優しさは強さ
ペンネーム 大木良と申します。
ただいまムーンライトノベルズにて、
〝 向日葵 ~ 君にありがとうを言わせてくれよ ~ 〟
のタイトルで連載させて頂いております。
初めてな物で中々苦労してまして、
行き詰まる事も多い中、頭を切り替える意味で、
読み切りを書かせて頂きました。
ある警察官の復讐劇なのですが、
大切な彼女との出会いから別れ、そして・・・
目の肥えた皆様に何卒御一読頂きまして、
アドバイス等頂戴出来ましたら幸いです。
宜しくお願い致します。
(懐かしい景色だ・・・)
国道を上越方面に車は故郷に向け走る。
特別、郷愁にかられる事は無い。
今迄も同じ県内で仕事をしてきたから・・・
だが・・・彼が暮らしていた頃の景色とは、
やはり様変わりしたと言っていい。
交通網もかなり改善された。
程無く、彼の新しい勤務地・・・
故郷の警察署に到着する。
正面門の直ぐ左手で立証する署員に
『署長室はどちらですか』
と尋ねる。
『失礼ですが?』
問い返す署員に胸元から手帳をかざした。
『本日より着任します、酒乃です』
『失礼致しました! 署長室は三階中央奥に成ります』
(素晴らしい敬礼だ・・・)
『これから御世話に成ります、宜しく』
『とんでもありません警部、宜しくお願い致します!』
(新人さんかな・・・頑張れ・・・)
返礼を返すと、エレベーターに乗る。
三階から2つの国道が交わる交差点を眺めながら、
ノックをすると中へ入る。
『申告します、酒乃神警部、
本日より着任致します』
『待っていましたよ、先ずは掛けて下さい』
署長にうながされ、ソファーに腰を降ろす。
『どうです? 故郷の所轄は』
『この一年の意識改革は進んでいると
お見受けしました・・・』
『県警のエースに誉めて頂けて光栄ですね。
ですが未だ足りません』
『エースは買い被り過ぎですよ・・・しかし、
署員の危機管理感は明らかに高まっていると』
『そうですか・・・こちらへの移動、
思うところも有るかもしれませんが・・・』
『いえ、嬉しく思います。
いつか自分の故郷を・・・』
『・・・そうでしたね』
署長は静かにうなずくと、また話を進める。
『この街も昔は穏やかな片田舎との印象でしたね・・・
しかし今や凶悪犯罪も発生する程で、
決して治安の良い街とは言えなくなってしまいました。
そして、例の連続無差別殺人、
我々の初動にも大きな不手際が有りましたが・・・』
昨年発生した外国人による、連続無差別殺人は街に、
市民に暗い影を落とした。
『署員一丸と成り、意識改革してきましたが、
より強固にする為の〝何か〟が必要なのです』
『その〝何か〟に成れますか?私は・・・』
『ええ、あなたが必要です。
〝ノンキャリア最強刑事〟と呼ばれた、あなたの過去がね。
明日から好きな様に、好きな事案に手を着けて下さい』
『私は、困り事に好き嫌いはしませんよ・・・
微力を尽くし、1つ1つを救う。それだけです・・・』
県警一美しいと言われる、
敬礼をして退出する彼を送り出し、
署長はため息をついた。
『あなた自身は未だに救われていませんか』
署長は哀れみを帯びた視線を閉められたドアに向けた。
捜査課のオフィスで挨拶を済ませ、
上司である警視との打ち合わせを済ませ、
管轄下の確認に出掛けると伝える。
人を付けるかとの問いに丁重に辞退した。
彼が常に単独行動で動く事を、
それを県警が容認している事を知っていた警視も、
無理強いをする事は無かった。
ナビゲーションに従い走る。が、
それに目をやる事は無い。
道々の店舗、新たに立っているマンション、
古びた市営住宅、ハンバーガー屋の跡地・・・
彼は何も言わずに巡っていく。
車は行政センターの駐車場に入る。
エンジンを切り車から降りる。
正面玄関を眺めながら、車から離れる事無く、
彼はコートの内ポケットをまさぐると、
銀色に輝く小さな物体を取り出し、
手元で動かしつつ見つめていた。
『帰って来ました・・・お父さん』
彼は、再び正面玄関を眺めた・・・・・・
・・・・・・14年前の話・・・・・・
高校3年だった彼、神は陸上部で短距離走と
走り幅跳びに打ち込む、普通の高校生だった。
陸上競技では県期待の逸材で2年生だった
前年のインターハイでも100メートル走で決勝進出、
走り幅跳びに至っては、決勝2位に入り、
今年は大本命として注目されていた。
明るく面倒見の良い性格で周りには
常に沢山の仲間に囲まれ、
校門には看護学校に通う年上の彼女が迎えに待ち構え、
在校の女子をヤキモキさせる、神は学校の顔だった。
彼の両親は新潟県の出身で集団就職で入った、
東京の百貨店で知り合い結婚。
病弱な妻の為、夫は仕事を辞め空気の綺麗な、
この街にやって来た。
百貨店勤務時代、夫は出身地も有ってか、
酒類売り場担当だったツテで、
この地の酒類卸会社で働く。
真面目な夫は順調に出世し、
土地に慣れた妻は待望の息子を授かった。
『謙信公が授けてくれた』
尊敬して止まない地元の英雄、
神様だと崇める軍神に感謝をし、父は息子に
『神』と名付けた。
神はすくすくと育ったが、
小さい頃は割と粗暴なところも有り、
ケンカも絶えず母は心配したが、
そんな息子を父は叱る事は無かった。
ある日、父は上杉謙信の逸話を息子に語る。
一通り聞き終え、
『強かったんだからさ、周りを全部自分の物にすれば
楽しい毎日だったんじゃない? 変だね』
と、共感する様子も無い息子に、
『馬鹿を言うんじゃないぞ!!』
初めて怒鳴られた息子は固まって父を見る。
直ぐに父は我に帰り、息子に謝ると、
『もし謙信公が普通の戦国大名だったら、信長、
実際は秀吉だけど、天下は取れなかったと思うよ。
だけど謙信公は天下より大切な物を見つけたんだ』
『何、それは?』
『故郷の土地と人だよ』
『???・・・』
『神、強い男ってケンカが強いとか、お金持ちとか、
そんな事では無いんだ』
『どんな男?』
『それは自分の事は投げ出して大切な者や
弱い者を助ける人だ』
『うーん?』
『それはね、自分が強く無ければ、
他の人の事なんて構ってやれないだろ、
人の事に構っていたら自分の事、
出来なくなっちゃうだろ』
『うん』
『自分の事は勿論、自分の事以上に
他人の事を助けるなんて、スゴいと思わない?』
『・・・思う』
『神、自分が強いって思うなら、
先ず自分の事はキチンと。そして、友達や下級生、
お年寄りにも優しくしてみて。
そしたら本当の強い男だって、お父さん誉めてやるよ。
地域の人の為に何かが出来る人間に成ってほしいんだ。
〝優しさは強さ〟だ』
『???』
『難しいよね。でも今に解る。そして解った時には
少しでも、周りの為に何かが出来る人に成るんだよ』
そう言うと父は美味しそうに、お酒を飲む。
『お父さん、いつもその銀色のヤツでお酒を飲むよね』
の問い掛けに、
『これは錫って金属で出来ている。
お酒を入れるとね美味しく成るんだよ』
『ふーん』
父はこれと言った趣味は持ってはいなかったが、
職業柄お酒は好きで食器棚には、
ぐい呑みや江戸桐子のグラスが幾つか置いて有ったが、
気がつけば、銀色のお猪口でニコニコしながら
お酒を飲んでいた。
『謙信はお酒飲んだの?』
『大好きだったらしいよ、沢山飲んだってさ。
まあ、お父さんも好きだけどね、
謙信公みたいに沢山は飲めないなあ』
おつまみの茶豆を頬張る。
『その、銀色のヤツ見せて』
父は中身を飲み干し、手渡してくれた。
冷たい手触りが気持ち良いと感じる。
明かりにかざして色々見回すと、
底の部分に文字を見つけた。
底には〝神〟の文字が刻されていた。
『彫刻刀で〝神〟って彫ってあるよ』
息子の言葉に父は大笑いしながら、
『彫刻刀では無いけどね。それは神が生まれた時に
お父さんとお母さんが、お勤めをしていた
百貨店の仲間がプレゼントしてくれたんだよ。
お父さんの宝物だ』
『へぇー』
そう言うと息子の手から、そのお猪口を受け取り、
茶豆を掴むと、さっきまでお猪口を持っていた
神の手にそっと置いてやるのだった。
息子は茶豆をムシャムシャと食べながら、
お酒を飲む父を見ていた。
神はお父さんが大好きだった・・・
脚が速かった神。運動会で1等賞に成っても、
父に特別誉められた事は無い。
しかし、小学校で小さな親切活動に貢献したと
県知事から表彰状が送られた日、
父がとても誉めてくれたのが凄く嬉しかった。
その日の夜、父はお酒を沢山飲んでダイニングで
寝てしまったのを神はハッキリ覚えていた。
中学生に成ると、陸上競技で頭角を表し始め、
県大会で優勝を争う迄に成る。
だが、偉ぶる素振りは一切無かった。
部活中は後輩にアドバイスを送るのが忙しく、
顧問をヤキモキさせたが、誰も居ない薄暗い校庭に
1人現れては自主練習の日々。
誰かが登校するまでに教室に戻り、
母の塩むすびを3個食べる。
それが、中学生 神の日課だった。
勉強には、さほど身が入らなかったから
成績は普通だったが、いつも人の為に行動する彼は、
誰からも好かれていた。
高校生に成った神。
陸上競技も去る事ながら、
在校生が今も語り継ぐ、恋の伝説が生まれる。
1年の冬、他校のヤンキー達に襲われていた、
いわゆる『スケバン』の高3の先輩を助けた。
と言っても、そのヤンキー達の前で土下座をし、
『ウチの学校の先輩をいじめないで下さい』
と懇願しただけだ。
頭を足で踏まれ徴発されたが、
その内に白けたヤンキー達は帰ってしまう。
『おい・・・おい、1年!誰も居ないよ』
『あ、帰ったんスね、良かった・・・
怪我はしてませんか?』
『つうかさ、あんた陸上部の子だろ?
