やり手のドワーフと性悪エルフ
8/12投稿。8/19予約投稿済
エル・シャーラウィ・バロテッリ
サヴォーナの街で荷運び人をしている24歳のハイエルフだ。
生まれは日本、23歳で死んだ。
死因は大学の同期の女性に振られてのやけ酒による急性アルコール中毒だ。
彼女だけは・・・、見た目で判断しないと信じていたのに・・・・。
いや嘆くのはやめよう。
日本に居たときの自分の顔を何かに例えるならバッタ顔であったが、今生の顔が悪くないというのは周囲の態度で察した。
鏡なんてない生活だったのだから仕方あるまい。
生まれて数年は森の中で大事に育てられたが、ハイエルフに両親は居ない。
集落を維持している大樹の分身として幹から別れ出るらしいが、さすがにその時の状況までは覚えていない。
本来ハイエルフは大樹の守護者として森でその生涯を終えるものが多く、森を出るものも新たな大樹の捜索などの任についている。
俺のように脱走・・・家出するものはあまりいないが、ごくたまにはいるらしいのであまり気にしたことはない。
長老連中はやれ、大樹を守護する任だとか、ハイエルフとして、エルフを導く義務だとかほざきやがるが。そんなことは俺には関係ない。
前世の俺は草食系だとか草とか食ってそうな顔と言われてはいたが、実際は違う。
いや顔はその通りなのだが・・・。
好きになった女子にアプローチする勇気がなかった臆病者だっただけだ。
俺は女が好きだ。エロいこともしたいし、あの柔らかい身体に触れられるものなら触れたいし、抱きしめられようものなら有頂天になりいくらでも貢ぐ覚悟もある。
まぁ、バッタ顔だとか言われていたので相手の顔には特にこだわらないが、性格や相性にこだわりがないかと言えばある。
選べるような顔かと友人には言われたが、こっちを食い物にしようとしてくる相手に勃つか?と返したら慰められた。
そんなわけで男としての自己を強く持っている俺としては男性とそういうことをするというのは嫌悪感しかないわけだ。
だから長老から100歳までに子供を産むことと婚約者を紹介すると言われた瞬間に里を逃げ出した。
その婚約者は自分と仲が良い幼馴染(といっても10歳近く年上だが)だと言われた俺の気持ちも考えてくれ。
仲のいい男友達だと思っていたら親が勝手に婚約させてたんだぞ。
あいつにどんな顔をして会えばいいのか、むしろあいつはそれを知っていたのか?などといろいろと考えてしまう。
まぁ、俺は男になるつもりだから、奴が早いところ別のいい人を見つけてくれることを祈っているよ。
「おっしゃあ!エル、新しい遺跡の探索許可が下りたぞぃ!」
部屋でのんびりと格納空間に入れたものを整理していると、部屋の扉をぶち壊しかねない勢いでオラフが突撃してきた。
「女性の部屋にノックもせずに入ってくるとか、そんなんだから女性にもてないんだぞ」
鼻息荒く、こちらに抱き着きかねないオラフをけん制する。
「なんじゃ、そんなことを気にするような間柄でもあるまいに・・・」
確かに、俺もそんなことを気にするような性格ではないが・・・・。
「そんなんだから蕾の園のチェリーちゃんに冷たくあしらわれるんだぞ?」
荷物で埋め尽くされた部屋、それらをかき分けるように来ていたオラフが膝から崩れ落ちた。
まぁ、俺が喜ぶだろうと思って突撃してきたんだろうが、何度も期待して目的のものを手に入れられなかった自分としてはそれくらいで喜ぶ安い女だと思わないでもらいたい。
「そんな・・・、チェリーちゃん。お金が貯まったら一緒になろうって、もう少しで目標金額じゃないか・・・・・」
オラフが地面を見つめてぶつぶつ言い始めてきもいので少しフォローしてやるか。
「がっつきすぎて怖い、鼻を膨らませて迫ってくるのがきもいってさ」
オラフの頭が宿の床に頭突きを入れた。
あれ?間違ったかな?
