地面リスタート
~約五年後~
「ヴェルガ師匠、何だよ約って」
「いや、五年経ってたら、お前完成してると思わないか?」
俺の蘇生に五年……そんな話をしたのも懐かしい過去だ。
五年で終わり!みたいにピッタリ終わる様な、作業とは思えないんだがな。
腹を括ってから、どうやら五年近く時間が過ぎたらしい。
つまり約五年。
ひたすら鍛えるだけだったが最近、修行に不要な思考も戻ってきている……制御力の低下か。
師匠弱ってないよな?これ。
で、修業の成果と言えば、様々な武器で戦えるところまで習得しただろう。
あと、驚いたことに地属性の魔法が少し使える体になっていた。
師匠曰く、体が地属性でできているからなと、どうでもよさそうだった。
地属性かぁ。
この世界には、地、水、火、風、空だったか。
五つの属性があったと思う。
地属性は、地面の土などに魔力を通して利用するが、水、火、風より魔力伝導が悪く扱いにくい。
戦いでの評価は低く、生活で重宝されていたかな。
それに、地属性に文句を言うと、今度こそ属性持ちの師匠に自我を奪われそうで怖いから、黙っておこう。
だが、せっかく使える様になったので、あぐらを組み、目を閉じ瞑想しながら魔力を練ってみる。
心臓から肩、腕、手にそれ以外にも腹、太もも、足と体中を循環させる。
そして、手や足から排出、吸収のイメージ。
あれ、案外普通に扱えるぞ。
にやけていると、師匠から厳しい声が飛んできた。
「顔が気持ち悪いぞ。それに当たり前だ、周りがお前に最高に馴染む土地で地属性の魔力も豊富だ。魔法に関してはこの村が、お前にとって最高の条件だ、心臓なしでも多少は戦えるかもしれん。だ・が・な、全く環境の違う場所で無理をしたら、体の維持を保証できんからな!」
「分かってるって、自分で魔力生成できてる感覚がないから、蘇生後は当てにすると、いざという時怖いな。んで、心臓再構成進みそう?」
「まだ時間は掛かりそうだな。奥の手を……」
ぶつぶつ言い始めたけど、そんな計画で大丈夫か?と、立ち上がり何か素振りでもするかと軽く腕を回す。
素振りは基本。
だが目の前に、思考にふけっている美人の芸術的な形のお尻があった。
急に、性欲を持て余してきたので触る。
ふむ、鍛えられているから引き締まっており、大変よろしい。
「キャッ!」
予想外の可愛い悲鳴に、えぇ……なにそれ、と顔が歪む。
そして顔を蹴り飛ばされ、物理的にも顔を歪められながら、俺は地平線の彼方まで飛んで行った。
大きな魔力源を目標に数日間ぶっ通しで走り続けたら、やっと鎖に繋がれた人影が見えてきた。
美人を触れた上にトレーニングできるって効率いいよなと馬鹿な事を考えながら、熱心に鏡を覗きこんでいるヴェルガに声を掛ける。
あれは、現実世界の村を見れる道具だったかな。
「ただいま」
「死ね」
死んでる上に酷使されているんですがそれは。
ふぅ、と息を整えながらゆっくり座ろうとした時、体が違和感に襲われる。
あれ、これって腹減ってないか?自分の完成が近づいているのか、それとも……。
体の違和感はすぐに収まったが、心に残る違和感は拭えなかった。
難しい顔で黙り込んだ俺より、真剣で険しい表情のヴェルガがこちらを向く。
「少し前に、村へ魔物が辿り着いてしまった」
そんな馬鹿な!
あの日以来、村は平和で復興しようとみんなで助け合って生活していたと聞いていた。
しかし、今回は一匹だが死霊犬が現れたらしい。
「あれは、魔法がないと手こずるが、大丈夫なのか!?武器では厳しいが今、村に魔法で戦える人なんているのか?」
焦る俺を横目に、彼女は、落ち着いてはいるが嬉しそうな戸惑っている様な声で答えた。
「心配するな、サクラが消滅させたよ」
サクラ・ジェダイト・・・俺の幼馴染で命を捨てても守りたかった女の子。
綺麗な黒髪に、長いまつ毛、澄みきった緑の瞳が印象的だった。
昔、彼女は魔法の素質はべた褒めされていたが、使っていた記憶はない。
どうやら、弓矢で倒し、村の守りについていろいろ、意見を出してるらしい。
俺は見られないが、聞いただけでもたくましくなってるな、元気そうで良かった。
「サクラで思い出したのだが、五年前のあの時、ドラゴンからお前が守ってくれて、その後、殺されたのは把握できたんだ。だが、誰にどうやってというのが分からない。相当な魔法の使い手である事は間違いない」
師匠は続ける。
「そして、彼女が見つけたのは胸に穴のあいたお前、そのまま気を失ってしまっていた。私はお前の回収に一刻を争っていたから、村に干渉できたのはそこまでだ」
つまり、彼女からすれば死体が消えたのか。
これ、復活しても本物だと信じてもらえなくないか?