チヤホヤされてるよな? あんたみたい子が、
あたしに絡んで怪我でもされると迷惑掛かるんだ!!』
スカートの埃を払いながらスケバンは睨んだ。
『迷惑でしたか・・・すみませんでした』
神は額から血を滲ませたまま去っていった。
『何だい、あのガキは・・・』
その後、学校で自分を見掛ける度、
『こんちわす!!』
大きい声で挨拶してくる神に、
『お前、いい加減にしな、
デカイ図体でアタシの前に出てくんな』
と怒鳴るが、神は笑って一礼し去って行く。
『おかしな子だよ、全く・・・』
スケバンの調子はスッカリ狂ってしまった。
そうして、スケバンは卒業を迎えた。
卒業式に出る事も無く、屋上で遠くを見つめていると
『こんちわす!!』
(・・・たく、最後までこの子は)
『いつの間にいたんだ?アンタに用は無いよ、
卒業して顔を見なくて済むから清々するよ』
『卒業、おめでとうございます』
『めでたか無いよ・・・別に・・・』
『そうですか?イイ顔してましたよ、さっき。
それに先輩が何事も無く卒業して嬉しいッス』
『は、あんたアタシの何だい?
余計な御世話だ最後まで』
『すみません。ただ俺、先輩や同級生や先生、
みんなが笑顔でいてほしいんスよね~』
『バカだろ、お前』
『そうかもっスね』
『・・・』
『先輩、元気で頑張って下さい。俺、これから
先輩方の写真撮るのに忙しいんで失礼しますね』
『・・・陸上部のかい?』
『いやあ、知らない先輩も沢山いて・・・
何部だったのか?・・・まあ、いいんスよ、
いつでも学校に来て下さいね。それでは、お元気で』
一礼して走り去る神の背中を見ながら
『ホント、バカだよ・・・アイツ』
と呟いた。
卒業式翌日、没収されていた私物を
取りに来る様に言われてたスケバンは
暗くなった学校に現れた。
先生から私物を受け取り買ったばかりの
愛車のトランクルームに積め込んでいると、
校庭から微かに物音が聞こえた。
在校中は遅刻に早退、こんな時間の学校の様子など
見た事も無い。
野球グランウドのネットに近づくと、
遠くで何度も何度も全力疾走する人影が見えた。
スケバンは気付かれない様に近くの物影に移動すると、
そこには1人練習する陸上部のアイツが・・・
直ぐに出て行って茶化してやろうと思ったが、
一歩グランドに足を踏み入れようとした瞬間、
突然足がすくんだ・・・
グランドにいるアイツは、いつもニコニコして
目の前に飛び出てくるバカと丸でかけ離れた、
殺気??を帯びた鋭い眼光で、何処を見つめ、
何を追っているのか、その目は正にそう、
龍か虎か・・・スケバンの胸が高鳴っていた。
『酒乃神・・・』
母校の人気者、その名前は校舎から垂れる大会成績の
垂れ幕に大きく書かれていたから知っていた。
(酒乃神・・・神・・・)
胸の中で、いつまでも練習を止めない神の名を呟いて、
スケバンは神を見ていた・・・
2年生に成った神が、今年こそはインターハイに
出るぞと練習に精を出していた、ある日
『おい!』
グランドの端から怒鳴り声。スケバンがいた。
戦々恐々とする部員を他所に
『先輩!!こんちわっス。忘れ物っスか?』
と近づく神。
『相変わらずバカだね、忘れ物なら
もっと前に来るだろ、普通。卒業から1ヶ月だよ』
『じゃ、どうしたんスか?』
『お前に用が有るんだよ・・・』
『え、何スか?』
『今日、飯行くよ』
『え?ご飯ですか?』
『何時で終わる?』
『いやあ、もうすぐ下校なんですけど・・・』
『秘密練習か?』
『秘密、ってわけでは・・・』
(先輩、俺の自主練知ってるのかな?)
不思議そうな顔をする神に、
『1日位イイだろ?アソコで待ってっからさ、
早く来るんだよ、いいね!』
と、声を荒げて言うと愛車へ向かう。
部活の皆は口々に止めろと言ってきたが、
怖いもの知らずの神は先輩のお誘いだからと、
練習を終えると助手席に乗り込んで行った。
先輩はハンバーガーショップに向かった。
『好きなもん食いな』
と言うと、神は困っていた。
『俺、食べた事無いんです。ハンバーガー屋さんで』
『・・・ウソだろ?』
『お母さんが毎日美味しいご飯を作ってくれたから
食べる機会無くて』
『このマザコンがぁ、止めるかい?』
バカにした様に半笑いで問い掛けると、
『いえ、頂きます!
折角先輩が誘ってくれたんですから。』
『母ちゃんに叱られるよ』
更に笑いながらスケバンが言うと、
『お母さんは・・・もう居ないっス』
『?』
『お母さん、亡くなったんス、去年』
病弱だった神の母は昨年、父と神に看取られ、
亡くなった。
『普段は自分の分だけ作って食べてます。
お父さんも忙しいので一緒に食べる機会、
中々無いんスけど、たまには外で食べますよ』
『・・・そうかい・・・
あぁ、あたしが適当に頼んでやるよ』
太陽みたいな神の影を感じたスケバンだった。
『美味しいモンですね、ハンバーガーも』
車に乗り込んだ神は満足そうに言った。
『アタシは高校の近くの、ガソリンスタンドで
バイトやってっから、腹が減ったら顔出しな。
たまにはおごってやるからさ』
スケバンは上機嫌で車を走らせていた。
『おごって頂くのはホントに嬉しいんですけど・・・
先輩に1つ、お願いが有ります』
『な、何だい? 改まって・・・』
スケバンはドキドキしていた。
『車に乗って直ぐに気付いたんス。
先輩タバコ吸ってますね。ダメですよ!未成年でしょ』
(アタシは、何を期待したんだろう・・・)
急に怒りが込み上げ声を荒げる。
『は?ふざけんなよ、アタシは高校入る前から
タバコだって、酒だって、男だってね
ガンガンやってんだ、生意気言うんじゃ無いよ!』
『発ガンのリスクが高いんス、
それにこれから子供を生む時に支障が発生する・・・』
『うるせー! 降りろテメー、
2度と偉そうな面見せんなよ』
『降ります。でも先輩、俺を嫌うのは構わないですが、
先輩の健康と未来の為に今からでも』
『うるせー! 降りろったら降りろ!!』
車は道端に寄せられた。
『先輩、今日はご馳走様でした』
スケバンは急発進で、その場を後にした。
ミラーには頭を下げ続ける、
大きな神の姿が段々小さく成っていく。
(バカヤロウ・・・何だよアイツ・・・)
スケバンは唇を噛み締め、その場を後にした。
翌日、神はいつも通り練習を続けながら、
(人の為に・・・って、難しいな・・・)
スケバンの顔を思い浮かべていた。
一抹の寂しさを振り払い練習に明け暮れ迎えた
夏のインターハイは2種目で好成績を上げた。
神は街でも少し有名人に成っていた。
スケバンはあの日以来、1度も現れなかった。
バイト先を覗くが、働いている様子は無い。
(俺が生意気言ったから先輩の心を乱したんだ。
やっぱ俺はバカだな・・・)
神は己の未熟さを恥じた。
そうして、競技シーズンが終わる初冬の休日、
その日も黙々と自主練習を行う神の前に
見掛けない女性が現れた。
『こんにちは』
女性が話し掛けてきた。
『こんにちは・・・あの、職員室でしたら
後ろの道を入った右奥です』
『知ってる』
『え?』
『忘れたの?・・・相変わらずだね』
『・・・あっ・・・せ、先輩ですか?』
『そうだよ』
口調は柔らかく成っていたが、確かにスケバンだった。
だが、容姿がスッカリ変わり、髪は真っ赤から黒く、
格好も落ち着いた様子でお姉さんぽかった。
『あの先輩、あの時は・・・その・・・
生意気言ってスミマセンでした』
神は神妙な顔で頭を下げた。
『ホント、気を付けなさいよ』
『はい・・・』
『神』
『え? はい』
(俺の名前・・・)
『罰ゲーム。御飯食べに行くよ』
『は、はい!』
スケバンは神を、古びた定食屋に連れて行ってくれた。
『美味しい?』
『はい!!こんな美味しいご飯久しぶりです』
『お母さんの味、みたいな?』
『はい、ひじきとか大根の煮物とか、ホント久々で!!』
『実は今、ここでバイトしてんの。
あ、お金は天引きだから沢山食べていいよ』
『いいんスか? ホントに? あざーすぅ!!』
神は夢中で食べた。
スケバンは自分の顔が優しく微笑んでるのに、
全く気付かない位に、神を見つめていた。
スッカリ食べ倒し、神は満足していた。
『いや~、食い過ぎで動けないッスよ~』
『私の部屋で少し休んでいけば?』
『いやいやいや、家族の方に迷惑じゃ・・・』
『・・・家族って・・・アタシだけだよ』
『え・・・』
『行こう、神』
車に乗り込む。神は何かに気付いていた。
(そういえば先輩の車、タバコの匂いしないな、
それに灰皿も付いて無いし・・・)
『着いたよ』
考えている間に家に着いたらしい。
古い木造の小さな平屋が何十棟と在る様子だ。
後に続いて玄関へ辿り着く、
呼び鈴の上に丸文字で〝こいで〟と書いてある。
『どうぞ』
『お邪魔します』
中に入るとキッチンがある部屋、
襖の向こうにあと一部屋有る様子。
風呂とトイレは別の様だ。
先輩の部屋は綺麗に整理されていた。
『適当に座って』
腰を降ろすと、神は話し初めた。
『先輩〝こいで〟さん、って言うんですね』
『アタシと会ってから、どんだけ時間が経ったと思う?
