神罰
~ザストルの教会~
敵を吹き飛ばし、教会に飛び込んだ俺の目には、奥でボロボロで倒れている兄・スザク、眠っている攫われた仲間の女の子、ユメ。
そして、燕尾服を着た人の体に、黒い翼、首から上は黒い山羊……こいつはいったい。
山羊の顔はこちらをじっくり眺め、ニヤつくが視線が合うと、
「ガッ!」
痛みを感じたような声を上げ、右目を抑えている。
何かの加護か?それにしては、攻撃的すぎる、呪いの類か?と苛立ちを隠さず、言葉を発する。
俺に、吹き飛ばされ横たわっていた死霊人のジェロは、「よっと!」と大きな掛け声と共に、勢い良く立ち上がる。
「おおーっと!シュレ・アルクスの町、最高の戦力の一人と言われている、スザク・ロードナイトが倒れているぅ!人である彼では、階級の違う、悪魔の相手は荷が重かったかー!」
戦闘中から、真剣味の欠けた男だったが、ここでも変わらないらしい。
横にいるサクラは、俺の背後にそろりと移動し、姿勢を屈め、木製の床に手を付ける。
小声で、
「スザクさんの治療、できるか分からないけど、やってみる」
と、微かに聞こえたので頷く。
気を引くため、気になる言葉について話を続ける。
「悪魔だと?」
ジェロは白い歯を見せ、両手を突出し親指をグッと立て、
「その通りです!まず、生き物として、最低の階級の人では、上位の存在である死霊人に敵わない!ま、私のシナリオ上の敵キャラである君は、例外みたいですけど。そーして、我々死霊人でもその上の階級にいる上位の存在!神や悪魔には敵わないのです!世界に記録された摂理としては!」
敵わない?ふざけた事を、決めつけているのな。
話しつつ確認すると、サクラの治療魔法は、木製の床を伝導し、上手くいっている様だ。
ハイテンションなジェロの言葉は続く。
「悪魔様が召喚なされたのなら、私はもう、観戦者の一人になりましょう。そして、あなたの人生というシナリオのフィナーレ、楽しませてもらいますよ」
と、一気に言うと、跳躍一つで、悪魔と呼ばれる存在の後ろに控える。
「煩わしい男だ。召喚者でなければ、迷わず殺していた」
と、その悪魔は風でジェロを吹き飛ばし、壁に叩きつける。
そして、こちらに向き直り、
「私は悪魔バゴート。人は殲滅し、地上を支配することに決めたが、お前はどうする?」
人の殲滅……ならば、愚問だ。
「どんな手を使っても、お前を潰す」
言葉と同時に、刀を抜き、獣が獲物を狩るが如く、バゴートに斬りかかる。
悪魔はつまらなさそうに、右腕を横に振り、刀を弾く。
「なッ!!!」
今まで、人狼を撃破し、不死の死霊人を消滅させてきた一振りは、一発の攻撃で、真っ二つに折られてしまう。
追撃の風の刃は、今まで見た風属性の魔法、どれよりも規模が大きく、腕を、足を、胴体を無慈悲に切り裂く。
壁に叩きつけられるが、体勢を整え、再び襲いかかる風の刃を、幾度となくピンチから救ってくれた、魔法を打ち消す槍で迎え撃つ。
槍の先端と風の刃と接触した瞬間!
穏やかな風が通り過ぎた……そう思った。
だが、現実は、手の先から、肩までズタズタ切り裂きながら風の刃が走り抜けた後だった。
打ち消す効果が、相手の魔力に負けてしまって、完全に防げていない。
魔力が人より遥かに多い、死霊人の魔法を打ち消した時も、ダメージはあったが今回のものは、桁が違う!
眼前に迫る、もう一つの刃に槍を叩きつけると、打ち消すどころか完全に弾かれ、限界を超えてしまった槍が粉々に砕け散る。
「嘘……」
サクラの、信じられない感情が言葉と共に、ヒシヒシと伝わってくる。
彼女もこの槍の活躍を一緒に見てきただけに、唖然とする。
「貴様もその程度か」
そう言って向かって来る、バゴートを迎え撃とうとする、俺の腕に、サクラは木属性で強化を施してくれる。
放たれる風刃を掻い潜り、一気に懐に飛び込む。
それでも悪魔は余裕の表情を変えない。
「迫撃掌底!」
腹部に木属性をまとった掌底を撃ち込む!
