姉さん
あ 私には姉さんが居ました。
病気がちな、色白の、細い指をした優しい姉さん。
何時も姉さんは、両親に気遣われて、穏やかにしていたのに。
私が騒がしくしてもちっとも嫌な顔一つせずに、私の面倒を見てくれた。
とても優しい、自慢の姉さん。
誕生日に欲しいものを聞かれると、決まって悪戯な顔で。
「元気な身体」
といって皆を困らせた後。
「冗談。それより――の欲しがるものを買ってあげて」
と私にプレゼントをくれようとしていた姉さん。
私は姉さんが大好きだった。
細い手首に、骨が浮き出た、私の頭を撫でる姉さんのすこし筋張った手が好きだった。
本を読み聞かせてくれる時の優しい声が好きだった。
近所の公園に出かけられていた時に見守ってくれる眼が好きだった。
こっそり一緒に寝ようとした時、歌ってくれる子守唄が好きだった。
私の姉さんの全ては好きで出来ていた。
でも、あの日。
姉さんが入院して、何年も経ったある夏の夕方。
小さい頃に見た時よりげっそりとやつれた姉さんが、小さく咳き込みながら私を呼んだあの日。
「ねえ――、貴女はお姉ちゃんの事好き?」
「うん。好きだよ」
「死んだら泣いちゃうくらい?」
「泣く前にどうしたらいいか解らなくなるかも。……死なないよね?」
「そっか。どうしたらいいか解らなくなるくらい好きなのね」
「うん。姉さんが居ないなんて考えられない」
「そっか。そっか」
優しく頭を撫でてくれる姉さん。
「これ、手紙。――宛てよ。家に帰ったら読んでね」
「ここじゃだめ?」
「恥ずかしいから、家でね」
「はーい」
「そろそろ面会時間も終わるから、またね。――」
「うん。またね、姉さん」
そして家に帰って、手紙を開くと。
『――。私は多分そんなに長く生きられません。そう感じるんです。その感覚を私は信じます。だから、死んじゃう前に。多分貴女に「私」を刻めたことが嬉しいってこと、伝えておきます。貴女に好かれてお姉ちゃんは幸せでした』
なんて書いてあった。
何を言ってるんだろう、と思った私に、姉さんが自殺した。
そんな話が届いたのは、その日の夜の事でした。
姉さんが、大好きでした。
でも、今は。
躊躇いなく私という心に傷をつけて逝った姉さんが、少し怖いです。