いくらでも学校の先生から聞く機会有ったでしょ』
と、笑った。
『いや~、先輩は先輩ですから』
『先輩沢山いるでしょ。アタシにはキチンと、
小出南美って名前有るんだから』
『南美さん・・・スか・・・あ、先輩?』
『何、次は』
神は1人暮らしかと尋ねた。
『この家は市営住宅。アタシみたいな者の為の家だよ』
南美の母親は病気で亡くなっていた。
神の家と違うのは、父親はその後蒸発した事。
南美は親戚をたらい回しにされる。
『そして辿り着いたのがココ。まあ、生活するには
不便は無いよ、家賃も激安だから』
『・・・』
『でもバイトは掛け持ちしてるよ、色々。
お金が苦しい時はチョイ危ないバイトもしたかな』
神は真剣に話に聞き入る。
『アタシも神に言うけどさ』
『え、はい』
『神みたいな子、アタシには眩しくて、
正直苦手だったけど、卒業した次の日、
学校に私物取りに来た時、練習してる神を見たんだ』
『見てたんスか』
『神がさ・・・龍とか、虎に見えたよ・・・』
『龍や、虎・・・』
『まあ、龍は見た事無いんだけどさ』
『俺は、有りますけどね。先輩が良く着てた、
スカジャンの背中、めっちゃ恐いッス』
二人は可笑しくて笑った。
神の目の前にいる南美の笑顔は
普通のお姉さんその物だった。
『凄い迫力でさ、怖くて近寄れなかった・・・
でもあの日の神・・・カッコ良かった・・・』
思いもしない南美の言葉に、神は照れたのか、
誤魔化す様に話題を変える。
『せ、先輩? 1つ聞いても』
『今度は何?』
『怒らないで下さい。俺、今日気付いたんス。
車に乗った時、タバコの匂いが、
全然しなかったら・・・止めたんスか?』
『その話か・・・神にお詫びを言わなきゃいけないよ。
あの日の少し後、アタシ急に咳が止まらなく成って、
ちょっとだけど入院したんだ』
『!!!』
『今は何とも無いよ。だけどね、そん時の医者に
タバコ吸ってますねってバレて、
こっぴどく叱られてさ・・・その医者の説教、
神が言ってた事と同じ様な事ばかり言うから、
アタシ笑っちゃったよ』
『そうだったんスね』
『神の言ってる事、何一つ間違って無かった。
アタシの為に・・・なのに随分ヒドイ事言ったね・・・
謝るから』
南美は正面に座り『ごめんなさい』と、
丁寧に頭を下げた。
その仕草に南美の《女性》を感じた神は、
急に落ち着かなくなった。
『じゃ、じゃあ良かったッスよ、ホントに』
神は答えたが、
『神・・・信じて無いでしょ?』
上目遣いで見つめられる。ドキドキする・・・
『そんな~、信じてますって、ホント』
『何か信用してない様だから、証拠見せるね』
そう言うと南美は、突然神の首に腕を絡めて、
神の唇を自分の唇で塞いだ。
暫くして南美が唇を離す。呆然とする神・・・
『ね、タバコ臭くなんか無いでしょ?』
『・・・先輩・・・』
『お詫びの印、今のは・・・送るね。
お父さんが心配するでしょ』
『ありがとうございます。
だけどお父さん今週は酒蔵巡りで出張してて、
明日の土曜日迄は帰らないから、学校迄で。
チャリで帰りますから』
『・・・そう・・・なんだ・・・』
うつむく南美
『先輩、どうかしましたか・・・先輩?』
『・・・神・・・・・・神!』
南美は再び神の唇を奪った。
神は何が何だか判らなく成っていた。
『神、神はホントにアタシに・・・
アタシみたいなヤツに、優しくしてくれて・・・
本気で心配してくれて・・・それに、男らしくて・・・
アタシ・・・神の事、嫌いじゃないから・・・
神を、本物の男にしてあげる・・・』
その意味は流石に神でも理解した。
『え・・・い、いやダメですよ先輩、
もっと、自分を大切にして下さい。
そんなのはホントに好きな人と』
『今、嫌いじゃ無いって言ったでしょ!
神が・・・神が好きだって言ってるの!!』
『先輩・・・』
『神、立って!』
神は言われるまま立ち上がった。
『・・・やっぱ大きいね・・・』
見上げる長身に、鋼の様な身体をしているのが
学ランの上からでも判る。
南美は隣の部屋の襖を開けた。
ベッドは綺麗に布団が捲られて有る。
『神・・・アタシの事、どう思う?』
『・・・大切な、大切な先輩です・・・』
『女と・・・しては?』
『・・・今・・・目の前にいる先輩の事で・・・
頭が一杯ッス・・・』
『アタシの事、女として見てくれてるんだ?』
神は首を縦に振った。
恥ずかしくて目が開けられない。
『イイよ。神・・・おいで』
『先輩・・・』
『大丈夫、アタシの言う通りに、大丈夫だよ。
さ、こっちよ』
南美は神の手を掴み寝室へ誘導した。
自分の服を脱ぐと、神の服を丁寧に脱がせて、
その逞しい身体に手を回すと、ベッドへ倒れていった。
神は、南美に本物の男にしてもらった。
ベッドの中で、南美は
『神のおかげでねアタシ変われるかも知れないかな』
『??』
『いつも、今も、神は誰かの為に
1日を過ごしているよね』
『いやあ・・・』
『アタシが襲われた時、何でアイツらに
手を出さなかったの?
部活のみんなに迷惑掛かるから?
神がアイツらにビビってたとはアタシ思えなくて』
『みんなの事も有りました。けど・・・』
『けど?』
『あの時、1番大切だったのは、先輩の無事でしたから』
『・・・神』
『でも、あんな事が有ると必ず・・・
頭の天辺から足の先迄がスゴく熱く成るんスよ。
でも、走って跳ぶと徐々にスーって落ち着くんス』
『発散してるんだ、陸上で』
『そうかもです』
『・・・アタシ、1人で生きてきたけど・・・
今迄、自分の事しか考えて無かったけど・・・
誰かの為に何かするってのも、イイかもね』
『先輩・・・』
『神、ありがと。ただ、もう先輩は止めてよ、
南美って・・・名前で呼んでくれない?』
『はい・・・南美さん』
神は大きな身体を恥ずかしそうに縮めて言う。
(いつまで敬語かなあ・・・)
南美は神の逞しい腕にしがみついた。
こうして、神と南美は付き合い始めた。
学校のヒーローとヤンキーの卒業生。
南美の迎えの車に乗り込む神を目撃する度に、
在校生達は衝撃を受けた。
春を目前にしたある日、
南美は練習終わりの神に、有る物を見せる。
『看護学校?』
『うん、実は受験して合格したんだ』
『気づかなかったなあ』
『前も言ったでしょ、神のおかげで変われそうって、
アタシも変わりたい。神みたいな生き方をしてみたい。
誰かの為に・・・アタシも本物の強い女に成りたい!』
『やっぱり南美さん、カッコいいッスよ』
『・・・神の方が、全然カッコいいよ・・・』
南美は神に長いキスをすると、
『先ずはアタシ、しっかり勉強する。
苦手だけどさ、気合いでやってやるよ。
神も、今年こそ天下獲りなよ!』
『やりますよ!南美さんに負けない様に』
立ち上がる神の背中からオーラみたいな
何かが立ち上っているような錯覚に南美は襲われた。
2つ年下で少しバカなところもあるけど、
神の真っ直ぐさが南美の支えに成っていた。
南美には神が必要だった。
これから神と一緒に成長して、そしていつかは・・・
南美は生まれて初めて、
希望に満ち溢れた人生を過ごし始めていた。
そう・・・あの日までは・・・
それは・・・梅雨空の日。
以前から、神と南美の街に場外馬券場が
出来る出来ないの騒ぎが有り、
街は真っ二つに割れていた。
騒ぎは大掛かりに成り、
最終的に市長選挙の公約の目玉として、
賛成派と反対派に別れての闘いに成った。
神の父も未来有る地域の子供達の為に、
場外馬券場は治安上マイナスだとは考えていた。
賛成派の新人候補は建設業を営み、
場外馬券場の周りを商業施設にすれば
雇用も増え街が潤うとの主張だ。
だが、実は候補者は反社会的組織の人間の息子であり、
如何わしい危険な雰囲気が漂っていた。
その頃、神の父が、妻が亡くなった時に、
妻が愛したこの街に感謝を込めてプロデュースし、
自社ブランドの地ビールとお茶の内、
今回世間で少し注目されていた市長選の報道特集で
反対派が休憩中に飲んでいた、
缶入りのお茶が注目を浴びたのだ。
理由はラベルに
『優しさは強さ 未来の子供達の為に優しい街へ ○○市』
と書かれていたのだ。
勿論、商品名にはモザイクは掛かっていたが、
映っていたメッセージは、時期の話題とリンクして
商品の売り上げは伸び、反対派にも追い風が吹く。
反対派陣営からもボランティアへのお礼として、
そのお茶を配りたいと、父の勤める酒類卸会社に
注文が入り、注目を浴びる形に。
そして、世論、有権者を見方に付けた
反対派の候補者は大勝利を上げたのだ。
神の父もちょっとした有名人に成ったが、
元々亡くなった母を思い作った商品だったのにと、
神に困惑した様子を見せる父だった・・・
当選後、父の商品はラッキーアイテムとして、
市のイベント等にも利用された。
役所内にも、自動販売機が設置されていた。
その梅雨空の日、
神の父は行政センターの自動販売機の補充に来ていた。
最近、父は休みを取っていない。
理由は夏のインターハイの応援が有るからだ。
100メートル走と走り幅跳びの二冠を目指す
神の晴れ姿を今年こそ目に焼き付けよう、
妻の写真を持って・・・それまでしっかり働いて、
しっかり休ませてもらう事に成っていた。
正面玄関を外に出て台車を押し車へ向かう。
雨脚が増し外には誰も居ない様子で
激しい雨音だけが周りを包んでいる様だった。
ドスッ!?
