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探索のお仕事

8/19投稿。8/26予約投稿未

「オラフさん、ほんとにエルさんを口説き落としたんですね・・・」

 街道を進む馬車。

 世のすべてに絶望したかのような暗い表情の青年がぽつりと呟いた。

 色褪せたローブにひょろ長い体形、白髪交じりのグレーの髪は実年齢よりも老けて見える。

 オラフパーティで唯一と言っていい頭脳担当、人族のジョーイ君だ。

「はっはっは、わしに掛かればイチコロよ!」

 調子に乗っているオラフは放っておくが、彼が暗い表情になるのもわかる。

 オラフ達のパーティはよく言えば戦闘に特化しており、魔獣狩りのハンターとしてはかなりの実力を誇る。

 リーダーであり、獣の住処となりやすい洞窟に詳しいドワーフの斧使い、オラフ。

 サブリーダーで探知系魔術と攻撃魔術の使い手のジョーイ。

 オラフに憧れてパーティに参加したドワーフの聖職者、チック。

 森の探索と遠距離の弓に、短剣での近接戦闘、後衛のフォローなど遊撃手を務める獣人の狩人、ニコ。

 遺跡探索だというのに遺跡探索を得意とする者がいないのである。

「あ、基本浮いてますし、壁とか触らないようにしますね」

 御者席そう気楽に返すのは、いざとなれば逃げる手段を持っている自分だからこそだろう。

 唯一の探知魔術の使い手として全てに対応せねばならないジョーイは胃のあたりを押さえているが、大丈夫だろうか?