顔を歪めたバゴートを、吹き飛ばす事に成功する。
敵は立ち上がりながら、
「木属性か……、今時珍しいな。女、喜べお前は特別に母体として生かしてやる」
悪魔が放った風の槍は、サクラの両手に突き刺さり、十字架の様に壁に貼り付ける。
「クッ!」
サクラは痛みを耐え、悲鳴を噛み殺す。
「てめえ!!!!!」
蒼炎解放、右腕強化。
土の籠手で腕まで覆う。
肘に火属性を留まらせ、拳でヤツの顔面を狙う。
「破壊せし蒼の……」
「調子に乗るな、溶解」
籠手をまとった拳が、山羊の顔面に叩き込まれる。
だが、次の瞬間!
腕が感じるのは空振るかのような感覚。
「ハツガ!」
サクラの叫びが耳に入る。
俺の右腕は肩まで消失していた。
「これが、生まれた時から越えられない下等な人と悪魔の壁だ」
バゴートの余裕そうな声に、
「腕一本で、俺を殺れると思うなああああ!!!」
右足での回し蹴りを、腹部にくらわす。
「いやあああああああ!!!」
サクラの絶叫が聞こえる中、俺は右足も失い、地面に崩れ落ちるしかなかった。
「先程の蒼炎の男の方が面白かったな」
そんな言葉が聞こえる方に首を向ける。
放たれた風の刃をかわすため、もがく。
回避に必要な距離を自分では、移動できない事が頭では分かるが、もがく。
その時!
蒼い炎に引っ張られ、スザクやユメが倒れている、魔法陣付近に、飛ばされる。
「兄貴……」
返事もなければ、身動きも反応もない。
自分も生きるか死ぬかの瀬戸際の状態で、魔力を俺に使ってくれた。
――昔を思い出す。
まだ俺が火属性の魔法を扱えた頃、炎で連携技をやるためにお互いにダメージが入らない様に特訓した事。
「夢は村を守ること」と俺に宣言し、蒼い炎を操り、魔物を追い払っていた事。
強くなりたいと言った俺に、ずっと稽古をつけてくれた事。
村にいた時は、ずっと俺とサクラを守ってくれていた事。
この男には、返しきれない恩がある。
失いたくない、失いたくない。
そして、やっと見つけた攫われた女の子。
こんな俺を好きだと真っ直ぐ言ってくれた子。
無邪気な振る舞いで、元気をくれる子。
眩しい笑顔で、俺を照らしてくれる子。
ピンチには、必ず駆けつけ、守ると約束した子。
ユメの手を握る。
守りたい、守りたい。
瞬きすると、意識は、空と地面の境目が分からない真っ白な何もない空間にいた。
ユメと俺が向かい合っている。
「すごく久しぶりに感じるね、ハツガ兄」
そうだな。
「時間もないから、率直に聞くね。どうして、アタシなんか助けに来たの?」
自分を卑下するな。
「約束したからでしょ?あんな口約束でも、バカ正直に守るつもりなんでしょ?」
それもある。
「ごめんなさい。アタシが、わがまま言ったせいで、スザクせんせも、サクラちゃんも、お姉ちゃんも、いろんな人巻き込んでごめんなさい」
違う!お前は悪くない!
俺がお前を助けに来た理由は!
みんなが協力してくれる理由は!
「……」
お前を失いたくないという、俺のわがままだ!
お前ともっと一緒にいたいという、俺達みんなのわがままだ!
「ッ……!」
どんな手を使っても必ず助けるから、子供は黙って助けられてろ!
意識が戻ってくる。
目を見開き、残った左手を召喚の魔法陣に叩きつける!
村を出る時にもらった、女神の樹周辺の土が入ったお守りを握りしめる。
「この体、この魂は戦いの女神と共にあり!人の存続を願う、心優しき我が主よ!我が魔力を道標とし、偽りの鎖を解き放ち、我が願いに呼応せよ!我が体、我が魂と共に、悪を討ち滅ぼす、真紅の正義と成れ!」
魔法陣に、電撃が走る!
こちらに放たれた、数えきれない程の、風の槍を全て、真紅の槍が打ち払う。
繰り出される風の刃を、槍一振りで無効化する。
一瞬で魔法を放つバゴートの眼前に迫り、顔面を殴り、吹き飛ばす。
唖然とした悪魔の目に、赤髪で長身の女性が映る。
「ふざけやがって!お前、何者だああああ!!!!!!」
「ヴェルガだ、縁あって人に味方する戦いの女神と覚えておけ」