神の父は背中に衝撃を感じた・・・
振り返ると目深にかぶった帽子で目元を隠した男が
血に濡れた包丁を握り、ガタガタ震えていた。
足下に血だまりが、みるみる拡がっていく。
腹部に衝撃が有り、正面からも突かれた事を察した。
膝が崩れ、父は正座の姿勢に成る。
男が立ち去ろうとした時だ、左足を掴まれて、
動けなった男はパニックに成った。
奇声をあげながら父の背中を切り付けたが、
父の両手が男の左足をつかんで、
丸で猛禽類が獲物を捕らえるが如く、
左足のふくらはぎ、足首をつかむ。血が流れる程・・・
男は泣き叫びながら父の背中に刃物を突き立てた。
声にならない声をあげる神の父・・・
男は左足を引きずりながら逃げていく。
雨が降りしきる午後・・・
神の父はアスファルトに突っ伏し、
モゴモゴと口を動かし、永遠の闇に沈んでいった・・・
雨が強くなり、今日は練習をオフにして
静養してくれと顧問に言われて、陸上部は解散した。
後輩の女子からのカラオケの誘いをやんわりと断ると、
神は校門に急ぐ。
『あんた達、神くんをどうこうしようとしてもムダよ!
彼女いるから。しかも元ヤンの』
驚く1年生に教える神の同級生達だった。
校門に南美の車が見える。
神は雨の中を走って車に近づく。
『いつも雨の日は走るなって言ってるでしょ?
進歩が無いわよ』
看護学生に成っていた南美は、
スッカリ落ち着いた雰囲気に成ったいたが、
二人の関係性に変化は無い。
泥はねしたズボンなど目もくれず
『俺の勘、当たったね。今日は雨で部活無くなるから
早く迎えに来てって。スゴいでしょ南美さん?』
『ハイハイ。そんなに勘が働くなら刑事にでも成んなさい』
『それは無いッスね。だって、南美さん警察嫌いでしょ?』
『どういう意味よ?』
恐い顔をする南美に、
『さ、早く南美さん家に行こう。
たまには甘えん坊にさせて下さい』
神はおどけると
『今日は雨だけど、イイ事有りそうな気がするなあ』
と、言いながら南美の車に乗り込もうとした。
『さ、酒乃~~!!』
担任が走りながら叫んでいる。
『あれ?先生なんスか、俺忙しいんスよね~』
早く南美に甘えたくて、トボけた口調で言うや、否や、
『直ぐに○○病院に! 急げ!!』
『??』
『お前の父親が大変だ! 小出、酒乃を早く!』
担任は南美も担任した事もあった。
『神、乗りなさい、神!』
神は何が何だか判らなく成っていた。
南美は久々に弾丸の様な運転で病院に急ぐ。
救急センターに着くと、対応者は暗い顔をして
神と南美を案内した。
通路の奥の照明の暗い部屋に入ると、
無機質で寝心地の悪そうなベッドに
白い布を顔に掛けた人が横たわっていた。
南美は両手で口を押さえて立ち尽くした。
神は白い布を取り、顔を見た。
穏やかな顔をしてくれていれば、
少しは救われたかもしれない・・・
優しかった父の顔には、
無念の二文字が浮かび上がっている様だった・・・
神は周りからの説明も聞こえない様子で、
南美も、どうする事も出来ず、
関係者にうながされ部屋の外に出た。
南美の知りうる神の個人情報を伝え、学校にも連絡し、
人の行き交う廊下で神の事を待つしかなかった。
『お父さん、俺を1人にしないで・・・
1人にしないでよぉ~~!!』
いつも明るい、おバカな神の心からの叫びが、
南美の心に突き刺さった・・・
少し経つと、神が出てくる。
『神・・・』
泣きながら南美は神を迎えた。
『・・・南美さん、爪切り、持ってる?』
(???)
南美はポーチから爪切りを出した。
神は再び部屋に入る。
南美はあわてて後を追った。
神は父の死体に掛けらた、薄い布の端をどかすと
父の大きな手を取り小指を握った。
『南美さん、お父さんの小指の爪、
凄く伸びてるでしょ・・・仕事で伝票をめくるのに、
便利だからって、お父さん言ってた・・・』
『神・・・』
『お父さん、お疲れ様。もう仕事は終わりだからさ、
小指も綺麗にしようね・・・』
神は左、右と、それぞれの小指の爪を切ると、
持っていたミントタブレットの中身をゴミ箱に撒け、
爪を入れ制服のポケットにしまい、
『ありがとう』
南美に爪切りを手渡した。
爪切りは南美の手からすり落ちた・・・
吸い付く様に、神の身体を抱き寄せると・・・
南美は、大きな背中を撫でた・・・
事件の経緯や、犯人が逃走し見つからない等、
世間は大騒ぎに成っていた。
父がプロデュースした商品は販売が止まり、
街から消えた。
父が勤めていた酒類卸会社も疑惑の建設会社も
経営は傾いていった。
誰1人として得する者の無い結末だった。
神は父の死後、完全に脱け殻になってしまった。
陸上への情熱も無くなって、
顧問の説得で出場したインターハイも予選で姿を消し、
推薦確実と云われた体育大から、
推薦入学は見送るとの電話が入っていた。
ある秋の朝、南美は神の家を訪ねた。
部屋の端に無造作に積まれたトロフィーや盾・・・
『もう、必要無いから』
渇いた笑いを浮かべ黙々と片付けをしていた。
おしゃべりで相手が大変だったのに・・・
ウソみたいに喋らない神・・・
南美は、必ず神の笑顔を取り戻すと
静かに決意していた。
台所を借りると、一生懸命覚えた、
神の両親の故郷の味を作り始めた。
料理は得意では無かった。でも・・・
神の笑顔が見たいから・・・苦では無かった。
こんなにも誰かの為に心を込めた事が有っただろうか。
神に食事を取らせ、昼寝をうながし、掃除もこなし、
夕飯の準備をする。
夕方、神を起こすと風呂に押し込める。
全く洗おうとしない神を、脱衣室から見ていた南美は、洗い場に入ると優しく洗ってあげた。
鋼の様な神の身体は、やつれていた・・・
夕食が終わり南美は神の部屋に二人で入った。
神が南美を見る。ほとんど話す事の無かった神が
『・・・南美さん、俺・・・』
話そうとする神を遮る(さえぎる)様に、
南美はキスをした。
キスの最中、泣き止む事が出来なかった。
『神・・・』
南美は神を抱き寄せた。
静かに南美の胸に顔を埋める。
神にはアタシがいる・・・
アタシには神しかいない・・・
だから、明るい神に戻る事を信じて・・・
そう信じて南美は神に重なっていった・・・
翌朝、スッカリ片付いて、
よどんでいた空気感も消えた神の家で、
二人は遅めの朝食を取る。
片付けが済むと、神は南美にダイニングの椅子に
座ってとばかりに椅子を引いた。
『どうしたの?』
腰掛けて神に微笑む南美。
『南美さん、色々ありがとうごさいました』
『イイよ・・・それにこれからはさ、
アタシがちょくちょく押し掛けるから。・・・
何なら、このまま住み着いちゃおうかなあ・・・
アタシ達さ・・・これからもずっと・・・』
『南美さん・・・』
『何?』
『俺と別れて下さい』
『え・・・』
『南美さん、俺と別れて幸せに成って下さい』
南美の口調が久々に昔に戻る。
『・・・バカヤロウ・・・神!ふざけんな!!
アンタも・・・アタシも1人ぼっちなんだよ。
助け合って、支え合って行けばいいだろ!
何がイヤなんだい、アタシが嫌いになったのかい?
アタシの事・・・迷惑・・・なのかい?』
南美の大粒の涙が心に痛い。
『南美さんを幸せにする力が俺には無いです。
南美さん、南美さんには幸せに成って欲しい。
俺と居たって・・・イイ事なんて無い・・・』
『何でわかるんだい、そんな事が!』
『勘ですよ・・・』
『バカヤロウ! 勘々うるせーんだ!
