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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

寝坊助

作者: 伊月煌

半年前にTwitterでやり取りしたものを今更文章化したものです。


カーテンが開く音がした。

窓から入る光が眩しくて、重い瞼をゆるゆると開いた。

「……起きたか。」

「んぅ、……う、ん、」

彼が、俺に気づいてベッドの淵に腰掛けた。

俺の前髪を、するりと撫でる。

「仕事なら、済ませてきてやる。」

昨日までの激務が堪えた。

頭があまり覚醒していない。

「やだ……おきる、」

まるで駄々っ子のように首を横に振った。

体は未だ起きる気配を見せない。

それでも彼に仕事を託すなんて真似は出来なかった。

俺なんかより、ずっと激務に晒されているのに。

俺の仕事までやってもらったら倒れてしまう。

「無理すんなよ。」

布団をかけ直される。

「だって……でぃおのほうが、ねてないじゃん…」

口にすると呂律が回らなかった。

彼がふ、と笑う。

「体力が違うだろうが」

「む……ばかに、するな……」

「してない。たまにはゆっくりしろ。」

働きすぎだ。

そう彼が頭を撫でた。

じゃ……でぃお、も……

一緒に寝よう。

そこまでは言えずに再び瞼が下がる。

優しい笑い声と小さなリップ音が聞こえたところで、俺の意識は再び暗闇に落ちた。


***


目が覚めた時には、何時もの起床時間より2時間ほど遅い時分になっていた。

「うわっ……やば、」

飛び起きて、急いで身支度をして、執務室に走る。

「おや、イルバくん。来たのかい?」

「し…司令、おはようございます。」

ティム・ルートヴィッヒ作戦司令。

俺の直属の上司にあたるその人は穏やかな笑みを浮かべていた。

「アデルカ中佐が朝来てね、ちょっと休ませてやってくれって言われたから。今日は休むんだとばかり思っていたよ?」

「司令はアデルカが言ったことに首を縦にしか振らないの、やめてもらっていいですか…?」

司令は彼のお願いを二つ返事で承諾する。

職権乱用だ、と思う。

普通であれば寝坊の時間。

罰されて然るべきだというのに。

「でも、イルバくんは働きすぎだからねえ。倒れられたら困るもの。」

司令がにっこり笑って言う。

「それにしても、アデルカ中佐は優秀だねえ。2時間で机の上にある書類の整理を全部やり終えちゃったよ。」

え、と思わず声を漏らしていた。

自分の執務室の机を見ると、綺麗に整理された書類が積まれていた。

見ると、端正な字で纏めてある。

「くそ……。」

やられた、と思わず悪態をついた。

「君の同室がアデルカ中佐でよかった、って思うよ。」

唐突の司令の言葉に振り返って首をかしげた。

「どういう、意味でしょう?」

「君のストッパーになってくれるってこともあるけど…口の悪いイルバくんが見られるからね。」

いい相棒だね、アデルカ中佐は。

そう言った司令は意地悪な笑みを浮かべていた。


***


夜。

俺は彼の執務室に走った。

「俺の仕事やったでしょ!」

「何か不備でもあったか?」

彼はこちらに見向きもせず、書類に目を落としながら愚問を問うた。

「っ……あるわけないじゃん、ディオが整理したんだから…。」

愚問だ。

彼が長けているのは、戦術や身体能力だけじゃない。

この若さで特務隊長の座にいるのはその頭の良さを買われてだ。

そんな彼が書類に不備を残すなどあるわけがない。

「じゃあ、なんで怒ってるんだ。」

「お、怒ってない!」

「…ふーん?」

怒っているわけではない。

なのに、こちらに視線を投げた彼は訝しげだ。

「な……なんだよ。」

「その割には不満そうだと思って。」

「……別に、おこってない。」

不貞腐れた子供のような言葉尻になってしまった。

彼のした事に納得がいっていないだけで、これは怒りという感情ではない、のだと思う。

「またディオに手伝わせたなって…思っただけ。」

過保護だ。

自分が今の地位に就いてからは、余計に。

心配されているのはありがたいけど、彼がその行動で周りにどう見られているのか、気が気じゃない。

「大したことじゃない。気にしなくていいぞ。」

そんなこちらの心配など御構い無しといった顔で当たり前のように言う。

「ありがたい、けど……」

なんも、お礼できないし…

俺は小さく呟いた。

俺は彼に最早何もしてやれない。背中を預けることも、彼の周囲を見張ることもできなくなったのだ。

「お礼?そんなこと考えてたのか。」

俺の呟きを拾った彼が、呆れたような顔をした。

何で、そんな顔。

「え…あ、当たり前じゃん!自分の仕事やってもらったんだから…。」

「お前が眠れたならそれでいい。」

この男はどこまでもお人好しで、

どこまでも優しい人だ。

「っ…ディオって……誰にでもそうなの?」

「誰の仕事でも肩代わりするのか、って事か?」

まあ、そう。

と、首肯する。

「誰かのために何かするの、いろんな人にやってるのかなって…」

聞いて、後悔した。

これでは独占したいと言外で述べているようなものではないか。

「まぁ、頼まれればな。でも、やりたくないことをわざわざやってやれるほどお人よしではない。」

「でも、俺のはやってくれた。なんで…?」

「やってやりたかったから」

息を小さく呑んだ。

そう言ってもらえるのは嬉しい。

けど、それは俺にしかメリットがないことではないだろうか。

「やってもらったのは嬉しいし、ほんと助かるけど、無理して倒れられたらほんと元も子もないからね?」

俺のために彼が体を壊してしまったら本末転倒だ。

そう思ってるのに。

「迷惑ならそう言って構わない。」

彼がまた書類に目を落としてそう言った。

「な……なんでそうなるの…俺嫌だなんて言ってないじゃん…。」

「遠慮してるのかと思って。」

顔を上げずに放たれた言葉は、俺の気持ちが彼に伝わってないことを示しているもので。

どこが分岐点だった?

