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心の向き

ミライの妹、ユメが攫われる

~ロウェルの家の一室~


 ユメが攫われた……。

 傷だらけのミライから涙と共にこぼれ落ちたメッセージは、怒りという熱を俺の胸に刻み込む。

 友人に傷を負わせ、慕ってくれていた女の子を攫う。

 この、人が追いやられている世界で、この町は安全になってきていた、なんて都合の良い事を考えていた自分に虫唾が走る。

 

 ミライが再び眠についた部屋から、俯いたまま彼女の治療をしてくれたリオさんと共に出る。

 心配そうな表情の彼女に、情けない自分を見せたくなくて、背を向ける。




 そして、自分の顔を思いっ切り両手で挟み込むように叩く!

 パァン!と派手な音にビクッと身をすくめるリオさんに、


「もう一発お願いします」


 と、頭を下げる。

 傍からすれば意味不明の頼み事に、リオさんは目を白黒させるが、


「本気なんですよね?」


 と、いう言葉に頷くと同時に、思いっ切り顔を狙い腕を振り上げる。

 白く美しい手は、器に入った水を逆さに落とした様な勢いで俺の顔捉え、パァン!と気持ちの良い音を弾き出す。

 リオさんは、最初はやってしまったと動揺している様子だったが、右手を見直し、心なしか嬉しそうにしていたのは、気のせいだろう。

 

「狼狽えている場合じゃねえ!まずは情報からだ!」


 気合を入れ、無造作に体を駆け巡る怒りを抑え込み、思考を巡らせる。


 まず、攫われたユメは、この町にまだいるのか?

 ……可能性は、低いな。

 隠れ家に適した場所があり、隠匿に優れた魔法の使い手がいればややこしくなるが、この街を俺は自分の足で大部分調べている。

 不審な空間、施設は無かったはず。

 その上、ミライを傷つけ、残している。

 ユメは攫われたのだ、彼女を利用するなら、時間が多い方がいいはず。

 被害者の発生した事件として、一番に大人数で調査の始まるこの町は、好ましくないと思われる。

 

 ならばその次、どこから出たか。

 目撃情報が欲しい、この町にある、数か所の門番もいる門での聞き込みが必要だろう。

 後は、ミライが倒れていた現場、そして、家か……。

 二人の母親にも話を聞かねばなるまい、……無事ならだが。


 並みの魔法の使い手なら、ユメやミライに敵わない。 

 実力が並はずれた奴の、人の欲望に任せた衝動的な犯行が正直一番厄介だ。 

 とにかく、急いであの子を救わねばなるまい。


 方針は決まった。

 

 

「リオさん、ミライの事、頼めますか?」

 

「え?あ、はい、わたくしでよろしければ、彼女は責任を持って、治療いたします」


 俺と同じように考え込んでいた彼女は、急に話掛けたこちらの声に驚きを見せるが、落ち着きを持った声で、受け入れてくれた。

 頭を下げ、礼を述べる。



 急いで出発しようと、踵を返した背中に、最近聞く機会の増えた、男の声が届く。


「戦友の家に訪れて、挨拶の一つも無しですか。」


 ロウェル……今、急い……。 

 

「分かっていますよ、この天才には時間が無い事くらい。俺が東側の門に向かいます。キャスは、学校を経由して、サクラさんに助力を仰いだ後、西側の門に。サクラさんには、ユメさんの家に向かってもらいましょう。君は、南側の門と現場を近い方からで、これで、いいですかね?」


 ……驚いた、いきなりの登場でここまで指示を出してくるとは。

 こちらの戦力を考えると、この案でいいだろう。


「ああ、二人ともそれで頼む。」


 両手を前に組み、丁寧に「かしこまりました」とお辞儀をするキャスと、力強くうなずくロウェルを順番に見る。


「家の人を使って、私も情報を集めてみます。事を進展させる前には、一度戻ってくる様にお願いします。」


 リオさんの言葉に応えつつ、俺は足を速め、調査へ繰り出した。




 「収穫なしか……」


 ミライが倒れていた現場を改めて調べ直しても、魔力の痕跡や、周辺が戦闘で破壊された様子もなかった。

 近所に住んでいる人達に話を聞いても、誰も気づいた事は無かったと口を揃えて言っている。

 早朝だったから、仕方ないか。

 不意打ち、だまし討ち、トラップ……可能性はいろいろある。

 何も得られなかった焦りから、俺は足を速め、次の目的地を目指す。





 以前の戦闘で、消し飛んでしまった南側の門に辿り着く。

 修復作業は進み、最低限の見張りと人の出入り時の検査は行えているようだ。

 ただ、ここの出入りは、守りが脆弱なため、他の門より厳しいものとなっている。

 顔の知れているユメが、知らない人と出て行くなんて可能とは思えない。

 急いで門番を見つけ、声を掛ける。


「すいません!今朝ってどんな人が門を通って町から出ましたか?」


「ん?ああ、あんたか。今日はまだ、誰も出て行ってないよ」


 何?確かにまだ、朝の時間帯だが、誰もというのは予想外だった。

 別の人……今度は女性の門番に尋ねてみる。


「すいません!今日誰もまだ、門から出てないって本当ですか?」


「え?ええ、まだ通行人はいなかったと思いますよ」



 門にいる何人かに尋ねても帰って来る答えは同じ。

 この事件、目撃者がいないのか?