そんなに勘が働くならお父さんの事も・・・』
南美はイケない事を言ったと後悔した。
神が静かに口を開く。
『南美さん、俺には、何も無いですから・・・
俺みたいな厄介者から離れて幸せを見つけて』
『神と、神と一緒じゃなきゃ幸せじゃ無いよ・・・
って、言ってもかい・・・』
『南美さん・・・ごめんなさい・・・』
南美は、ふら~と立ち上がると、ダイニングを後にした。
外から聞き慣れた、南美の車のエンジン音が、
静かに遠くへ去っていった。
『南美さん、ありがとう・・・ホントに・・・
ごめんなさい・・・大好きです・・・ずっと・・・』
神はダイニングテーブルに顔を突っ伏して
暫く微動だにしなかった。
神は顔を上げた。
その目は以前南美が見た〝龍か虎〟に豹変していた。
神はダイニングを出ると両親が使っていた寝室に入る。仏壇が有るが仏様は居ない。
両親が眠る仏壇は客間に有ったから・・・
ロウソクに火を灯し仏壇の扉を開く
神は部屋の電気を消し、正面に正座した。
恐ろしさ、殺気、それでいて優しく凛々しいその姿は、
毘沙門天像で有った。
父の心の拠り所だった黄金色に輝く像。
それは両親の郷土の英雄の象徴で有った。
大切な試合の前、父は神をここに座らせ
祈らせていた。神は覚悟を決めていた。
『毘沙門天様、俺は・・・私はこれから、
この大好きな街と・・・大切な人を護る為に
働ける場所を求め、そして精進して参ります』
南美の笑顔が、怒った顔が、泣き顔が・・・
頭をよぎる・・・神は続ける。
『そして・・・そしていつの日か、
お父さんを殺した犯人を、必ず・・・』
そして、神は毘沙門天に誓う。
『その為なら・・・私は生涯不犯を誓います』
バカだと思われるかも知れない誓いだが、
父親が残した軍神像に神はハッキリと誓った。
それから神は猛勉強を始め、
夜間の法学部の有る私大に入学した。
昼間様々な仕事をこなし、夜は勉学。
1日足りとサボった記憶は無い。遊んだ記憶も無い。
仕事と学業の合間、寝る間を惜しみ
柔道と剣道を町道場で習い始める。
神の目的は明らかだ。
こうして、神は警察官採用試験、
ノンキャリアの大卒枠で圧倒的な好成績で合格する。
警察学校に入る前に、神は両親の遺骨を
半分づつに分け、半分は自宅から直ぐ側の寺の墓地、
残りは新潟県で両親の兄弟が暮らしている市の墓地を
購入すると、叔父叔母に挨拶の為に新潟を訪ねた。
『神ちゃん、アンタには、毘沙門天様が、
いや、謙信公が見守っているすけ、立派にやんだて』
父の姉が酒瓶を出してきた。
『鶴之親子』
父が、いつも飲んでいた・・・
『日本酒は飲めらんの?』
『最近、少しずつ』
初めて口にした父のお酒は清らかな水の様な、
透明なお酒だった。
涙を流しながら明日から絶対に泣かないと、
約束を果たす迄は絶対にと、神は心に誓った。
警察学校で〝孤高のナンバー1〟と噂される程に
神は努力を重ねた。法学も申し分無かったが、
周りを驚かせたのは、その超人的瞬発力と
抜群の格闘センスだった。
柔道、剣道は町道場仕込みながら、
高い有段者に匹敵する程であった。
柔道で組んだ瞬間、
猛獣に喉元を掴まれた様だと噂された。
やがて卒業が近づいてきた頃、
神は異例の提案を打診される。
そのセンスに惚れ込んだ上層部が
ロシア留学を勧めてきたのだ。
コマンドサンボの習得が目的だ。
すっかり自己主張の乏しく成っていた神が、
話を有りがたく受け入れた事に周囲は驚いた。
こうしてロシアに渡った神はリーサルウエポンを
手に入れ、巡査部長待遇で帰国した。
帰国後の神のキャリアは正に神掛かっていた。
新幹線ジャック犯の単身での確保。
サッカースタジアム爆弾テロ犯の特定、確保。
また、警察内部の汚職、不正の摘発。
数えれば切りが無い。
しかし全く功績をひけらかす事は無い。
無口で大柄な男は内部では扱いにくい存在だったが、
街での評判は良かった。
困っている人は決して放って置かない。
子供、若者、お年寄り。
市民に語りかける時、神の目は優しい。
県警本部の若い刑事さんは、
ちょっとした街の有名人に成っていた。
警察官になり10年、ノンキャリア最速で
警部に昇進した神に地元所轄への異動辞令が出た。
神が希望し続けた待望の人事だ。
本部から所轄。
普通なら喜ばしい異動で無いかも知れないが、
神の心に、そう14年間冷えきったままの心に
確かに火が灯り始めていた。
こうして、神は故郷に帰ってきた。
久々に、足を踏み入れた我が家は、
定期的に業者に管理させ、風化してはいなかった。
住む気なら直ぐにでも住めるはずだ。
が、余りにも思い出の詰まった、
この家に1人で住むのは・・・神にはわかっていた。
あの日誓いを立てた毘沙門天像は、
新潟の墓に両親と眠っている。
自分の部屋を覗く。
14年前、最後に好きな人を抱いた夜の事、
神は思い出していた。
『幸せで、いてくれてますよね・・・』
自宅を出た神は新しい住まいに向かった。
懐かしい高校近くのマンションに。
夜、神は気になっていた場所へ歩き始めた。
遠い昔、好きな人に連れてきてもらった、
美味しかった定食屋だ。
しかし目の前に現れたのは、
居抜きで営業している感じで
『酒処 手取川』と言う店名に。
(入ってみようか・・・)
縄のれんをくぐる。
『らっしゃい』
『いいですか』
『カウンターへ』
店主は神と同様に表情が乏しい感じの印象だ。
『飲み物は何を』
『日本酒は何が』
店主は黒板を指差す。沢山銘柄を扱っている。
『満寿男山を・・・お猪口は要りません』
神は父の形見の、あの錫のぐい呑みを出した。
『高岡の錫器ですか、持ち歩いているんで?』
神はうなずいた。
北陸の銘酒が更に円やかに成り、
神は静かに飲み始める。
『のっぺ・・・有るんですか?』
メニューを見て店主に問う。
『有りますよ、出しますか?』
『ええ、あとイクラも』
『のっぺにイクラは掛かりますよ』
(店名からも、やはり北陸の人かな・・・)
イクラを止めて野沢菜を頼み、
落ち着いた頃に切り出す。
『大将は北陸のお生まれですか?』
『いえ全く。この辺りは以前、
住んだ事が有りましてね・・・』
ポツリポツリと二人は話し始める。
『そこの高校の出身ですか。今は何を』
聞かれた神は名刺を出した。
『ありゃ警部さんですか、気ぃつけなきゃな』
最初の印象から比べ、
大将は饒舌に成ってきた。
料理人だった大将は妻が亡くなると自暴自棄になり、
娘を置き去りに蒸発したそうだ。
その後、修行先だった北陸を転々としていたらしい。
昨年ふらっとこの街に戻ると、
空き店舗だったここを借りたそうだ。
『酒乃って、あんた・・・昔、この街で有った・・・』
『父でした・・・』
のっぺ汁が出来上がった。
イクラが乗っていた母が作ってくれた熱々の、
のっぺを想い出しながら口に運ぶ。
『美味しいです』
大将は餅を入れるかと聞いてきたので頷く。
『警部さん・・・アンタ、この街に戻ったのは、
何か理由が有るんでしょう』
『どうして、そんな事聞くんです・・・』
『いや、勘が騒いでね』
(勘、か・・・)
『ただね・・・アンタの内側に、
物凄い気配を感じるなあ、何ての・・・
獣みたいな感じ』
『随分と飛躍しますね、話が・・・』
小皿に焼いた餅が出てきた。
『自分で父親の無念を晴らしに来た・・・とか』
『私は、この街の平凡な生活を守りたい、
それだけです。ですがそれを汚す者が居たら・・・
私は、龍にも虎にも成りますよ』
しゃべり過ぎたかと思ったのか、
雑煮にしたのっぺをかっ込み、神は立ち上がる。
『美味しかったです』
『お猪口を洗うから少し待って下さいよ』
『私通います。置いて頂いて良いですか?』
『いつでも来て下さい。
だけどコイツは持っていた方が良いですよ。
コイツはいつか警部さんの事、
助けてくれると思いますよ』
『どうして、そう思われます?』
『勘ですよ勘。勘々うるさいですな、アタシ』
神は少しだけ笑う。大将が不思議そうに見ると、
『すみません、昔の事を思い出しまして』
遠い記憶の、あの人の顔が目に浮かんだ。
『ありがとうごさいました』
背中に大将の声を聞きながら神は歩き始めた。
(大将とは、前に何処かで会ったかなあ・・・)
不思議な印象を感じたまま、家路を急いだ。
それから酒之警部は勢力的に活動を始めた。
交通課には検挙第一では無く、
違反を未然に防ぎ事故抑制に重きを置く大切さを説いた。
少年課では補導された未成年達の取り調べに参加した。
神と面談した少年少女達は取り調べ室から出ると、
必ず曇りの無い笑顔で明るく去っていった。
別室で見学した署員たちが、彼らの目線に合わせ、
決して否定する言い方をしない、
優しい眼差しで、静かに語りかける神の様子を
食い入る様に観るように成る。
若い署員にはメリハリの大切さを教え込んだ。
市民に対し、威厳と優しさの使い分けを
丹念に教え込んだ。
格好が良く、それでいて理にかなった敬礼は、
若手警官の憧れで、皆、真似をした。
中には、特に同階級以上のベテラン達には
理解されない事も、多々有ったが、
警察官に成りたいと志す若者が
次世代の平和に必要不可欠だと、信念を通すのだった。
様々な改革を提案し、実現させ、
署内は段々と一枚岩と言える環境に成って行った。
一方、神には異動前から秘密裏に、
調べ進めていた事が有った。
