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発芽

ハツガの故郷「アパルヴェルガ」の現在

~アパルヴェルガ・視点サクラ~


 サクラは射た死霊犬の消滅を確認しながら、ふぅと息を吐く。

 あれは、魔力がないとほとんど攻撃が通じなかったはず、私が村に帰ってきている時で良かった。

 しかし、魔物が迷い込むっていったい・・・。

 私の側では、二人の男性がこの事態について話合っている。



「先生、こいつについてどう思います?魔物が村に現れたのは、五年前のドラゴンの襲撃以来ですかねぇ」

 

 と、背の高いがたいのいいダンさんが。

 先生と呼ばれた白衣の男性、私の父・クローブは、


「やはり、女神の樹による加護、結界が不安定になっているのか?いや、そこまではおかしな状態の魔力はない。これは、ただの偶然だと思われるが心配だな。サクラ、加護の境界線を見回っておこう。あとダン、村の人、特に子供、お年寄りは何日か家から出ない様に、伝えておいてくれ。念のためだがね」


 「ハイ」「おう!」とそれぞれ応える。

 ダンさんは、テキパキと近くにいた人達に指示を出し、家を訪ね始めていた。



「すまないね、サクラ。この村で戦える者は減ってしまったから、お前に頼ってしまう」


 「いえ」と返す。

 戦力か、あの日以来、この村は不安だ。

 もう終わりだと出て行った人もいれば、自分を鍛えると旅に出た人や仲間を増やすと言ってた人もいたかな。

 死んだ人も……。



「魔物一匹でこの不安だ、人とは弱い生き物だな。あの襲撃の後、スザク君が彼の学校の生徒と近辺の魔物をかなり狩ってくれて、今まで何もなかったが、女神の樹も限界なのだろうか。――大丈夫かい?」


「あ、はい。あれから五年なんですね」


 彼を思い出して、ついぼんやりしてしまった。

 村と私を守って消えてしまった人。

 炎の様に、赤く燃えた眼差しを持っていた彼。


「今回の里帰りは彼の命日だからだろう?見回りが終わったら、行ってあげなさい。女神の樹の前にあるお墓に」



 ……彼の死体は無くなっていたが残っていた血の量から、生きてるとは思えないと父は言っていた。

 ドラゴンのエサになったのだろうかと考えると、悔しさと怒りが込み上げてくる。

 私は目立たない場所で気を失ってしまったおかげで無事だったが、そのせいで彼が……、もっと早く今の様に魔法が使えていれば……と何回も考えてしまう。




 その日、一日かけて村の最も外側の、魔力のある人にしか分からない加護の境界線を見回ったが異常や綻びはなかった。

 「とりあえず今日は休もう」と言う父と共に、帰宅する。

 ヒサギおばあちゃんが、「おかえり」と迎えてくれたので、ただいまと返す。


「今日は大変だったねぇ、サクラちゃん」


「ふふ、大したことないから、おばあちゃんは心配しなくていいよ。それに、私強いからね」



 魔力とは関係ないが腕の筋肉を見せつけ、おどけて見せる。

 おばあちゃんが笑ってくれたのでこっちも嬉しくなる。


「まぁまぁ、いつの間にかそんなに頼りになる子になったんだねぇ。孫の成長は早いもんだねぇ。すーぐにお嫁さんに行ってしまいそうだよ」


 まだ、そんな心配しなくていいよと苦笑しながら、寝室に向かう祖母をおやすみと見送る。

 お墓へは、明日行こう。





 翌朝、家の外の出ると、村は静まり返っていた。

 父とダンさんの指示通り、皆、家の中に居るのだろう。

 もともと活気溢れるといった村ではなかったが、ここまで静かなのは、やはり寂しい。

 木の多い場所特有の涼しさを感じながら、村の奥にある女神の樹に辿り着く。

 

 樹の近くは広く(ひら)けた空間になっており、この辺に人は住んではいない。

 あとは樹の横に上部まで観察するための、簡単な昇降機がある。

 ただこれは、魔力で動くが操作の力加減が面倒で、力を誤ると、すごい勢いで上昇するため、基本使用は禁止されている。

 ん?今は誰かが使っているらしい。

 見張りにも使えるから、昨日の今日だ、高い場所から村の周りを見ているのだろう。

 

 そして、小さい祠と向かい合う。

 村を守った英雄として、ささやかにではあるが、彼は祀られている。




「久しぶりだね。あなたのおかげで私は今も元気だよ、いろいろあったからたくさん聞いてもらおうと思ってたけど、いざこうなると言葉って出てこないよね。えっと……」


 何から話そうか……ゆっくり考える。

 時間はたっぷりある。

 あ、後で祠の掃除もしておこう。



「スザクさんのいる町の学校に通って、魔法を学んでいるのは、前に話したっけ?いろんな強力な魔法を使う人に会えたけど、やっぱり私の植物を使う能力は、五属性に無いし特殊らしいよ。誰かが木属性とか言ってたけど、聞いたことないよね。あ、あとやっぱりドラゴンと一人で渡り合えるのはすごいらしいよ、ふふ、やっぱりあなたは自慢の……」



