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サプライズ帰郷

五年の修業の月日を経て、ハツガは故郷でドラゴンと激突する。

最少の用意で。

~地上・女神の樹周辺~



 崩れ落ちるドラゴンを眺めながら、大きく息を吐く。

 なるほど、女神の樹恐るべしってやつだな。

 気力、筋力、魔力どれも充実してる。

 こいつの顔を弾き飛ばせるとは、俺も修業頑張ったんだんだなー、って言ってる場合でもないな。

 誰か樹の方にいたはず。



「大丈夫かー!」



 生きているとは思うが、避難させた方がいいだろう。

 そう思い、人へ向かって駆け出す。


 「いやああああああああああ!」


 悲鳴!ドラゴンがもう起き上がったのか!?と振り向く……が、まだのびている。

 なんだ?と思って樹にもたれている女性に近付き、確認すると顔を手で覆っている。



「大丈夫だ、あの化け物は気絶している。今のうちに避難するぞ。怪我をしている様だが、立てるか?」


「あ、はい。危ないところをありがとうございました。あの、その……」


 雰囲気的に綺麗な女性だが、こちらを見てくれない。

 まぁ、土の中から知らない人出てきたら、不信感持つよな。

 と、彼女が遠慮がちに俺を指さしているのに気が付く。


 女神様、最小の用意とか言って最後の方急いでたからなぁ。

 俺の体がおかしいのか?と腕や手を確認するために視線を落とす。

 すると、解放感溢れに溢れている体、特に自分の下半身が目に入る。

 全裸だ。



「最少の用意すぎるわ!」



 と女神の樹をはたくと、応えたかの様に、動きやすそうな黒色の服が構成される。

 ああ、槍も届いてない事も考えると、タイムラグがあるのか。

 さて、これでよし。

 彼女の避難と、やつの処理を急ぐか。

 立てますか?と手を差し出す。

 ええ、と怪我をしてるが白く美しい手を取り、立ち上がった彼女の緑色の瞳と目が合う。




「え?」

「え?」




 二人の声が重なる。

 美人に目を奪われ固まってしまったが、少し大人っぽくそして美しくなったサクラであると今更気づく。

 白い上衣に黒い帯、黒い袴の女性。

 弓が使いやすい着物とかいったか、それを彼女が動きやすい様にアレンジを多少加えた服装。

 馬鹿か俺は、偶然居合わせた人なわけはなく、この事態に立ち向かっているのは、戦えるサクラに決まってる。

 ……復活に浮かれすぎていたか。

 一方サクラは、死人でも見たかのように顔が真っ青になっていた。

 いや死人が元気な姿を見たから、当然の反応か。



「後で説明するから、今は村へ戻って、ここには人が来ない様に指示を出しといてくれないか?」


「嘘、ハツガ?」


「そうだ。っと悪いがそこで隠れていてくれ。時間切れだ」



 ドラゴンが呻く気配を感じ、急いで踵を返す。

 負ける気はしなかった。

 サクラを守るという決意と、体に馴染む地属性の魔力が溢れているこの場所だと。

 地面の土は、手足の様に使えそうだ。

 

 相手は立ち上がり、最初に拘束した右側の前足を引き抜こうとしていたが、その足に四方から生成した土の槍を飛ばす。

 突き刺さり悲鳴か咆哮か分からないが大声が上がる。

 ……効いているといいんだが。

 休みなく土の槍を放つ。

 拘束している足にはそれなりに刺さるが、翼や胴体を狙った物は寸前で見えない壁があるかの様に弾かれる。

 顔への攻撃必死に避けている感じか。

 攻撃を続けながら分析を進めていると、後ろからこっちへ呼びかけるサクラの声が聞こえる。



「ドラゴン本来の魔法耐性で弾かれてます!弱っている部分や、一点に大きな攻撃をしたほうがよろしいかと!」



 まぁ、そうなるよな。

 連続撃ちはかませ、好きなんだけど。

 あの足では速く走れないだろうし、頭は警戒されてる、移動されるとやっかい・・・狙いは翼で良いだろう。

 土の槍二本持ち、足元を勢いよく柱状に隆起させ、反動を利用し、ヤツの頭上を越える様に飛ぶ!

 牙で噛みつき、迎え撃とうと首が伸ばされてくる……どの属性持っているのかは知らないがブレス吐かないのか。

 ポイと軽く一本の槍を開いている片目の近くに投げ、砂に戻し炸裂させる!

 簡単な目くらましだがこれで十分、首が引いた隙に、翼の根本めがけ槍を突き刺す!

 降下する勢いもあり、



「ガアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」



 今度は間違いなく悲鳴を耳にする。

 効果があった事に安堵する。

 片方の翼を必死に動かし、死にもの狂いで暴れ始め俺は背中から弾かれてしまう。

 敵は暴れ続けた拍子に足の拘束から外れて、大きく後ろに飛び退く。

 足の一本と片方の翼へダメージが蓄積し、弱ってはいるはず。

 だが、なぜか相手をしている俺でもなく、村の方に逃げるでもなく、女神の樹の方へ命を削って走り出す。

 理由は分からないが樹を狙うなら一刻も早く止めを刺す。

 アレ(・・)も届いたみたいだからな。



「女神の樹を食べるつもりだと思います!おそらくあれほどの魔力なら、魔物は傷が癒えるはず!本能的に分かっているのでしょう!」



 サクラの叫びで納得し、走り出す。

 ドラゴンは、俺の魔法で土が掘り返され、浮き出た根っこに狙いを定め、食いつこうとする。

 だが、うねる様に動いた根っこはドラゴンへ絡みつき、逆に動きを封じる!