日本もDNA鑑定が進むと、
神はあの日形見として切り離した父の爪を鑑定に回す。
神を慕う後輩は沢山居たから秘密裏に事を運べた。
その前にも、ロシア留学した際に仲良く成っていた
ロシアの諜報部員に爪の片方を預けていたのだ。
当時ロシアの鑑定力は遥か最先端だった。
あの時、父の遺体の血はキレイに拭き取られていたが、
爪の内側に僅かな肉片が付着しているに気が付いたのは
警察学校時代だった。
既に、ロシアからの鑑定と県警の鑑定が揃い、
完全に近い形で同じ結論を見た。
焦る気持ちを抑え、神は自由に成る時間も
昼夜問わず捜査を進め続ける。
たまの休みに神は母校の高校の設備を借りて、
身体を痛めつける程、鍛えあげていた。
かつての神を知る先生が懐かしそうに、
『あの頃から酒乃君は毎日良く走っていたね。
今の子達じゃ絶対続かないね』
『今は教育方針が違うんです。仕方が無いでしょう』
今は、部活動の時間や休暇日等も、
しっかり設けられ、効率的にと言えば綺麗だが
自分を追い込む練習をする部活動は中々見なくなった。
『今でも11秒位は切れるんじゃない?』
『まさか・・・ブランクが有りすぎますよ』
『なら、幅跳びはどうですか、先輩!!』
伝説の先輩の周りには生徒の輪が出来ている。
『跳んでみせて下さい、全国2位!!』
『まいったなあ・・・1回だけだよ』
神はピッチに向かう。測定する現役達は、
『スパイスも履いてないし、6m半越えたら尊敬だな』
と、向こう側にたたずむ先輩を見た。
ここに立つと・・・やっぱり・・・
神は身体の血流が勢いをまして荒れ狂う感覚に襲われた。
跳躍迄のルーティーンは身体が覚えている。
弾む様なフォームで重戦車は加速し、
大砲は放たれた。
中学生の時、テレビでカールルイスの跳躍を見て以来、見様見真似で一生懸命に練習し続けた
バイシクルジャンプは綺麗な放物線を
7mの遥か先に落とし、唖然とする後輩達に
『測らなくてイイよ、多分ファールだから』
神は職員室に向かって歩き出した。
『ファールって、これだけだよ・・・』
踏切板のホンの先、1㎝も無い、靴の先端の跡が、
うっすらと残っていた。
職員室で挨拶を済ませ、車で去っていく神を、
旧知の先生は見つめながら、
『あの事件さえ、あの事件さえ無ければなあ・・・
今頃・・・君は・・・』
先生は目頭が熱くなっていた。
〝いつもの〟店に入り、神は新潟の『春梅』を頼んだ。
神のバックボーンや好みを、
既に把握していた大将は勝手につまみを並べる。
冷奴には器の端に、かんずりが塗られている。
村上の鮭に、栃尾の油揚。油揚は神の好物だ。
『警部は栃尾の油揚がホントに好きだよなあ。
お母さんの思い出かい』
『そうですね、母も確かに油揚の料理も出したけど、
私が良さを理解する前に亡くなりましたから。
父は美味そうに食べてましたね・・・』
『今は好きに成ったんだね』
神は父のぐい呑みに酒を注ぎながら、
『昔・・・高校に通っていた頃、
私の大切な・・・大切な人が1度だけですが、
私が食べ親しんだ新潟の料理を作ってくれたんです。』
『・・・』
『色々出してくれた中に、油揚の中に、
ひき肉の餡を詰めて焼いたのが・・・』
『美味かったんだね』
『ええ、美味かったし、それ以上に私の為に、
一生懸命考えてくれているのが、良く・・・』
『・・・』
神は少し笑い、話を続けた。
『でも、その人は納豆を詰めて食べてました。
私は納豆が駄目でしたから、好きなのって聞いたら、
キライ。でもアタシバカだからさ、
納豆食べて少しでも頭良くしなきゃ、
テレビで観たんだから、って・・・』
『納豆、駄目なんですね。俺の娘も小さい頃、
嫌いだったかな・・・で、その人は』
『別れました・・・その時、私は警察官に成る決意を
固めていました。
私には目的が出来た。
警察には沢山の部署が有り危険とは無縁で
全うする人もいます。
だが、私には警察官に成った後の道が見えていた。
だから、いつ命を落とすかも知れなくなる私には、
これ以上関わらせてはいけないって』
『・・・若い頃から不器用だね・・・警部』
神は眉間を押さえた。最近度々頭痛が襲う。
『警部、最近酒の量が増えましたかい?』
『いや、変わらないでしょう』
大将は心配そうに続ける。
『警部が言うなら間違い無いですがね、
最近、根詰めすぎじゃありませんか?』
『・・・』
『通しで働いちゃ身体鍛えて、
休みにも1人で捜査してるでしょ。
常連からの垂れ込み、バカに成りませんよ』
『・・・』
『みんな、この街の人達は警部の事、気に掛けてますよ』
『ありがたい事ですね・・大将、ありがとうございました』
酔ったのか? 珍しくよろめきながら店を後にした。
(あと少し・・・あと少しで辿り着くんだ)
神は犯人を手繰り(たぐり)寄せつつあった・・・
隣の市に昨年から急ピッチで、
高速IC付近に巨大アウトレットの建設が進み、
いよいよ正月にグランドオープンを迎える。
ここの建設のメイン企業は、
今はスッカリ社名を変えた、
あの事件の時の建設会社だった。
この時、神はあの事件以来、
姿を消した3人の暴力団構成員の内の
1人の動向を調べていた。
3人の共通点は、当時組では最下層の使い走りで
テキ屋稼業であった。
その男には妻子がいて、事件当時娘は
1年生に上がる前だった。
男が逃亡後、妻は精神崩壊し生きる屍に成る。
娘は施設に入った。
神が県警に入ってからの調べで、
その施設に匿名でプレゼントが届く情報を得ていた。が、娘が施設を18歳で退所すると、
パタリと止まっていた。
神は一度、ボランティアでその施設を訪れていた。
もちろん子供達とのふれあいが目的で有ったが、
神の密かな目的も粛々(しゅくしゅく)と実行された。
その娘の使用した紙コップをゴミを回収して帰る際、
慎重に選り分け(よりわけ)、鑑定に回した。
そして、父の爪から採取された物と
血縁関係が確認出来た。
神は、娘が二十歳を迎える時の犯人のリアクションを
待っていた。大人に成った娘に・・・
だが、そう都合良く思惑通りには行かないと
神も考えていたが、その建設会社の実態を知ると、
あらゆる仮説を延々と立て始めた。
そして、仕上げたストーリーはこうだった。
娘は二十歳の成人式を迎える。
当然犯人は一目見たいであろう。
関東圏に入る為に何かを装い(よそおい)潜入したい。
アウトレットのメイン建設企業が『あの』会社なら、
中の出店にテキ屋で紛れ潜伏出来、
隣街の娘を見届け消える。
しかし、これは安易だった。
そもそもアウトレットの中に昔ながらのテキ屋は
場違いだ。なら、我が街のどこかの正月屋台で
街に馴染み(なじみ)目的を果たすのだろうか・・・
いや、これも違う。
そもそも、正月の屋台周辺には
私服警官が軒を連ねている。
あえて死地に飛び込む馬鹿はいない・・・
やはり駄目か・・・
諦めかけたオープン前、ホームページで様々な告知、
詳細なマップが掲載された。
『!?』
何かが違う、違和感を感じる。
神は遂に何かをつかんだ。
アウトレット内部に沢山の移動販売車が
転々とする様だ。確かに良く有るパターンだ。
しかし、何故かアウトレット内と各駐車場とを
往来する道々に極僅かの飲食店が出る・・・
内部には恐らく、私服警官、警備員で一杯だ、
しかし、外部なら精々交通誘導の警備員のみ、
怪しまれず日時を稼ぎ、成人式当日に、
ひっそり現れる算段か・・・
現れる保証は無い。成人式会場で捜査、確保も考えた。
が、大人数がまとまる会場で危険が発生した時の
リスクを考えたら、やはりこの場所に掛けるべきだ。
結論を出した上で、神は問題も冷静に把握していた。
(この場所は管轄下では無い。1人か・・・)
いつも、1人で仕事をしてきた。
しかし今回の1人は少し意味合いが違った。
彼は非番の日に、1人の市民として、
父の敵を捕獲する1人のハンターとして、
無数の敵陣に単騎で斬り込む、
越後の英雄の様に・・・・・・神は覚悟を決めた。
その日はやってきた。
眩しい位の快晴。
動きやすい柔らかな素材のスーツの上に、
愛用のコートを羽織り、そのICへ向かう。
オープン直後から数日だっていたが、
車は中々進まず、神は裏道に逸れる。
そして視界に遠くからも賑わいが見える。
神はサングラスを掛けた。
誘導の指示に従い車を外部の駐車場に停める。
非番の今日、神は丸腰だ。
しかし相手に飛び道具が有ったとしても、
神は確保する自信は有った。
この日の為に全ての無駄を削ぎ落としてきた。
欲を捨て、時間を捧げ、大切な人も・・・
失敗など有る訳が無い。
失敗・・・それは〝その男〟が居なかった時だけだ・・・
アウトレット外側の道沿いをユックリ歩く、
中の賑わいに比べ、嘘の様に寂しい。
たこ焼き、焼きそば、りんご飴・・・
ポツリポツリと店をうかがう。
綿飴・・・40手前の男が、
にこやかに棒をクルクル回している。
神は店先に立った。
『1つ下さい』
『はい、500円です。』
一万円を手渡す。
『待って下さいね、お釣出しますから』
『どちらから仕事に?』
『西からです』
『関東の言葉が上手いですね』
『いや、全国流してますからね。
関東で仕事する時、関西弁は恐がる人もいますから。
企業努力ってヤツですよ』
男は笑っていた。
『そうですか、私はスッカリ久しぶりの故郷に