先の言葉には「まぁ、迫ってくる顔はきもいけど、真面目なときはかっこいいし、こっちの体を労わってくれるし、調子に乗らないように釘さえ刺しておけば理想の旦那なんだけど・・・」というノロケが付いてくるのだが。
「おい、オラフ。まだ続きがあるが?」
「やめてくれ、心が死ぬ」
真顔に戻ったオラフがふらふらと立ち上がる。
「まぁ、聞け」
オラフは耳をふさいで「いーやーじゃー」と首をぶんぶんと振っている。
ドワーフとはいえ体格のいい髭面親父が駄々っ子してもきもいだけである。
チェリー嬢でもあるまいに・・・。
空間魔術でぷかぷかと浮かんでオラフの頭の側で寝そべり耳元で何度か言おうとするが「あー!あー!」と叫んで聞こうとしない。
おっさん、いくらドワーフの女性がロリ体形とはいえロリ専門の娼館に足繁く通っている変態が往生際が悪い。
このままチェリー嬢と破局されても困るのできちんと言ってやるか。
「真面目なときはかっこいいし、(調子に乗らなければ)理想の旦那だってよ!」
耳をひっつかんで大声で言ってやると、奴は呆然と立ち尽くしていた。
頭の周りをくるくる回り、目の前で手を振るが反応がない。
「こいつ・・・、気絶してやがる・・・」
人の部屋に来て勝手に気絶するとか迷惑な奴だ。
「おぉ、そうじゃった。わしとチェリーちゃんの新生活のために新しい遺跡、潜ろうぜ」
再起動してから、「ほんとにわし嫌われてない?嫌われてない?」とうるさかったオラフがようやく本題に入った。
相変わらず面白い奴だ。
今度、蕾の園に行ったらチェリー嬢にこの話をしておこう。
あのぷにぷにぼでーにロリ顔という大きなお兄さんキラーにもかかわらず、甘やかし系お姉さんというギャップはなかなかに萌える。
「水中神殿の側で見つかった遺跡か?」
オラフが「うむ」と満足げにうなづく。
通常、オラフのような一級冒険者が新発見の遺跡に探索許可が下りることは、まず、ない。
上位冒険者は周辺の魔獣駆除において主戦力であり、騎士団以上に貴重な存在である。
その上位冒険者の中で品性にも問題ないと判断された者が一級冒険者となり人の生存圏の獲得に大きく貢献しているのだから統治者の判断もおかしなところはない。
「どうせ水中で探索できる奴がいないから、しょうがなく許可が下りたんだろ」
オラフがニヤッと笑う。
だから鼻の穴を広げるのはやめろ。
「遺跡に同行するとなるとかなりかかるが、大丈夫か?」
空間魔術を使えば水中でも活動することなど造作もない。
俺との伝手を強調する形で許可を分捕ってきたのは言わずともわかる。
「うまくいけば港町ポートワールの領主との伝手が手に入る。あそこは次代が育っておるから、もし性転換の薬や魔具が手に入ったとしても譲ってくれるじゃろうなー」
そんなことを言って視線を逸らすオラフ。
くそ、この性悪ドワーフめっ。
こちらの泣き所を理解していやがる。
「ポートワールの領主の人柄は?」
「商取引を基幹産業にしとるからの、いい意味でも悪い意味でも誠実だ」
それを聞いて指を4本あげる。
オラフが指を3本あげる。
こちらが半分折ると満足げにオラフがうなづく。
通常であれば日当で金貨50枚もらうところだがそれを35枚まで値切られた。
「いやぁ、いい仕事をした後は気分がいいな!」
どうせ出発は明日になるだろう。
俺はオラフより先に蕾の園のチェリー嬢に会いに行くことに決めた。