ごにんのまおう
ある日、ある場所、ある集団、とんがり頭のフードを被った黒服の集団はとても悪いことしています。彼らは魔王をこの世に呼び出そうとしているのです。しかも、ただの魔王ではありません。大魔王です。大がついているからただの魔王より強くて悪いまさに大魔王です。
大魔王を呼ぶためには沢山の準備があります。沢山の生け贄がいります。長い、ながーい呪文を間違えないで読まなくてはなりません。丸やら三角やら四角などの形を組み合わせた魔方陣もいります。そういった準備を全て整えても、日の巡りや呼び出し後の問答など気を付けることは多々あります。
しかし、そんな苦労の果てに遂に大魔王が姿を現しました。凄い、完璧に魔力を抑えてただのパンピーのようだ。見慣れない服装に、聞きなれない言葉を発する黒がみ、黒目の大魔王様は、えらく弱そうですが大丈夫!何せ大魔王なのですから!
ところ変わって、ある港町。朝早くから、漁に行った漁師たちが沢山の海猫と一緒に戻ってきます。今日も大漁だったようですが、いつもより、少し早いお帰りです。
「大変だ!魔物が攻めてくる」
港に戻った漁師のおじさんは開口一番に叫びます。港にどんどんと船が着き他の漁師も口々に叫びます。
「魔物の総攻撃だ!」「俺は魔王だと言ってたぞ!」「魔王が来るぞ!」「町の者に伝えないと」「あぁ、」
その時、大きな水柱が立った。まだ、港に着いていない船が沈む。
「我は蘇りし魔王である。」ざわめく人々に、一言宣言される。海面に一人だけでたつ異形な存在を誰もが知った瞬間である。
大漁の報告を待っていた港の人は大慌て、すぐに領主に伝わり、王都に敵襲の意味のある色を狼煙で上げて使者を走らせます。
使者は丸一日馬を走らせて、翌朝、日の出頃に王都につきました。馬は倒れ込み、使者も息を切らせながら王城の衛士に取り次ぎを頼みます。
すぐに、門を通されて騎士団の宿舎に案内されて、服装を整えてもらいます。いくら、急を急ぐ案件でも王城の中を進むならTPOに合わせないといけません。バッチリ決めて王城の2階に案内されて、少し待っているように言われます。
待つこと数分後、扉が開いて先ほど自分を案内してくれた騎士と自分と同じような格好の男が入って来ました。使者はすぐに膝をついて挨拶しようとすると、入ってきた男も同じように膝をつきました。
はて?と間抜けな時間が流れると、騎士が後から入ってきた男にも待つように伝えます。どうやら、同じく急な使いの者だったようです。
立ち上がり、膝を少しはらって挨拶をしようとすると、また、扉が開きます。二人揃って膝をつくと騎士の隣にたつ浅黒い肌の男はギョッとして固まり、隣の騎士が同じく待つように伝えます。
これは一体、どういうことでしょうか?
王様への火急の件を伝える使者が一挙に3人も集まりました。なにか大変なことが起きているかもしれない。恐る恐る何があったか話を聞こうとすると、また、扉が開きます。案内人の騎士よりも立派な鎧を着た騎士が自分たちについてくるように言います。
使者たちは、その言葉に従い、互いのことを話す前に謁見の間に案内されます。
謁見の間には既に近衛の騎士が控えており、その間を立派な鎧の騎士と歩きます。玉座の前で膝をつくと、自分たちが入ってきた方角と逆の扉がゆっくりと開けられます。すぐに、頭を伏せろと言われて、充分な時間が流れるのを待ちます。
王は、既に耳にしていたが、改めて使者の者たちを目にして、差し迫る危機に暗嘆たる気持ちを抱いたが、使者の前に立つといつもの威厳ある顔をつくりあげる。
「早馬につき、略式にて面を」と後ろに控えた近習がいうと、使者たちは頭を上げる。初めて王様の顔を拝謁したという栄誉に飲まれず、自分には伝えなくてはならない使命があるという責任感からか臆することなく要件を口に出してきた。
「「「魔物が侵略を始めました!」」」
3人は同時に口にした。続けて使者はどこから魔物が現れたのか口にする。
「東の港町に」「北の砦に」「南の聖地に」
「「「至急、援軍をお願いします。」」」
大問題だ。王国の危機だ。王は報告を聞きながら、いかに対応すべきか頭を巡らせる。
本来、領地を守るのは領主の務めだが、限界がある。いざというときの保護を求めて、王国に下る領主もいる。税を納める以上は、攻め込まれるさいには援軍を送らなくてはならない。いざというときに手を貸さない王様に忠誠を示さなくなる。
さて、この場合、問題はどこから手をつけるか?という事だ。王国の規模からすれば、兵を集えば3万の兵を集められるが、準備するのはどれ程急いでも、3ヶ月はかかる。至急の援軍を要請された以上は、現状は常設の騎士団から送ることになるが、騎士団は精々1,500人程度しかいない。しかも、国境を空にも出来ない以上、実際に動かせるのは王都の警備や練兵中の者など集めて500程度となる。さて500を3つに分けて送るべきであろうか?答えとしては、沈黙が正解だろう。兵法の常道に当てはめても、兵力の分散は下の下、本当の魔王ならば、500の騎士ですら無力なものなのに、それより少数ではただの犬死にしかならない。しかし、援軍の要請に答えなければ、各地の領主にも不安が広がり、王国の屋台骨が揺らぐ事になる。
さて、困ったと王様が考え込む間に後ろに控えた官吏が慌てだし、近習が深刻な声音で耳打ちする。
「西の大国より、魔物の侵略を受けたとの一報が入りました。」
同盟国の危機まで、対応しなくてはならない。王は頭を抱えたくなったが、気を取り直して考える。これで西方の兵は抜けなくなった。最悪は、練兵中の兵も出せない。いっそ、焦土戦略を考えたが、平坦であまり広くない国土では難しいし、その後を考えれば選択したくはない道だ。どうしたものか。
王が先を考えて、苦悩する姿を見て溜飲下げている男がいた。彼は大魔王を呼び出した黒の集団のメンバーである。
彼ら黒の集団は歓喜していた。
自分たちがあれほど苦労し時間をかけて呼び出した大魔王はやはり凄い存在なのだと!
魔王と名乗るほどの強者たちを操る大魔王は凄いのだと!
そんな存在を呼び出した我らも凄いのだと!
一方、四方から攻めてくる魔物を操る五人目の魔王だと思われる、大魔王は早くここから逃げ出したかった。
彼は大魔王ではなくただの一般人であり、魔王と誤認されているだけなのだ。
これは、五人目の魔王と誤認された不幸な男の物語。