浮かれている・・・そう思ったんですがね』
男の動きがピタリと固まる。
『永原元三、見つけたよ』
聞くや否や、男はザルに入っていた
釣り銭を掴むや、神に投げつけた。
『何も出来ないよ。大人しく自首するんだ』
尋常でない荒息で肩を揺らし男は
キョロキョロすると、己の背後に、
綿飴に釣られて近づいていた小さな女の子を見る。
『動くなぁ~!!』
男がアッと言う間に少女を抱え、
物々しい刃物を突き付けていた。
(飛び道具は無いな・・・)
『警察だな、ポケットの中身を出すんだよぉ、
早くしろ~ガキをぶっ殺すぞ!!』
『落ち着け。それにしてもお前、
良くそんな可愛い女の子に刃物を向けられるな。
お前の二十歳の娘にも、その位の頃が有ったはずだが』
『う、うるせ~、早くしろぉ~~!!』
神は左のズボン、右のズボンのポケットを捲る。
コートの左右のポケットも同様に・・・
『コートを脱いで内側を見せろ!!』
神は静かにコートを脱ぐ、
襟の内側に手を入れ裏地に仕込みが無いのを見せると、内ポケットに手を入れた。
(お父さん・・・)
神はソフトボールのピッチャーの様に、
アンダースローで何かを放り投げた、
その瞬間、その小さな物体が、
新春のまぶしい光に照らされ、
キラキラと言うには程遠い位に輝く。
男が目を反らした刹那、
獣の様な速さとバネを持つハンターは瞬間移動の様に、
男の背後で、その腕を両腕と両足でキメると、
身体を前方に巻き込み少女の身体の上を前転した。
その動きの中で既に片方の腕をへし折ると、
男は激痛に声を上げ始めたが、
構わず神は羽折固め(チキンウイングフェイスロック)に捕らえていた。
絶叫を上げる男の意識が堕ちるまで、
一瞬の内に神の目的は呆気なく果たされた。
刃物を回収しコートにくるむ。
少女の親が駆け寄り、娘を胸に抱き締めた。
神は携帯から、この街の所轄に連絡を入れた。
15年前になった事件の容疑者確保を伝える。
誰かと問われ、静かに伝える。
『1人の市民です』
男が少しずつ意識を戻し始める。
神は、男のズボンの左足をめくり上げる。
サポーターが巻かれていた。
乱暴にグイと引き下げると足首に、ふくらはぎに、うっすらだが確かに、父の爪痕を見た。
神はユックリとサングラスを外した。
その両の眼は、瞳以外の面積全てが
深紅の血で満ちていた・・・
神は男の足首をつかむと、
無言で足首固め(ヒールホールド)を決めると
容赦無い最大限の力で、
明後日の方向に曲げ折った。
男は再び気を失った。
もう片方の足首にも同様のサポーターが・・・
(カモフラージュのつもりか・・・哀れだな、
色々苦労もしただろう・・・)
サングラスを掛け、神は天を見上げ静かに会話した。
『お父さん、未だ・・・これで終わりにしては
いけないんだよね、そうだよね・・・・・・』
『ありがとう・・・』
傍らに近づいていた少女がそのキラキラした、
神の大切な、大切な父の形見を手渡した・・・
神は静かに『鶴乃親子』を傾けていた。
大将は今日も神の前につまみを並べる。
『満足したかい、警部』
謹慎中の神は父のぐい呑みを傾ける。
あの時、放り投げた器には柔らかい素材が故、
わずかな凹みが出来ていた。
それは、父の無念を晴らした証だった。
『これで終わったら、ただの自己満足でしか
成らないんです。降格しようがクビに成ろうが、
真のゴールに向かって行かないと・・・』
犯人を確保した後、管轄署の刑事が殺到した。
1人の刑事が神に語った。
『貴方のやった事は見方によれば、
ただの復讐だ。立場をわきまえられない
貴方ではないでしょうに?』
『今日の私は1人の被害者遺族、1人の市民です。
警察官として処分が有れば粛々(しゅくしゅく)と受け入れる』
静かだが、キッパリと神は言い放つ。
刑事は手錠を神に渡すと、
『それはそうとして、お年玉では無いですが、
特例で手錠掛けを体験してみますか・・・』
刑事は神に背を向けた。
(1人の・・・市民として・・・か)
『永原元三、殺人の容疑で逮捕する』
手錠が掛かる音を確認し、所轄の刑事達は
気絶したままの犯人を連行して行った。
しばらくの間、自ら謹慎すると署長に連絡し、
神はマンションに籠った。
『警部、アンタ良くやって来た。もう充分だよ。
少し・・・そう少し休みなよ、焼き切れちまうよ』
『そうですね、私には未だやり遂げて無い事が
有りますし、一息入れるのも、いいですかね・・・』
『そうだよ、自分有っての市民の安全だろ』
神は微笑を浮かべると、
『大将、鶴乃親子、店に置いてくれて、
ありがとうございます。大変だったでしょ、
これは地元の酒ですからね』
『苦労したよ。地元の酒は地元で飲みきるって・・・
頑固だよ、あの蔵元は』
『良く説き伏せましたね』
『色々な・・・』
神は、それ以上聞かないし、大将も語らない。
大将が仲の良い親子の物語を、悲しい結末を熱く語り、
杜氏は黙って酒瓶を出し、
社長は帳簿に供給の約束を記した事を・・・
神は、また頭痛がしていた。
『トイレ、行ってきます』
(これからなんだ・・・
犯人も弱者で有り被害者でも有るんだ。
悪の根元を絶やし(たやし)、いつの日か
街のみんなが笑顔で楽しく・・・)
手を洗いドアノブを回した時だ、
ボン!
と、聞こえただろうか、
神は膝を着いた。
ドアにドンッと頭が倒れ掛かり、視界は暗闇に包まれ、遠くから警部、警部と・・・・・・・
うっすらと視界が明るくなる。
俺は・・・ここは何処だ?・・・
俺は死んだのかな・・・大将の店で・・・俺は・・・
『気がつきましたか、酒乃さん』
『・・・』
『手術も成功、呼吸器も直ぐに外れて順調ですけど、 あわてないで下さい』
(病院、だな)
『看護師の大熊です。みんな私を主任って
呼んでますから。ちょっと偉いんですよ』
神と同世代位の看護師は軽く自己紹介を終え、
担当だと言って去って行った。
生きている・・・生きているのはわかったが、
どんな状態なんだ・・・俺は?
手や足を動かそうとする。
ガタガタ動く箇所も有れば、
ピクッとしかしない箇所も有る。右目の視界も怪しい。
『ああ警部、目が覚めたな』
大将が掛け込んできた。
きっと大将が俺を助けてくれたに違いない。
お礼が言いたいが言葉が出てこない。
『警部、そのまま聞きなよ、店で倒れたんだ。
脳梗塞だったが安心しろ。
すぐに対処して脳外科に運ばれたからな。
警部は運も抜群だ』
何日か意識が無かったらしいが、順調だそうだ。
『アンタ未だ若いのもあるが、
バケモンみたいな体力だって先生方が
ぶったまげてたらしいぞ』
(大将、大げさですよ)
『ただ、言葉の方は少し大変らしい。
ハッキリ言った方がアンタやる気が出るだろうからな。
いいかい、明日からリハビリ頑張るんだ。
また街のみんなの為に汗かくんだろ』
うなずく事が出来た。
『看護師さんの言う事聞いてリハビリしっかりな』
大将は、また来ると言って出て行った。
己の現状を把握した神は、
押し寄せる疲労に身を任せ、深い眠り着いた・・・
『酒乃さん、起きて下さい』
どうやら起こされている。
昨日の主任だ。メガネの奥がキラリと光る。
『意識が戻りましたし、早速リハビリですけど
大丈夫かな、頑張れますか~?』
その時、何か挑発された様に感じた神は、
体内の闘争心が一気に駆け上がる感覚に襲われた。
主任が突然サッと室外に出て行く。
(??)
しばらくすると、主任は戻り
『ごめんなさい、胃が痛く成ったかなと・・・
昨日飲み過ぎたかなあ? さあ行きましょう』
こうして、神のリハビリの日々は始まった。
神は弱音を一切見せなかった。
リハビリに関わる全ての人が丸で神を
限界スレスレ迄誘導するかの様で、
効果は日々現れて行った。
励みも有った。車椅子を自力で動かせる様になり、
リハビリを終え必死に個室に戻る。
そこには、老人ホームから千羽鶴、
幼稚園や小中学生からの似顔絵、作文、
そして母校からの必勝の文字に書き寄せた激励。
それらを眺め、懸命に気持ちを奮い立たせた。
季節はめぐり、車椅子から降り始め、
足の運びも回復を見せていた。
右目は視力に影響が残りそうだが、
日常生活に支障は無さそうだ。
左手には少し麻痺が残っている。
でも、これからもリハビリを続け
必ず克服すると、大将が届けてくれた、
あの錫のお猪口を握りながら動かし続ける毎日だ。
病室に主任がやって来た。
『酒乃さん、相部屋に移ります?』
右手はスッカリ回復した神は紙に、
(このままで)
『恥ずかしいんですか、相部屋?』
主任の問いに首を振り、
(なるべく、見せたくないので)
と書いた。
『今の自分を見られたく無い。街の人達には、
元気に成った自分を見せたい。ですか?』
神は感心して、
(大正解)と書いた。
『勘ですよ、勘』
笑って主任は用を済ませると、
ナースセンターへ去って行った。
それにしても主任は、
自分の心を見透かした様に
気分をのせたり冗談もツボだし・・・
以前、どこかで会っているのか・・・
目の焦点が左右にズレが有り、
マジマジとは表情を見てはいない。
わからないまま、今日も1日が終わった。
翌朝、いつものように健康チェックを終える。
リハビリに送り出される時、主任は
『何か今日、酒乃さん声が出せる気がするな』
神は怪訝そうな表情で、
(勘ですか?)
