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幻影の花嫁

ハツガは故郷を幼馴染サクラと旅立ち、学校がある町シュレ・アルクスを目指す。

~どこかの荒野~


 いつもは礼儀正しく、おしとやかに振る舞っているサクラが、大きな植物の葉を日傘の様にして、嬉しそうにはしゃいでいる。


「わぁ!めずらしい!あの黄色い花なんて名前だったっけ。荒野に咲くあれ、あー、名前思い出せない!ハツガ知ってる?」


 知らん。


「ああー!ヒトカゲサボテン!可愛いなぁ。ねぇねぇ!あれって少ない魔力ですごい長く動かせるんですよ!魔力のお礼みたいな感じで、意志を持ってるみたいに守ってくれるんです。だから村へ来る時、荒野では連れてたんだけど、後で別れちゃって……元気かなぁ」



 可愛い?何か腕組んで、かっこつけて壁にもたれてる様な姿勢のサボテンならいるけど……ああ、四肢に見えるから確かに人っぽい。

 サボテンのくせに足長くて、スタイルいいなオイ。

 連れてたって歩かせられるのか、あれ。




 村を出て、森を抜ければ緑がどんどん減り、荒野の様な場所を歩いている。

 それでもサクラは、植物を見つける度に、はしゃいで俺にいろいろ説明してくれていた。

 正直飽きてきて、食えるかどうかだけ、頭に入れている。

 ふと、綺麗な赤い花が落ちているのを見つけた。

 渡せば喜ぶか?キリッとした顔を作り、



「サクラ、俺……実はお前の事……」


「それ動かすと臭いがひどくなりますよ。何に使うか知らないけど、慎重に使ってくださいね」


「はい、すいません」



 おおう、冗談一つ相手にしてくれず厳しい。

 ポイと捨てたらその辺にいた虫の上に落ち、そいつは動かなくなった。

 虫よけにでも使えるのかね。

 臭いもきついからすぐ離れる事にした。

 

 荒野を歩き始めて、最初の頃は一緒にはしゃいでいたがそろそろ人に会いたいものだ。

 俺達の属性的に、この環境は辛いものではないが、不安にはなる。



「道は合ってるんだよな?」


「大丈夫です、適当な誰かさんと違って確認は怠ってませんから。あと、半分ぐらいですよ」



 そうですかい。

 まだ半分か、せっかくの外の世界なんだから、気合入れて気持ちを切り替えよう。

 見渡す限り、岩!砂!わずかな植物!動く生き物なんて虫ぐらいしか見当たらないが、……ひどい殺気だ(・・・・・)

 

 ちょっと前から急に感じる様になった。

 何かの縄張りに入ったか、それとも狙われている何かを見落として、巻き込まれているのか。

 慎重になって周りへの警戒を強めていると、遠くから二足歩行の何かが砂埃を上げながらすごい勢いで走って来ている。

 走るフォームが美しい。



「なに!?サクラ構えろ!何か来る!」


「え?ああー!エチュード君!」



 は?知り合い?緑色で棘をまとったそいつは、近くに来るとサクラに向かってキザにお辞儀をし、俺と握手しようと右手を差し出してきた。

 礼儀正しいそいつに応えないわけもいかず、右手を握る。


 棘が痛えよ(たわ)け。



「サボテンじゃねーか!」


「ヒトカゲサボテン!まだ魔力残ってたんだね!補充してあげるから一緒に行きましょう」



 エチュード君とやらは頷き、片膝をつく。

 なんだこいつ、騎士か?魔物やモンスターではなくサクラの魔力で動いているただの植物らしいが自我持ちすぎだろ、あと何でそんなにかっこつけてんだよ。


「けっこう強いんですよ、この子」


 サボテンは俺に向かって腕をグッと曲げ、「お互い、頑張りましょう」と言いたげ(口はない)に見つめてくる(目もない)。

 やめろ。


 

 ただ、もちろん殺気はこいつではない。

 少し移動すると違和感がひどい。

 魔法を切り裂く槍も何か反応しているが、無闇に振るっていいのだろうか。

 サクラも黙り込んで周りを見渡している。



 

 

 時間が流れる。

 風がうるさい。

 砂が舞い、枯れ草が吹き飛ぶ。

 もう少しで何かが掴めそうな気がする。




 ……何か動いた!遠くの岩陰か?魔物?死霊犬か?相手の数と狙いが分からないが、どうする?

 

