表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

マリーの小さな村

作者: CGF


その村は宮殿の広大な敷地、人の踏み入れぬ森の中にあった。


一人の女性の為に造られた小さな小さな村。母屋と連結された離れ、小さな小屋の他、隣家すらない。


池があり、池より小さな畑があり、庭では家禽が餌をついばむ。


働く農夫は雇われ者、この『村』の主人ではない。




主人の名はマリー。



それまで宮殿に隠し部屋を造り、公務の合間を見て息抜きをしていたが、子供らと日の当たる場所で遊びたいと考えた。


それがこの人工村である。



だいたいにして宮殿の生活は好みでは無かった。



母は女帝と呼ばれながら質素に暮らす子煩悩な質であった。家庭的な生活にマリーは親しんでいたのである。


輿入れした国境の向こう側は異世界であった。


まずもって国境を越える際に衣服・飾りを全て剥ぎ取られた。母国の物を全て捨てられ全裸で国境を越えたのである。


身一つとはよくある言い回しだが現実に実行させられるとは思わなかった。



マリーは泣きながら国境を越えた。




夫はおとなしい良い人であったが、国の方針がこれまたおかしい。





『国民に王候への憧れを持たせる為、生活の全てを解放する』





つまり見学者がまとわりつくのである。


食事程度ならまだいいが、夫婦の夜の生活までだ。見学者はベッドにかじりついてマリーを見た。



派手な暮らしぶりを見せろとの要望である。身を飾り立てるだけでは受けが悪かった。


半ばヤケクソで馬鹿げた飾りかつらを作ったら受けた。やはりおかしい。



くたびれたマリーが息抜きをするのは隠し部屋。独りで湯あみを楽しみ、食事も作った。




小さな村は雇われ者が世話をするほかは無人であった。マリーはたまに子供を連れ、花を摘んだり農作業の真似事をした。


母屋も離れも質素に見える。しかし扉を開けるとシャンデリアが吊るされていた。高級品の家具と大理石で囲まれた空間。間違っても農村の家では無い。


もっとも、宮殿に比べればだいぶ質素ではある。





一枚の絵がある。


質素な食器戸棚とテーブル。二人の子供が母と共にあり、母は鍋をテーブルに下ろそうとしている。


幸せそうな風景だ。






母親の名はマリー。


処刑ギロチンの日まで牢獄で子供達と安らかに暮らした時の絵である。






───────終。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 元々知識が殆んど無く、人工村の事も初めて知った位なのですが、マリー・アントワネットのイメージがだいぶ変わりました。 勉強になったし、何より面白かったです。
[良い点] マリー・アントワネットの安らぎの場所――読んですぐにわかりましたよ。親子の絵画のことは知りませんでした。面白かったです。 [一言] 贅沢三昧で国民を苦しめた悪女などとも言われますが、例の謎…
[一言] すぐ分かったわ。プチトリアノンのことね。 この小さな農場にも多額の税金が注ぎ込まれたのよねぇ~。 マリアちゃんダメよ! (。>ω<。)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