 ガガガガガガッとほとんど落下の様な勢いで、昇降機が下りてきた。

 一人の少年が飛び降りながら叫ぶ。


「やばい!たいへんだ!ってサクラさん!」


「バート君、どうしたんですか?そんなに慌てて」


 ダンさんの息子さん、バート君。

 私より年下の元気な男の子。

 作った人の後を勝手に継いで、この昇降機を改良しようと奮闘している。

 ああ、魔法が少し使える彼が上にいたのか、なるほど。



「やばい、やばいどうしようどうすれば……」


と頭を抱えパニックになり、事態を上手く伝えられなくなっている彼を落ち着かせる。


「落ち着いて、落ち着いて。とりあえず見たことをそのままでいいから、ゆっくりでいいから話せますか?」


「飛んでたんだ!で、初めはフラフラさまよってるのかと思ったけど、気味が悪いから望遠の魔法を使ってそいつを確認したんだ!しばらくは、変わらなかったけど急にこっちを向いて、目が合った(・・・・・)……気がする。そしたら、一直線に飛び始めた!こっちに!こっちに向かってるのかもしれない!」


「飛んでたものがこっちに向かっている?魔物ですか?」




「ああああ、ドラ、ああ、あいつ、片目のドラゴンが!」




 ハッとする。

 何かが向かってきている気配がある。

 もしこれがあのドラゴンなら……。

 息が荒くなるのを感じるが、落ち着け落ち着け。

 今の戦力は、武器が扱える人がダンさんと何人か、治療魔法は使えるのがお父さん、ダメだ!私がやるしかない。



「バート君は、ダンさんとお父さんにこの事を伝えてください。私が何とかしますから、誰も外には出るなとお願いします」


「え?無理だって!あんなの!それにサクラさんが戦うなら俺も!」


「ダメです。女神の樹があるここなら、勝算はありますから、私を信じて任せてください」




 勝算なんて……そんなもの全く分からないが、相手は待ってくれず気配が近づいている。

 この速さなら、いつ現れてもおかしくない。

 やはり狙いは、女神の樹か……ならばここで迎え撃とう。

 でも……、と言いよどむ彼の肩に手を置き目線を合わせる。

 お願いしますと、もう一度頼む。

 しぶしぶ頷いて走り出す。



 まずい!素早く弓矢を生成して、矢を五本空へ放つ。

 こっちに誘導しないと!

 私に気付いたか?

 一撃でやられるのは避けないと……上空の気配に集中する。





 ……まだ?



 ……まだ仕掛けてこないのか?







 どちらも動きが無く、時間だけが流れたその時、






「サクラさん!俺やっぱり!」


 と言って戻ってきた彼に気を奪われた瞬間、急降下してくる怪物が見えた。

 なんという圧力、風圧!周りの木の葉っぱは散り、枝は吹き飛ばされる。

 一瞬で周辺の環境が変わったかの様に思えた。

 圧倒的な暴力。




「うわあああああああああああ!」


 悲鳴が聞こえる、バート君を逃がさないと!

 彼を女神の樹の根っこを操り村の方へと放り投げ、木で受け止める。

 良かった……と一瞬気を逸らしたのが命取りだった。

 丸太の様な太さの、赤黒い尻尾が眼前に迫る。



「グッ!」


 防御魔法も簡単なものしか展開できず、弾き飛ばされ、女神の樹に叩きつけられる。

 まだ生きてる、なら戦わないと。

 

 ……腕が上がらない!急いで治療魔法を、急げ急げ!

 殺されてたまるか、故郷の村の人を失ってたまるか、家族を失ってたまるか!

 女神の樹に背中を預け、座り込む。

 眩暈がするが、生き物のくせに、無機質に前進だけを続けるドラゴンを睨む。

 小さな祠だけが、私と敵の間に存在する。

 あいつがそのまま進んでくるだけで、それを壊すことに気付いた。



「待って!」


 悲鳴の様に叫ぶ。

 やめろやめろやめろやめろやめろやめろ!

 お前が!

 よりにもよってお前が!



「それに触るな!」


 叫び声が気にいらなかったのだろうか、急に動物の様に重心を低くし、走りだそうと身構える。

 


 つまらなそうに女神の樹までの障害物であった祠を、長い首の先にある頭で吹き飛ばす。

 


 大切だろうが、簡単に壊されてしまう。

 やはり力の無い人という種族は、簡単には生きていけないのだろうか。

 この先は滅びか。

 


 ……でも、諦めたくない。

 彼の命の上に、私は生きている。

 簡単に投げ出せる訳がない。

 女神の樹で迎え撃つ!





 ヴェルガ様……私に力を貸してください。



 

 こっちの考えなどどうでもいい様に、ドラゴンは走り出そう地を蹴った。

 勢いよく一歩踏み出す。



 右の前足が、祠があったであろう場所を踏んだその瞬間!






「え?」







 地面が渦巻き、足を捕える。

 つまずきバランスを崩したドラゴンの顔が地面に近づく。



「久しぶりだな」



 そんな声が聞こえた気がした。

 地中から勢いよく現れた人影は、ポンポンとドラゴンの顔を親しげに叩いた。

 次の瞬間。



「迫撃掌底!」



 構えから素早く掌底一発!

 真下を向いていたドラゴンの顔が、長い首と共に半円を描き、グルンと空を指す。

 さっきまでの走り出そうという気配はなくダウンする。

 おそらく脳をやられたのだろう。

 こっちに気が付いた……たぶん年齢の近い男性が、走ってくる。

 大丈夫か!と聞こえるが



「いやあああああああああ!!!」



 全裸で走ってくる赤い瞳の男性には耐えられず、恥ずかしながら悲鳴を上げてしまった。

サクラ

・黒髪、長いまつ毛、緑色の瞳

・特殊な属性「木」で戦う

・治療魔法として水属性も使える

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