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本日休業

 SNSで話題になってた。レンタルペットの自販機があるって。知りあいの知りあいがレンタルしたって、とか、借りた本人じゃない書き込みばかりで、本当の話なのかあやしいものだったけど。いくつかの話を総合して大体の場所がつかめた。なんだ、昔よく二輪を転がしてたあたりじゃん。今は二輪はおりて、四輪だが、休みの日にためしに行ってみることにした。

 だっておもしろそうじゃん、レンタルペット自販機なんて。珍しいペットが借りられるって。カイマンとかニシキヘビなんて買ったはいいけど、あきたって、返品もできないし、そのへんに捨てたらニュースになっちまうしさ、足がついてめんどうなことはごめんだしさ、そもそも高いしさ、ためしに一日だけ借りるとかいいじゃん。

 国道沿いの田んぼばかりが続くあたり、閉店した小さな商店の入り口をふさぐように自販機が置かれている、そうだ。

 たらたら走れば、それらしいのが見つかるだろうと、結局国道を二往復してしまった。おかしいな、このへんのはずなんだが。田んぼがあるだけで小さな商店も自販機も見当たらない。そういやレンタルした話は、みんな夜だったな。自販機のあかりにひかれて気づいた、とか。昼じゃダメなのか。って、昼でも店くらい見つかるだろうに。

 仕方ない、コンビニのあったところまで戻って、何か飲もう。

 あきらめて引き返し始めたところで、田んぼの中に小さな建物を見つけた。

 あ? あんなのあったか? ここを通るのは三度目のはずなんだが。農家の作業小屋みたいな気がするが、一応確かめておこう。


 閉められたシャッターに、本日休業、って札が下がってたが、自販機なら休みなんてかんけーないだろ? どういうことだよ。ここじゃないのかよ? でもそれらしいのは他に見当たらなかった。ここだと思うんだけどな。

「おーい!」

 シャッターを叩きながら、声をかけた。中に人がいるとも思えないくらい、田んぼの中のぽつんとした建物だけど。

 連絡先を書いたものがないか、建物をぐるっと回ってみた。

 裏に回ったときに、足元を何かが走っていって、びっくりした。

「…なんだ、猫か」

 黒いから、物陰に潜んでたら全然わかんなかった。

 猫は俺をにらんで、しゃーっと言いながら逃げて行った。周り、田んぼばっかなのに、どこへ行くのかね。

 普通の猫なんか、いいわ。俺の目的は、カイマンとかヘビだから。珍しいもんがいいんだよ。

 しかし、店の裏にもなんもねえ。結局表に戻った。休業と書いてあるからには、何かしら商売をしてんだろ。だったら、連絡先くらいあってもよさそうなのに。商売っ気ねえな。こっちは借りる気満々なのに。

 仕方ねえ、また来るか。


 …なんで、今日も「休業」なんだ?

 ってか、もうこれ、閉店してんじゃね? だって三日連続で見に来たんだぞ。仕事帰りの夜に来ても、やっぱり休業してた。

 SNSで話題になって、なんかモメて、閉店しちまったか。借りパク続出したか。

 ちぇっ。

 黒猫だけは毎日いた。首輪してないし、警戒心が強いからノラだろうけど、猫がいるんだから、誰か餌をやってんじゃないの? 田んぼでなんか捕ってんのか?


 と、いう数日後、またレンタルペット自販機の話題がSNSにあがってるのを見た。コキンメフクロウを借りたんだって。うひょー! フクロウ? かっけー! フクロウまで借りれんの。やっぱ営業してんの? なんで俺が行ったときは休業してんだよ。それ自販機の意味あんのかよ。

 今日こそは、借りるぞ、と意気込んで出かけた。借りたり返したり、客が来てんだろ。じゃ、営業してんだろ。

 なのに、またシャッターが閉まってた。

 どーなってんだよ?

 立ち尽くしていたら、店の裏から黒猫が現れた。ちくしょ、またこいつかよ。こいつはいつもいるな。俺の目的はお前じゃねえ。

 しかも、この猫、いつもいつも腹を減らしてやがる。コンビニで、酒のつまみと間違えて買った猫缶をやった。缶のまんまやったら、缶の縁で危ないから、コンクリの上にひっくり返して中身を出してやった。

 黒猫はすぐにがっつき始めた。前にやったときは、食いにくるまでもうちょい警戒してたのに、すぐ慣れやがった。よっぽど腹減ってんのか、馬鹿なのか。

 どーして自販機がいつも休業なんだ。どーしてお前はいつもいるんだ。

 また間違えて猫缶を買っちまったとき、ここまで持ってくるのが面倒くせえ。もう、この猫、うちに持って帰ろうかと、車に積んできた空き段ボールを出してみた。入るなら持ってくし、入らなきゃそれも猫の勝手だ。と思ったら、餌を食い終えた猫は、迷いもせず段ボールに入った。入んのかよ。

 黒猫を保護することと、スマホの番号を書いて、メモをシャッターの下から店に入れた。店で飼ってる猫かもしれないしな。


 …って、三日たっても、連絡ねえ!

 知らねえぞ、もう、この猫、うちで飼うぞ。ババアが赤いリボンを首に巻いて、気に入ってるみてえだし、年寄りから今更取り上げるのもなんだし。あとからなんか言ってきても遅いからな。

 ちくしょう、珍しいペットを借りるつもりが、ただの猫を飼うことになっちまった。



Bye for now!


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