 突っ込むから援護を頼もうと後ろに振り向くと、サクラが何かに腕を引っ張られ、徐々に消えていっていた。


「ハツガ!」


 伸ばすもう片方の手を掴む。

 引っ張られ、数歩分移動しただけだと思ったが、壁を突き破る感覚と共に、そこに村が現れた。




「すまん!大丈夫かサクラ!」


「大丈夫、腕を引かれただけだから。ありがと」



 それにしてもここは村か?故郷のアパルヴェルガより規模が小さい。

 本当に家が数件あるだけだ。

 サクラが戸惑いながら口を開く。


「嘘、空属性?幻影の魔法?こんな家を何件も丸ごと隠すなんて」


「師匠……ヴェルガ様の加護みたいだな」


 確かにと、頷くサクラの腕を引っ張ったであろう女性が、すがり付く様にしながら声を絞り出して、


「本当にすみませんサクラ様。不躾なお願いですが、どうか食べ物を、村の人々にどうか・・・」


「え?え?え?」



 知り合いか?と尋ねてもサクラは混乱しながら首を横に振る。


「サクラ、その人を頼む。俺は家を周ってみる」


「分かりました、この人が落ち着いたら左回りに家を周りますから、ハツガさんは右回りでお願いします。」



 さっきまで慌てていたが、真剣な状態に切り替えたサクラと視線を交わし、頷き走り出す。

 何件か周り分かった事は、みんな食べ物を求めてる、食糧庫が壊され備蓄が尽き、畑が荒らされており家畜もいない。

 幻影の発生源は魔力的に、一つの墓からと思われる。

 魔物と思われる獣らしき足跡はある。

 だが、戦ったり争った形跡はない、つまり一方的にやられたのか?だけど人は傷ついている様子もない。

 何だこの、魔物による襲撃と兵糧攻めが同時に行われている状態は。

 食べ物を与えるのは、サクラに治療してもらってからだな・・・クソッ俺も水属性、治療魔法が使えれば。



「とりあえずみなさん命は大丈夫でしょう。ただ、食糧が……」



 二人分の旅の食糧では十人以上いる現状を打破できなさそうだ。

 サクラにも疲労が見られる。

 魔力を使いすぎているな。

 

 最初にサクラを掴んできた人、本来は大人の美人といった感じなのだろうが、疲労と空腹により、疲れ切った様子の女性が声を掛けてきた。

 一応村長で名前はカリマさんらしい。



「お二人とも村の皆が危ないところを本当にありがとうございました」


「いえ、それよりこの村に何があったか、聞いてもよろしいでしょうか?」


 サクラの問いかけに、頷きこちらへと一件の家に案内してくれたので、中に入る。

 初めて入る家だな。


 

 奥の部屋に連れて行かれると、そこには銀髪の女性がいた。

 机やベットのある普通の部屋の様だが鏡が割れている。

 彼女は元々、細かったであろうがその上に、食事ができていない分、痩せてしまっている感じに見える。

 綺麗な衣装を身をまとい、化粧もしているのか?こんな状況で。

 そしてオッドアイ。

 左目は空の様な青色、右目は雲の様な灰色の瞳。

 その目は、真っ直ぐな眼差しをサクラに、そして俺を見ると驚いた表情を見せる。


「何?あんた、幻影の魔法が得意なの?」


 何なんだいきなり、弱ってはいるが性格はきつそうだ。

 二人で困惑した表情を浮かべていると、カリマさんが助け舟を出してくれた。



「ちょっとちょっと、レシア、あなたの事を説明しないと何も分からないでしょ。それに二人はみんなを助けてくれたのよ。娘が失礼しました」



 頭を下げるカリマさんを気にせず、「お母さん、サクラは命の恩人だけど、分からないのはこいつよ」と指をさされる。

まぁまぁとサクラが割って入り切り出す。


「まだ名乗っていませんでしたけど、私がサクラで彼がハツガといいます。あの、レシアさんどうして私の名前を?」



「この瞬間の母の記憶を見たからよ。私、相手の目を見るとその人の過去と未来の記憶が見えるのよ」




 説明では片目で能力と使いつつ、右目の灰色の瞳で見れば過去、左目の青色の瞳で見れば未来が見えるらしい。

 流石に魔力の消費はひどい上に、記憶全部や好きなところを見られるほど便利でもないらしい。

 何日か前に今日、村の近くを通るサクラという旅人が食べ物を分けてくれると母に教え、今に至る。

 え?説明終わり?



「待て待て待て、この村が外から見えない理由は?どうして村は食糧を奪われていて、みんな弱っているのに人は襲われていない?」



 母娘二人は視線を交わし、レシアが首を横に振ると、カリマさんが話し始めた。



「村が見えないのは、夫が作った幻影による防衛魔法です。ただ、調子の悪い日の夜中に、魔物が来てしまったんです。皆は家の中いたので無事だったのですが、食糧がやられてしまって。家の中に残った食べ物で助け合ってきたのですが、それも尽きてしまい、サクラさんと頼らせてもらいました。巻き込んで本当にすみません」


 

 筋は通っているのか?だが、あんなに村を完璧に隠していた幻影に調子の悪い日があって、魔物は侵入したが人は襲わないだと。サクラも納得してなさそうだったが、


「今後の食糧に当てはあるんでしょうか?」


「私の婚約者が持って来てくれるわ、結婚式の日に。私はその日にこの村から出て、相手と結婚式場に行くけど……そうね、二人はその時に食糧を好きなだけ補給して旅に戻る、そんな感じで問題ないかしら?」



 レシアが何でもなさそうに、言い放った。

 婚約者?結婚式?こんな状況でそんな言葉を聞くとは思わなかった。

 この村への険しい道を、計画通りに来られるものでもない。

 だから、そろそろだと思うがいつ来るかはわからない。

 「あぁ、それで、準備して待っているのですね」とサクラが呟く。


「ええ、待たせちゃ悪いもの」



 急に家のドアを叩く音と叫ぶ声が聞こえた。


「すまん!カリマさん!治療の魔法が使えるお嬢さんはいないか?うちの子を診てもらいたいんだが!」


 話が中途半端な状況だったがサクラは迷わず、


「今向かいます!」


 と、返しカリマさんも一緒に出て行った。

 急に調子が悪そうになってと説明する声が外から聞こえる中、俺とレシアだけが部屋に残される。



「まぁ、大体そんな感じだから、あなたもそろそろ出て行ってもらっていいかしら?一応、女性の部屋ですから」



 邪見に扱われるが、俺の推測だとたぶん彼女の境遇に比べれば些細な事だろう。

 本当のことを引っ張り出すには、賭けだが核心に迫るしかないか。

 上手な喋りで聞き出すなんてできる気がしないからな。



「一ついいか?」


「何よ。」




「そんなに悲惨な未来の自分を見たのか?」




レシア

・銀髪、細見の女の子

・オッドアイでそれぞれ人の異なる時間の記憶を見られる

・右、灰色で過去

・左、青色で未来

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