「あなた」と呼ぶ理由
なぜ私なのか、最初はわからなかった。
……いいえ、そうではなくてまたこの人も同じなのか、と。
容姿は母親譲り。そのお蔭で周りからちやほやされることは多いけれど、それは異性からの話。
同性からは……
「少し見た目がいいからって調子のりすぎ」
「またフッたらしいよ、あのコ。何もなかったように涼しい顔してさあ……本当に性格悪いよね」
「女友達と遊んでいるところって見たことないよね。きっと男以外に興味ないんだろうね」
視線を感じる度に、いつもこんな耳を塞ぎたくなるような会話ばかり。これが妬みなどかは別として、いつの間にか友達は作らないようになってしまった。
中学生となった頃から『好きな男の子に色目を使った』と言われたり。
他には『優恋といると男を取られる』などなど……友達を作らない、というよりも周りから遠ざかっていったようにも思える。
勿論、そんなつもりは毛頭ないのだけれど、周りにとってはそうとしか見えないのだと思う。
なぜなら……
異性と目を合わせるだけで『色目』となってしまう。
わざと視線を逸らせば『恥ずかしがり屋』などと思われたり。
なにをしようと異性にとっては都合が良く、同性にとっては都合が悪くなることが多い。だからこそ、友達を作るのが面倒くさいとの考えに。口数を少なくして、自分から話しかけることもやめた。
そんな日常を選んだ性格を”悪い”という人たちに「その通り」と答えるほうが適切だろう。本人でさえも、前向きになれないところが大嫌いなのだから……
異性から告白されることが”たまに”ある。これが多いのか、少ないのか、なんて告られ平均数を知らないのだから「たまにある」としか言えない。その告白に一度も頷いたことはない、というよりも理由があるから。
理由は単純。みんな見た目だけにしか興味がないみたい。
……とはいえ、他人との会話すら避けているのだから当然とも言える。
会話もしてないのに「他に良いところはないの?」と聞くのは可笑しいだろう。
そんななか、貴男だけは違うと思っていた。その人はクラスメートで、小学生の頃から五年間も同じ教室で勉学に励む仲間。
中学三年生の卒業式……
「ゆ、優恋さん。俺と友達になって下さい!」
……と、もう何年も同じクラスメートだったのに、今さら友達申請。それも”下の名”で呼ばれるほど、何度も会話をしている。凄く不思議な気分だったけど、なんだか嬉しかったな――けれども、それから何か変わったところもなくて、何のために友達を申し出たのかもよく分からない。
あ、変わったといえば、ちょくちょく話しかけてくるようになったかも?
会話は以前より多くなったような気がする。それはとくに二人で話すとかではなくて、朝に目が合えば「おはよう」と交わし、下校なら「またね」とか……休みの日に会えば「こんにちは」とか、そういう感じ。
今までは用事がある時にしか会話しなかったけれど、その挨拶が増えたということ。
それが心地良い。この行為が至って普通なのは分かっているつもり。
……それでも、普通に接してくれることが只々嬉しかった。
私は彼のことを「貴男」と呼ぶ。
何だか照れくさいと言うか、名前で呼んだことはない。この呼び方は他人行儀なように見えて、友達にしか言えないものだと思う。男性なら「おまえ」なのだから、結構な仲じゃないと呼べないと勝手に決めている。その「あなた」とは、先輩や、又は仲が良くないと呼べない言い方と思っているからこそ、私はそう呼ぶ。
これは貴男に対しての敬意。普通の仲ならば「君」や「○○さん」だろう。
それが社交辞令というもの。もし仲が悪いのなら「あんた」になっているだろうと決めつけるのは自分の考えであり、貴男がどう思っているのかは別のこと。
きっと「あなた」と「あんた」には然程変わりはないだろうけれど、貴男と呼んでいるのは彼だけ。他は「○○さん」と呼ぶ。私にとって、こんな”しがない”ところが特別だった。
あの日……
そう、あの日に貴男が学校の屋上で告白してくるまでは――
短編にする予定ではありましたが、短編としては長文となりそうなので連載としました。
下方のリンクから、”謎”の主人公編をお読み頂けたら幸いです。