 時間は惜しいが、このまま手ぶらで帰るわけにもいかず、聞き込みを続ける。


「ここに、近づいた人はいませんでしたか?」


「明るい茶髪の元気な女の子を連れていたりしませんでした?」


「怪しい人物を見ませんでしたか?学生、教師、商人、騎士、えー、後は神父とか?」


 誰も彼も俺の質問には無関心で、淡泊な返答が多かった。

 だが、ふと昨日の不審者を思い出し、最後に投げかけた質問の、「神父」という言葉と共に辺りがシンと静まり返り、空気が変わる。


 


 次の瞬間!

 唐突に背中に放たれた、魔法による火球を、振り向かずに槍で斬り払う。


「何のつもりだ?」


 振り返ると、先程まで俺に無関心だった、門の連中全員、こちらを見つめている。

 その瞳には、光が無く、どう考えても正気の人とは思えなかった。


「はぁー、ここを突破されたと考えてよさそうだな。自称、神父に」


 深い溜め息を吐きながら、殺さない様に、怪我させない様にと頭の中でひたすら繰り返しつつ、門番達に突っ込んでいく。



 制圧は数分で終わった。

 どうも自我が薄いせいか、各々本領を発揮できていなさそうな戦い方で、特に苦戦する事もなかった。

 情報も得られたので、そろそろ戻ろう。


 一番近くにいた、気絶した門番を起こし、何が起こったか分からず混乱していたが、呪いは解けているようなので、簡単に事情を説明し後を任せる。

 念のために、緊急時の合図である門に配備された花火も打ち上げておく。

 こんな感じでいいだろう。

 踵を返し、ロウェルの家に急ぐ。



 俺が戻ると、ロウェル、キャスはすでに戻っており、そしてサクラも合流していた。

 こちらを確認するとサクラは、急いで駆け寄って来る。

 

「ハツガ!家には、二人のお母様が居たのだけれども……」

 

 歯切れが悪い、やはり何かしら、被害にあっていたか?

  

「今、リオさんに診てもらっているのだけれど、何でも、同調という状態らしいの」

 

 同調?そんな状態と言われても、まるで意味が分からんぞ。

 険しい表情の俺にサクラが続ける。


「精神汚染の一種で、強い意志を持った他人に、思考が引っ張られるみたい。今回の場合だと、召喚に強い想いを持った人に、長期的に接したせいで、召喚に何かしら思い入れがあったお母様が、同調し協力的になってしまった」


 待て待て待て、精神が正常でなかったのは分かった。

 それで協力的だと?


「ええ、召喚の成功のために、娘を差し出した(・・・・・・)。そうずっと繰り返し言っているわ。同調は、洗脳の様に呪いを解けば終わりという訳ではなく、人格や思考が歪められてしまったから、専門の方の長期的な治療が必要と、リオさんは言っていたわ」


 そう簡単に精神汚染は起こらないけど、と付け足される。


 何てことだ……。

 非日常的なショックの強い出来事が続くが、ユメ救出のため、歩みを緩めるわけにはいかない。

 進め、進め。


「こっちでは、門番達に神父という言葉に反応して、攻撃的になる呪いが掛けられていた。サクラの話と合わせて、犯人が絞れそうだな」



 サクラがハッとこちらを向く。

 彼女も思い当ったみたいだ。


「ザストルの村の神父。ユメちゃんとお母様の顔見知りで、召喚についても知っている……」


「俺達の方は収穫がありませんでしたから、その村に向かう価値は、かなりありますね」


 ロウェルも頷き、同意する。

 彼の説明では、ザストルという村は以前、死霊人の攻撃で消失した村の更に南らしい。

 目的地は決まった、一刻も早くそこへ向かわなければと、心が焦る。


 緊張感のある空気の中、一人のメイドさんが慌ただしくロウェルに近づき、耳打ちをする。

 それを聞いたロウェルは、「何!」と鋭く叫び、顔を歪ませる。

 どう見てもいい知らせではないらしいな。


「学校で、目を覚ましたガンテが暴れているみたいです。地の守護者の。なので、実力で対抗できる水の守護者である姉さんにも、他の守護者同様、招集がかかりました」


 間の悪い男だ……いや、アイツも魔法の被害で、おかしくなっていた。

 このタイミング、狙ってか?