どこで間違った?

そんな焦りが出る。

「な、どうやったらそう捉えるわけ……心配してるだけじゃん……。」

その焦りが声に出てしまう。

何と情けないことか。

「…第一声で責められたから、嫌だったのかと。」

彼の言葉にはっ、とする。

責めるつもりなど、

「あっ……、ごめん…そんなつもりじゃ……あの、」

いつもの癖だ。

思考回路が追いつかないとつい、しどろもどろになる。

特に、この男の前だとそれが顕著に出る。

「謝ってほしいわけではない。」

いつもより、不機嫌そうに彼は言った。

落とした視線も上がらない。

「っ……え、と、ディオ?」

部屋にはカリカリと万年筆の引っかかる音だけが聞こえる。

この静寂は、

嫌な静寂だ。

「あ、……ディオ…?」

「謝らせたいわけじゃない。無駄に謝るなら、この話はやめる。」

彼を怒らせてしまったかもしれない。

久しぶりに背中が冷えるような感覚に頭の中がごちゃごちゃになる。

「ちがっ……あの、ディオ、聞いて……こっち、向いて…?」

彼の視線がこちらを向いた。

「お前の助けになればと思った、それだけじゃだめなのか?」

「だめ、じゃない……だめじゃない、すごい助かった……とっても嬉しいの…ありがと、」

頭の整理がつかないまま、喋る。

だめじゃない。

寧ろ、

彼がいなくなった方が俺はだめになってしまう。

「……すまん、」

彼がくく、と喉を鳴らした。

何に対する謝罪なのだろうか、とぽかんとする。

「それが聞きたくて、煽りすぎた。」

「なっ……」

確信犯だ。

「ディオの馬鹿っ……いじわる、」

彼を睨んだ。

彼がまた笑う。

「すまん、」

彼は万年筆を机の上に置いて、腰を上げた。

そのまま執務室の中央にある長いソファに座った。

「悪いって、思ってないじゃん……。」

「想像より嬉しかったから…悪かった。」

何が、嬉しかったのか俺はてんで見当がつかなかった。

人の気も知らないで、とも思った。

「っ……へんたい、ばか、ディオの馬鹿、」

「そんなに言うなよ、」

彼が困ったように笑った。

「ディオが悪いんじゃん……意地悪するから……ばかディオ……。」

彼に対する罵詈雑言なんて持ち合わせているはずもなく。

自分の語彙力の無さに呆れるばかりだ。

「だから謝ってるんだが…、」

どうすれば許してくれる?

彼が、俺の手を握って先程よりも低いトーンで尋ねた。

俺の、好きなトーンで。

顔が真っ赤になるのが自分でもわかる。

「しっ……知らない!自分で考えてっ……」

そう、そっぽを向こうとした時、

ぐい、と握られていた手を引かれて彼の腕の中に引き込まれた。

「すまん、」

トーンが変わらないまま、耳元で謝られた。

「っ……俺も、ごめんなさい、ディオが悪いんじゃないのに…」

素直じゃない俺がいけないのに。

勝手に不満を持って勝手に不安になっただけなのに。

「休めたか?ちゃんと。」

背中をぽんぽんと叩いた彼が尋ねた。

「お陰様で。」

「お礼、くれるって話だったな?」

彼が俺の顔を見てそう言った。

「何も、してあげられ……っ!?」

最後まで言い切れなかったのは、彼が俺の口を塞いだからだ。

「っ……ん、ふ、」

「っ…お礼なら、朝貰ったからいい。」

唇を離した後の彼の言葉は何を指しているのかわからなかった。

「それに、お前のそういう顔が見れるなら俺は何だってするさ。」

「そういう、顔?」

「ーーーーーー」

俺の質問に対して耳元で返ってきた言葉は俺を動揺させるには充分すぎるものだった。

「変態!」

彼が声を上げて笑う。

「さて、司令補佐を待たせるわけにはいかないからな。すぐ仕事を終わらせよう。」

そう言った彼は、顔を真っ赤にしている俺を解放して、立ち上がった。

「俺が書類上げるまでにその顔、なんとかしておけよ?」

うるさい、そう返すのに精一杯だった俺は、

彼が穏やかな顔でこちらを見てることなんて気づきすらしなかったのだ。


相変わらず作者のディオびいきが凄まじくて申し訳ないですが笑

元ネタはディオの生みの親とのリプ応酬でした。

ちょっと加筆修正はしているもののだいたいそのまんまです。

ディオがイルになんて言ったかはご想像にお任せします。

久しぶりに書きましたが久しぶりすぎてキャラを忘れるという笑笑

またリクエストとかを募集しようかなと思います。

読んでいただきありがとうございました!

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