「いざとなれば全員纏めて何とかしますけど、その時は救助代金掛かりますから気を付けてくださいね」

 そう言うとジョーイは口元を押さえて「ちょっと、失礼します」と馬車の中に戻ってしまった。

 あ、パーティの財政管理もジョーイ君の担当だったか、こいつは失敗した。

「ジョーイは悪い方にばかり考える」

 馬車の幌からそう返す女性はニコだ。

 短く刈り揃えられた髪から覗く尖った耳はぴくぴくと忙しなく動いており、現在もお仕事中である。

 胸元と腰に毛皮を巻いただけの野性味あふれる姿だがその腕と脚には黒い毛がびっしりと生えており、長い手袋と靴下をはいているようにも見える。

「そうじゃそうじゃ、一獲千金のチャンスじゃぞ?楽しめんようでどうする」

 そう笑うオラフの横について頷いているのが鍛冶神の聖衣を纏ったチック。

「あ゛?頭を使えないオラフはジョーイに土下座して謝るべき」

 いきなり口が悪くなるニコだが、これが彼女のオラフに対する素である。

 オラフも特に気にした様子もないが、そこにチックが噛みついた。

「そういう言い方はないと思います!」

 このチック少年何をとち狂ったのかオラフを英雄か何かだと思っているらしい。

 幌に短い手足でしがみつきよじ登ろうとしているのは危ないからやめてもらいたい。

「悪いところは言わなければ治らない。オラフが頭を使うのをさぼる分ジョーイが忙しくなる」

 そう返しながらも周囲を見渡している彼女はさすがベテラン冒険者と言ったところか。

 まぁ、自分の仕事なので彼女にも休んでいてもらいたいところだが、言っても聞いてもらえないだろう。

 普段の仕事であれば、余計なことは言わずただ空気であることを務めるが、付き合いの長い連中ということもあって今回の旅は気楽である。

「はーぃ、チック君。馬車の上では、はしゃがないでくださーい」

 そう言って馬車を引く性獣、もとい聖獣ユニコーンの尻を軽くたたいてやり、手綱をオラフに預ける。

 ユニコーンが一瞬すごく嫌な顔をしたが、少しの間我慢してくれ。

 ふわりと浮いた体でチックを引っ掴んで御者席のオラフに預け、幌の上で警戒するニコの隣に座る。

「はい、おしぼり」

 <収納空間>から取り出したそれは朝、冷えた井戸水で絞り収納したものだ。

「あぁ、すまない・・・。ん、二つ?」

「中にいるジョーイさんの分です、冷たいもので顔を拭けば少しはさっぱりするでしょうし」

 そう言って軽く目くばせを送る。

 振り返るニコの視線の先にあるのは御者席である。

「それとこれも・・・、頭を使うと甘いものが欲しくなりますからね」

 ついでとばかりに粉をまぶした飴玉が入った麻袋を渡す。

「サービスです」と付け加えれば、手の中のものとこちらの顔を見て、その頬を朱に染めたニコは「感謝する」と短く答える。

 足で幌の縁を掴み、くるりと回るような動作で馬車に入る。

 走っている馬車の上で両手が塞がって尚あんな動きが出来るのだから、獣人というのはすごい身体能力だ。

「チック君はまだまだお子様だねぇ」

 そんなことを呟きながら見た目は完全な幼女のエルフは御者席にいる二人の相手へと戻った。



 遺跡。

 それは過去の異種族間大戦の折、放棄された軍事拠点であったり、攻め滅ぼされた都市である。

 過去の対戦の折、エルフは世界の礎であった世界樹を守り切れず、今は挿し木で増やした世界樹の子を守護している。

 ハイエルフが減り、エルフが子づくりに励むようになった原因でもある。

 世界崩壊の危機であったが、最後の最後で他種族連合国家が生まれ、国体をかろうじて維持していた大国を説き伏せ、世界は崩壊の危機から救われた。

 もっとも地は燃え、森は腐り、海は凍るような環境になったため、生き残りによる協力は不可欠。

 ほぼ、すべての国が多種族国家となってしまった。

 ほぼと言ったのは協力関係を持ちつつも単一種族主義を貫いたエルフや魔族、竜と言った例外が存在するからだが、彼らの場合多くの人族と比べて生活様式が違いすぎたことから共に暮らさないほうがよいだろうという判断からだ。

 精霊に頼めばだいたいのことは出来るエルフは精霊の機嫌を損ねることを嫌うし、精霊の住みやすい環境を維持するある種の奉仕種族とも言える。

 まぁ、ハイエルフの自分からすれば精霊もただの気のいい友達でしかないのだが・・・。

 さて、そんな環境で残っている遺跡の話だが、過去の技術で作られた遺物は現代では作ることが出来ない物が多い。

 そうなると盗掘しやすい場所は軒並み荒らされており、数百年たった今なお残っているのは協力な魔獣の住処となってしまっているか、過酷な環境故盗掘できないかのどちらかである。

 今回は後者。水中都市の名残であるそこは完全に水没しており、普通の人間が入るのはまず不可能と見ていい場所だ。

「はーい、空間の水抜き終了」

 過去のハイエルフと比べても遜色ない空間魔術の使い手が居なければの話ではあるが・・・。

 30m四方の立体の中を外と繋げ空気を入れ替える。

「えーっと、この結界を守るために敵が居れば外で戦うのが僕らの仕事ですよね?」

 水中呼吸の護符や水圧対策の補助護符を鎧に張り付けたチックがこちらの顔を見て尋ねる。

 何度も事前の打合せは行ったが、まだ新入りの彼には不安があるのだろう。

「はい、外からの攻撃もある程度は防ぎますけど、一点集中で貫通されれば水圧で一気に流されるので注意してくださいね」

 オラフがその余所行きのしゃべり方に「うげぇ」と舌を出しているが彼には見えていないらしい。

 そのさらに隣ではニコが弓の代わりというように短剣を腰に二つ、ブーツの左右に一つずつ、胸元のベルトに一つと吊るしていくが、そんなにいる?と思ってしまうのは自分が戦う人間ではないからだろう。

「安全確保をしつつエルさんの空間魔術で持って帰れるだけ取ってくるのが今回の目的ですからね?くれぐれも水棲魔獣を狩ろうとしないでくださいよ!」

 再三繰り返した注意を念を押すように語るのは復活したジョーイ君である。

 水棲魔獣は相手にもよるがその撥水性からよい船材になる。

 大型のものであれば地方都市で新築の家が建てられるくらいの金額になるため、金に目が眩みかねないオラフに対するものだろう。

 それを素直に頷くニコとチックに比べて、聞いているのかどうかわからないオラフは自分の身長よりも大きなポールアックスを肩に担ぎ、欠伸をしている。

「言っておきますが私に攻撃手段はほぼありませんから、万が一結界の維持ができない事態になった場合は強制的に撤退します」

 これも、先の打合せで話しておいたものだ。

 水中呼吸の護符の効果時間は一枚当たり半刻ほど、結界が維持されていても探索は2日が限度である。

 これも結構な値段がする物であるのだが、オラフが俺に話を付けてから用意したのであれば大した物である。

「とりあえず入り口を固めて安全確認、マッピングがてら軽く持ち帰れるものを集めればそれでいいじゃろ」

 仕事の態勢に入ったオラフは普段のふざけた態度から一変し、いい意味で力の抜けた状態だ。

 それを見て、安心したのかジョーイが(ともしび)の魔術を結界の外へと送り先を照らす。

 はてさて、期待に添えるだけの遺物が残っていればいいのだが・・・。

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