 信じられない光景に、驚き、声が漏れる。



「なに!?」


「固定したよ!ハツガ一発お願い!」



 さっきまでの丁寧口調じゃなく懐かしい感じの指示を聞きながら、地中から妖槍マキリを引っ張り出す。

 こいつなら!サクラの力と女神の樹のおかげでヤツは身動きが取れない。

 暴れているが、隙だらけで側面から狙える。

 思いっ切り跳躍し、反動勢い速さ全てを込めた投擲!狙いはヤツの心臓(いのち)



「貫けえええええええ!!!!」



 赤い閃光は一直線に走り、先程まで土の槍を弾いていた見えない壁を打消し胸元に突き刺さる。


「ググオオオ!!!ガハッ!!!」



 大きなダメージに怯みはしたが、倒れはせず俺の方を向き怒りの形相で睨む。

 なんという生命力。

 ならば、止めだ。

 根っこを引きちぎり、牙と爪による攻撃を繰り出すが、悪あがきだ。

 素早くかわし、一気に距離を詰め、右手の肘までを土で覆う。



土の籠手(ソル・ガントレット)!」



 槍の底に土の拳を叩き込む!

 今度こそ貫通し、ドラゴンは血を流し再び倒れ、赤い槍は投げられた続きを再開する様に、一直線で森の中に消えていった。



「流石に即死だな」



 倒したドラゴンの生命活動の有無を確認しながら、呟く。

 そうだ、サクラ!敵の横を通りすぎ、彼女のいる場所へ向かう。

 顔がさっきとは別の理由で青白く、ひどく消耗している。

 何か言いたそうに緑色の瞳がこちらを見つめるが、有無を言わさず背負う。



「ちょ、ちょっと恥ずかしいって」


「言ってる場合か、家の場所は変わってないよな?どう言われようが送るぞ」


「うん」


 昔もこんな感じでおぶった事あったかもなぁ。

 いつだったか。

 ああ……もう子供じゃないから女性らしく扱えばいいわけか、はいはい。


「お姫様だっこが良かったとか?」


「ち、ちが!もう、バカ」



 彼女が普通に話してくれて嬉しかった。

 もっと話したい事は山ほどあったが、疲労しきってるこの状態で付き合わせるのは、よろしくない。



「もう休んで大丈夫だから。俺に任せろって」


「うん、村を守ってくれてありがとね。……背中は大きくなったけど、あなたは変わらないね」


 と言って彼女は静かに寝息を立てはじめた。

 照れくさくて何も言わなかった。

 だが、それも丁度良いか……言葉にできない嬉しさなのだから。




 しばらく自分の微妙な記憶を当てに、森林の中を特有の涼しさと背中の彼女の体温を感じつつ、落ちている枝を踏み鳴らしながら歩き続けると、懐かしい村が見え始めてきた。

 大勢の人が表に出ているが、家の中に避難してなかったのか?

 聞こえる声からするに、揉め事と推測される。


 このままサクラを一人で戦わせられない!

 私達が行っても邪魔になるだけだ!

 

 と、大まかな意見としては、二つ。

 無謀な援護か冷酷な避難か。

 誰が何を言っているか分からないくらい騒がしい。

 必死なのは伝わってくるが、これでは意見はまとまらないだろう。

 先生もダンさんも厳しい表情を見せている。

 難しい立場故に、動くに動けないだろう。

 俺としては、サクラを休ませたい。



「先生!サクラが消耗している!休む場所をお願いします!」





 あれだけの騒ぎが一瞬で消え去った。

 ミスだったか?

 冷や汗が出る。

 誰も何も言わない。

 沈黙が続く。

 現状を把握できず固まっている人、意味が分からなくて怯えている人、狼狽えている人。

 仕方ないこっちから話を進めよう。

 一番冷静に判断してくれる人は、やはりあの人だと思われる。



「先生!とにかくサクラを!」


「あ、ああ。家を使ってくれ。娘をありがとう」



 とりあえず許可が出たから、移動しよう。

 話は後だ。

 人ごみの横を通り抜けようと近づくと、ざわめきが大きくなる。

 

 本当なのか?


 信じられない。


 何なんだあいつ。


 分からない。

 

 そんな言葉が聞こえてくるが、不信がるのは当然か……死人が歩いてるのだからな。

 気にせず歩いてると、一人の少年が目の前に立って叫ぶ。

 誰だったかこいつ。



「おい!お前!ドラゴンはどうなったんだよ!」



 再び静寂に包まれる。

 そもそも自分達が揉めていた元凶はそれだ、と思い出したかの様に、全員俺の言葉を待つ。


「止めを刺した。前の時みたいに追い払うだけだと、今回みたいな事が起こるからな」



 悔しそうに泣きそうな顔で俺をにらみつけた後、突っかかってきた少年はどこかへ行った。

 

 やっぱり、まさか、本当なのか?

 

 ドラゴンを倒すだと?

 

 いろいろなざわめきが戻ってくるが、もう先生やサクラの家だ。

 先生も慌てて後から来ている。

 ドアに手を掛けようとした……がその時、先に開いた。




「あら、ハツガちゃんじゃない。おかえり」




 不意打ちだった。

 不気味がられるのは、分かっていた。

 本物か不信がられると思っていた。

 説明すれば理解はともかく、分かってくれる人はいると期待はしていた。


 だが、普通に(・・・)出迎えてくれる事は予想外すぎた。

 涙が目に浮かぶ。



「ただいま、ヒサギさん」



 昔と変わらないこの人の笑顔のおかげで、俺は還って来たことを実感した。

 戻ってきたのか、故郷アパルヴェルガに。この世界に。

眠くはないが朝が辛い


クローブ先生

・サクラの父

・医師、水属性による治療ができる


ダンさん

・近所のおじさん

・背も高くがたいもいい


ヒサギさん

・サクラの祖母

・優しい

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