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「ゲーム」を始めた理由


 ◆


 彼は、小学生の頃から友達の多い人。

 周りへ勝手に人が群がる、そんな男性。女性からも人気があるし、私とは正反対の世界にいる。彼の容姿が端麗かはさておき、優しさとか、気が利いているとか、きっと性格が良いのだと思う。


 たしか、中学三年生の春頃だったかな……

 彼はよく、友達とゲームの話で盛り上がっているのを多々見かける。私はゲームとはやったこともないし、興味もない。それでも席が隣なのだから、会話が聞こえてきてしまうだけのこと。


「お前なぁ……毎日その雑誌ばかり読んでて、どんだけ期待してるんだよ?」

「だってさ、β(ベータ)版がイイ感じだったからね。明日のオープンまで待てないよ」


 ――ベエタバン?

 ()()()とかの話かな?

 何に効くのか分からないけれど、

 ちょっと気になるな……今度探してみよう。


 この時は、何かの医薬品かと思っていた。

 それと「明日のオープン(開店)まで待てない」とも言ってたし「そんなにドラッグストア楽しみにしてるの?」とまで謎は深まる。


 ……けれど、彼がゲームを好きでも他の話題は勿論ある。

 中学生にしてみたらオッサンくさい話だけれど、ゲーム以外の話題があって当然と納得――そこはそこ、これはこれ。


 思わず無言で頷く。その動作は大きめ。


 ――その時だった。

 独りで頷く、結構な勢いで気持ち悪い姿を彼に見られてしまう。

 彼の周りに集まっていた数名の男子も、数秒間は固ま(フリーズ)っていたっけ。


 ある意味、激熱。

 

 その沈黙を破ってくれたのは、気の利く彼だった。

 当然ながら、感謝。


「ゆ……優恋さんも知ってるの?」


 せっかく間を取り持ってくれたのだし、何か答えなくてはと知ったかぶる。


「う、うん。ベエタバンでしょ? あれ最高だね」

「だよね? 優恋さんも”参加”してたんだね。β(ベータ)版」


 ……そういう薬なの?

 酸化するとか、危ない薬なのかな?


「もし良かったら、明日のオープンから一緒にどうかな?」


 ――なんで!?

 そこまで危ない薬のために並ぶとかは、ちょっと無理。

 上手く断っておこう……


「ごめんね……気持ちは嬉しいけれど、もうやめとこうと思ってるの」


 何となく間が悪い。全然上手く断れてなかった。

 少なからず中毒だから止めますみたいな返答に。

 満面の笑みを浮かべて誘ってくれたのに、断って悪かったとは思うけれど……

 さすがに連れドラッグストアは無理かな、と。


 けれど、気を悪くされても困る。

 やはりここは気を遣っておくべき。


「大丈夫! わたし、先生にはこのこと黙ってるから安心してね」

「はい? 別に隠してないけども!?」


 私は良いことをしてしまったようだ。

 とても気分が良い。けど、なにコノ冷ややかな視線。

 彼は、私の気遣いへ動揺した様子で机に置かれた雑誌を床に落とす。


 落ちた途端にパサリと開かれたページ。

 きっと何度も同じページを読んでばかりいたのだろう。

 その部分にくっきりとした折り目がついていた。


 ……これってゲームなんだよね?

 思っていたより凄い綺麗なんだなぁ。

 キャラクターも可愛い。 


 隣の席である私の足元へ――そして雑誌を拾い上げる。

 何となく可愛くて、背景が綺麗。たった少しの間だったけれど、これがゲームというものに惹かれるきっかけとなった。


「あ、ごめんね。拾ってくれてありがとう」


 少なからずゲームへ興味を示したのは確か。

 それは自身の心の内で知れる。

 けれど、ゲームの何が楽しいのかは分からないことから、口が開く。


「あの……あのね。なんでゲームするの? 面白いところとかあるの?」


「「「「「――――ェ!?」」」」」


 教室の中心で私以外が「エ」を叫んだ。

 なぜか謎めいた表情を浮かべ彼は言う。


「そんなことは、優恋さんと然程変わらないと思うけど……」


 ――それって面白さが分からないのにゲームしてるのかな?

 そういうものなのか、ゲームって。


 と、思いながらも会話は続く。


「あ、ごめんごめん。面白いとは思ってやってるつもりさ。でも、その面白いところは人それぞれだからね。俺の場合はチャットとか、協力しあうところとか好きだな。一人じゃ何もできない感じが……ね」

「そうなのね……」


 彼は他人とコミュニケーションを図るのことが好きなのだろう。

 性格から考慮しても、合点がいく。そんな性格が羨ましいと思ったことさえあるのだからと、嘘ではないことが良く知れた。


「ほら、チャットなら言葉を選んでから送信できるよね? 表情とかも分からないしさ。気兼ねなく会話できるっていうのかな?」


 ――なるほど。

 それなら私でも普通に会話とかできそう。

 今まで会話を避けてきたのは、言葉のせいではないのだから……

 もしかして彼も、こうやって気を遣いながら会話するのに嫌気が?


 それなら、人との接し方はどうあれ私と同じなのかも?


 ここで彼が照れ笑いを浮かべ言った。


「”何となく”……かな。他に自分の居場所が欲しかったからかも?」


 今でもはっきりと覚えている。

 この「何となく」が、妙に共感できたことを。

 そういうものかもしれない、こう思えたのは彼のお蔭だった。

 今までの概念を崩す言葉。何事でも深く考え込んでしまう自分の性格が嫌い。物事を楽しみたいのならば『何となく』くらいの軽い気持ちが必要なのかもと思ったほどに、心に響いた。


 曖昧さ、それが娯楽を楽しむにあたり最も重要なのかもしれないとまで。

 買い物をするのもそうだ。せこせことしていたら、満足のいく買い物はできないだろう。何となくこれいい、みたいな感覚で衝動買いは良くないかもしれないけれど、後悔はしないもの。逆に、これ欲しいけれど高いからやめておこう……などでは、後悔をしたりすることが多いような気もする。


 結局「買っちゃった」みたいなことに満足感を得る。

 だからこそ、何となくとは考えずに行動を起こせる”何か”を感じたと解釈できよう。そう解釈することが、後悔に繋がらないのだから……



 この日、両親を説得してパソコンを購入した。

 条件は二年間のお小遣い半額。それでも、全く後悔の念はなかった。


 つまるところの「買っちゃった」で、御座います。


 それに……

 彼に似た性格と私と同じ名前を持つ『優恋』に出会えたことに感謝さえしていた。


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