーっと楽しもう」という嘘を親友に吐かれていたことに今気付いた。
エンジン音が静かすぎることで名を馳せている車種の愛車を降りると、「初めまして。今日の夕飯何がいい?」と言わんばかりの佇まいで王子様が出迎えてきて、お金が絡まないと何も上達出来ない、みたいな感じの印象しか持たなかった。
私は一日に数回デジャブに襲われるが、スマホの機能にデジャブ発見器があったとしても、それを使わずして初体験だと認識できるほどの異様な光景だった。
祝日がない六月に祝日が欲しくて“六月休息の日”という祝日を作って欲しいなと思っていたが、今はそれよりも一年に一回何でも土壇場でキャンセルできる“ドタキャン権”が喉から指が出るほど欲しい。
「初めまして。俺、折野元気」
「はい。初めまして」
「元気くんは私たち三人の共通の友人だから」
「よろしくね。えっと、結城優希ちゃんだったよね」
「はい、よろしくお願いします。同じ大学の方ですか?」
「そうだよ。三人の1つ上の先輩さ」
小学生の頃から四人は友達で、四人とも他に友達なんて出来たことなかったのに、ひとりだけ就職した私の知らない男性と親友が友達だと知ってしまったら、栄養補助食品の代わりに本体を食べられて数分後にもとに戻るような最先端のスマホがないと体力が持たない。
この旅行を取り仕切っている私に内緒で男性を連れてきてしまったし、仲がいい人としか上手く喋れなくて息が詰まりそうだし、温泉旅館は一部屋しか取ってなかったし、先が思いやられる。
「あの?あなたのお部屋の方はどうすればいいですか?旅館の人数追加は問題無さそうなんですけど・・・・・・」
「君と一緒の部屋で君の隣で寝たいな・・・・・・というの冗談で」
近くに置いておくと、相手が話している話の合間合間にわざとらしく笑ってくれる機能がスマホにあったのなら、少しはリラックス出来たのだが、ないので苦手度がぐんと増した。
「部屋空いてないから我慢してね、優希」
「愛ちゃんも舞ちゃんも唯ちゃんも別に一緒でいいって言ってくれてるけど、優希ちゃんがもし嫌なら俺、隅で寝るから」
「普通で大丈夫です」
道端に転がっている石の上にも愛車の上にも私の上にも壮大な空が広がっているが、石の上にも石の下にも石の横にも私がリラックス出来る空気なんてちっとも漂っていなかった。
「三時間以上かかるので、はやく行きましょう。私が運転しますけど、途中で誰か代わってくださいね」
「優希、大丈夫?そんなに緊張しないで。私たち三人には敬語じゃなくていいし、元気くんもタメ口の方が話しやすいと思うからさ」
「優希ちゃん!俺はありのままで話してくれればいいと思ってるからさ」
「はい。では、どうぞ乗ってください」
女子四人の時なら『明という漢字の【日】と【月】は、それぞれソロ活動が主になってきていて、二人とも独立を希望しているらしいですよ』というバレバレの嘘を私が言ったりして場が盛り上がるのだが、男性がいる前でそんなことは出来ず、男性と10年間くらい旅行友達として過ごしてもそれは変わらないだろうと思っている。
本当にあることわざが『秋茄子は嫁に食わすな』なのか『おたんこなすは嫁に会わすな』なのかなんてどうでもよくなるくらい吹っ切れていて、誰とも仲良くなれない私の遊び仲間の中に男性がいることは、気にしないことにする。
「ねえ、優希?」
「何?」
「元気くんってオリジナルゲームを作って遊ぶのが趣味みたいでね、車の中でも遊べるやつもあるみたいだから、渋滞でも退屈しなくて済むよ」
「私は運転手だから関係ないけど」
「言葉の遊びもあるから、優希ちゃんも俺と一緒に楽しもうよ」
「は、はい」
「元気くんはオリジナルゲームの天才“オリゲーマスター”だからね」
「オリゲーマスター?」
『この中にお医者様はいらっしゃいますか?』という言葉は使うことがあるが『お医者様の中に藪医者はいらっしゃいますか?』と言う人はいなくて、退屈な車内で『オリジナルゲームを持っている方はいらっしゃいますか?』と聞く人もいなくて、ゲームを特にやりたいと言う気持ちはないが、とりあえず楽しむ。
アクセルを踏み、静かなエンジン音となめらかな音楽と共に走り出し、長閑な田園風景を颯爽と通り抜けた。
『億万長者の顔の色。不老長寿の断りを表す』という意味不明な言葉と今後の不安は、頭とカラダの中をグルグルとしているが、車は五人を乗せて直線道路をまっすぐ疾走している。
「愛ちゃん?バッグ可愛いね」
「私は舞だよ」
「ごめん。君が愛ちゃんか」
「私は唯だからね」
「ごめんごめん。未だに誰が誰だか分からないや」
助手席にいるのが三つ子姉妹の一番上の山之内愛で、後ろは右から二女の山之内舞、折野元気さん、そして末っ子の山之内唯という順番で、ずっと仲がいい大親友の私なら分かって当然のことだ。
「まあ、とりあえず俺が作ったオリジナルゲームを始めるとするか」
「イエーイ」