うさんくさすぎる。
「ま、その辺はお前と彼女との絆を信じて頑張ればいいさ。それと、蘇生も近いから馬鹿な事やらないで、おとなしく待機しておけよ」
他人事だと思っていい加減な。
懐かしいなサクラ---俺の初めての友人で、まぁ大切な人だ。
子供の頃、家族以外とあまり関わらない俺を振り回してくれて、心を救ってくれた恩人だ。
彼女に言えば、大げさだと笑われそうだが、本当に感謝している。
懐かしいな……いろいろ思い返しているうちに、まぶたの重さが増し、目を開けていられなくなった。
この感覚はなんだったか、久しぶりすぎて最初は分からなかったがスッと穴に落ちる様に眠りに落ちた。
頭に今までにない初体験な、柔らかさを感じながら、目を覚ます。
穏やかな表情で覗き込むヴェルガと目が合う。
「起きたか」
「うおっぺうわおおおうううう?ん?ええええええ、師匠膝枕なんで!?」
驚き飛び起きる俺を見て、ムッとした表情で、そんなに嫌がる事ないだろと拗ねてしまった。
「いやいやいやいや、驚いただけで、拒絶とか拒否反応ではないですよ。はい。……でも、本当に何かあったのか?遠慮なんてしないで言ってくれよ」
「あとだいたい二十四時間で、お前の再構成が終わる、心臓もなんとかなりそうだ。そこで、最後のご褒美といったところだ。今までよく頑張ったな、私の無茶に付き合ってくれてありがとう」
初めて見た時と変わらない、吸い込まれそうな翡翠色の瞳に見つめられる。
「数えきれない時間の中で、ここに現れた人は、お前だけなんだ。正直言うとな、修業なんかしてないで、もっと話したかった、何気ない事を共に楽しみたかった。寄り添っていたかった。・・・慣れていたつもりだったが一人は嫌だと改めて思ったさ」
だが、寂しそうな表情を吹き飛ばすように、彼女は笑顔を作った。
「お前にとっては、地獄の様に苦しく、長い時間だっただろうが、私にとってはあっという間だ。短い時間だったが、共にいてくれてありがとう」
やっぱりこの女神様はどこまでも人間くさい。
そうか、別れか、今まで意識しなかったがもう会えなくなるのか。
「次死んだら、またここに来られるかな?」
「馬鹿な事を言うな、お前には成し遂げてもらわねばならん大きな目的がある。それに私は、人に未来を見て欲しくて、お前を鍛えた。もちろんお前にもだ」
一呼吸おいて、穏やかに
「世界を、人を救ってくれ、ハツガ。お前ならそれができる」
頷きながら、その大きくも重い使命を含んだ頼みだったが、温かい言葉に包まれ、俺は最高の加護を得た様に感じた。
それからお互い傍にいたが、無言だった。
ヴェルガは、村の確認と再構成の作業を俺は、槍の手入れをし、この真っ白な空間での最後の時間を過ごしていた。
穏やかな時間は、彼女の鋭い声共に唐突に終わる。
「まずいぞ!ドラゴンが、すごい勢いで村に向かってきている。お前が追い払ったやつだ、間違いない女神の樹が狙われている!」
「何でそんなことに!?」
「分からん!村の場所が覚えられていたのか?ふざけやがって、あと少しでお前が間に合うというのに!」
流石、戦いの神……すざましい威圧感だ。
怒りを露わにするヴェルガの迫力に圧倒される。
しかし彼女は目を閉じ、冷静さを取り戻そうと努め、一言漏らす。
「いや、村人は避難すれば、もしかしたらこの樹だけの被害で済むか……」
「何寝ぼけた事言ってんだ師匠!貴方を失えば、人は魔物に狙われ、食糧は尽き村は終わる!」
「勇気のある村人もいるが、戦力になるのはサクラ一人だ!彼女に何時間も凌がせるつもりか!」
「この土地なら心臓なしでも多少戦える……だろ師匠?俺が出る」
かなり苦々しい顔をしていたが、こっちの真剣な眼差しに折れてくれ、それしかないかと呟いた。
そして、多くの歯車が組み合わさった機械を取り出した。
自力で動いて魔力を生み出しているのか、この機械。
「五年鍛えたのに、この戦闘で終わりなんて、こっちとしても勘弁願いたいからな。奥の手だ、こいつを心臓の代わりに胸に入れるぞ、村の外でも普通の戦闘ならこなせるだろう」
そんな物を持っていたのか。
「ただし、この村以外での魔法は、本当に控えろよ?こいつで賄いきれる保証はない。そしてこいつの仕組みは私にも分からない、故に機械か医療に精通した人物を見つけ協力してもらえ。かなりの博打かつ、この先の旅での不安要素を背負うことになるが、それでも行くか?」
「当然、師匠やってくれ」
あいつを、村を守るためだ迷っている場合ではない。
「よし歯車の配置完了、最速で現界するために、最少の用意で行くぞ。私の樹の前に飛ばすから、近くにいるサクラを守りつつ、やつを迎え撃ってくれ。得物は……そうだな、これを待って行け。」
渡されのは、使い慣れた赤い槍。
多くの魔法を薙ぎ払い、魔法の使い手を倒したと言われる妖槍マキリのレプリカらしい。
妖槍マキリ・レプリカ。
得物を受け取りながら、見つめ合う。
「世話になりました、師匠!人を救いにいってきます」
最大の感謝を親愛なる女神様に。
「いってこい私の最高の泥人形。お前ならできる」
最高の賛辞を我が機械の心に。
魂は体に戻り感覚を取り戻す。
背に受ける追い風に身を任せ、現世を目指す。
白い空間に取り残された女性は一人呟く。
寂しいなぁと。
村を襲ったドラゴンへのリベンジに燃える俺は、間違いなく戻ってきた故郷アパルヴェルガへ。
この土の匂い懐かしい。
力強い地属性の魔力を感じる、女神の樹に近いのだろう。
でも、真っ暗で何も見えない。
俺は還ってきていた。故郷の土の中に。
「たぶん樹の近くだけど上下にずれてるじゃねーか!」
寝不足
ハツガ
・黒髪、赤い目、中肉中背の青年 顔が少し怖い
・今、地属性 元々あった火属性を失う
・無口だったが師匠に影響されて明るくなった