と、書くと、主任はニコッとして、
『さあ? 身体の方はもう仕上がってきたから、
もう少し頑張って下さい!』
神はユックリと病室を出た。
身体も、相当いじめ抜ける様になり、
そろそろ退院も近いかな、と思いながら、
病室に戻る途中、大将が見えた。
『スッカリいいな、良かった』
神は頭を下げた。
『よせよ、それより判決が出たよ。無期だ』
神はウンウンと頷き、無表情で父を殺した、
永原元三の無期懲役を受け入れた。
きちんと勤め上げれはいつか娘とも会えるなと
神は思いながら大将に病室の方向へ指差すと、
大将は首を振り、
『今日は帰るよ、仕込みが済んで無いからな。
看護師さんとは上手くやってんのかい?』
聞かれた神は側頭部に両方の人差し指を立て、
怖い顔をして、ニヤリとした。
『だろうな。ありゃ、一筋縄ではいかねえよ』
神は大将と別れた。
(知り合いなのかな?)
神は気にしながら病室へ向かった。
大将と会ったからか、
予定より遅れて病室に戻ると主任が待っていた様だ。
窓を開け微風に吹かれる主任はメガネを外していた。
風に吹かれ、わずかに微笑む(ほほえむ)横顔、
この風景・・・見た事が有ったかな?・・・
記憶を辿る(たどる)・・・いつだろう・・・
どこだろうか・・・髪の色が・・・黒から赤?・・・
幼い感じに戻って・・・あの顔は・・・そうだ!!
屋上で見たあの人の顔・・・いや、しかし・・・・・・
『せ・・・ん・・・ぱい?』
声が出たか? 主任がバッと顔を向ける。
(やはり、間違いかな? 名字も違うしな)
『せん・・・ぱい?』
少しずつ声が、自分の声が出ている。
大熊主任は・・・下を向き肩を震わせ始めた。
もしや・・・でも・・・
『せんぱ、い・・・先輩・・・』
神は言葉を発しながら病室に入り進む。
窓際から近づいてきた主任は、
『先輩は止めて・・・名前で呼んでよ・・・
昔みたいに』
神は感激に内震えながら、力の限り言った。
『南美・・・さん・・・南美さん!』
『神、お帰り、待ってたよずっと・・・・・・
待ってたよ・・・』
南美は、大人に成った神の胸に額を押し付け、
低いうめき声を上げて泣いた。
15年の月日が経って(たって)いた。
あの時に様に屋上に二人だけ・・・
『アタシこの世界で必死にやってきたよ・・・
難関な資格にも挑戦して、気がついたら、
今は、こんな感じ』
(頑張ったね、南美さん)
『神が警察入って、テレビでチラッと映ったの
観たりするとね、悲しくて、
何でアタシを遠ざけたのか、
理解出来なかったから・・・』
(すみません・・・すみません、南美さん)
『もうこのまま、1人で生きて行く覚悟を決めて、
患者さん達に自分を捧げる覚悟決めた頃かな、
神が小学生に色んな話をしているローカル番組を観て、
帰った来たんだって知ったんだ』
『・・・』
『だけど所詮は10年以上も前の、
ひと昔前の話だから、神には神の、
今の人生が有るに違いないから、
会わないつもりだった・・・』
『南美・・・さん』
『脳梗塞患者が運ばれてきて、脳外科なら、
当たり前の日常なのに、その晩運ばれて来たのは・・・
あの優しくて強い神だった・・・』
『・・・』
『手術中祈ってた。アタシがオペする訳じゃ無いのに、
絶対に助けるんだ、アタシがこの道を選んだのは、
この日の為だったんだって』
『・・・』
『神が助かった後、アタシは何か放心状態でね、
神とアタシには何が残るのかな、このまま何も無く、
すれ違うのが幸せなのかなって』
『・・・』
『神が倒れた居酒屋、昔、神を連れていった
定食屋さんの跡地、アタシも気になってたけど、
アソコには、神の気配が残っているのが・・・
辛かったから、行けなかった』
神は下を向いた・・・
『救急車に同乗してきた大将が、
先生方にお願いしてた。あんた達と同じで、
この人は街に必要な人なんだ、
絶対に助けなきゃいけないぞ、この人が今まで、
どれだけの市民を笑顔にしてきたか・・・って』
(大将が・・・)
『無事にオペが終わって大将の連絡先を
教えてもらった時、ああ、やっぱり神の周りには
沢山の人が吸い寄せられるんだなって・・・
アタシびっくりしちゃった』
『・・・』
『大将は、アタシの蒸発した父親だったんだ』
『え・・・』
『大熊定満・・・名前で判った。
アタシは躊躇無く自分の名前を伝えた』
『・・・』
『俺の事は許せなくても、神は必ず助けてくれって、
立ち去ろうとしたのをアタシ引き留めた』
『・・・』
『アタシは知りたかった。アタシの知らない神を。
アタシは大将に神との関係を話した。
大将は驚いた後、やっぱり警部はみんなの太陽だなって、
その後大将はアタシの知らない神を、
大将に打ち明けていたアタシの知らない全てを・・・』
『ごめん・・・な・・さい』
『ズルいよ年下のくせにさ、大人ぶって、
一緒に背負わせて欲しかった・・・
一緒なら・・・例え・・・』
南美は泣き崩れた。
しゃがみ込んだ南美に大きな身体で覆い被さる。
『神~~』
南美は慟哭した。神の大きな分厚い、
鋼に戻りつつある胸にしがみついて。
泣きながら言葉を並べる。
『神が目覚めた後、リハビリ初日にアタシ試したの。
神の、あの頃の闘争心って言うの?
高校生だったあの頃、龍や虎に見えた、
あの頃の神みたいな。そしたらホント、
あの頃みたいに神の身体から凄い何かが見えて、
アタシもう、胸が一杯に成って・・・
外に出て、泣いたの・・・良かった・・・
神は生きてる・・・神はあの頃のままだって・・・』
泣きじゃくる南美の肩をトントンと叩く。
見つめる南美に心を込めて書き始めた。
(南美さんにいつも、ご馳走してもらったね)
『神?』
(俺は、あんなヒドイ仕打ちをしたのに)
南美は首を振る。
『南美・・・さん』
『・・・神』
(命を分けてくれてありがとう、ご馳走様)
『神・・・神、もう2度とイヤだよ、離れない、絶対。
別れるとか言わせない。罰ゲームだからね、イイ?』
『はい・・・南美さん』
二人はユックリ抱き締め合った。
南美は、どれ程待ちわびたのだろうか・・・
あの目障り(めざわり)な年下の変なヤツは、
南美の大切な、大切な太陽だと確認した。
神はどうしても確認したい事が有った。
(いつから〝大熊〟に? 名字が違うから、
まさか南美さんだと思わなくて)
『大将と再会して、神を間にしてアタシ達、
話したんだ、そして、わだかまりを捨てた。
やっぱり1人で生きるのは辛いよ。
お互い、血を分けているんだからね』
神は何度も頷く。
『だから神が目覚める前にね親子に戻ったんだよ、
アタシ達。それもこれも、神のおかげだよ』
(そうか、もう少し早く目覚めてたらなあ)
ペンを置き、神は少し悔しそうな顔をした。
南美が見るその顔は、あの明るくて、
ちょっとバカな高校生、神、その者だった。
南美は嬉し泣きしながら突っ込みを入れた。
『それにしても、神? アンタさ、
大将に1度も名前を聞いて無かったの?』
『はい・・・』
『今まで聞く機会、いくらでも有ったでしょ?』
神は当たり前な顔をしながらサラサラ書いた。
(だって大将は大将ですから)
南美はため息をつくと嬉しそうな顔で言った。
『ホント、バカね・・・いつまで経って(たって)も』
『はい』
夕暮れの屋上で、神と南美は
あの日以来のキスを交わし、
いつまでも離れはしなかった。
神は心の中で毘沙門天に感謝し詫び(わび)を入れた。
(毘沙門天様、私は、誓いを立てる前の
〝俺〟に戻ります。ですがこの命尽きる迄、
この街と人と、この大切な〝家族〟を護ります・・・)
新たに誓う神と南美を赤い夕日、
いや、炎が包んでいた・・・
~ 完 ~
お読み下さいまして、大変嬉しく存じます。
私自身はこれを書いた事で気分転換に成り、
そして、少しだけ自信に成りました。
作中の内容で警察関連の記述は
実際の警察の知識は有りませんので、
フィクションなので違和感有りましたら
スルーして頂けますと有難いです。
日本酒の銘柄は私の好きな銘柄のアレンジですが、
満寿男山は少々ふざけ過ぎましたね。
これからも、自分のペースで様々な物を
書いていけたらイイなと思っております。
どうもありがとうございました。