「キャス、あの子の容態が悪化したらこれを飲ませて、学校に使いを出してください。すぐに戻ります。ロウェル、援護をお願いします。麻痺の弾丸多めで、手早くいきましょう。……ハツガ様、ご友人からしばし離れる事を、お許しください」


 報告を受け、リオさんは部屋から出てくると同時に、迅速に指示を出す。

 普段の穏やかな彼女の面影は無く、覚悟を決めた瞳には、凛々しさを感じる。


「いえ、こっちこそ、そちらの解決に協力できなくてすいません。……ロウェル、学校の事は頼む」


 どちらに向かうか、迷う彼にそう声を掛ける。

 不安そうな眼差しが返ってくるが、軽く頭を振り、


「分かりました。ユメさんの救出、上手くいくよう信じていますから」


 お互い、目を合わせ頷き合う。

 そして、サクラと共に、南側の門へと俺達は急いだ。



「どの方法で、そのザストルという村に向かえば速い?」


 街を走りながら、サクラに向かって叫ぶ。


「馬だと思う!ただ、もっと速い魔流馬を手配できても、私とハツガじゃ活かしきれないと思う!」


 魔流馬か……確か、それぞれの個体にある好みの属性魔力を提供すれば、とても速く移動できるとは、聞いた事がある。

 魔力が貧弱な俺、対応する属性の魔流馬がいないサクラ、確かにオーバースペックな代物だろう。

 ここは、普通の馬で行くしかないか。





 

 町の出入り口となる門付近に差し掛かると、見慣れた二人の人物が、目に入る。

 兄のスザクと護衛対象であるリーミエだ!

 二人は、出かけると言っていたが、戻って来たのか。

 何より丁度良かったのは、二人とも普通ではなさそうな馬を連れている事。

 二人も、こっちに気が付き、のん気に手を振っている。


「どうしたの?弟君にサクラ、大好きな私が帰ってくるからって、そんな全力だなんて」


 冗談っぽく、話し掛けてくるリーミエとは対照的に、スザクはこちらの深刻さを察してくれたみたいで、真剣な顔つきで、質問をしてくれる。


「二人とも、何があったんだい?」


「ハァ、……ハァ、ユメちゃんが攫われたんです!」


 息を切らし、苦しそうなサクラからはっきりと伝えられた現状に、スザクは怒りの表情を見せ、リーミエは先程までの、冗談めいた雰囲気から一気に反転し、威圧感を感じる程、真剣な瞳をこちらに向ける。


「ザストルという村に向かった可能性が高い。兄貴、馬……」


 話の途中だったが、事態を把握したスザクは言葉を被せてくる。


「分かった、僕も向かおう。こいつに乗れハツガ」 


 そう言って、横にいる全身黒色に包まれているが、たてがみは蒼い炎をなびかせる、魔流馬と思われる馬を撫でる。

 長旅から戻ったばかりに見えるが、スザクの魔力をもらい、まだまだ元気そうだ。

 

「サクラも行くつもり?」


 リーミエが、今までに見たことのない真剣な表情での問いに、


「はい」


 と、彼女は頷く。

 それを見たリーミエは「そう」と素っ気なかったが、


「この子、貸してあげるわ。本気を出したスザクの馬には、置いて行かれるかもしれないけど、いい子なの」


 と、愛おしそうに、翼の生えた白馬を撫でる。

 翼!?

 ペガサスというやつか!


「え?構わないのでしょうか?」


 そう見たことない生き物を貸すと言っている。

 流石にサクラは戸惑うが、彼女は気にせず、


「ええ、あなたもそこの二人もこの子も無事に帰って来ないと許さないわよ、スザク!聞いてるの?無事に帰って来なさいよ!」


 いつもは飄々とした彼女らしくない言葉だったが、嬉しかった。

 横でスザクが「必ず」と返事をする。


 

 そうだ、出発前に、現状での不可解な問題点をリーミエに相談しておかなければ。


「リーミエさん、精神汚染での同調って知ってます?」


「ええ、無意識に人を導く空属性の力ね。良い方向の物は、カリスマや統率力って言われるけど、悪い方向に突き抜けてるのが、それね。……まさか、被害者がいるの?」


「ええ、そうなんですよ。今、ロウェルの家で寝ています」


「分かったわ、診ておく。……弟君、発生源の人の思考は、悪い方にぶっ飛んでいる事は確実よ、気をつけなさい」


「分かりました」


 そう返した俺は、魔流馬の背、兄貴の後ろに飛び乗る。


 あの子を必ず救う、俺の頭にはそれしかなかった。

 この先、戦う相手の事など知る由も無く……。











~とある村の教会~


 雨が近いのか、空気は重く、湿気を感じる。

 複雑な魔法陣の中心には眠る女の子一人。

 ズラリと並ぶ長椅子には、大勢の人が座っているが、動く気配はない。

 

 コツッ、コツッ。

 一人の男の足音だけが響く。 

 魔法陣に近づくにつれ、抑えきれない興奮で息が荒くなる。


「ユメ・ガーベラ、美しき生贄。そして、触媒にして繋ぐ扉でもある。こんな素敵な召喚の材料!素晴らしい!素晴らしい!」


 つい、彼女に手を伸ばすが、慌てて引っ込める。

 

「いかん、いかん!この純粋にして純潔こそ最高の条件!儀式完遂まで、これは誰にも触れさせてはならない。」


 男は両手を高く掲げ、人生最高の笑顔で叫ぶ。


「ああ!あの心打つ美しき姿!再び私に見せておくれ!」




「神よ!」








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