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「チャット」を確認する理由


 ◆


 いつもはログインすると、まずメッセージを確かめる。

 仲の良し悪しは別として、フレンドの数は多いほう。このメッセージの内容は、だいたいパーティーのお誘いか、リアルのことを質問してくる人ばかり。


 リアルについては、返信をしない。この返信さえしなければ「聞いてはいけないのかな」と察してくれる人が大部分を占めるけれど……それでも聞いてくる人には判然したお断りを返す。


 けれど、チャットで聞かれると面倒くさい。

 何となく場の空気が悪くなるし、相手が勝手に自分のリアル話を始めるから、嘘をついてでも答えなければならない状態に。


 簡潔に言えば『自分のことを教えたのだから、お前も教えろ』みたいな、強引にも聞き出そうとするプレイヤーがいるということ。勿論、全員ではないけれどそういう人とはフレンドにならないことにしている。


 この人になら……

 なんて、気の許せるようなフレンドとなるまで、それなりに時間がかかるものではないかと思う。リアルの話は『自分のことを聞いてもらいたい』や『相手の事を聞きたい』から始まるものであって、よくある暇つぶしや話題作りのためだけに答えたくないのが本音。


 ……とはいえ、本日は珍しくもメッセージは無し。

 内容はどうあれ、やぱり一件も無いと寂しいような気も。

 そんな何もない時は、独り(ソロ)でゲームを楽しむ――というよりも、自分からパーティーへ誘ったことは一度もなかった。


 私としては――


 ――ヴェリテを必要としてくれる人がいるんだな。


 と、思えることでゲームを楽しんでいるのだから、誘われない限りは基本的に単独行動ばかり。適当にフラフラしながら、他のプレイヤーのチャットを観てクスリと笑う。観ているだけでも結構暇が潰せたりもするから、そこもまた楽しかったりして。


 他人の会話を盗み聞きしているようだけれど、ここがリアルとゲームの違い。相手も聞かれていると知ってチャットをするわけだし、ある意味『聞いてほしいからワールドでチャットをしている』のかもしれない。


 そんな、プレイヤー全員に公開されるワールドチャットというものがあって、皆に観られているからこそ笑わせようとする人も多め。そんなワールドチャットで会話する人は、だいたい同じ面子。質問が主な内容だから質問する人は常連さんではなく、質問に答えてくれる人が常連さん。


 私は初めゲームのイロハなんて知らなかったこともあり、このチャットから全てを学んだ。困ったらチャット、暇ならチャット、事あるごとにチャット。会話も面白いけれど、とにかく勉強になる。


 言わば、ワールドチャットが教科書みたいになっているから、常に観るのが癖になってしまったのだろう。


 かく言う私は、いつものようにワールドチャットを観ていると……


「弱めのヒーラーですが、誰か拾ってください」


 ……ヒーラーって回復役を主にこなす人のことだったかな?


 と、いつも脳裏で考えながらチャットを流し見る。

 チャットって、慣れている人ならすぐに理解できるだろうけど、専門用語みたいな語句が多くて悩んだりすることも多々あり。確認しながら、理解度を深める。


 ――えっと。

 誰か拾って、ということはパーティーに誘って……か。


 まるで捨て犬のような口ぶりだけれど、何度か同じようなチャットを見かけたこともあり、言っていることは通じた。


 けれど、普段ならパーティーへの要望は無視し、わざわざ理解度を深めることなどない。それでも気になったのは、その人のネームだった。


 【――優恋(ゆうこ)


 チャットの左側には、必ずネームが表示される。

 

 ――え? 私と同じ名前の人だ。


 自分の名前が珍しいから、とかではなくて同じ名前というだけで興味が沸くもの。何だか凄く気になった。


 ……ちょっと緊張するけど、

 この人とお話してみたいカモ?

 チャットに表示されたネームの部分を、ポチッとすれば……


 ダイレクトメールに。このゲームでは『ささやき』というのだけれど、要は個別チャット機能。初めてささやくこともあり、緊張感も急上昇だった。


《――優恋さん。僕とパーティーを組んでもらえませんか? 回復役が欲しくて》 


 なんて心にもないことを送信してみる。

 その返信は、それほど待たずして返ってきた。


《――もちろん、いいですよ。こちらからも、是非お願いします》


 この返信を確認したとき、嬉しかったな。

 初めて誘った人だったから、断られたら二度と誘わなかったかも。


 私は急いで待ち合わせ場所へ向かい、優恋と合流。

 確かに強くはない人だけれど、面白い人だなと思った。


「ヴェリテさんって、回復する必要性を感じないんですけど?」

「そうかな? 僕は助かってるよ」

「強すぎますって! いつから始めたんですか?」

「一年ほど前だったかな?」

「……同じなんですね。なんでここまで差がつくのか……役立たずでごめんなさい」


 一年前とは、このゲームがオープンした時。

 つまりは、それ以上の人はいないのだけれど……強さなんてものは、他の人に求めたこともなかったから、気にする意図は良く分からない。それでも、頼ってくれている感じがひしひしと伝わってきて、心が満たされてゆくのを実感できた。


 ――それともう一つ。

 

「このゲームって、面白いね」


 適当な話題で、私から話しかけてみた。


「はい。じつは友達も誘ったけど、あっさり断られちゃいました。面白いのにな」

「そうなんだね」

「もともとゲームとか興味なさそうでしたので、仕方がないのかなと」


 優恋女性アバターを使用しているけれど、間違いなく男性だろう。

 なんていうか、顔文字とか使わないし言動も私の良く知る男性に近しい。敬語であることを除けば……


 チャットでの会話はなんとなく弾むのに、私のリアルを一切聞いてこない。

 それどころか嫌だなと思うような会話はなく、話し易いとまで。

 

「なんでヒーラーさんなの?」


 こんなことまで聞いてみたりして。

 思わず「ヒーラー”さん”」とか言ってしまったけれど、この時は『さん』を付けるものだと思っていたから。そこに優恋はそこに触れてもこないし……まあ、通じたようだった。

 基本的に回復役はパーティーを組まないと大変な職業。とくに強くもないから、自ら仲間を探さないとならない。もともと文字を打つだけでも大変だったこともあり、自分にはあり得ない職業だと気になった。


 そんな職業を選べるひとは、きっとコミュニケーション能力が高いのだろうとか、勝手に思い込んだりもしている。


 けれど、その答えは結構曖昧で……


「なんとなく……ですね」


 こう、送信されてきた。

 この時、リアルで貴男の顔が浮かんできたことを覚えている。


 ――やっぱり、この人”貴男”に似てる。


 このゲームを始めたきっかけ。

 それは学校で貴男が読んでいた一冊の本からだった。


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